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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-6 外地にて
109/188

90話 冒険者ギルド・センスバーチ支部 2


「みんな速足だね」


「ホ~」


「あっちが中心街で……確か飲食店通りが一つ隣の通りだってビビットさん言ってたな」

 大通りは街の中央に向かい真っ直ぐ伸びているので、見晴らしが良く、迷う心配は無さそうだ。


「ホーホホ? (タベモノ?)」


「そうだなぁリーフル。何が名物かな?」

 ギルドを出て、まずは昼食でもと思案しているのだが、街の中は行き交う人々の忙しない往来でなんだか落ち着かない。

 だがそれも致し方無い事で、通りは馬車の通行を前提とした幅の広い道になっており、人々はその馬車の動線──中央を避け、両脇を歩くようにしているせいで、人の密度が高い。

 こういうところはさすが流通拠点といった様子で、効率的かつ明快な風景だ。


(通り毎に毛色が違うみたいだし、まずは中央に行ってみるか)

 街の中央に見える庁舎の方角に向かい歩き出す。



「ホホーホ? (ナカマ)」


「うん。夕方頃ギルドに集合しようって言ってるから、それまでは自由時間だ」


「ホーホ? (ヤマト)ホーホホ(タベモノ) 」

 リーフルが『早くお昼ご飯にしよう』とせがむ。


「ん~。折角だし食べたことないもの探そうよ」


「ホーホホ! (タベモノ!)──」 

 

「──はいはい。じゃあ名物は明日以降にするよ」──ボワン

 丁度いいベンチがあったので、腰を据え昼食にする事にする。


(ある意味欲が無いのも、可愛いけど面白みに欠けるか)

 リーフルは、俺が十分に食料を蓄えている事を知っているので、どうやら新しいものを探求するよりも、お気に入りの物を食べたい気持ちの方が強いようだ。

 肉であればほぼ何でも、果物に関しても同じで、嫌がる物がほとんど無いので、食事のバリエーションに頭を悩ませる心配は無いが、リーフルにはもっと沢山の食材を経験してもらいたいものだ。


 んぐんぐ──「ホッ……」

 夜に皆でどこかのレストランに行く予定なので、昼食にはラビトーの串焼きで我慢してもらう。

 だがリーフルは、安かろうが硬かろうが、俺の用意する食事に文句など一切言わないので本当に助かる。


「大雑把な街の地図でも書きたいところだけど、どうしようかなぁ」

 俺もクロワッサンを片手に、今日の予定について考える。



「──!!」

 腰を落ち着かせゆったりと構える間もなく、突如ギルド通りに人波が押し寄せ、緊迫感が漂い始める。


『逃げろ逃げろ!』 『くそっ! まだ積み下ろしの最中だってのに!』 『ローウルフだってよー! やべえって!』


(む? 人の流れが街の入り口の方から……)


(聞こえる言葉から察するに、ローウルフが近くに出たってとこか。防壁が無い訳だし……)


「リーフル、行くぞ!」


 んぐんぐ──「ホッ……ホ! (イク!)」

 衛兵も見張っていて、ギルドも近くにある。

 なのでローウルフ程度では滅多な事は無いと思われる。

 だが俺も曲がりなりにも冒険者なので、市民の万が一に備え、流れに逆らい現場へと向かう事にする。



 昼食もそこそこに急ぎ駆け出し、街の入り口まで到着したのだが、予想したものとは随分差のある光景が繰り広げられていた。

 

(他には……三匹だけか。よかった、大群を想像してたけど、なんとかなりそうだ)

 遠目に状況を伺いつつ駆け寄ってゆく。


「お、おい……お前が行けよっ」


「何だよ~……ローウルフなんて聞いてねえよ……」

 衛兵の二人が二匹のローウルフを前に、槍は構えているものの、腰が引け手は震え、見るからに恐れおののいていた。


(新人さん……なのか? 確かに侮れない相手ではあるけど……)

 見ると、上半身を覆う木製の軽鎧は汚れや傷の一つも無く綺麗なもので、携える槍にも多少の汚れがある程度で使い込まれている様子は無い。

 


「キャッ──!」

 街の中を目指し駆ける一人の少女が、焦りから足を取られ転んでしまう。

 

