6話 村の調査 1
街で時折見かける程度の印象なので、獣人族との初交流に少し緊張している。
最初に目が合った、青年頃と思われる人物に声をかけてみる。
「こんにちは。調査依頼を受けて参りました、冒険者のヤマトと申します」
「ああ、冒険者さんね……ん?」
何やら青年があごを少し上げ鼻を働かせている。
「そうです、街からやって来ました。あのぉ……すみません、俺臭いでしょうか……」
「ああ違うよ。すまん許してくれ。案内するし、詳しいことはまとめ役に聞いてくれ」
調査には慣れているのか特に驚いた様子はない。
案内を買って出てくれた青年の名前はマーウと言い、目は縦に長い瞳孔をしており、黒い耳と白と黒の縞模様の尻尾が生えていて、いかにも猫っぽい。
狩猟を得意としているらしく、この村に外貨を得る為、たまに魔物を狩って街で換金してるのだそうだ。
中央が何もないがらんとしたスペースに、森の入り口付近の安全地帯にも置かれていた魔道具がこの村にも確認できる。
広場では五、六歳ぐらいの子供たちが、追いかけっこや木の棒を持ってチャンバラをしたりと無邪気に駆け回り、非常に微笑ましい。
その様子を見守りながら雑談に花を咲かせる女性たち。
そんな空間を八軒程の家が囲むように形勢された小さな村で、迷子になることはなさそうだ。
それでも家の作りはみな一緒。名前を記した看板も無いので、まとめ役なる人物と接触するのに案内してもらえるのは話が早くて助かる。
「この家だよ。ヤマト、って言ったっけ。街へ帰ったらさ、商人がもっと来てくれるように伝えてくれないか? 村のもんが街から持ち帰る量じゃ足りないことが多くてさ」
(ふむ……足りない物は何だろう。ありふれた安い物品ならアイテムBOXにあるかも)
「──っとすまねえ、話が先だよな。終わったらまた声かけてくれよ」
どうもせっかちな性格らしく、返事をするよりも先に青年に言われる。
「ここまでありがとうございます。また後程」
青年は俺に向け親指を立てて去って行った。
「失礼します。調査依頼を受けて参りました冒険者の者です」
挨拶を口にしながら家の中に入る。
「これはこれは、こんな辺鄙な村までようこそおいでくださいました。どうぞこちらに」
年の頃は五十歳くらいだろうか。虎柄の耳と尻尾が生えており、他の村人達に比べて縫製の質がしっかりしていそうなズボンを履いている。
「改めまして、ヤマトと申します。定期調査の件でこちらに参りました」
「まとめ役のマクアクと申します。村なんて立派なもんじゃないですが、村長のような立場におります」
「こちらへは御一人で? それにどうも……」
村長が何やら鼻を動かしながら言い淀んでいる。
「いえ、とても単独では……って、どうかされましたか?」
「いやぁ、何でもありません。どうかお気にされずに」
「そうですか。では早速ですが半年前の資料がこちらで……」
村長と俺はこの半年間の変化──村人の数や商材の種類やその在庫数。そして家を出て村の敷地面積の規模などを調査して回る。
その間、街で今売れ筋の薬草の種類や食べ物についてを村長に話したり、逆に獣人族の暮らしについて教えてもらったりした。
「それにしてもヤマトさんは物腰柔らかで、丁寧な仕事をなさる方ですなぁ」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
「ヤマトさんも冒険者ですからこんな事を言うのは憚られますが、冒険者の方々は大雑把で豪快な方が多い印象がありますので」
「そう……ですね。否定はできません」
俺は苦笑いを返す。
この一年の間にギルドで色々な荒事を目にしてきたこともあり、村長の意見に賛同してしまう。
「半年前の調査なぞまさにそれでして。前任の方が持っておられた調査後に提出する書類を、私が代筆するハメになったということがありました」
「代筆とは、なんでまた。村までの道中でケガでも?」
「いえ、その方は字が書けないんだ、と。にも拘わらずギルド内での評判欲しさに無理に調査を請け負って来られたとか」
「提出した書類には幸い不備は無かったようですが、たまたま街に出掛けていたうちの村の者がギルドの方に確認されたところ、代筆がバレたそうで」
(俺がわざわざ指名されたのには、そんな理由もあったのか……)
「そんなことが……税に関わる事でそれはまずいですね」
「ええ。村としましても税金逃れをしていると勘違いされかねません。ですので次回の調査も、是非ヤマトさんにお願いしたいものですなぁ」
次回も俺を指名したいという村長。
嬉しい意見だが、その為には俺一人でこの村まで森を進む実力をつけなくてはならない。
「今回はたまたま俺が指名されてこちらに来ましたが、次回もそうだと有難いです。単純に収入源が一つ増えますから」
「ハハ、そう願っております」
「これで調査の方は一通り終わりですね。ご協力ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。世俗の話も聞けましたし、街へ卸す商材の良いヒントとも頂けて、私共も助かります」
「それではこの書類にサインをお願いします」
「ご苦労様でした」
「それでは失礼します」
サインをもらい、街へ帰ろうと歩み出す。
しかし村長が俺を呼び止め、何やら興味深い質問を投げかけてきた。
「ところでヤマトさん、神様のおとぎ話はご存じですかな?」