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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-6 外地にて
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94話 変遷 1


 太陽が目線の高さほどに昇りつつある頃、今朝は時間に追われる事無く余裕をもって起床し、ロングの故郷である村を目指し、俺達は街を出発した。

 街を一旦離れる前に鍛冶屋のヨシュアの下へと弓を受け取りに出向き準備を済ませ、現在街と村の中間辺りに居る。

 

 自分の推察や聞いた話の通り、街の周辺のこの平原には、スライムの一匹も見当たらず、子供達だけで駆け回っても問題の無さそうなほど穏やかな景色だ。


 この光景を目にし、俺はふと一昨日の、街の入り口に出現したローウルフの事を疑問に思い、ビビットに尋ねてみた。

 するとビビットの推察では、恐らく先日の虫の大発生の影響で、山の周辺に生息している個体が、街まで流れ着いたのだろうとの事だった。


 何でもセンスバーチにおいては魔物と遭遇する事自体が特段珍しい事で、所属している冒険者の人数も少なく、ギルドに持ち寄られる依頼も、採集や市井の声等、比較的平和な内容が多いそうだ。

 事情が判明してから総じて思い返すと、あの衛兵達のうろたえようや、ホープと呼ばれていたエドワードなる純白の鎧を纏う冒険者の人気ぶりも、納得のいく様だ。

 

 

「ヤマトさ~ん、オッケーっす!」

 両手で持つハンマーを構え、こちらを見据えている。


「こっちも準備いいよ!」

 大盾を前面に突き出し、身構えている。


「了解でーす! いきますねー!」

 コンポジットボウを引き絞りビビットに狙いを定める。


 放たれた矢は凡そ水平に低い軌道でビビットの構える大盾まで到達、金属のぶつかり合う甲高い音と共に弾かれた矢が地面に落下する。


 次にロングボウに持ち替え、ビビットの更に後方に待機するロングを目標に矢を放つ。


 弓なりに高い弧を描き、ロングが立つ位置より少し手前に矢が突き刺さる。



 魔物の姿が見当たらず、見晴らしの良い広い場所という事もあり、皆に協力してもらい購入した弓の性能を確かめている。


「へぇ~! 上手ね、ヤマトさん」

 俺の後ろで一連の様子を眺めていたステラが、軽い拍手と共に評してくれる。


「ホーホ! (ヤマト)」──バサッ

 リーフルが翼を広げ、ステラにアピールしている。


「ありがとう。でもやっぱり下手だね」


「そうなの? ビビットさんにもロン君にも、狙い通り飛んで行ったのに」


「狩人職とか、多分専門にしてる人ならあんなに外さないと思うんだよね。上手い人ならロングにちゃんと当ててると思うよ」


「ふ~ん。私、戦闘の事はよく分からないけど、向上心があるのねヤマトさんって。さすがはロン君のお兄ちゃんね!」


「はは、生きるのに必死なだけだよ」

 

傍観者(助っ人)の俺としては、似てるから余計に悩ましいんだよな……)

 ビビットとステラ、二人共面倒見の良い性格で、お姉ちゃん気質なところがあり優しい人当たりだ。

 勝手ながら、独身の俺から見ると、年齢や種族、容姿の違いはあれど、パートナーに選ぶ人選としては申し分無い人間性のように思える。

 

 恐らくこの問題の肝は、当のロングに()()が無い事だ。 

 いつもそれと無く恋愛事の話題を振ってみても『今は強くなるのが先決っす』とか『自分考えた事無いっす』と、あまり真剣に取り合おうとせず、てんで会話の広がりが見られない。

 一つの事柄に一生懸命に取り組む性格の、ロングらしいと言えばらしいので、それも仕方が無いが、強く恋愛を推奨出来るほどの経験が俺にも無いという事が、問題の前進に歯止めをかけているとも言える……。



