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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
1-5 交流
28/190

25話 嫌いなタイプ


 いつもの早朝、ギルド内のクエスト掲示板前。


 出勤して早々、何やら不穏な文言が聞こえてきた。


「──だからよぉ、おめえが一瞬だけ()になってくれさえすりゃあこのクエストは楽勝なんだって」


「そうそう、サポートはバッチリ俺らがしてやるからよ」


「そうっすね~……自分やったとこないっすから、経験を積むためにも悪くないかも知れないっす」


(なんだ、あの人達……)


 ロングが()()()()なごろつき風冒険者に何か提案されているようだ。


 そして聞こえた囮役という文言。恐らくその意味する所は、あのクエストの事だろう。


(あんな危険な役回り……)


 かわいい後輩を見過ごすわけにはいかないと歩み寄る。

 

「おはようロング。何かあったの?」 「ホホーホ(ナカマ)」


「あ、ヤマトさんじゃないっすか、おはようございます!」


「──なんだぁ~? あ、てめえ"平凡"ヤマトじゃねえか。俺達は仕事の話してんだ、部外者は引っ込んでろよ」


「そうそう、平凡君には難しい仕事の話だ、失せな」


 ごろつきA、Bが見たままの態度で俺とロングの間に割って入ってくる。


 噂では随分と素行の悪い連中らしい。


 以前何かでごろつき達の名前を耳にしたことがあるように思うが、こんなやつらA、Bで十分だろう。


「ロング、なんて説明された?──あんたら、"ラークピラニー"の事だろ。囮役って聞こえたぞ」


「あぁ~? だったらなんだ。お前もこのクエスト狙ってたってか? 早い者勝ちは冒険者の常識だろが」


「そうそう、俺達が先に依頼書を持ってる」


 ごろつきが眼前でこれみよがしに依頼書をはためかせている。


 依頼書に目をやると、予想通りラークピラニーの討伐依頼が書かれているようだった。


「あんたらみたいな()()冒険者には手に余ると思うけど? おつむも弱そうだし。ラークピラニーに食われるのがオチだろ」 「ホー! (テキ!)」


「んだとゴラァッ! てめえこそ()()()()冒険者だろうが!!」 


「そうそう! 命が惜しくないみたいだな!」


 怒声と共にごろつきAが俺の胸ぐらを掴み上げる。


「──! ヤマトさんを離すっす!」──


「──イタタッッ……!」


 ロングが駆け寄るより先に俺は相手の手首を掴み捻り上げ、怯んだ所を護身術の要領で払いのける。


 魔物と戦う事が多い冒険者だが『警備や門番を担当できれば収入源が増えるし、人間からも身を守れる』との師匠の教えに従い、対人間の護身術も一応教わっていたのが役に立った。


「おい!──てめえ!」


 ごろつきBが腰に下げた斧を構える。


「……チッ──やる気みてえだな‼」


 続いてAもロングソードを抜き放つ。


 ごろつきA、Bが共に武器を構え殺気立つ気配を漂わせる。


 すると突然ギルド内にけたたましい笛の音が鳴り響いた。


「抜刀確認! あの二人です!」


 キャシーが笛の音で、カウンターの奥に詰めている警備当番の冒険者に指示を飛ばしている。


『マジか……バカ野郎、ギルド内で抜きやがったぜ』 『きな臭い奴らだとは思ってたけど……』 『いざとなったら俺が──』


 傍観していた他の冒険者達の視線に殺意が宿る。

 

