14話 人生に色を 2
「それにしてもヤマトさんって話しやすくて楽しいわ。こんな事まで友人以外に打ち明けたのはあなたが初めてよ」
「そう言っていただけて幸いです。そういえば普段のお仕事は何を?」
「私を励ましてくれた友人たちの伝手で、レストランやパン屋さんで給仕の仕事をしているわ。氷を卸すのは三日に一度ぐらいかしら」
「そうなんですね。それで休日には依頼を出して話し相手を募ったりと」
「いいえ実はヤマトさんが初めてなの」
「え? よく酒場には来られるんですよね?」
「氷を卸すようになって酒場だけじゃなくて、ギルドさんとの繋がりが出来たでしょ? あの子の憧れた冒険者さんってどんな人たちなんだろうかって興味が出てきて、賑やかな雰囲気を分けてもらうだけじゃなくて話してみたいと思ったの」
「なるほど。それで今回依頼されたわけですね」
初対面だが話を聞くに、相当立ち直ってきてはいるようだ。
金に物を言わせた金持ちの変な依頼かと警戒していたが、事情を知れば悪いクエストでは無かったな。
その後も、とりとめのない世間話やリーフルを愛でたりして時間が過ぎて行った。
◇
そろそろ指定された時間が過ぎるので話を切り上げようかと思った瞬間、一つのアイデアが浮かんだ。
「ダナさんの作り出す氷は、形や大きさは自由に変えられるものですか?」
「そうねぇ……複雑な形は出来ないし、大きさも残りの魔力次第ね」
「例えば、縦横高さそれぞれ十センチメートルぐらいの四角い氷を生み出すことは可能でしょうか?」
「……? やってみるわ」
そう言うと手をかざし、ダナは俺の要望通りの四角い氷をテーブルの上に作り出した。
「おお……! これならダナさんが酒場に来る理由がもう一つ出来るかもしれません」
「どういうことかしら?」
「氷菓子です。ダナさんがここで氷菓子を販売できれば、更なる収入にもなるし賑やかで楽しくないですか?」
「それはそうね……でも氷のお菓子ってどんなものなのかしら」
「俺に考えがあります。三日後にまたギルドで待ち合わせましょう。ダナさんにはその間に用意しておいて欲しいものが……」
そうして俺達は三日後に再会する約束をしてギルドを後にした。
◇
今日はダナとの約束の日。準備したものを携えて酒場へとやってきた。
「ホホーホ (ナカマ)」
「ふふ、こんにちはリーフルちゃん。ヤマトさん」
「こんにちはダナさん。お伝えしたものは大丈夫でしょうか?」
「一応二種類用意してきたわ。ヤマトさんの想像した物に仕上がっていればいいのだけど」
長持ちする食べられる氷と、ジンネマンから交換で手に入れた鉋。
そこから閃いた俺の考え。それは"かき氷"だ。
ダナには果物のジャムを砂糖水で薄めて作る、氷にかけるシロップもどきの調理をお願いしていた。
俺の方はと言うと、ジンネマンから交換で手に入れた鉋を使い、鍛冶屋に説明しながら氷を固定し手動で氷を薄く削れる機械の作製をしていた。
「それでは早速試してみましょう。ダナさん氷をお願いします」
作製したかき氷機をテーブルに取り出し、氷受けとして都合のよさそうな食器を借りて実際に作ってみる。
「食器を下に置いて……ここに氷をセットしまして……こう、グルグルと回します」
かき氷機は上手く作動してくれた。
薄く削られた氷がキラキラと光を反射しながら食器に積み重なっていく。
「わぁ……すごいわね! 綺麗に削れるものねぇ」
「これにダナさんに用意して頂いたシロップをかけます。赤いのはベリですかね?」
スプーンを使い味を確認する。甘さはいい塩梅で、粘度も想定通りのいい具合のシロップだ。
ベリ──イチゴ──のシロップを氷に回しかける。
削られた氷は、日本に居た頃食べた物より若干荒く、完ぺきとまではいかないまでも、かき氷が再現できたと言っていいレベルにはできていると思う。
「どうぞ。食べてみてください」
「まあ! 見た目華やかで綺麗ね~。それじゃあいただくわね……」
ダナがスプーンで一掬いした氷の山を口に運ぶ。
「──んー! 冷たくて甘い、食感も新鮮ですごく美味しいわ!」
「俺はシディを頂いてみます……」
シディ──レモン──味の黄色いシロップをかける。
「んんっ! 甘酸っぱくて美味しい。成功ですね」
「すごいわヤマトさん! よくこんなお菓子を思いつきましたね」
「たまたまピンときただけですよ」
俺の発明でないことを正直に言えないのは少し後ろめたいが、この世界でかき氷が食べられるようになったことは素直に嬉しい。
「氷を卸される日に、ついでにここでかき氷を販売されるといいと思います。この機械はダナさんに差し上げますので」
「このお菓子の名前かき氷と言うのね。でもいいのかしら……」
ダナが少し眉を顰め考え込む。
「……そうね、そうするわ。この酒場で販売させていただけるようにお願いするとして、ヤマトさんにはおいくらお支払いすればいいかしら?」
「う~ん……準備にかかった費用はそれ程ですし、アイデア料として今後私の分のかき氷は無料、ということでどうでしょうか?」
「……ふふ、そういう事でしたらいつでも食べにいらしてくださいね」
「ホーホホ(タベモノ)」
「リーフルは食べられないかな、お腹壊すからね」
「ホー! (テキ)」
「ははは」 「ふふ」
ダナの日常に少しでも色を添えられただろうか。
溶けて混ざり合うかき氷を眺めそんな事を思った。