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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-6 外地にて
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90話 冒険者ギルド・センスバーチ支部 3


 ローウルフの件を報告するべくギルドへと戻った俺は、扉を開くや否や驚きの光景を前に呆気に取られていた。


『キャー! 目が合ったわ!』 『今日も輝いて見えて、凛々しい御姿ね……』 『後ろから付いて行くのはいいのかしら?!』


(なんだこれ……この街にはアイドルでも居るのか?)

 目に飛び込んできたのは"女性"ばかりの人だかり。

 うら若き一般女性達がロビー内に円を成し黄色い声を上げ、随分と盛り上がっている様子が広がっていた。


 その光景を後ろから眺めていると、群がる女性達の輪を押し開くように、見るも煌びやかな純白の鎧を纏う冒険者がこちらに向かって来た。


「みんなありがとう。軟弱な魔物など! この『白美(プリスティン)エドワード』が瞬く間に屠って見せよう!」

 こちらに向かい来る純白の彼が、拳を突き上げながら威勢よく宣言する。


『キャーーッ!!』 『ヤバッ……鼻血出そう』 『ちょっと、やめてよね! エドワード様の前で汚らわしい!』



「おっと、失礼──」


「──あ、すみません」

 呆気に取られ、棒立ちで入り口を塞いでしまっていた為、慌てて道を譲る。


「失礼いたします」

 眼光鋭い男性がエドワードの後に続き出て行った。


『みんないいわね! ご迷惑になるから距離は取るのよ!』 『あんた、自分以外の女を近づけたくないだけでしょ!』 『さっきのお言葉を口上メモに追加……っと』

 女性達も少し間をあけ、続々とギルドを後にする。


(すごい人気だなぁ。未知の緑翼でもあそこまでじゃないぞ……)

 突然のイベントにすっかり本分を忘れていたが、報告の為俺も受付へと向かう。


 

 先程の話の続きや報告も兼ね、再び応接室でフライアと向かい合っている。

 しかめ面で、何やら随分と不機嫌そうにしている彼女だが、感情が掴み易い事は、要らぬ勘繰りをせずに済むのでそれほど嫌悪感も感じない。


「……ええ。先程お見受けしましたけど、有名な方なんですよね?」


「あー、あれね。エドガード達は蜃気楼を眺めてるだけよ」

 両掌を天に向け、やれやれといったポーズでフライアが話す。


「なんです? その()()()()()って」


「あいつのファンの俗称よ『エドワードを取り巻く(ガードする)ファン(ガール)』をもじって"エドガード"。自分達でそう名乗ってるわ」


(あぁ、所謂"推し活"ってやつか。裕福そうでイケメンでもあったし不思議も無いか)


「へぇ~……でしたらどうしてフライアさんは?」


「あいつ、私の事狙ってるのよ」

 片手で振り払う動きを見せながら、迷惑そうに話す。


「ん? 尚更分かりませんね。玉の輿を狙ってると先程は伺いましたけど、都合が良いのでは?」


「ふん。私の言う玉の輿は、お金だけじゃないのよ」


「──そもそもセンスバーチなんかに配属されてなければこんな事には……」

 またも自分の世界に入り、恨めしそうに呟いている。


(まただ……フライアさん、本当に普段は看板娘を被れてるのか……?)

