エピローグ~後に残ったモノ
「...やっとか」
通帳に記載された引き落としを示す印字。
それは20年以上に渡って支払ってきたマンションのローンがようやく終わった事を表していた。
「アイツ等のせいで予定より長く掛かっちゃったけど...
まあ良いわ、これで毎月の支払いに怯えなくて済むし」
自宅の三人掛けソファに仰向けで寝そべる。
今思い返しても怒りが沸き上がって仕方がない。
17年前の悪夢。
別れた旦那と再会した私は満足に話す事すら出来ず、女に散々罵倒され、脅迫に近い言葉まで言われた。
「でも、お陰であの男と別れる事が出来たのは良かったわ」
女の言葉で男の浮気を知る事が出来た。
あの後、ラブホテルに直行した私は出てくるのを待ち構え、問い詰めた。
男の相手はパチンコ屋で知り合ったという50過ぎの薄汚いババア。
唯一の取り柄と嘯いていたセックスでババアから小遣いを貰っていた。
『待ってくれ!誤解なんだ!!』
ババアが逃げた後、男はホテルの前で土下座をした。
当然許す事は出来なかった。
1人自宅に帰り、部屋にあった僅かな男の私物をマンションのゴミ置き場にぶちまけた。
しばらくすると男が部屋の前でなにやら喚いていたが、警察を呼ぶと逃げて行った。
その後、男の足取りは知らない。
多分ババアの家にでも行ったんだろう。
「慰謝料の請求も来なかったし...結局は脅しだったのね」
数年間は怯えて過ごしたが、元旦那から不倫の慰謝料請求は来なかった。
許してくれたのか、煩しく思ったのか、どっちでも良い。
なんにしても離婚から20年経ったんだ。
時効は既に成立、私は助かったの!
「今日は祝杯ね」
レストランに行こう。
1人で祝うのは少し寂しいが、気楽で良い。
もう男は懲り懲りだ。
あの男と別れてからも、数人の男性と付き合ったが、私の心は満たされ無かった。
金目当てか、身体だけだと分かったからだ。
「...ふう」
少し飲み過ぎた。
タクシーを降りた私はふらつく足でマンションのロビーに入った。
「ん?」
郵便受けに入っていた大きな封筒に気づく。
誰からだろう?
実家からは絶縁されて以来、全く音信不通なんだけど。
封筒に書かれているのは私の氏名と住所、しかし差出人の名前は見当たらない。
「...なによこれ」
自宅で封筒の中身を見た私。
それは古ぼけた一冊のファイルと一枚の手紙、その内容に愕然とした。
[長いローン生活お疲れ様、
今私達夫婦は子供達にも恵まれ、現在は海外でのんびり暮らしています。
素敵な人を、素晴らしい人生をありがとう。
これはささやかなプレゼントです。
もう必要ありませんから。
50歳ですね、残りの人生お幸せに]
「なんなのよ!」
手紙を破り捨てる。
あの女だ!
ファイルは私の不倫を暴いた物。
あの女は私の事を見張っていたんだ。
1人の部屋で私は頭を掻き毟る。
...誰も居ない、独りぼっちの部屋で...
ありがとうございました。