「あっ……」 「ヤバ……」


 それを察知したのか我に返り、針のむしろである事に観念して、ごろつき達が武器を下げる。


「こいつらですね」


 警備当番の二人がごろつきに近付き、携えた縄で手を縛りにかかる。


「いやいや、冗談! た、ただの冗談ですってぇ!」


「そうそう! 実技指導ってやつですよ!」


「関係ないっ‼ ギルド内での抜刀は現行犯だ──!」


 ごろつき二人が腕を後ろ手に縛られ連行されていく。


 ギルド内での抜刀はどんな理由があろうとご法度で、即時の身柄拘束処分となり、統治官の取り調べを待つ運命にある。


 冒険者になって受ける講習で一番に教わる事なのに、ごろつき達は怒りに任せ失念したようだ。


 わざと挑発しそう仕向けた俺が言うのもなんだが、より確実にごろつきを制するには、あの方法が確実性が高かっただろう。


「キャシーさん、すみません。利用するような事してしまいまして」


 瞬く光がキャシーの手元から放たれた。


 どうやらごろつき達の顔をユニーク魔法"フォト"で紙に映し取っているようだ。


「気にしないでください。あの二人組、評判最悪でみんなに疎まれてたし。自業自得です」


「あのごろつきの処分は?」


「統治官様次第ですが、冒険者資格はく奪は確実。多分サウドからも追放でしょうね。色々と黒い噂は知られてましたから」


「そうですか」


 激しい性格の人間は存在する。


 それを一概に悪いとは言えないし、他者への慈しみの心があるなら大きな問題では無いと思う。 


 でもこのごろつき達のように、ロングを囮に使おうとするような他者を顧みない人間は嫌いだ。


 冒険者二人を相手に柄にもなく対峙してしまったが後悔は無い。

 

「追放までされればスッキリしますね。食い扶持(冒険者資格)を失った以上何をしでかすか分かりませんし」


「ホー! (テキ)」


「リーフルも嫌いみたいだな」


「ヤマトさん! すごいっす! あの手掴んで捻るやつなんすか!? あの人すごく痛がっててちょっと間抜けだったっす──くふふ」


「護身術だよ、師匠に習ったんだ」


 そうロングに説明するが、俺はごろつきの事を馬鹿に出来ないだろう。


 なんせごろつき達同様に俺も()()に任せ、今回が初めての実践だったのにもかかわらず、危険を犯したのだから。

 

「それにしても助か──ったんすか? あの人達の言ってた()役ってなんのことっすか?」


「あぁ、ラークピラニーの討伐依頼だよね? 囮というか盾役(タンク)がいれば討伐する際の安全性が増すんだよ」


「なるほどっす?」


「ラークピラニーは水辺に近付いてきた獲物を、水中から飛び掛かって襲う習性があるんだ。だからその習性を逆手に取って、タンクが大盾で待ち構える。その後地上で動きが鈍っているラークピラニーを他のメンバーが倒す。そんな感じかな」


「……てことは、自分が食いつかれる役に誘われてたって事っすね……」


「そうだよ。ロングは盾なんか持ってないから、この上なく危険だ。大方あのごろつき達は、ラークピラニーがロングに食いついてる間に、自分達だけ安全に仕留めようとしてたんだろうね」


「仮にそれでロングが死んでしまっても、仕事(クエスト)を奪い合うライバルが減るんだし、"一石二鳥"だとでも思ったんだろうね」


「恐ろしいっす……そんな事考える人もいるんすね。ありがとうございました。ヤマトさんのおかげで命拾いしたっす!」


「俺が直接指導させてもらった後輩なんだ、ほっとけないよ」


 ロングは前向きで元気が良くて気持ちのいい青年だ。


 綺麗な性根が穢されるのは見ていられない。


 例えば俺が飼っていたペット達は、エサの為なら意地悪だし怒るし自分勝手だ。


 でもそれは食う為、生き残る為の本能からくるもので他意はない。


 自分の利益や欲望を満たす手段として、故意に他者を穢そうとする考えは持ち合わせていない。


 俺はロングの中に、動物っぽい純粋さを見ているのだろうか、だから放っておけないのかも知れない。


「それにしても詳しいっすね? 退治したことあるっすか?」


「一度だけね、戦ったわけじゃないけど。未知の緑翼の荷物持ちをした時に、安全な方法を教えて貰ったんだ」


 初めて未知の緑翼の荷物持ちを担当した時の事はよく覚えている。


 冒険者になって三か月ほど経った頃だろうか、緊張で上手く話せたか自信が無いが、みんな俺に優しくしてくれた。


 そんな事を考えていると、大盾を背負った女性に声をかけられた。


「見てたよ、スカッとした! ラークピラニー退治、あたしと一緒に行かないかい?」

 

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