4話 注目される平凡
とある早朝。今日の仕事はどうするものかと掲示板と睨めっこをしていると、ふいに声をかけられた。
「おはようございますヤマトさん。ギルドからヤマトさんに指名依頼があるのですが、少々お時間よろしいでしょうか」
キャシーとはこの一年ですっかり顔馴染みになり、少々の雑談に花を咲かせる程度には打ち解けたが、向こうから仕事を持ちかけられるとは珍しいこともあるものだ。
受付の隣、衝立で間仕切られた簡易な応接室で話を聞くことに。
「早速ですが。ヤマトさんは、このサウドの北東から西にかけて広がる森の中に、獣人の方々の村がある事はご存知ですか？」
「ええ。師匠から色々と獣人の方に関しては聞いたことがあります。実際に村へ行ったことはないですけど」
「獣人の方々は森での生活を好まれ、買い物や仕事をする為にこの街へ赴き森に帰るといった生活をされています」
「それでもこの国の民である以上、人口の把握や村の規模等の徴税の関係で、サウド周辺の村の定期的な調査が必要なんです」
「今回指名させていただく仕事の内容としては、その調査を担当していただきたいんです」
（ふむ……国勢調査みたいな話なのかな）
「内容は把握しました。でも何故俺を指名で？」
「ヤマトさんを指名させて頂くのは、冒険者としての仕事ぶりと人間性を評価した結果です」
「俺、簡単な仕事ばかり選んで細々とやってただけですけど。噂では"平凡ヤマト"なんてあだ名を呼ぶぐらいに」
「とんでもない！ 他人からすれば平凡に見えるかもしれません。でも、毎日クエストの報告内容を精査している私から見て、ヤマトさんは他の冒険者の方々に比べ、安定感が段違いなんです！」
「安定感？」
「持ち帰る素材の状態はいつも良好で数も正確。そして一度もケガを負うことなくきっちり毎日帰還される、身の丈に合ったクエスト選び」
「丁寧で確実にクエストをこなしてくれるヤマトさんは、ギルドから見て相当に貴重な冒険者ですよ」
キャシーはそう言って度々評価をしてくれるのだが、仕事を請け負う以上は当たり前の事では無いかと思う。
それでも前向きに捉えるなら、正確さや丁寧さといったものは、日本人の気質がそうさせるのかも知れない。
「わかりました、そいうことなら引き受けます。でも俺、森のには行った事がないんで……師匠にも声をかけていいですか？」
「それには及びません。偶然にも"未知の緑翼"の方々が同じ場所に向かわれるようなので、同行させて頂けるよう手配しておきました」
独りきりでの任務を想像し身構えていたが、どうやらその必要は無くホッと胸を撫で下ろす。
「では明日早朝、ギルドで待ち合わせて頂きまして行程の確認をお願いします」
「分かりました」
まだ早朝ではあるが明日の仕事に備え、今日は準備と休息に時間を使うことにする。
森は初めてなので、あの人達と行動を共にすると言っても、油断は禁物だろう。
必要になりそうなものを求め街へと繰り出した。
◇
翌朝、ギルド内酒場の席。
「ヤマトさん、マジックエノキと湖以来ですかね。お久しぶりです！」
「おーヤマト。今日も頼りにしてるぜ」
「よろしく、平凡さん」
「おはよ、ヤマトさん」
「今日はよろしくお願いします」
挨拶してくれているのは未知の緑翼の面々。
リーダーで剣士のマルクス。金髪の似合うイケメンだが嫌味なところは一切ない。
タンクのロット。大きな盾を背負い、それに見合う迫力のある分厚い体躯を誇っている。
狩人のショート。前髪で左目が隠れており、少し陰気な雰囲気を纏う。
魔法使いのネア。綺麗な赤色のロングヘアーで、大きなつばをした帽子を被り、魔女を想起させるいかにもなローブを着こなしている。
この四人パーティーで、この街では名の知れた中堅だ。
「それにしても、冒険者になって一年程で指名依頼とは、ヤマトさんすごいですね」
「いえいえ。性分とクエスト内容が偶然合致しただけです」
「お前のあのなんだっけ……そう！ アイテムBOXっつうの？ ユニーク魔法、すげえ便利だもんな」
ロットの言うユニーク魔法とは、その人が使える固有魔法の事だ。
厳密には俺のアイテムBOXは魔法では無くスキルなのだが、説明も面倒なのでユニーク魔法ということで説明している。
「その他は平凡」
「ショート！ 平凡平凡って、さっきから失礼よ。すみませんヤマトさん」
「悪い意味で言ってない。ヤマトは有能だ、知ってる」
「ビンスさんが世話した奴らの中でも特別地味なのは確かだが、特別いい仕事もするよな」
「そうだね。俺たち未知の緑翼は対魔物に関してはそこそこ自信があるけど、採集クエストはちょっと苦手だしね。ヤマトさんはそんな時、確実に頼りになる人材だよね」
俺はこの一年の間に未知の緑翼に助っ人として何度か随行したことがある。
アイテムBOXのおかげで無制限に物を収納出来るので、ギルドを通じ荷物持ちとして時々声をかけてもらえるのだ。
「私達森の生態調査を兼ねた見回りのクエストの途中で、偶然毒消しポーションの材料になる”モギ”の群生地を発見したの。量が多いし良いお金になりそうだから、ヤマトさんに助っ人として来てもらおうって話になって」
「キャシーさんにその話をしたら、ちょうどヤマトさんも群生地の辺りに出掛ける用事があると聞いたもので。俺たちが護衛しつつヤマトさんは村の調査を。その帰りにアイテムBOXでモギを運んでもらいたいんです」
「分かりました。森には行った事が無かったので、みなさんに同行して頂けるのは心強いです」
「──うっし、んじゃ行くか！」
ロットの気合の一声が飛んだところで、俺達は森を目指し街を出発した。
