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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-5 冒険者流遠足会
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86話 ナカマ


 街道の凹凸を拾う車輪から伝わる振動に揺られ、快適とは言えないまでも、俺達の馬車は順調に距離を稼いでいた。

 出発前の緊張もどこへやら、ここまでの道中、魔物と遭遇することも無く数台の馬車とすれ違っただけで、気分はさながら観光バスから景色を眺める旅行者だ。

 ただ、人間とは御しがたい生き物。平和を有り難く思うのも束の間に、どうしても"暇"が湧いて出てくるもので……。

 

「ホホーホ(ナカマ)」

 集中する二人の前でリーフルが一言呟く。


「──はいはい! 『ロング』っすね!?」

 ロングがいち早く手を上げアピールしている。


「何言ってんだい『赤身』って言ったんだよ!」

 胡坐をかくビビットが身を乗り出す。


「う~ん、惜しい! 二人共ハズレですね」


「え~。でもそれって、よく自分を見て話してる鳴き方っすよ?」


「ん~、間違いでも無いんだけどね。正解は『友達、仲間』でした」


「かぁ~……これじゃあ昼ご飯がなくなっちまうよ~」

 ビビットとロングが昼食の内容毎の代替となる木札をリーフルの前に差し出す。


「リーフルさん、どうしますか。これじゃあ二人共お昼ご飯抜きになってしまいますが」


「……ホ」

 目の前に並ぶ十枚ほどの木札から、嘴を使い各々一枚ずつの木札を器用に押し戻す。


「リーフルちゃん……」


「リーフルちゃ~ん! なんて優しい子なんだろうねぇ!」

 リーフルの慈悲深き行動に身を震わせる二人。


「偉いぞ~リーフル」

 

「ホッ!」──バサッ!


 俺達は"クイズ"に興じていた。

 ただ座っているだけというのも如何せん物寂しいし、リーフルも皆に構ってもらえて喜んでいる様子で、暇つぶしとしては十分に盛り上がっている。


「ホホーホ(ナカマ) ホ(イク)」

 リーフルが二人と木札を交互に見比べ、まだ収まらないといった雰囲気をしている。


「えっ、リーフルちゃんまだやるんすか? 折角"カカパン"の札を返してくれたのに……また無くなるっす……」

 

「そうかいそうかい。愛らしいねぇ──よし分かった! ロング、折角だし絶対にリーフルちゃんの言葉を覚えるんだよ!」


「そうっすね!」


「はは」

 リーフルを二人に任せ、御者台のガリウスの下へと移動する。



「お疲れ様です。すみません、お仕事中に」


「構わない。誇らしいさ」

 ぶっきらぼうに前を向いたまま、だが温かみの籠る声色で答える。


「なるほど……さすがですね」


「もう少し行くと休憩できる川辺がある。バルを休ませる」


「はい──バル、堂々としてて綺麗で。長いんですか?」


「以前の相棒の息子だ。俺が育てた」


「そうなんですね。大切にされているのがよく分かります」


「お前もな。あの子(リーフル)も、とても幸せそうな気配を纏ってる」


「ありがとうございます」

 ガリウスとは今回が初対面で、今まで馬車を利用する機会も無く接点が無かった。

 だが、俺と同じく動物を相棒としている人物だ。親近感を覚えないはずがない。


 彼は言葉少なで不愛想に見えるが、バルを観察すれば人となりは一目瞭然で、相当に愛情深い人物だと断言できる。

 何よりもバル本人からネガティブな言葉が聞こえてこないのが良い証拠で、今朝から度々耳を澄ませているが『イク』という力強い言葉しか聞こえてこない。

 互いに相棒の為を想い合っている様には、自分とリーフルを重ねて感じ、心打たれるものがある。



「あそこだ──」

 ガリウスが道を外れるよう手綱を操り指示を出す。


「ブルルッ!」

 繊細かつ力強い脚捌きで穏やかに荷台を停車させる。


「ホーホホ? (タベモノ?)」

 リーフルが肩に戻る。


「そうだよ。昼ご飯だ」


 順に馬車を降りる。



「結局よく分からないままっす……」


「そもそもヤマトが居ないんじゃ正解も何も無いね……」


「遊んでもらってよかったなぁ」


「ホ~」


「……ヤマト、アプルとアルファを頼む」

 ガリウスがバルを荷台から解放しながら話す。

 

 ガリウスの言う"アルファ"とは、牛や馬等に与えられる牧草の事だ。

 日本では"アルファルファ"の名でペットショップ等で販売されているのを目にするのが一般的なフードで、サラリーマン時代にウサギを飼っていた俺としては、"チモシー"と並び非常に馴染み深い牧草で、何とも言えない懐かしさと親しみを覚える。

 

「わかりました」

 異次元空間を開き、預かるバルのエサを取り出す。


「ブフンッ!」 


『タベモノ』

 バルが食事を前に興奮した様子だ。


「ホーホ? (ヤマト?)」

 バルの前に置かれたアプルを指し、リーフルが訴える。


「うん。俺達も食べようか」


 

 街道沿いに流れる澄んだ小川の傍に陣取り、俺達は昼食のパンやシチューを前に、諸々について話し合っていた。

 クイズに大敗を喫し、昼食のほとんどをリーフルに押収されてしまっていた二人だが、あくまでもお遊び。

 リーフルもいけずをするような性格では無いので、その温情をもって昼食の制限は解放された。


「ヤマトさまさまだねぇ。作り立てを労する事無く食べられるなんてさ。あんた冒険者なんか辞めて、移動レストランでも始めたらどうだい? ははは」

 豪快な笑い声を上げながらビビットがそう語る。


「えっ! そんなの困るっす! 自分、ヤマトさんが居ないとサウドで生きていけないっすよ!」


「また大袈裟な。自分一人でしっかり稼いでるよね」


「『心細い』って意味だろう? 言葉を選びなロング。センスバーチで馬鹿にされちまうよ?」


「あ……そうっすよね。センスバーチ……うぅ……」

 ロングがうなだれている。


「安心しなロング、あたしとヤマトが付いてるんだ。何よりあんたはもう立派に一人前。恐れる事はないさ」

 この定期便のメンバーに指名した際、珍しくロングは渋い顔をして、一瞬だが躊躇いの表情を浮かべていた。

 それも当然で、サウドへやって来た当時のロングを思い返せば、尻込みする原因には心当たりがある。

 

「そうですね。もう昔のロングとは違う。今や立派な"サウド支部所属の冒険者"だ」


「そう……っすよね……」


「それにいつも言ってくれてるじゃないか。リーフルを守ってくれるんだろ? 俺もリーフルも、ロングの事、頼りにしてる」


「ホホーホ(ナカマ)」

 リーフルがロングに歩み寄り、膝によじ登る。


「リーフルちゃん……」

 

「……そうっすね! 自分、任されてたっす!」

 リーフルの頭を撫でながら、覇気を取り戻したロングが熱い瞳で宣言する。


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