 尻込みする衛兵を前にする二匹のローウルフの脇を抜け、後方の一匹が、うずくまる少女目掛け襲いかかる。


 俺はロングソードを抜き放ち、少女の前に庇い出る。


 飛び掛かる牙に刀身を合わせ防御、そのまま横に薙ぐように斬り裂く。


「危なかった……君、大丈夫?」


「あっ……っぅ~!」

 どうやら少女は転倒したせいで足首を捻挫してしまっているようだ。


「すみません! この子をお願いします!」


「あ、ああ……」



「こっちだ!」

 少女を任せ、短剣でロングソードを打ち鳴らしながら衛兵とローウルフの間に割って入り、注意を引き付ける。


「ワオォーーン!」

 遠吠え一つ、一匹のローウルフが勢いよく飛びついてくる。


 直線的な攻撃に対し真正面に剣の切っ先を置き、ローウルフ自らの勢いを借りそのまま両断する。


「グルルルッ……」

 残る一匹がこちらを威嚇しながら後ずさる。


(逃がすと仲間を呼ばれる可能性があるか)

 

 ロングソードを上段に構えながら距離を詰める。


「グァウッ!!」

 距離を詰める俺に対し、ローウルフが顔面に噛み付こうと飛び上がり狙い来る。


 咄嗟に構えを解き身をかがめ、ローウルフの腹部に剣を突き立てる。



 戦闘を終え、周囲には力尽きた三匹のローウルフが伏せる。


 何とかローウルフを退治する事に成功した。


「──ふぅっ。 やっぱり接近戦は骨が折れるなぁ」


「ホーホ! (ヤマト!)」──バサバサッ

 リーフルが翼を上下させ、労いの舞を披露してくれる。


「うんうん。ありがとなリーフル」


「あ、あんたすごいな……」


「たった一人で三匹もやっちまったよ……」


 衛兵の二人が目を丸くしこちらを見据えている。


(だよなぁ。ローウルフに正面切って挑むのは避けたいもんな)

 恐らく新人であろう様子なので、例え衛兵とはいえ尻込みするのは仕方ない事だ。

 かく言う俺だって本来であれば先手を打ってから戦闘に入りたいところ。

 今回はひっ迫していたし、弓もまだ購入出来ていないので他に選択肢は無かったが、無事退治出来て何よりだ。


「──そうだ! 君、大丈夫? 足、ひねってるんだよね」──ボワン

 ポーションを取り出し少女に差し出す。


「いえ。私ポーション代なんてとても……」


(ふむ。まぁ確かに……なら交換条件でも付ければ飲んでくれるか)

 

「う~ん……後払いでもいいんだけど、もっと簡単な方法があるよ」


「な、何かしら……」


「君、この街の事は詳しいかな?」


「ええ。ある程度の事は分かるわ」


「じゃあさ、街の案内をお願い出来ないかな? 俺、この街には初めて来たんだ」


「え……? そんな事でいいの?」


「『そんな事』でもないよ? 人件費は高いからね。ポーション代と釣り合うくらいじゃないかな?」

 俺としては無償で構わないのだが、見ず知らずの他人から、高価なものをタダで譲られるのには抵抗感がある事は理解できる。

 軽傷とはいえ、俺は診療所の場所を知らないし、早くポーションを飲んで治癒出来た方が、この少女の身の為だ。


「じゃ、じゃあ……ありがとう」

 少女がポーションを飲み干す。



「──わっ、すごい! 初めて飲んだけど、本当に効くのね!」

 足を確かめながら驚いている。


「はは、よかった。俺はヤマト、こっちは相棒のリーフルって言うんだ」


「ホ」


「私は"ステラ"よ。よろしくね。それと! 私これでも成人ですっ」

 少女が立ち上がり腰に手を当て背伸びをしてアピールしている。


(あっ……よく見たら……ロングに教えて貰ったばかりなのに)

 咄嗟の事で見逃していたが、髪に隠れるように小さく丸い耳が生えており、細長い尻尾も伺える。

 馬車内でロングに教わった、彼女は"イタチ族"だ。

 

「ご、ごめん! 背丈からつい、まだ子供だと……」


「あなたこの街初めてなんでしょ? なら仕方ないわ、気にしないで」


「ごめんね」 「ホ」


「じゃあ案内は明日でいいかしら? 今日は買い出しの予定があって、村に帰らなくちゃいけないの」


「うん。俺もその方が助かるよ。ギルドにこの件を報告しなきゃいけないし」


「じゃあ明日の朝、ギルド前で待ち合わせましょう。案内任せてね!」


「ありがとう。じゃあね」


「ホ~」


 ステラと別れ、ローウルフの事を報告する為、俺はギルドへと戻った。

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