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5 全滅


 で。

 1週間後の夕方。


 また俺は広場の噴水の前で膝を抱えていた。

 面接は全部落ちた。


 今日は5組だ。

 昨日は7組。

 その前は10組。

 この一週間、全部で30組以上。

 全部、拒否された。


 地獄だった。


 また落ちた。

 落ちたのだ。

 落ちまくったのだ。

 情けない。

 情け無さすぎる。

 俺は無能だ。

 そしてバカだ。

 自分のことを過大評価していた本物の間抜けだ。


 夕陽を見ていると涙が出た。

 そして鼻水も出た。

 もう顔中がぐしゅぐしゅだった。


 俺は――


 俺は、俺を見損なっていたのだ。


 俺は小さな頃から割りと器用になんでも出来るタイプだった。

 大人からいつも一目置かれて、勉強も運動も、小器用にこなしていた。

 成績も上位だったし、足も早かったし、根暗で口数は少なかったけど、人とのコミュニケーションも最低限は出来たし。


 誰と接しても、それなりに気に入られるタイプ。

 俺の、俺に対する評価は一言で言えばそんな感じだった。


 でも。

 それは大きな間違いだった。


 この一週間、すべて全滅。

 最早、こうなると偶然ではなかろう。


 俺を切った仲間たちの顔が思い浮かんだ。

 アレン。

 アーシャ。

 マリア。

 そしてデルモンテ。

 彼らは間違っているんだと思っていた。

 なにも悪くない俺を、理不尽な理由でクビにした奴らは、論理的に、人道的に、そして実用的にも。

 間違いを犯してると思っていた。

 見た目だけで人を判断するひどいやつらだと思ってた。


 だが違う。

 間違っているのは俺の方だったんだ。


 未だに理由はよく分からないが。

 どうやら、俺には致命的に"なにか"が足りないようなのだ。


 そう。

 きっと見た目だけじゃないんだ。


 アレンたちは俺の容姿が悪いからクビにすると言ったが。

 あれはきっと、単なる口実に過ぎない。

 そうでないと辻褄が合わない。

 いくら何でも。

 そこまで俺は醜悪な見た目じゃない。

 というか、世の中の人が、そろいも揃って全員が「容姿」にこだわるはずもない。

 他になにかあって。

 それを言うのが憚れるから、容姿が悪いから追放する、ということにしたんだ。


 それじゃあ、一体なにが悪いのか。


 それは、少なくとも、愛想が悪いとか受け答えが下手だとか、そういった「面接ハウツー」の問題ではないことは明らかだ。

 その可能性はつぶした。


 昨晩。

 俺は大量に買い込んだ面接のハウツー本を読み漁り、パーティーの仲間に入れてもらうために完璧にその内容を叩き込んだ。

 どのような質問をされたときに、どのように答えれば面接官の印象が良くなるのか。

 そのテンプレを頭に全て入れた。

 そして今日。

 それを忠実に守った。

 正直、少しウソも入れた。

 ウソというか、ちょっと誇張した。

 自分の良いところなんかを装飾、或いは粉飾した。


 それでも。

 駄目だった。


 だから。

 テクニック云々じゃない。

 なんていうか、なにか、もっと根本的なものだ。

 人間の根源に関わるような、生理的なものだ。


 でも。

 それが何か、分からない。


 ――どうすりゃ良いんだよ!


 俺は心の中で叫んだ。

 誰か。

 誰か教えてくれ。

 俺は一体、なにをどうすればパーティーに入れるんだ。

 この地獄のような就職活動に終わりが来るんだ。


 俺は頭を抱えた。

 誰に聞けば良い。

 誰に教えを乞えば良いのだ。

 俺のことをよく知っている人間。

 そして、俺のことを、心から仲間だと思ってくれている人間。


 誰だ。

 誰がいる。


 そのように奥悩していた、その時である。


 キューン。


 俺の肩に乗っていたパチューカが、か細い声で鳴いた。

 どうやら、俺が困っているのを見て、心配しているのだ。

 こいつは俺の心を読む。

 昔から、俺が泣いていると近くにいてくれるし、楽しそうにしていると一緒に喜んでくれる。

 きっと、こいつは、俺のことならすべて分かってくれる。

 もともとドラゴンというのは頭の良い生物なのだ。

 ある学者の話では、人間よりも数倍知能が高いとも言われている。


「お前が人間の言葉を話せたらな」


 俺は力なく笑い、パチューカの首元を撫でてやった。

 パチューカは気持ち良さそうに目をつむった。

 本当に可愛いやつだ。

 こうしているだけで、俺のストレスも緩和されるようだった。

 俺はいつまでもパチューカを愛でてやっていた。


 そしてそうしている内に。


 はたと気がついた。


 いや、思い出した、というべきか。


 そうだ。

 そう言えば、勇者たちと旅をしていた時に聞いたことがあったじゃないか。

 この世界には、モンスターと話が出来るようになる翻訳機のような"アイテム"がある、と。


 ここ「カルスト」は大きな街だ。

 入り組んだ地形と近くにある入り湾から、近隣諸国の貿易の中心部となっている。

 それならば。

 世界中から、古今東西の珍品希少品も集まっているに違いない。

 そう思い付くと、もういてもたってもいられなかった。

 

 俺はすっくと立ち上がった。


 ここにならば。

 パチューカと言葉を交わせる道具が見つかるかもしれない。


 もう四の五の言っていられない。

 パチューカと話がしたい。

 パチューカから、助言をもらいたい。

 俺のことを誰よりも分かっている、パチューカの言葉が。


 ――聞きたい。


 いつの間にか。

 俺は、無意識のうちに走り出していた。



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