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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
1-2 冒険者
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6話 村の調査 2


 「ところでヤマトさん、神様のおとぎ話はご存じですかな?」


 「おとぎ話ですか。いえ──どういった内容ですか?」


 ふと誰かの視線を感じた俺は、話を続けながら視線を泳がせた。

 

 すると、広場を挟んで反対側の家の入り口から半身を乗り出しこちらをジッと見据える人物を目にする。


 多少の居心地の悪さは感じるものの、獣人族はあまり森の外へ出ないという話だったので、外部の人間が物珍しく見えるのかも知れない。


「──お聞かせしましょう。」

 そう言って村長が聞かせてくれた話はこうだ。


 昔々神様は『生きとし生けるものは違いがあるからこそ素晴らしい』と人族、獣人族、エルフ族、という三つの人間をお創りになられました。


 そして神様はこうおっしゃられた。


『各々が懸命に生き、さらなる繁栄を望まんとする時、それぞれを象徴する存在を用意する』と。


 人間族にはさらなる英知の発展のため"賢者"を。


 獣人族にはたくましく獣人を導く"導き手(リーダー)"を。


 エルフ族には自然と人間との調和をより進める"精霊"を。


 その者らを見出したその時こそ、さらなる繁栄が約束されるであろう。


「といった具合の内容です」


「へぇ~……興味深いお話ですね。でも何故その話を俺に?」


「ヤマトさん、あなたはとても親しみ深く、それでいて神秘的な匂いを纏っているのです。それは恐らく鼻の利く獣人族──私共しか感じ取れないもの」


 匂いと言われ、思わず自分の服やら脇やらを確認してしまう。

 

 そういえば案内してくれたマーウも鼻を働かせていたことだし。


「いやいや、臭いわけではないのでお気になさらず」


「しかし……無条件で親しみを覚える匂いなど、五十余年の人生で初めてです。つまり、もしやヤマトさんがおとぎ話の導き手(リーダー)ではないかと……」


「はは、よしてくださいよ村長。実際に存在する人間である占い師の予言だって当たらないのに。ましておとぎ話なんて」


 実際に神様とお会いした経験に、加護やスキル(アイテムBOX)なんてものも授かっている。


 確か名称が()()の加護となっているくらいだから、何かしらで動物に関連するという予測はつくが、特別になにか使命が与えられているわけではないし、所謂チートと呼ばれる大いなる力を持っている訳でも無い。


「それに俺は紛れもない人族です。順当に考えれば、獣人族の象徴となるのは獣人族なのではないでしょうか」


「ふむ……それもそうですな。困らせるような事を言って申し訳ない」


「あいえ、面白い話が聞けてよかったです」



 そんな話をしているうちにマーウがやってきた。


「マクアクさん、終わったかい?」


「あぁ、ヤマトさんのおかげで万事解決だよ」


「ヤマトさん、道中お気をつけて。またいつでも遊びにいらしてください」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 村の入り口を目指し、マーウと話をしながら歩き出す。


「どうだったこの村は、納める税は上がりそうか?」


「いや、この様子だと額は据え置きでしょうね。人口も増えてないし、敷地もそのままだし。商材も以前のままボンドツリーの樹液や魔物の素材ですよね?」


 ボンドツリーの樹液は接着剤に使われる素材で、この辺りには比較的多く生えている木のことだ。


 獣人にとっては珍しくない物だが必要とする街からすれば、危険な地域に足を延ばさないと手に入らない素材で、事実上獣人の専売品ということになっている。


「ふぅ……だったらよかった。俺、近々子供を考えててさ。今回増税されて、さらに自分の子供の分で上がるとなると、みんなに迷惑かけるなぁと思って」


(なるほど……村では住人みんなが運命共同体のようなものなのか)


「増税さえなけりゃ、我が子一人分の税金くらい稼ぐのはわけないしな。まぁそもそも減税してもらえればもっと助かるんだけど……」


「それは俺の領分じゃないですね、すみません。一応、減税を望んでいるということはギルドに伝えておきます」


「いやいや、ヤマトとは初対面なのに、妙に親近感が沸くというかなんというか。つい甘えちまったな」


「それとさっきの商人の件、よろしく頼む」


「はい、そうでしたね。入用の品物は何だったんですか?」


「香辛料だよ。そろそろ切れそうでさ。街に行くのはまだ先だったから、料理を担当する母親連中が、頭抱えてて」


「ああ、ペパなら手持ちにありますよ」


 アイテムBOXのスキルで空中に現れた異空間に手を伸ばし、中からペパの入った袋を取り出す。

 このペパと言う名前の香辛料は、地球の黒胡椒に匂いも見た目もそっくりな、この世界でごく一般的に利用される料理の際の必需品だ。


「助かるぜ──って! なんだそりゃ! ヤマトの魔法か!?」


「まあ……そんな所ですね」


「はぇ~……なんとも便利なユニーク魔法だなぁ。で、いくらだ?」


「この袋には街の相場で銅貨四枚分入っているので、同じ銅貨四枚ですかね」


「そうか、助かったぜ~! 香辛料の為だけに街に出張るなんて勘弁だからなぁ」


「ここは街じゃないし手持ちの物を譲ってもらうんだから……銅貨五枚──六枚で大丈夫か?」


「俺は商人じゃないんで儲けは別にいいですよ」


 銅貨4枚と交換にペパの袋を手渡した。


「ありがてぇ、世話んなったなヤマト。そうだ、折角の縁だし、もし街で会ったら飲みにでも行こうぜ」


「こちらこそ、お役位に立ててよかったです。商人の件もギルドに伝えておきます。それじゃ──」


「──あの! 冒険者さんですよね、助けてください‼」


 マーウと別れの挨拶を交わし村を出ようと歩き出したその時、突如背面から女性の声が届く。


 振り返ると、先程こちらの様子を観察していた人物が何やら必死な様子で訴えかけていた。


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