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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-5 冒険者流遠足会
106/188

88話 晴れ晴れ


 窓から差す朝日と共に鳥のさえずりが聞こえる。


「ホーホ…… (ヤマト)」

 リーフルが枕元で俺の髪を毛繕いしている。


「ん~っ!」

 昨夜の激闘の疲れか、はたまた慣れないベッドの感触のせいか、神経の高ぶりを引きずり、浅い眠りのまま朝を迎えた。

 

「リーフルもお疲れさん。リーフルには助けられてばっかりだなぁ」


「ホホーホ(ナカマ)」

 身体を密着させ『当たり前』だと言わんばかりに呟く。


「うんうん。ありがとなぁ」

 頭を撫でる。


「ホ(イク)」


「ん~? あ、そうか。行こうかリーフ──お?」

 頭を撫でていてふいに気付く。

 最近何かと精力的に活動していたのでご無沙汰だったが、そろそろリーフルの"お手入れ"の時期だ。

 

 例えば野生の鳥類であれば、表面の荒い枝々を掴み渡る事で爪が研がれるし、嘴を擦り付ける動作をする事によって研がれたりと、野生での生活自体が、自然と爪や嘴が整う営みになっているので、調整など必要ない。

 だが、ミミズクに限った話では無いが、嘴や爪や歯、有蹄類であれば蹄、とそれらを持つ人間と暮らす動物は、野生本来の行動が制限された生活を送っているので、定期的な調整が必要となる。


 リーフルや他の鳥類にとって嘴は特に重要で、伸びすぎると不正咬合を起こし『食べる』という行為自体が困難となり、最悪の場合死に至ってしまう程だ。

 日本ではペット用の物があったので、ウサギの爪切り等は苦も無くこなせたのだが、この世界にはまだそのような"ペット専用爪切り"は存在しないので、リーフルのメンテナンスはもっぱらヤスリ頼みだ。

 

「リーフル、爪はまだいいとして。嘴はちょっとやっとこうか」

 特注の、一般的な物より細長く目の細かいヤスリを取り出す。


「ホゥ……(イラナイ)」

 ヤスリを目にした途端、まるで枯れ枝に擬態するかのように身体全体をすぼめ、何とも不快そうな顔つきをする。


「今日はちょっとだけ! な? すぐ終わるから」

 爪の場合はそれ程でも無いのだが、嘴の手入れをリーフルは非常に嫌がる。

 だがそれは致し方無い事で、何せ"生命線"である嘴を他人にいじられるからだ。

 いくら手入れをするのが(ヤマト)だからといっても、恐怖するのは当然だろう。


「……」

 『今やる事じゃないでしょ』と目で訴えかけている──ように見える。


 これは俺の悪癖なのだが、特にリーフルの事で何か気がかりが出来ると、早々に解決したくなってしまい、他の事が手に付かなくなってしまうのだ。

 自分自身でも、今やる事では無いと理解しているが、思い立ったが吉日。

 意識が向いている時こそ上手く行くような気がして、どうしても優先したくなる。

 

 肝心のお手入れだが、脚の爪の場合は比較的大雑把で問題無いが、嘴を削る時は神経を使う。

 先端の尖り具合や、左右対称に削れているか等、非常に繊細な作業が必要となるので、ヤスリをかける俺としても中々怖気づく行為だ。


「今日はそんなにやらないから……」

 具合を見ながら慎重にヤスリをかけてゆく。


「ホ……(ニゲル)」

 口ではそう言っているが、抵抗する事無く、大人しく身をゆだねてくれる。



「……よ~しよし! 今日はこれぐらいにしておこう」

 恐怖の時間に耐えたご褒美兼、嘴の具合を見る為にアプルを差し出す。


 んぐんぐ──「ホーホ……(ヤマト) (テキ)」


「ごめんごめん」

 文句を言いつつも、ちゃっかりアプルを平らげるのがリーフルらしい。



 扉を叩く音。


「おはようございます! ヤマトさ~ん、もう起きてますか?」

 扉越しに普段通りの元気一杯の声色が聞こえる。


「おはようロング。すぐ支度するから先に下で待ってて」


「了解っす!」 


(急いで支度して──あっ……嘴より服の汚れを落とすのが先だった……)

 優先順位を間違え、軽い焦燥感に襲われながら急ぎ準備を整える。



 俺達は昨夜の大発生の件について話し合う為、宿一階の簡易的な待合室にて、この村の村長及び宿の主人である男性に接待を受けていた。

 

「皆様、昨晩は大変ありがとうございました。皆様のご尽力が無ければ今頃この村はどうなっていたことか……」


「今回はお互い運が悪かったねぇ。でもま、何とかなったんだ。あたし達としてもいい稼ぎになった訳だから、あんたが気にする事ないよ」

 そう話すビビットの傍らに立てかけられた大盾は、既に汚れが落ち綺麗に磨かれている。

 俺などは部屋へ帰るや否や朦朧とベッドに倒れこんだというのに、やはりベテランは格が違うといったところだ。


「それが……その、大変申し上げにくいのですが……」

 村長が言い淀む。


「? どうされましたか?」


「はい。何分今回の大発生は例年よりも早い時期に起こりましたので、まだ御国から対策費が支給されておらず、即金で御支払いする事が出来ないのでございます……」

 伏し目がちに恐縮した様子で、申し訳なさそうにそう話す。


「なるほど。確かにそれもそうですね」


「──ですが御心配には及びません! 今朝方既に事のあらましを書簡に認め、伝書鳩で両街に報せてございます」


「ですので、皆様にはお手数をお掛けしますが、街の方で報酬を受け取っていただければと存じます」


 物腰低く誠実そうな雰囲気で、朝食も接待してくれている。

 お金が用意出来ない理由も最もなものだし、疑う余地は無いと判断出来る。

 なら報酬は後の楽しみとして、憂いなくセンスバーチを目指せばいいだろう。


「分かりました。ありがとうございます」


「では皆さま。出発までどうぞおくつろぎくださいませ」

 村長が退室してゆく。



「ヤマト、すまないがアルファとベリ、ポーションも一瓶頼む」

 黙々と話を聞いていたガリウスが話し出す。


「ええ。ガリウスさん、腕、マズいんですか……?」


「いや、俺の方は大事無い。念の為にバルに飲ませておきたくてな」

 袖を捲り負傷した腕を晒し、問題ない事を確認させてくれる。


「そうですか、よかったです。どうぞ」──ボワン


「すまんな。街に着いたら礼は必ず」

 そう言い残し、取り出したエサを抱えバルの下へと向かった。



「ロングも大丈夫? ポーション飲んでおくか」


「自分は平気っすよ! 万が一の為に取っておいて欲しいっす!」

 

「そっか。なら何かあったらすぐに言うんだぞ」


「ビビットさんも居るっすから大丈夫っすよ!」


「……」

 話を振られたビビットは下を向き押し黙っている。


「あ、自分出発前にちょっとおしっこっす」

 ロングが用を足しに外へ向かう。



「あのぉ……ビビットさ──」


「──皆まで言うんじゃないよっ。見ただろう!? あのロングの雄姿を!」

 ビビットが突如目を輝かせ昨夜の回想に浸る様子で興奮している。


「そうですね~。ロングは頼りになりますよね」


「ホホーホ(ナカマ)」


「リーフルちゃんもそう思うだろ~? よし! この感動をリーフルちゃんにもおすそ分けだよ!」

 高級そうな包みから干し肉を取り出しリーフルに差し出す。


「ホーホホ! (タベモノ!)」


「アハハ……ほどほどでお願いします……」


 各々が準備を整え、センスバーチを目指し村を出発した。

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