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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
1-3 仕事も色々
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13話 お使い


「親方さん、納品に参りました」


 冒険者ギルドからほど近い場所にある木材の加工場は、幾人もが作業に従事し忙しなく活気に満ちていた。


「おう、時間通りだな……っておい、荷馬車はどうし──あぁ、ヤマトか」


 何かの図面を鋭い目つきで睨んでいた親方の"ジンネマン"が視線を上げ一瞬驚くが、相手が俺だとわかりすぐに納得した様子を見せた。


 ねじり鉢巻きを頭に巻き膝まである黒いエプロンを掛け、ノミを持つ姿はまさに大工そのものだ。


「先日は止まり木をありがとうございました」


「おぉ、そいつが言ってた鳥か。かわいいじゃねえか」


「ホホーホ (ナカマ)」


「木材はあちらで大丈夫ですよね」


 加工場となっている建物の正面は壁が取り払われ、開けっ広げになっている。


 その建物の横に天井の高く壁の無い丸太が積まれている置き場がある。


 大体標準的な家一軒分が賄える量が置いてあると、先日世話になった時に聞いている。


「助かる、丸太の整頓も結構重労働だしな。しっかしお前にかかりゃあ荷馬車屋も形無しだな」


「いやぁ専門にされてる方々には敵いませんよ。先程も木こりの方の仕事ぶりに舌を巻いたばかりで」


「パンはパン屋ってか? まぁそうだな、俺もまだまだ負けるわけにはいかねえからな」


「親方のお弟子さんは優秀そうですもんね」


「けっ、まだまだよ……と強がり言うもんだがワシも歳だ、心は現役でも身体がついてこん。最近では斧も重く感じるようになってなぁ」


「斧……ですか。そういえば」


 先程譲り受けた小さい鉈を取りだす。


「む! そいつぁ木こり共が予備で持つ鉈じゃねえか。何でお前が」


「先程ラフボアを仕留めまして。その内の一匹を譲ったところ代わりに、と貰いました」


「ちょっといいか?」


「どうぞ」


 鉈を受け取ったジンネマンが何やら試し振りをしている。


「なぁヤマトよ、こいつを譲ってくれんか?」


「今のところ使い道もないですし、貰い物でもよければ構いませんよ」


「そうか! 恩に着る。ちょうど大仕事は弟子共に任せて、ワシは細かい仕事に専念しようと思ってたとこでな。この鉈は使い勝手がいい」


「俺では持て余しますしね。役立ててもらえてよかったです」


「お前には代わりにこいつをやろう。見てくれはくたびれてるが、刃の切れ味は衰えちゃいねえ」


 ジンネマンが交換に鉋を譲ってくれるという。


「そうですね。では交換ということで」


「そいつがありゃあ止まり木の表面削って綺麗に手直しできるだろ」


「それではこちらにサインを。それと、親方が出されてたクエストなんですが、俺が受注したのでこのままお任せ頂ければ」


「そうかい、段取りが良いこったなぁ。依頼書にも書いたが、普通のポーションとスタミナポーションを二十本ずつ買ってきてくれ。これが代金だ」


 ジンネマンが三種の硬貨が詰まった袋を取り出した。


「わかりました。北区の雑貨店ですか?」


「いや、西区の魔道具屋だ。言付けは済んである、大雑把だが地図を書いておいたから、これを目印にするといい」


「助かります」


 地図と代金を受け取り、西区にあるという魔道具屋へ向かうことにした。



 野良猫がのんびりと伸びをしている裏路地を貰った地図を頼りに歩く。


 少々迷いやすそうな道なのは確かで、地図が無ければ迷子になっていたかもしれない。


「ホーホホ? (タベモノ)」


「ああ、そういえば昼ご飯食べてないもんな。ポーションを親方に納品したらギルドへ戻るから、それまで我慢な」


 本来中型のフクロウは、個体差はあるが一日にネズミかひよこ一匹程度の量で満足のはずが、育ち盛りなのかリーフルは結構食べる。


 動物の本能を鑑みれば言われるがままの量を与えたくもなるが、我慢を覚えてもらわないと人間とは一緒に暮らしていけない。



 しばらく路地を行くと、魔道具屋の看板が目に入った。


 形態を問わず、初めて訪れる店というのは少しばかり緊張するものだ。


 俺はなるべく丁寧に店の扉を開ける。


「こんにちは、ジンネマンさんの使いで来ました冒険者の者です」


 店の中は少し暗い見通しで、草や薬品の臭いだろうか、若干不快な方向で鼻をつく。


 魔道具と思われる品や、ガラスの瓶詰の目玉や何かの内臓らしきものが棚に陳列してあり、不気味さの漂うこじんまりとした店だ。


「いらっしゃい、ポーションだね。もう揃えてあるよ」


 ウェーブのかかった黒い長髪が特徴的な、五十代くらいの女性がカウンター越しに座っている。


「こちら代金になります、ご確認ください」


 硬貨の入った袋をカウンターへと差し出す。


「……ふむ、確かに。量が多いし割れ物だ、気を付けておくれよ」


「はい、お任せください」


 俺は異次元空間を操作しポーションを収納してゆく。


「んん? 籠もカバンも、何も持ってないと思ったら、あんたそんな事が出来るのかい」


「ええ、俺のユニーク魔法でして」


「便利なもんだねえ。他には何か魔法は使えるのかい?」


「いえ、これだけです」


「そうかい。魔導書ならいくつかあるよ、興味があるならまたおいで」


 魔道具屋を出た俺はジンネマンの元へポーションを届けに戻った。


 どうやら仕事の追い込みの為に弟子たちに配る分だそうだ。


 三軒目のクエストをこなす為、待ち合わせ場所に指定された冒険者ギルドへと帰る。

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