10話 帰還する平凡
「……っ──みんな無事か……」
疲れ果てたロットが皆の無事を確認している。
「なんとかなったな……」
「ロット大活躍」
「さすがに焦ったわね……」
「お疲れ様ですみなさん」
偶発的遭遇で魔物達と戦う事になった俺達だが、なんとか撃退しミミズクを救うことが出来た。
そういえばあのミミズクはどうなっただろうか、隙を見て逃げ出しただろうか。
「ちょっとあのミミズクの様子を見てきます。すぐに戻ります」
先程隠した木陰を確認に向かう。
「ホ……(ニゲル)」
どうやら逃げ出す体力は残っていなかったようで、ケガを負っている左翼を広げ地面に伏せている。
布を取り出し、応急処置として患部に巻きつけようと翼に触れる。
ミミズクは抵抗のそぶりを見せ力無く翼を動かしている。
「ごめんな。ちょっと我慢してくれ」
加護のおかげで相手の気持ちが伝わろうと、こちらの意思が伝わる訳ではない。
こういう場合はもどかしいが、そのうち伝えられるようになるのだろうか。
◇
「お待たせしました。ケガを負っていたようです」
みんなの元に戻り報告する。
「ホント、ケガしてたのねその子。だから飛んで逃げられなかったんだ」
「先程ヤマトさんはミミズクとおっしゃってましたけど、フクロウとは違うんですか?」
「似てますけど厳密には違います。ほらここ、目の上辺り。ぴょこんと羽が生えてますよね」
「これは羽角と言って、これのある無しで分けられます」
そう説明するものの、俺の記憶では地球に居た時に見たミミズクの羽角と比べて3倍ぐらい大きい気がする。
しかもそれは右側にしか無く、生まれついたものなのか、欠損なのかはわからないが、地球のミミズクとは少し異なるようだ。
「それにしてもヤマト、お前記憶喪失になったって聞いてたけど、よくそんな事知ってるな」
「き、記憶を取り戻そうと色々勉強しまして──ハハハ……」
騙すつもりなどないが、誤魔化す度に罪悪感を感じる。
「そ、それよりも! これからは帰りなので、ブラックベアとローウルフは持ち帰りますよね?」
「ですね。またアイテムBOXお願いできますか?」
「わかりました。モギも含めて買取に出しておこうと思いますけど、どなたか付き添いをお願いできますか?」
「いらない。換金後に後日集合で良い」
そう端的に言いきるショート。案外俺を信用してくれているようだ。
「そうだぜ、もうクタクタだ、さっさと街に帰ってメシ食って寝てえ」
「その子はどうするの?」
「とりあえず回復するまでは俺が街で面倒見ようと思います」
「それじゃあ帰ろうか!」
無理をしない方針の俺からすれば、しっかりとした命の危機を感じたのは転移初日のスライム以来か。
未知の緑翼のみんなのおかげで難を逃れた俺は、ミミズクを抱えて帰路についた。
◇
「じゃあ明後日の夜、ギルドの酒場で待ち合わせましょう」
「今日は本当にありがとうございました」
「ふふ、ヤマトさん、大活躍だったわね。命拾いしたわ、ありがとね」
「雑談は明後日だ! メシだメシ!」
「ロット、挨拶は大事」
街へ着いた頃には陽も落ち、辺りを照らす街灯代わりの魔道具に火が入れられすっかり夜の雰囲気だ。
さすがに俺も慣れない仕事に疲れたので、早々に受付へ向かうことにする。
「あ! お帰りなさいヤマトさん。どうでした?──ってその鳥ちゃんは……?」
「ハハ、色々ありまして……調査は無事終了しました」
「そうですか……今日はお疲れでしょうし、書類を提出いただいて詳しい話はまた後日で構いませんよ」
「ありがとうございます。それと、買取をお願いできますか? 預かってまして。少々量が多いので、カウンターの前に出しますね」
収納していたモギと、撃退した魔物達をギルド内に放出する。
『はあっ? なんだあの量……』 『おいおい……ブラックベアが二体だと⁉』
他の冒険者達がざわついている。
「きょ、今日は随分大量ですね……」
「ええ、ですけどもちろん全て未知の緑翼のみなさんの成果ですよ。俺はただの荷物持ちなんで」
『──ああ、ちげえよ。そういや荷物持ちだもんなあいつ』 『そうだった。今朝未知の緑翼と出掛けるとこ見たわ俺』 『でもあんな大量に……』
わずかに聞こえてくる内容からして、どうやら誤解のまま厄介を招く事は無さそうだ。
「査定には時間がかかるでしょうし、今日はこれで失礼します」
「はい、承りました。お疲れさまでした!」
用事を済ませ寄り道することなく宿へと帰ることにした。
◇
「お帰り、ヤマトさん。今日は遅かったわね」
「ただいまシシリーちゃん。うん、今日は遠出だったからね」
「──って! わぁ……鳥ちゃんだ。ケガしてるみたいだけど、どうしたの?」
「森で保護したんだよ。治るまでは俺が面倒見てやろうかと思って」
「あでも、宿的にはマズい………かな?」
「ん~ん、問題ないわよ。ヤマトさんが見るなら滅多なことはないと思うし」
「そう言ってくれて助かるよ」
1年の付き合いの賜物か。地球でもそうだったが動物を入れる行為は嫌がられる事が多いが、受け入れてもらえてよかった。
「食べてないでしょ? 夕飯はどう──部屋よね。鳥ちゃんもいるし。」
「うん、部屋にお願い。あと、生の状態で肉を一切れ用意してくれないかな?」
「鳥ちゃん用ね。わかった、後で持っていくわね~」
迷惑料も含めて普段の倍、銀貨二枚を手渡し部屋に帰る。
(しまった、止まり木が無い………まぁ伏せの状態の方が今は楽だろうし、明日以降考えるか)
備え付けのタンスの上にある、底の深いパンを入れる籠に枕を入れ、その上にミミズクを寝かせてやる。
(こんな激動の日は転移後初だな……それにこの子………治るといいけど)
イスに腰掛け、今日の出来事を思い出しながら一呼吸つく。
扉を叩く音が響く。
「シシリーよ。夕食を持って来たわ」
「あ、ありがとう。今開けるね」
明日の仕事は休みにして、ミミズクの世話をしよう。