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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-5 冒険者流遠足会
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87話 ベテランの奮迅 2


 村中に響き渡る甲高い金属音。


「警鐘!? まだ時期じゃないだろうに……」

 ビビットが怪訝そうな表情で呟く。


「バル!!──」

 ガリウスが単身酒場を飛び出す。


「ガリウスさん!」


「あたし達も行くよ!」


「「はい!」」

 ガリウスの後を追い酒場の外へ駆け出す。



『キシャーッッ』 『ブブブ……!』 『ジュルル!!』

 多方面から聞こえる不快な唸り声。


「なっ……!?」


「うわっ!──なんすかこれ……」

 飛び出した先に待ち受けていたのは、耐性の無い者には到底我慢ならないおぞましい光景。


 いつの間にか複数の"虫型"の魔物が村内に姿を現し、村中の建物を取り囲むように悠然と闊歩していた。 


(なんなんだこいつら……しかもでかい……!)


「──ヤマト! 松明と薪! 一軒ずつ火を焚くんだよ! 住民の安全を最優先に行動しな!!」

 事情を知る様子のビビットが指示を飛ばす。


「分かりました! ロング、行くぞ!」 「了解っす!」

 アイテムBOXに備える薪や松明を無造作にぶちまけ、各々が火種と薪を手に村内へと散らばってゆく。



「うわぁぁっ!! く、来るな!」

 逃げ遅れた住民の男性が、イナゴに酷似した魔物に包囲されている。


 

「──ふっっ!──このっ!」 「ホー! (テキ!)」

 抜刀しながら男性へと駆け寄りロングソードを振るう。

 

「キシャッ……」

 両断され転がるイナゴ型の魔物達。


「大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ……助かったよ」


「早く家の中へ!」

 男性に避難を促し、焚火を起こしてゆく。


(他にも逃げ遅れた人がいるかもしれない。急がないと……!)

 

「ジュルル……」

 イモムシ型の魔物がにじり寄る。


「ふんっ!」

 顔部分目掛け剣を突き立てる。


(大方エサが目的だろうけど……)


 隣家へと急ぎ移動する。



 向かい来る虫達を退治しながら村内を移動、遠目に伺える炎の明かりもその数を増やしつつあるので、ロングとビビットも上手くやっている事が伺い知れ心強い。


「くそっ……数が多い!」

 両断された虫の体液が飛散し、ぬかるみを踏みしめたような不快な音が耳に入る。


「ふぅ……!」


「ホホーホ……(ナカマ)」

 リーフルが心配した様子で呟いている。


「大丈夫だよリーフル。こいつら強さは大したことない。だから二人なら心配ない」


(警鐘のおかげで住民は既に家の中……でも家の壁にかじりついてる奴も居た……焚火を急がないと)

 次の建物へと移動しながら考えを巡らせる。


 火を焚いて回っているおかげか、村内の虫の数は減少傾向にあるが、未だ気の抜けない状況が続いている。

 イナゴ型、イモムシ型、カメムシ型等、それらを人間程の大きさに拡大した魔物達で、ざっと遭遇した種類を整理すると、所謂"害虫"の類が多い。


 幸いな事に、鋭利な"武器"となる何かしらをその身に宿している訳でもないので、今の所は一人でも十分対応出来ている。

 だが如何せん数が多く、体力の消耗が激しい。

 どこからやってきて、どれ程の数が居るのか。先が読めず、じんわりと心の奥底から恐怖が滲み出る。



「──くっ!」 「ヒヒーーンッ!」

 駆ける視線の先、宿屋近くの街を囲う柵の傍に繋がれたバルを庇い立ち、ガリウスが虫達を相手に必死で応戦している様子が見えた。


「ガリウスさん!──」


「キシャシャッ!」


「──このっ!」

 一匹を後ろから斬り上げ、包囲を破りガリウスの前に躍り出る。


「ヤマト!」


「ガリウスさん! 怪我を……」

 見るとガリウスの左腕から出血が見られる。

 松明の明かりから伺える顔色は青白く、致命傷ではないにせよ中々の深手のようだ。


「俺の事はいい──バルを……バルだけは守ってやってくれ……!」


「必ず!!」

 負傷している事、相棒を庇うその必死の様。

 ガリウスの献身を目にし、感動とも怒りともつかない感情が沸き上がり奮起する。


 バル目掛け襲い来る虫達を斬り伏せてゆく──。

 

 ──さらに遠巻きに様子を伺っている虫に駆け寄り薙ぎ払う。



「はぁ……はぁ……この一帯は……片付いた……」

 激しい動きの連続に体力を消耗し、握るロングソードが普段よりもずっと重く感じられる。


「すまないヤマト」

 

「いえ、それよりもこれを。バルに乗ってください」

 見える炎の数からそろそろと判断出来る。

 ポーションを手渡し、ガリウスをバルに跨がせ二人と合流するべく移動する。


 

 村の中心にある物見やぐら付近で合流する俺達。


「無事かいあんたたち!」

 ビビットの構える大盾の表面はおびただしい量の虫の体液に染まり、相当な数を仕留めて来たのであろうことが伺い知れる。


「ビビットさん、この虫なんなんすか? いきなり何処から……」

 尻尾の毛を逆立たせ不快そうに尋ねている。


「ここへ来る時山を越えて来ただろう? こいつらはあの山から下ってくるのさ」


「『時期』とおっしゃってましたけど、定期的に起こる事象なんでしょうか?」


「そうさ。こいつらは季節が完全に凍てついちまう少し前に、山から降りて来てはエサを求めてこの辺りを蹂躙する」


「そして蓄えと共に山へ帰り産卵、抱卵するのさ。で、その卵は温かくなった頃に孵る。虫なりの、種を残す為の知恵って訳さ」


「なるほど。今回は予想された時期よりも前倒しでそれが起こった、と」


「自分達、運が悪かったって事っすかね……」


「あぁ。強さは大したもんじゃない、けど数が多い。本来なら予想される時期には派遣される冒険者達がこの村に前もって滞在して、この大発生の対処をするってのが通例なんだよ。今回は運悪く戦える者はあたし達だけだけどね」

 

(ロングの言う通り運が悪いと納得するしかない……でもさすがに三人だけじゃ体力的に厳しいな……)

 多少なりともロングソードの訓練が活きているとも言えるが、こんな時に愛弓が背に収まっていない事が酷く心細い。

 弓を使えないせいで、未だ慣れない本格的な接近戦の連続を余儀なくされている現状では体力の消耗が激しい。

 

 焚火を村内に起こし終えた今、火を恐れる虫達は村を遠巻きに包囲している状況。

 だが急ごしらえの焚火なので薪の量も十分とは言えず、火の勢いも後数刻といったところ。

 火が尽きれば最後、村を包囲する虫達がなだれ込み、俺達三人だけではどうあっても対処しきれない。

 

「どうしましょうか。このままじゃ瓦解するのは明らかです」


「ヤマトさんの言う通りっす。強くはないっすけど、数は多いし気持ち悪いし……」


「いや、いいかい? あたしに考えがある……」

 ビビットが閃きを説明する。



「……なるほど。それなら俺達だけでもなんとかやれそうですね」


「いいかい、もう一度言うけどタイミングが全てだよ。二度目は無いと思っておくれ」


「分かりました──ロング、俺達なら上手く連携できるはず。落ち着いて行こう」


「任せてくださいっす! ()()の力、見せつけてやるっす!」


「──よし! 行くよ!! あんたたち!」


 作戦遂行の為、俺達はそれぞれの持ち場へと駆ける。




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