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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
3-1 浮上する黄昏れ
132/188

101話 充実と過分 3


 キャシーの伝言に従い、統治官リーゼスと面会する為に役所三階にある執務室へとやってきた。

 初めて訪問した時は急な出頭命令という事もあり、随分と憂鬱な想いをしたものだが、今となっては初々しい良き思い出の一つだ。

 

「こう言ってはなんだが、君は他人を救う事を天命とした星の下にでも産まれているのかな?」


「はい?」


「毎度毎度、君はどこかへ出掛けるたびに誰かを救っているだろう」

 リーゼスが手元の報告書を眺めながら、そう語る。


「いや、あのぉ……はい。でも今回ばかりは、心底、仲間が居てくれてよかったです」


「そうか。いや、よく務めを果たしてくれた。ニコ村は救われ、センスバーチ支部との繋がりもより強固なものとなった。君が持ち帰ってくれた()()は十分過ぎるほどだよ」


「あ、はい。恐れ入ります」


「ホーホ! (ヤマト!)」──バサッ!

 例によってリーフルが両翼を広げ俺を称えるポーズを取っている。


「……冒険者ロングの成長も著しく、サウド支部の評判も上々。それに久しく執り行われていないのも事実。確かに頃合いやもしれぬか……」

 書類とにらみ合いながら、何やら思案している様子だ。


「頃合いですか。何の事でしょうか」


「君が持ち帰った土産の中の一つ、一際大きな、夜空に浮かぶ星の如く煌めく土産の話だ」


「はぁ……」


「突然だがヤマト君、"大将"の任を受けてくれるかな?」


「え……大将? あの、すみません、お話が見えないのですが」


「失礼。少し性急な物言いだった。実はセンスバーチ支部から伝統行事の開催について打診を受けていてね」


「はぁ、伝統行事ですか?」


「ああ。"冒険者ギルド支部対抗技能交流大会"、通称フェスティバル。各アンション王国内に点在する冒険者ギルドに所属する冒険者達が、互いの腕や知識をぶつけ合い、その勇ましさや凛々しさを国民達に披露する、冒険者として生きる者達の晴れ舞台だよ」


「へぇ~、そのような行事があるんですね~……──というか俺が大将!?」


「ちょ、ちょっと待ってください! 意味が分からない──不自然ですよそれ!」

 伝統行事については初耳だが、そんな事よりも、冒険者になって一年と少し足らず、さらには秀でた才能も無く、地味な活動しかしていない俺が、いきなり"大将"だなんて、あまりに不自然極まりない。

 そもそも"ベテラン"と呼ばれる絶対的信頼を誇る冒険者達が居るにもかかわらず、頭ごなしに下位の冒険者である俺に、そんな大役が務まるとは到底思えないのだが……。


「まぁまぁ、そう慌てる事は無い。この人選にはれっきとした()()があるのだよ」


「理由……ですか」


「先程述べた通り、このフェスティバルの開催については、センスバーチ支部からの要請でね。その()()()こそが、君を大将に据えたい理由なのだ」


(発起人……?)

 リーゼスの言葉を機に、ふいにある言葉が脳裏に浮かび上がる。


『来たる()()()()()()()に向けて……』

  

「あーっ!!……確かにそんな事言ってた……」

 センスバーチで別れの挨拶を交わしていたあの時、ファン(エドガード)達が押し寄せ言葉は中途半端に終わっていたが、確かにエドワードがそんな事を言っていた。


「そう、現在センスバーチにおいて最も支持を集める冒険者である、エドワード・ミント氏。彼がその発起人だ。彼から届いた書簡を一部抜粋して伝えるが……」


『尚、サウド支部におかれましては、大将の任に就く者には冒険者ヤマト氏を指名したく存じます。もしこの要望を受け入れて頂けるのであれば、出場選手全員の旅費、滞在費等その総てを我々ミント商会で負担させて頂きます』


「……と、君を大将にという話は、あちら側の要望なのだよ」


「そんな……」

 あまりの急な話に、懸念事項──考えが纏まらず、どう反応していいのか押し黙ってしまう。


「フェスティバルについては過去五年、久しく催されていないという事もあり、開催自体には了承する旨を返答する予定だ」


「ただ……諸経費をあちら(ミント商会)が負担してくれるという申し出は非常に魅力的でね。サウドはそろそろ感謝祭を控える時期でもあるし、出来るだけ出費を抑えたい思いもあってね」


(そんな政治の事を言われても……それに、本来大将って一番頼りになる人が……)

 この話は言わば、直属の上司からのパワハラめいた命令に近いものがあると思う。

 冒険者ギルドは、その様々な実績如何が国からの予算の査定に影響を及ぼすというのは、以前聞いたところであるし、冒険者の活躍を目に見える形で披露すれば、国民の安心感を促進する事になる事情も理解できる。

 なので、フェスティバルの開催については国民を慮る立場である"統治官"のリーゼスが前向きになる気持ちは同情するところだ。


 だがそれにしても、俺如きに大将などという大役は分不相応極まる人選だ。

 当然向こうの大将は発起人であるエドワード、もしくは彼が大いに尊敬を寄せるシルヴァンなる御仁となるだろう。

 そんな二人に一対一で勝てる道理など無く、最悪の場合、大詰めである大将戦が数秒で決着してしまうという無惨な結果に終わりかねない。

 諸経費を考慮したばかりに、肝心の大将が不甲斐無く、サウドの恥を晒すような結果になる事は火を見るよりも明らかで、費用対効果としては相当に低いと思われる。

 

「リーゼス様。仰られるところは同意致しますが、それでも俺如きではとても……」


「む? ヤマト君、一体何を想像しているのか知らないが、フェスティバルはあくまでも平和的催し。対戦相手と剣を交える事は無いのだよ?」


「え……? と言いますと……」


「その名が示す通り、()()()()、対戦相手を打ちのめすのでは無く、定められたお題目に対し、その良し悪し──成績を比較する大会だ」


「あ~……所謂舞台上で"天下一"を決めるような、鬼気迫るものでは無いのですね」


「天下一? はは、意外と君は随分な高みを望んでいるようだね」


「あ、いえ……」


(うっかりしてた……漫画のネタなんて分かるわけ無いのに……)


「どちらにせよ直ぐに返事を、とは言わんよ。まぁ叶うのなら、感謝祭に向け、()()()は余裕を持ちたくあるのが本音だがね」


「アハハ……」

 

 こうして身も震える不意打ちを受けた俺は、一旦話を先送りにし、執務室から逃げるように退散したのであった。

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