8話 帰り道
「終わったか?」
村の入り口にショートが待っていた。
こちらの仕事が終わりそうなタイミングを見計らって、俺を迎えに来てくれたようだ。
「無事終わりました。みなさんも終わられたようですね」
「こっちだ」
普段から言葉数の少ない彼は淡白に呟き、未知の緑翼の面々がいるモギの群生地に案内してくれる。
「………」
「………」
これといった共通点も見当たらず、お互いのパーソナリティに明るい訳でもないので、無言の歩みが続く。
だが些か気まずさも覚えるので、無言の空気を変えようと気になっていた事を尋ねてみる。
「……そういえばみなさんはどういったご関係なんですか?」
「仲間」
「そ、そうですよね。仲がとてもよさそうに見えます。ははは……」
失敗した。尋ねるのならもっと具体的に踏み込んだパスを投げるべきだった。
だが幸いにも群生地は村から近かったようで、次の一手を苦悩する間もなく到着した。
「ヤマトさん、調査の方はどうでしたか? 俺たちの方は摘み取りが大体終わったところです」
「見ろよこれ、相当あるぜ」
マルクスとロットが山積みになったモギの前で得意げに立っている。
「ええ、滞り無く。みなさんがここまで連れてきてくれたおかげです」
「……それにしても、これはすごい量が採れましたね」
群生地は所々摘み取られずそのままにしてある。
根こそぎ採集しないのは自然を考えての事だろう。
さすが優良冒険者チームといったところで、評判の良さが窺える見識だ。
「それじゃヤマトさん、これお願いします」
「分かりました」──ボワン
異空間を出現させ、山積みになったモギの上から覆ってゆく。
「いつ見てもすげえなぁアイテムBOXは。そのモヤモヤに全部入ってんだろ?」
「一度にまとめて採集出来るのは危険が減ってほんと助かりますよ」
「平凡の平凡じゃない部分」
「ちょっとショート、いちいち平凡って言わなくていいでしょ、失礼よ」
「ハハ……」
「ヤマトさん、ありがとうございました。帰ろうかみんな」
マルクスが号令を発し、街へと歩き出す。
◇
街を目指し歩き始めて半刻程経った頃。
先頭を行くロットが厳しい声色で後ろに向けて呟いた。
「ちッ、やっぱ置いといて正解だったぜ──見ろ、引きずられた跡だ」
行きでローウルフを仕留めた際、俺達を狙いから逸らす囮にするということで、一匹を収納せずそのまま放置していたのだが、どうやら不穏な気配がするらしい。
持ち去った犯人は恐らくブラックベアだ。
ローウルフは下位の魔物の中では中堅に位置し、その体躯もそれほど小さいものでは無い為、それを易々と持ち運べる他の魔物となれば、力もあり体も大きいい──つまりはブラックベア以上の魔物、ということになる。
「まぁ素材は惜しかったけどね~。ローウルフの毛皮で作る靴下ってすごくあったかくて長持ちだし」
「がっつくほど金に困ってない」
「金じゃなくて、今回はヤマトさんがいるし安全優先だよ。ブラックベアは中々手強いからね」
「この近くにブラックベアらしき魔物が居たのは確かだ、ここからはさらに警戒して行こう」
マルクスがそう言うと、みな武器を構え戦闘の陣形に整列し直す。
素材としてのブラックベアは以前ギルドで目にしたことがあるが、あれ程大きく鋭い爪と牙をした魔物に勝てる自信は無い。
どのみち装備が短剣と弓の俺では、例え戦闘巧者に進化しようとも立ち向かえる道理はない。
「──シッ!……小型の羽音? 他に足音……追われている?」
先程の場所から僅かに進んだ時、突如ショートが警戒を口にする。
ショートが皆を制し陣取る正面には、高さ二メートル程の大きな岩があり、視線を向けるが岩が邪魔で詳細が掴めない。
警戒態勢をとり見据えた数秒後、その大岩の上を何か小さなものが飛び越えて来た。
「──ホッ! (テキ) (ニゲル)」
(なんだ……鳥? フクロウ──いや、ミミズクか)
動物好きの性か、この緊急事態に細かな違いを考えしまう。
俺達を飛び越し着地した場所で、ミミズクは動かずへたり込んでいる。
『ニゲル』
ミミズクの感情だろうか、俺の中に必死さを感じる情念が流れ込む。
ふと目をやるとどうやら翼にケガを負っているらしく、空を飛んで逃げることが出来ず命からがら逃げてきたようだ。
(この子、必死にここまで……)
突如発せられる猛獣のような唸り声。
ミミズクを観察する為に屈める姿勢の背面から、身もすくむ咆哮が近付いてくる。
「この声は……やっぱりか」
「この鳥を追って──引いてはくれないだろうね」
「すみません! この子、助けてもいいですか⁉」
俺がそう叫ぶと、当然とばかりに事を構える姿勢に入る面々。
大岩の背後からその大きなシルエットが姿を覗かせる。
荒い呼吸音と共に大岩を鷲掴む鋭い爪を伴う大きな手。
「へッ! いっちょやるか!」
「ブラックベア一匹程度、怯む事は無い」
ロットとショートが余裕の言葉をブラックベアに放つ。
しかしいざ戦闘の口火を切ろうからという刹那、ブラックベアのさらに後方から先程より大きい唸り声が辺り一帯に響き渡る。




