11話 パートナー
獣人族の村の調査を終えてから一週間。未知の緑翼が採集したモギの山と、道中で撃退した魔物を売却した結果、合計で金貨二十枚ほどの収入になった。
配分の話し合いの席では、当初は五人で均等に分けるという提案をされたものだが、実際の貢献度を考えるとさすがに気が引ける。なので俺は、総額を四等分した金額の三割程を受け取ると申し出た。
そして少しの議論の後、最終的にキリのいい金貨二枚を受け取るということで話がまとまったのだった。
正直なところ、現金よりも、彼らに荷物持ちとして再び声をかけてもらえる方が、長い目で見ればメリットは大きい。
それに、今回の調査クエストの報酬として、買取り代金とは別で銀貨五十枚も得ている。
思いがけず懐が潤ったのは都合が良かった。
なんせミミズクの面倒を見るためにそこそこ出費が嵩んだからだ。
この世界にはまだ動物を専門に診る獣医がいないので、ケガの治療のために手持ちのものと採集では足りない分のヒール草の購入費。
"止まり木"を用意するのに素材となる木は自分で取りに行ったが、加工する道具も技術も無いので、大工にイメージを伝えて作成してもらった、その製作加工費。
ペットを飼うにはやはり金がかかる。どうやらそれはこの世界でも同じのようだ。
うちに来て間もない頃は『テキ、ニゲル』と距離を取り俺を警戒していたものだが、今ではケガも癒え存外に懐いてくれているようで、外出時には肩に乗って付いてくるようになった。
だがまだ翼に違和感があるようで、飛んでも直ぐに舞い戻り、移動はもっぱら俺頼りだ。
逃げる様子も無いので何と無く一緒にいる感じだが、加護の意思疎通の精度の悪さがもどかしい。
「ホーホホ(タベモノ)」
「ん~? お前の分は宿に帰ってからな」
いつも通り野良達にエサをやっていると、リーフルが自分も欲しいと主張してくる。
一応は俺のペット(?)相棒(?)なので、野良達とは違って安く譲ってもらっている残飯ではなく、ラビトーの肉をあげるようにしている。
こういう場合、アイテムBOXの便利さは代えがたいものだ。
なにせ生肉の状態で収納しても、腐ることなく入れた時と同じ状態で取り出せるのからだ。
「エサやりも終わったし、帰ろうかリーフル」
「ホ(イク)」
(そういえば……いつも誘ってくれてるし、今日はシシリーに夕食ご馳走するか。ついでにマカロも土産に買って帰ろう)
◇
「お帰りヤマトさん、リーフルちゃん」
「ただいまシシリーちゃん、これお土産」 「ホ」
「わぁ、マカロじゃない! これ甘くて美味しいのよね。ありがとう!」
「それで、今日の夕食は?──また部屋? たまには一緒に……」
「うん、今日は付き合ってほしいかな、夕食」
「え⁉ 珍しいわね、ヤマトさんが食堂でご飯食べるなんて」
「いつも断ってばかりだし、リーフルも一緒に住む許可をくれたお礼もしたいしね。今日は俺のおごりで」
「じゃ──じゃあ十分ぐらい待ってて! 仕事切り上げてくるから!」
「わかった、食堂で待ってるよ」
◇
「ホ~?」──ツンツン
リーフルがメニュー表をつついている。
(シチュー、ステーキ……はは、リーフルも興味津々って感じだな)
食堂で席に着き何にしようか考えていると、この宿"カレン亭"の主人兼料理人。シシリーの叔父であるセイブルが問いかけてきた。
「どうする? ヤマト」
「そうですね、ビーフシチューにするか……ミドルラットの香草焼きもいいですね……」
「そうじゃない、シシリーの事だ」
「シシリーちゃん? どういうことです?」
「叔父として、あいつには幸せになって貰いたい」
「はい……そうですよね」
(いきなりなんの話だろう?)
「シシリーがお前に気があることに、気づいてないわけじゃないだろ?」
「まぁ……そこまで朴念仁ってわけでもないので」
「今日はまだいい。が、お前がどう思ってるのかを、その内はっきりしてやってくれ。あいつもそろそろ身を固める年だ」
「シシリーちゃん、確か十八歳ですもんね」
「俺の妹……シシリーの両親の事は聞いてるか?」
「いえ。師匠が同じパーティーを組んでいたって事ぐらいしか」
「そうか……ならビンスから聞いておけ」
「わかりました」
「ちょっと叔父さん! ヤマトさんに何吹き込んでるの!」
準備を終えたシシリーが、後ろから突然怒鳴り込んできた。
「いやいや、うちのシシリーは気立てが良くていい女だろ? ってヤマトに勧めてただけだ」
「もう! 叔父さん! 早く料理持ってきて!」
「はいはい、ごゆっくりどうぞ」
「ごめんねヤマトさん、変な事言われなかった?」
「ううん。うちの看板娘がいかに可愛いかって、自慢されてただけだよ」
「叔父さんったらほんとにもう……それより! 一緒に夕食なんて珍しいね? どうしたの?」
「他意はないよ。さっきも言ったけどリーフルのお礼と、せっかく誘ってくれてるのに、いつも断っちゃってる事への謝罪って感じかな」
「ふーん。他意は無いんだ。それはそれで……」
「ホーホホ(タベモノ)」
「リーフルちゃんなんて言ってるの?」
「早くご飯が食べたいってさ」
「ケガが治ってからはいつも一緒にいるわね~」
「なんか看病してる間に懐かれちゃって」
「綺麗な緑色の鳥さんだし、高く売れるんじゃない?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべ、リーフルに目線を送るシシリー。
(確かに地球では全身が緑色のミミズクなんて存在しないし、向こうだったら高く売れただろうなぁ)
俺もそんな事を考えつつ、シシリーに釣られて悪い笑みを浮かべてしまった。
「ホ、ホー! (テキ)」
「……怒ってるみたい。ごめんリーフル」
「じょ、冗談よリーフルちゃん。そういえばヤマトさんは何で動物の言ってることがわかるの?」
「詳しくはわからないよ。何と無くこうかなってだけ。理由は俺にも分からないんだよね」
いつの日か本当の事を話す。
空想に耳を傾けてもらい、存在を受け入れてもらう。
そんな人がいつか俺にも現れるのだろうか。