38話 コナーの願い
約束の時間まで宿で過ごし昼食を取りギルドへ再び赴くと、依頼主のおじいさんは既に応接室で俺を待っているとの事で、慌てて面会に向かった。
「お待たせして申し訳ありません。冒険者のヤマトです、こちらは相棒のリーフルです」 「ホー」
「どうもこんにちはヤマトさん。わしゃコナーですじゃ。それにしてもまぁなんと綺麗な色の鳥さんじゃのぉ」
容姿は年相応に高齢に見受けられ腰は少し曲がっているものの、まだ弱々しさはそれ程感じない。
一人で普通に出歩いたりするくらいは十分可能な健康状態だと思われる。
愛想良く、早速リーフルの事も褒めてくれるあたり、人柄の良さが伺える優しそうな雰囲気の方だ。
農耕地付近の街道沿いで紛失したという話だったが、ペンダントは散歩中にでも落としたのだろうか。
いつものごとく事前情報は重要なので、早速詳細を尋ねる事にした。
「ありがとうございます。依頼の内容についてなんですが……」
キャシーから聞いて把握している限りの情報を、間違いがないかコナーさんに確認する。
「……はい、その通りですじゃ。わしが落としたペンダントはこう──飾りが開くようになっていて、表に星の形が彫り込んである金色の物ですじゃ」
コナーさんが身振り手振り一生懸命な様子で形を教えてくれる。
話を聞く限りでは、所謂ロケットペンダントというやつだろうか。
チャーム──飾り物の部分が開閉式になっている、家族の写真などが込められたイメージのあれだろう。
「一応キャシーさんからは聞きましたが、石というのはどういう物なんでしょうか?」
「あのペンダントは先立った妻が身に付けていた物でのぉ、中に透明な黄色い石が入っておるんじゃ」
「思い出の大切な品じゃて、何とか探し出して欲しいのは山々なんじゃが、ダメそうならせめて同じ石が欲しいと思ってのぉ」
(透明な黄色い石……)
「大病もせず天寿を全うしたんじゃ、妻もわしも納得しておる……あれは、弱ってしまった妻が逝ってしまう少し前に『これを私の代わりだと思って持っていて』と言っての、肌身離さず持っておったものなんですじゃ」
「なるほど……やっぱり大切な御品なんですね。その、石の詳細はお分かりでしょうか?」
「それが困った事にのぉ……妻が透明な黄色い石を大事そうに撫でては、ペンダントに入れているのは知っておったんじゃが……譲り受けて以降、わしは開けられなんだ」
「どうもその石に妻の温もりが残っているような気がして、開くと冷めてしまいそうで寂しくてのぉ……」
素材に関しては手掛かりが"透明な黄色い石"というだけで、詳細は不明。
ペンダント自体もラビトーが所持して移動している可能性がある。
話を聞いた限りでは中々困難そうな依頼だ。
「わしももう長くはあるまいて。先立った妻の元へ逝く前にもう一度、思い出の腰掛けを見に行きたくなっての。無理をして出掛けたりせんかったら、ペンダントを落とす事も無かったというにのぉ」
「思い出の腰掛け──ですか。それはペンダントを落とされた場所の近くに?」
「そうじゃよ。なんてことない、他人が見てもただの岩じゃ。じゃがよくピクニックに出掛けた、わしらにとっては思い出の場所なんじゃ」
「なるほど……地図の用意がありますので、場所を教えていただけますか?」
そう言ってお手製地図を広げ、コナーさんに確認してもらう。
指し示してくれた場所は、街道を少し歩き小規模な林が見えてくる辺りを横に逸れた地点。
確かに危険は少なそうなエリアで、小麦畑も見渡せてピクニックに行くのに相応しい場所だ。
「申し訳ないですじゃ、ろくな情報も持たず依頼をしてしまって」
コナーが遠慮の声色で呟いた。
「いえ、お気になさらないでください。少なからず困難な悩みだからこそギルドが代わりに請負うんです」
「無事達成できるか──全力は尽くしますが、コナーさんの想いは俺が背負います」
「受けて頂いた方がヤマトさんのような親切な方で、わしは幸せもんじゃなぁ、ほっほ」
「ホッホ?」
「ご依頼の内容は大体把握出来ました、ありがとうございます。何かしらの進展がありましたら、ギルドを通してご連絡させていただきます」
「よろしく頼みますじゃ──そうじゃ、どうぞこれを。そのかわいい鳥さんにエサでも買ってあげてください」
銀貨を一枚取り出し、俺の手に握らせる。
「そんな──まだ何も動いてませんので大丈夫ですよ!」
「いえいえ。誰も相手にしたくはない、無理なお願いなのは重々承知しておるんです。こんな老人の話を聞いてくれただけで有難い。気持ちじゃよ」
「……ありがとうございます。リーフルも喜びます」 「ホーホホ(タベモノ)」
コナーの手を握り返し応える。
ひとまず優先すべきはペンダントの行方だろう。
ラビトーの角に装飾品らしき物が引っ掛かっていたという話だが、それは二日前の事で時間が経っており、対象のラビトーの行動範囲が分からない以上急いだ方が良い。
素材の石に関しては情報が乏しく、今から情報収集する時間を割くよりも、ペンダント自体──ラビトーの捜索を優先した方が良いだろう。
最悪ペンダントが見つからなかった場合に探せばいいのだし、現物が無い以上捜索にはなかなかの時間を要しそうだ。
優先順位と目的が明確になったところで、俺は思い出の腰掛けを目指しギルドを出発した。




