7 助言
「や、やっぱり容姿かよ」
俺はがくりと膝をついた。
力が抜けた。
いろいろ考えを巡らせたが、振り出しに戻ったわけだ。
答えはシンプルだったのだ。
結局。
人は見た目なのか。
ちきしょう、と思わずこぼれた。
「ちきしょう。それじゃあもう、どうしようもねぇじゃんか。容姿のせいなら、もう俺に出来ることなんてなにもない。この姿で生まれてきてしまったんだから。今さら変えようがないんだから」
俺は嘆いた。
あまりに残酷な真実だった。
醜く生まれてきた俺には、もう仲間なんて出来やしないんだ。
本気でそう思った。
この世で1番近くで。
この世で1番長い間。
俺のことを見てきて。
俺のことをすべて知っている、パチューカ。
彼女の言葉は、思ったよりずっと心に刺さった。
グサリと。
「ああいや、ちょい待ち」
パチューカは絶望する俺を遮り、ちゃうちゃう、と手を振った。
「勘違いせんといて。あんな、言うとくけど、本質はそこじゃないんよ? 確かに問題は容姿や言うたけどな、リドルの問題の根本はな、もっと深いとこにあるんよ?」
「深いとこ?」
「ほうなんよ。さっきのはリドルが"俺の悪いところを一言で"って言ったからさ、一言で言うと"容姿"ってことになるよって意味でさ。きちんと言えば他にも色々あるもん」
「色々って?」
「色々は色々よ。でも、はあ、やっぱ言葉にするん、難しなあ」
パチューカは悩ましげにはあと息を吐いた。
本当に苦心し、心を傷めている様子だった。
俺はそんな彼女を見て、自分の頭をパシりと叩いた。
罪悪感が俺を襲っていた。
俺は先ほど、パチューカになんと言ったか。
"お前の言うことは全て受けとめる"
そんな格好の良いことを言ったんじゃないのか。
それなのに。
本当にパチューカが本音を言ってくれたのに。
結局またショックを受けている。
情けないったらない。
俺はごめん、と言って目を伏せた。
「ごめんな、パチューカ。お前の言葉は受け取るなんて言っといて、いざ本当のこと言われたらショック受けちゃって。ったく、女々しいったらねえよな。お前は優しいな。本当に良い奴だ。俺に本当のことを言うのはしんどかっただろう? でも、ありがとな。ハッキリ言ってくれて」
ありがとう、と俺はぺこりと頭を下げた。
目の端に涙が浮かんだ。
その涙はパチューカの愛を感じたからか、それとも、俺は誰からも嫌われてしまうほどに醜い男なのだという、残酷な真実を悟ってしまったからか。
その辺りは判然としなかった。
でも多分。
その両方だ。
とにかく、泣けてきた。
すると、慌ててパチューカは「ちゃうねんちゃうねん」と首を振った。
「ちょ、ちょっと泣かんといてや。あかん。やっぱりちゃんと言わなあかんな。端ったら上手いこと伝わらへんわ。あんな、リドル。うちは別に、リドルを傷つけまいとして、わざとグダグダと遠回りして話してたわけちゃうんよ。リドルの問題って、ほんまに一言では言えないんよ。だからどうしても話が長なってまう。なんていうんかさ、それってリドルの生きてきた環境、性格、もっと大袈裟に言うたら人生そのものが関係してるから」
「人生そのもの?」
「そうや。ほら、例えばリドルはろくに社会に出て働いたことないやんか。ずっと裕福な家庭で育って、幼稚舎から大学校までエスカレーター式の学校に通って、テイマーになってからはすぐに勇者のパーティーに所属して冒険してた。だから、狭い世界しか知らへん。狭い人間関係しか知ってへん。そういうのも関係あると思うねんな」
俺の性格?
生きてきた環境?
俺は首を捻った。
パチューカの言葉がよく飲み込めなかった。
「うーん、そうなんよなあ。本当、どう言うたらええんやろか。なんや、言葉っちゅーのは、便利なようで不便なもんやなあ。ほんまに取り扱いが難しいわ。人間は、こんな扱い辛いもので、ようコミュニケーションがとれるわ」
難しい俺の顔を見たパチューカは、やはり難しい顔をして、首を捻った。
どうやらドラゴンも悩むと首を捻るらしい。
その様子が滑稽で可愛らしくて、俺は場違いにふふと笑った。
ちょっと心が和んだ。
しばらくそうして考えていたパチューカだったが、やがて何ごとか思いついたのか、「うん、やっぱりそうやな。それしかないわ」と独りごちた。
「リドル。そう言えば、お金は足りてるんか?」
そして。
パチューカは唐突に、そんなことを言ってきた。
突然の話題転換に少し戸惑ったが。
こちらもパチューカの言う通り、かなり深刻な問題だった。
実はそうなんだよ、と俺は声を落とした。
「パチューカ。実はお前のその首輪を買うのに、有り金のほとんどをはたいちまったんだ。この宿に泊まれるお金も、もうあんまりない」
「せやろ? やから、リドルに一つ、提案があんねんか」
「提案?」
「そうや。お金と経験。両方が手に入る、一挙両得の作戦や」
パチューカは少し得意気な顔つきになった。
それからまるで人間のような仕草で人差し指を立てて、
「なあ、リドル。まずはこの街のどこかで、アルバイトしてみたらどうや?」
と、そのように言ったのだった。