「いいねぇその弓。盾越しにビシッと伝わって来たよ」


「ロングボウの方も綺麗に真っ直ぐ飛んできたっす!」

 二人がこちらへ歩み寄り、感想を伝えてくれる。


王認特級鍛冶師(イーサン)の弟というのは伊達じゃないって事なんでしょうね」


「サービスもしてくれたんだろう? よかったじゃないか。サウドへ帰ったらあたしの魔石でも試してみな」


「早く見てみたいっすね!」


「メンテナンスはサウドでも出来るって事らしいですし、安心ですね」

 二つ購入するという思い切りを見せ、贔屓にしてくれたおかげで、ヨシュアが思いがけない機能を付加してくれていた。


 矢の魔法矢(マジックアロー)化だ。


 魔物達の心臓部となる魔石。

 その魔石をはめ込み、それぞれに応じた魔力を引き出し、通常の矢に属性を付加させる機構を、俺が購入した二つの弓に追加してくれていたのだ。

 

 受けた説明から例を挙げると、火の属性であれば、矢が刺さる対象を炎上させたり、風の属性であれば矢の軌道上、周囲に空を切り裂く風の刃を発生さる、といった具合に、属性によって多種多様な攻撃が可能となる。

 魔力が皆無の俺にとって、この機構は本当に僥倖で、魔物への対応力が強化される願っても無い装備だ。


 だがもちろん考えられる課題も多い。

 魔石を消費するという事は、当然収入が減る事に直結するので、おいそれとは消費し辛い。

 戦闘面で言えば、魔石を使い捨ての乾電池に似た機能だと認識すると、どの程度継戦出来るのか、どの魔石がどの効果を生み出すのか等、検証しなければならない要素が多岐に渡る。


 マジックアローを手にした慢心で魔物を侮るなんてもっての外。

 剣も非才の身なのだし、心を落ち着かせ、同時にゆっくりと慣らしていけばいいと思う。


「ロン君、サウドに行って本当によかったのね」

 弓について盛り上がる冒険者(俺達)の様子を見ていたステラがロングに語り掛ける。


「ん? 何の話?」

 

「今の弓もそうだけど、私を助けてくれた時のヤマトさん、凄かったのよ! たった一人でローウルフを三匹も倒しちゃって」


「ふふん、当たり前だよ! ヤマトさんは努力の人、自分のお兄ちゃんだからね!」

 胸を張り自分の事のようにはつらつと話している。


「ビビットさんは優しくて頼りがいのある安心出来る雰囲気の人だし」


「ビビットさんにかかれば魔物の大軍勢だって目じゃないからね!」

 ハンマーを振りながら凛々しい表情を浮かべている。


「羨ましいなぁ……」

 すぐ傍に居るのに、まるで遠くから眺めているかのような愁いを帯びた瞳で話す。


(ふむ。幼馴染は幼馴染で、思うところあり……か)


「まぁ多少寂しく感じるのも無理ないね。あたしらは命がけの職業、"冒険者"だ。お互いに背中を預け合う仲だからね、許しておくれ」

 ビビットが何とも言えない切なさの垣間見える表情を浮かべている。


「──む? 何で二人共急に暗い雰囲気なんすか?」


「……ロング、今度一緒に勉強しような」


「はいっす??」


(素直過ぎるのもなぁ……)


「──えっと、そろそろ村に行きましょうか。さすがにこのだだっ広い中で休憩は落ち着きませんし」


「……そうだねぇ。行くよ、ステラ、ロング!」

 ビビットが先程の影をひた隠し、快活に勤め声をかける。



 歩き出したその時、俺達が向かう先、村方面から街へと駆ける男性が見えた。


「急いでどうしたのかしら」

 ステラが男性を眺め疑問を呈する。


「なんだろうね?」


「病人でも出たのかな? 村にお医者さんは居る?」


「ううん、居ないわ。だったら大変ね……」


「可能性がなくは無いね。念の為あたし達も村に急ごうか」


「そうですね」

 俺達は幾分歩調を早め、村を目指し歩き出した。

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