後編
「何を驚いているんですか?
あ、表向きの離婚理由は性格の不一致でしたよね」
「ええ...そうよ」
女の言葉を止められない。
一体どこまで知っているの?
否定するべきか、肯定するべきなのか...
「貴女も大概ですね、2年も隠れて...汚ならしい」
「そ...その事を主人は...」
知られては大変だ。
もしここで慰謝料の請求をされたら、全てが終わってしまう。
まだ時効は成立してなかったら、せっかく手にしたマンションが、払ってきたローンも全て...
「は?」
女の表情が怒りに染まる、何か不味い事を言った?
「何が主人ですか、ふざけないで!!」
しまった!
「す、すみません」
「どうせ慰謝料の請求が怖くて知りたいだけでしょ?
あの人を放ったからしにして浮気三昧した貴女に主人なんて言う資格なんかある筈ない!」
「は...はい」
...しくじった。
これは不味い、話を聞くどころでは無くなってしまう。
「申し訳ございません...」
恥も外聞も無い。
必死で涙を流し頭を下げ、怒りをやり過ごす。
大丈夫、これで男の妻からの慰謝料も減額して貰ったんだから...
「貴女の事実を知ったのは、二年前に私の父が調べたらよ。
結婚前にあの人の離婚理由をね、主人がどんな人間か知る為に...貴方達は最低な人間ね」
冷静さを取り戻した女が呟いた。
女の家族が私の事まで調べあげたのか、余計な真似を。
「...そうでしたか」
「で、何?
今さらあの人が惜しくなったの?」
「そ...そんな事は」
正直、惜しい。
あの人が...なんで成功しているの?
私と居た時には冴えない人だったのに。
「嘘を吐くな!」
「ひっ!」
まだ怒鳴るのか、もうたくさんだ。
「どうせ主人の身なりを見て金を借りようとか、復縁でも考えていた、そうでしょ!」
なんで分かるの?
そりゃ酷い事をしたかもしれないが、あの人は気づかなかったんだから...
それも罪でしょ?
妻の浮気にだよ?
あのまま生活してれば、いつか私だって男の正体に目を覚ました筈よ。
そうしたら今の惨めな生活は無かったのに。
私の不倫で、家族からも絶縁されたんだ!
苦しい生活なのに、一円の援助すらして貰えない!
「図星で言葉も出ないみたいね」
私が何も言い返さないのを見ている。
油断は出来ない、なんて恐ろしい女なの。
見た目が良くても...こんな女と一緒で、どうしてあの人は...変わる事が出来たの?
「マンションの頭金を全部出させて、ローンや生活費まで...見なりにお金なんか掛けられる訳無いわよね」
そうだった。
マンションの頭金は全部元旦那が支払ったんだ。
俺達の夢はここから始まるんだよって。
ローンも、生活費も、でもそれは向こうが言ったんだ。
「自分の給料は全部思いのまま、さぞかし楽しかったでしょうね」
当たり前だ!
私の稼いだ金をどう使おうと勝手じゃない。
「覚悟するのね」
女は静かに席を立つ。
まだ肝心な事を言ってない、あの人が私の不倫を知っているのか、慰謝料を請求するのかを。
「それって...しゅ...あの人は私の...知ってるんですか?」
「さあ?」
女はとぼけた様子で首を振って...
「教えて下さい!!」
「なら自分で聞きなさい、
『私の不倫を知ってましたか』って」
女はポケットから携帯を取り出しテーブルに置いた。
聞ける訳が無いのを知ってる癖に!
「そんな!!」
「せいぜい怯えながら暮らす事ね、時効なんかで逃げられると思わないで」
嘲笑いながら携帯を仕舞う女。
悪魔だ、この女は悪魔に違いない...
「一つ教えてあげる」
部屋を出る手前で扉を掴みながら女が振り返った。
何を言うつもりなんだ?
「あの男、まだ懲りて無いわよ。
腹の出た、髪の薄い中年の...50近いのにお盛ん、でもお似合いね」
「は?」
一体何の?
あの男?それって、いやまさか?
「1人の女の人生を狂わせておいて...言っておくけど貴女の人生じゃないわ、あの男の元奥さんよ。
貴女の人生は最初から狂ってるから」
頭が白く染まる。
行く宛が無いからって...もう私しか居ないって...
「後は自分で調べなさい」
閉じられた扉を見つめる。
数分後、私は自分の携帯を取り出した。
時刻は午後3時、面接に行ってる時間の筈だ。
電話はしない、もし面接中なら大変だ。
男の携帯に内緒で仕込んだGPSアプリを起動させる。
これは浮気を疑う為じゃない、ギャンブル好きの男がパチンコや競馬場に行かないか見張る為の...
「嘘...」
地図に示された男の居場所、それは繁華街の一角、ラブホテル。
「畜生!!」
携帯を投げ捨て、喉が枯れるまで叫んだ。
もう全てどうでも...終わりだ。
「なんでこんな事になるのよ!
アイツふざけるな!!」
テーブルを叩きながら叫び続けた。
ラスト、エピローグ行きます。




