14話 人生に色を 1
今日三つ目のクエストはギルドの酒場で依頼主と待ち合わせになっている。
昼飯時を過ぎ客もまばらな酒場の中に、依頼書にあった特徴と一致する人物を見つけた。
「こんにちは。"ダナ"さんでしょうか? 冒険者のヤマトと申します。今回は話し相手をご希望ということですね」
「初めましてヤマトさん。私がダナよ、優しそうな方で嬉しいわ。それになんてかわいい鳥ちゃん!」
早速リーフルを気に入ってくれたみたいだ。
こういう依頼の場合、マスコット的な存在がいると打ち解けやすくて助かる。
ご婦人は薄紫色のワンピースに白いカーディガンを羽織り、首には水色のスカーフを巻いている。
彼女の雰囲気は、品があり朗らかな淑女といった感じだ。
「相棒のリーフルです」
「リーフルちゃんね。なんて綺麗な緑色をしているのかしら! お目目もクリクリで大きくてかわいいわね~」
「ホホーホ (ナカマ)」
「リーフルがダナさんの事気に入ったみたいです」
「まぁ! お利口さんねぇ──って、イケナイわ。先に飲み物でも注文しましょう」
俺とダナさんはそれぞれ紅茶とアプルジュースを注文する。
「リーフルちゃんは普段何を食べているのかしら?」
「ラビトーやミドルラットをあげています。でも食いしん坊で困ってます、はは」 「ホ?」
「そうなのね。じゃあせっかくだしお料理も注文しましょうか、私がご馳走しちゃうわ!」
「あ、いえ、食べるのは生肉でして。お気持ちだけで、ありがとうございます」
(……あ、そうだ。エサやり体験。絶対ウケがいい動植物園の定番)
「よろしければリーフルにエサをあげてみませんか?」
店員から皿を借り、アイテムBOXから取り出したラビトーの生肉を皿の上に置いてダナさんに勧める。
「ヤマトさんそれはユニーク魔法? すごいのねぇ、物を出し入れ出来るのかしら」
「そのような物です。中々便利でして、助かってます」
「実は私も使えるの」
ダナが自分のグラスに手をかざすと、空中に氷が出現した。
「氷ですか! それはすごく便利ですね」
「ホーホホ! (タベモノ)」
「ごめんごめん。ダナさんどうぞ、リーフルが催促してまして」
「つい話を。ごめんなさいねリーフルちゃん。はい、どうぞ」
ダナが肉をつまんでリーフルの顔に近付けると、目を細め嘴を上に向けて貰った肉を飲み込んでゆく。
「かわいいわねぇ……鳥ちゃんにエサやりなんてやった事無かったから新鮮で楽しいわぁ」
やはりエサやり体験は鉄板。喜んでもらえたようだ。
「ところで、ダナさんは随分この酒場に慣れていらっしゃるようにお見受けしますが、よく来られるんですか?」
「ええ、ここってギルドと併設で賑やかでしょう? だから寂しくなるとここに来て、よくお茶しているのよ」
「そうなんですね」
「それで少し前に、カウンター席に座ってジュースに氷を入れて飲んでいたら、たまたまギルド職員の方がその様子を見ていてね。『ギルドに氷を卸してもらえませんか?』って」
「氷を?」
「なんでも攻撃魔法の氷ってすぐに消えちゃうらしいの。でも私の氷はすぐに消えずに長持ちなのよ。それを見込まれて。買い取った魔物とかの保存に使うらしいわ」
「お~、それは確かに生ものの保存にうってつけですもんね。でも卸す日は魔力を消費してお疲れでしょう」
「そうね。でも仕事にもなってここにも来られて、寂しさを埋める時間も増えたわ……」
遠くを見つめ悲しげな表情をしている。
「あの……過去に何かおありに……?」
「……よくある話よ。もう十五年になるわね……息子をね、亡くしたの」
「息子さんを……」
「二十五で遅まきながら授かった子でね、それは可愛いかったわ。女手一つ、死に物狂いで育てた息子は『将来冒険者になってお母さんを冒険に連れて行くんだ!』なんて言ってて」
「もうすぐ十五歳の誕生日が来るっていう数日前、冒険者の登録に行くのを楽しみにしていたあの子を突然病魔が襲ったわ。ひどい高熱で、お医者様に診てもらっても原因がわからず、お薬も効果は無かったわ」
「そんな事が……」
「悲しみに暮れて泣いていたある日、拭っていた涙が凍り付いていたの。皮肉ですよね、あの子を高熱で亡くした後に氷が作れるようになるなんて」
以前教わった情報によると、ユニーク魔法の発現には規則性が無くその条件等も解明されていないらしく、子供ながらに発現する場合もあれば、ダナさんのように大人になってからある日突然使えるようになる人もいるらしい。
俺の知るあの神様が決めているのかはわからないが、なんて皮肉な話だろうか。
「この十五年、息子を亡くしてすぐは生きる意味を失ってボロボロだったけど、友人たちの支えと時の流れのおかげで、今では自分から活気ある場所に来れるようにまでなったわ」
「あの、失礼ですが旦那様は……?」
「男と女は違う生き物です、円満じゃない家庭もありますわよね」
「な、なるほど。どうもすみません」
急に怖い顔になったダナさんに怯んだ俺は、それ以上踏み込むことをやめた。