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6 パチューカ


「せやなあ。うちに"俺の悪いこと教えてくれ"言われても、ちょっと一言で言うんは難しいなあ。どう言うてええんか、とにかく、リドルはちょっと勘違いしてると思うねん。いや、ごめんな、気分悪くせんといてな。別に責めてる訳やないんよ。ただ、でも、うーん、そやなあ、ほんまどう言うたらええんやろか、勘違いっちゅーか、まあなんか、話してる感じ、あんまり世間っちゅーもんがよく分かってへんのちゃうかな、いう感じはすんねんな、リドルって。あ、いや、もちろんウチは人間社会のことわからへんで? だってうちドラゴンやもん。見ての通り龍族最強のモンスターなんやもん。せやからその辺りはようわからへんねんけど、でも、ウチはこう見えてリドルよりまあまあ長く生きてんねんな。せやから割と世の中のこと、ちゅーんかな、まあまあ、この世界のことわりみたいなんが、リドルよりはちょっとは分かってんねんな。やからま、ドラゴンのうちでも多少のアドバイスみたいなもんは出来ひんこともないと思うねんか――」


 首にチョーカーを付けたドラゴンが。

 ツラツラと語っている。


 流暢に。

 滑らかに。

 まるで水を得た魚のようにペラペラと話している。


 口を挟まないと止まりそうにない。

 とにかく。

 喋りまくっている。

 

 声は可愛らしい女の子そのものだ。

 滑舌はハッキリしていて元気な感じなんだけど、声質自体は少し高くて甘ったるい。

 声だけ聞いてると、まるきり若い女の子のお喋りである。


 だから余計に違和感がある。

 というかもう違和感そのものだ。

 ドラゴンが、関西弁で、女の子の声で。

 延々とガールズトークをしている。


 俺は圧倒されていた。

 このまさかの出来事に。

 口を挟めずにいた。


 このよく喋るドラゴン。

 彼女は――パチューカである。

 俺の相棒であり、俺が使役する気位の高いモンスター。


 あの後。

 どうしてもパチューカと話をしたくなった俺は、モンスターと話が出来るアイテムを探して、この街の道具屋という道具屋を回った。


 すると。

 意外と普通に売っていた。

 ああいや。

 普通ではないか。

 この街の最深部。

 まるでスラムのような、かなり怪しい路地裏のうらびれた屋台に売っていた。


 モンスターと話が出来るようになるアイテム。

 魔族の首輪アザーワーズチョーカーである。


 めちゃくちゃ高かった。

 ハッキリ言って法外だった。

 ぼったくりの可能性は高かった。

 それが偽物である確率はめちゃくちゃあった。

 でも、買った。

 即決した。

 それくらい、俺はパチューカと話がしたかった。

 誰かに、何かに、縋り付きたかった。

 

 おかげで俺の貯金は全て無くなった。

 しかし。

 悔いは無かった。

 何故なら、このアイテムが本物だったからだ。


 俺はさっそく、彼女パチューカに相談した。

「なあ、俺の悪いところ、どこだと思う? どうして俺はどのパーティーからも拒否されるんだと思う?」

 と、そのように聞いてみた。


 すると。

 パチューカはすげー喋った。

 1度話し出すと止まらなくなった。

 ビックリするくらいのお喋りだった。


 しかも、このパチューカ――


 スゲーなまってた。

 なんか訛りまくってた。

 バリッバリのカンサイ訛りだ。


 どうでも良いんだけど。

 そこが、なんかものすごい気になる。


 そのせいで、話が全く入って来ないのだ。


「あ、あのさ」 

 そこで、俺はようやくパチューカを遮った。

「パチューカって、カンサイ弁なんだな」


 パチューカはマシンガントークを止めて口を閉じた。

 そして、長い睫毛(まつげ)をぱちくりとさせ、「せやで」と頷いた。


「だってうち、遥か西方の国の出身やもん。あれ? 知らんかった?」

「あ、ああ。知らなかった」

「そっか。ごめんね。もしかして、ちょっとイメージと違った?」

「ま、まあ、ちょっとな」


 俺は苦笑して、頬をほりほりと掻いた。

 確かに、イメージとはまるで違った。

 俺の中のパチューカは、なんていうか、物静かで、凛としていて、すごく品のあるお嬢様って感じだったから。


 ――いや。

 そういう問題でもないか。

 そもそもドラゴンがカンサイ弁というのが、もうめちゃくちゃ違和感があるというか。


 意外だった。


 ごめんなー、とパチューカはもう一度、謝った。

 ちょっと元気がない。


 俺は慌てて首を振った。


「い、いや、謝るなって。別に言葉の訛りなんてどうでも良いんだから」

「……そう?」

「そうだよ。俺はさ、もうパチューカ、お前とこうして話が出来ることが嬉しくて仕方ないんだから」

「ほんと?」

「ほんとさ。俺は世界中の誰よりも、お前を信用してる。お前を愛してる」


 俺が言うと、パチューカは目を細め、嬉しそうにキューンと鳴いた。

 そして、相変わらずのカンサイ訛りの入ったイントネーションで「ありがとう」と言った。


 俺は胸が暖かくなるのを感じた。

 可愛い。

 猛烈に可愛い。

 やはりパチューカは世界一の相棒、そして世界一のドラゴンだ。


「で、俺の問題点についてなんだけど」


 俺はそこでようやく、話を戻した。


「パチューカ。もう、遠慮なく言ってくれ。まどろっこしいのはナシだ。俺のどこが悪いのか。どうして、俺はこんなに人から避けられるのか。直球で、一言で、ズバリ教えてくれ」


 パチューカは言い淀んだ。

 そして、たっぷりと30秒ほど躊躇ったあと、「ほんとにええの?」と上目遣いになって聞いた。


「良いよ。俺も男だ。どんな辛辣な言葉も受け止める」

「ほんと?」

「ほんとさ」

「うちのこと、嫌いにならない?」

「ならない。さっきも言ったろ? 俺はお前を世界で一番信用してるって」


 この言葉に嘘はなかった。

 俺はパチューカになら、どんなことを言われても謙虚に受け止められる。

 仮に理不尽で的はずれなことを言われても、パチューカに言われたら信用する。

 立ち直れないほどのことを言われても、パチューカの言うことなら受け止める。


 いいや、違う。

 パチューカなら、じゃない。

 パチューカだからこそ、なのだ。


 パチューカは目を伏せた。

 そして、遠慮がちに、おずおずと、申し訳なさそうに、次のように言った。


「リドルが仲間に入れない理由は――ウチは、やっぱり"見た目"だと思う」



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