 俺が気にする事ではないが、不安定気味の情緒に思わず心配してしまう。


「……で、報告って何なの?」


「そうでした。先程ギルドを出て昼食でもと考えていると、街にローウルフが出たと耳にしまして……」

 事のあらましをフライアに説明する。



「……これが証明にはなりませんが、買い取って頂きたい都合もあるので念の為」──ボワン

 先程退治したローウルフを異次元空間から出現させる。


「ななな……っ! う、嘘よ! 前から収納してた物なんでしょ!」

 椅子から飛び上がり、強張る表情で驚いている。


「ええ、ごもっともです。なのでお手数ですけど、衛兵の方に確認していただけると助かります」


「ちょっと待ちなさいよ……これじゃあ聞いてた通り──それ以上じゃない……」

 またもフライアが爪を噛みながら自分の世界に入り込んでしまった。


「え~っと……フライアさん? フライアさ~ん?」



 鎧が擦れる金属音と足音が近付いてくる。


「──失礼する! フライア嬢、一体どういう事なんだこれは!」

 突然先程の純白の鎧を纏うエドワードなる冒険者が、応接室に声を荒げ駆けこんできた。


「ちっ。エドワード……」

 距離の近い俺にだけ微かに聞こえるような声量で、フライアが嫌悪感の籠る声色で呟く。



「あら、エドワード様。もう退治なされたのですか? さすがはセンスバーチのホープですわねぇ」

 口角の上がっていない笑顔を浮かべ、丁寧な口調でそう話す。


「違う! 君たち(ギルド)が緊急だと言うから、ランチの予定も放棄しはせ参じたというのに『既に討伐されました』だと? この僕を随分と虚仮にしてくれるじゃないか!」

 憤る様子のエドワードが肩を怒らせまくし立てる。 


「噓じゃなかったんだ……」

 フライアが俺を見据えながら呟く。


(まずいな。緊急要請ってさっきのローウルフの事だったのか……う~ん、厄介だぞこれは……)

 咄嗟の判断に後悔は無いし、何よりも犠牲者が出なかった事が重要なので、外様であろうと俺が出張った甲斐はあったと思う。


 だが今、この状況は非常にまずい。

 緊急要請の内容を知らなかったとはいえ、俺の行いは冒険者界隈で言うところの、"横取り"行為に該当する。

 当事者である者を差し置いて、その冒険者からの応援の要請も無く先んじてクエストに当たる事は、罰則規定は無いにせよマナー違反なのだ。


 さらに言えば、アイドル的人気を誇るエドワードの顔に泥を塗ったとファン(エドガード)たちに知られれば、どんな報復を受ける事になるのか分かったものではない。


 加えて、"所属外"という部分も問題だ。

 ホームでない土地で、外様の者が派手に目立つ行動を起こすと、所属している冒険者達の不興を買い、支部同士の軋轢を生みかねない。

 

(こんな些細な事で不和を生む訳にはいかない。誠心誠意謝るしかないな)


「すみませんでした! 知らぬ事とはいえ、非常に無礼な行為でした。このローウルフと報奨金はエドワードさんがお納めください」

 エドワードに頭を下げる。

 

「……君、さっき入り口ですれ違った人だよね?」


「ええ」


「見ない顔だが……本当に君がたった一人で三匹も?」

 エドワードが視線を上から下に、訝しむ表情で俺を検める。


「ええ、危ないところでしたが、今回は運が味方してくれました」



「ふっ……ふははは! そうかそうか! いやぁ、ありがとう! 君のおかげで市民は守られた。恩に着るよ」

 笑顔を浮かべ高笑いし、口では感謝を述べているが、目が笑っていない。

 恐らく納得はいっていないのだろうが、センスバーチ支部の顔として、抑えているといったところだろうか。


「いえ。こちらこそ出過ぎた真似を」


「報奨金もローウルフも、僕は辞退させてもらうよ。正当な対価は与えられてしかるべき者が受け取らないとね」


「はい。ありがとうございます」


「そういう事であれば仕方ない。ではフライア嬢、失礼するよ。僕を呼び出した対価としては、君のその美しい姿を拝めた事で相殺するとしよう」

 ウインクをフライアに投げかけ、エドワードは颯爽と応接室を後にした。


『キャー!』 『この後の……』

 ロビーの方から女性たちの黄色い声が聞こえてくる。

 

「ホー! (テキ!)」

 珍しくリーフルが立ち去る背に向けて威嚇している。


「キモ過ぎ」

 エドワードが立ち去った途端、本音のフライアが顔を表す。


「すみませんでした。危うくセンスバーチとサウドの関係にひびを入れてしまうところでした」


「あんたに落ち度は無いわ。すべき事を出来る人がやっただけじゃない」


「そう言っていただけると助かります」


「はぁ~……それにしても何なのよ今日は。疲れるわぁ」


「あんたも他に用があるんでしょ? 渡す物渡すから、さっさとカウンターへ行くわよ」


(俺がセンスバーチの所属じゃないからって、本性が過ぎるぞフライアさん……)



 その後、報奨金やローウルフの査定代等金貨一枚相当を受け取りギルドを後にした。

 このタイミングでの臨時収入は、諸々の買い物の予定がある今の俺にとっては嬉しい誤算だ。

 これならば多少積極的に品物を吟味できそうで、目的に向かう足取りも軽くなる。 

 明日は案内人も確保出来ている事だし、折角ならサウドでは手に入らない逸品を手に入れたいものだ。

 

 新天地に来て早々、普段と変わりのない、冒険者の仕事(クエスト)をこなす事にはなってしまったが、センスバーチ支部の雰囲気は掴めたので良しとしよう。

 

  


 

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