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4 面接


 朝。

 俺は午前7時には身支度を整え終えた。

 緊張のせいか、今朝は早く目が覚めた。

 パチューカはまだ寝ていた。

 俺は朝食を食べてからジョギングに出た。


 それからパチューカを起こし、一緒にトレーニングをした。

 万が一、ギルド主から腕前を見せてほしいと言われたときのためだ。

 まあ、調教師(テイマー)の戦闘における本当の腕前なんてのは、実践にならないと分からないんだから、実技を披露することは多分ないだろうけど。


 一時間ほど汗を流したあと、俺たちは宿を出た。

 パチューカは最小(ミニマム)にして、肩に乗せた。

 こいつは俺と一心同体。

 一緒に面接をするんだ。


 バルに着くと、バルのマスターが待っていた。

 俺を見止めると、時間通りだねと笑いながら長い髭を絞った。


「さ、面接官がお待ちだよ」


 人の良さそうな店主は、そう言って俺の背中をぽんと押した。

 俺ははいと言って、顎を引いた。


 さあ。

 新しい旅の始まりだ。


 §


 結論から言うと。

 俺はすべてのギルドから仲間入りを拒否された。

 生まれて初めての就活は失敗に終わったのだ。


 俺はオレンジに染まる広場の噴水の前で、膝を抱えて待ち行く人たちを眺めていた。

 泣きそうだった。

 心が折れた。

 俺はこの世に必要な人間なのか。

 誰からも必要とされてないんじゃないのか。

 本気でそんな気がしていた。

 世界中の人間が俺を嫌っているような気分になった。


 どうしてだ。

 どうして――どうして。

 どうして、俺は仲間に入れてもらえないんだ。


 頭の中を同じ問いがグルグルと回っていた。


 俺は自分がいかに優秀な人間であるかアピールした。

 これまで勇者のパーティーに所属して充分な戦力になっていたこと。

 この相棒のパチューカは俺の言うことをよく聞くし、最大で15メートルにも巨大化出来る。

 力も体力もあるから移動や運搬には本当に役に立つ。

 もちろん、戦闘にも向いている。

 火だけではなく氷の息も吐ける。

 あらゆる属性にも耐性がある。

 俺たちがパーティーにいたらどれだけ助かるか。

 それを力説した。


 でも。

 駄目だった。


 ドラゴン使いは今やありふれているんだよね。

 そもそもドラゴンって強いし使えるのは当たり前だしさ。

 彼らの弱点ってのは使えるか使えないかじゃなくて、餌代なんだよね。

 ドラゴンはめちゃくちゃ食うからさ。

 正直、コスパはそんなによくない。

 そりゃあ勇者一行みたいに公的な資金があるならいいけどさ、俺たちみたいな在野のパーティーじゃあとてもとても。

 だからさ、悪いんだけどさ、ドラゴン使いのテイマーは、なにかそれ以上の魅力がないと厳しいかな。


 とあるギルドリーダーはそのように語った。

 そして最後に、「今回は残念ながら縁がなかったね」と言った。


 詭弁だと思った。

 きっと、俺が気に入らないんだ。

 だから、断る口実として、ドラゴンの管理費の高さを滔々と語ったんだ。


 俺だ。

 俺のせいだ。

 俺の魅力がないから駄目なんだ。


 俺は性格が暗いんだ。

 意見を求められてもはっきりしないし。

 明るいジョークの一つも言えない。

 滑舌も悪いし、愛想笑いの一つも出来ない。

 そこを、そういうところを、見抜かれてるんだ。

 だから、仲間にしたいと思われないんだ。


 そう。

 就職活動というのは。

 「この人を採用したい」「この人と仕事がしたい」そのように思わせることが肝要なのだ。


 俺は立ち上がった。

 本屋に行こうと思った。

 そして、面接の仕方を習おう。

 相手に不快に思われない受け答えを練習するんだ。

 課題がハッキリすると、気持ちが前向きになった。


 そうだ。

 俺は就活を舐めていたんだ。

 最低限の作法すら知らなかったんだ。


「さあ、行くぞ、パチューカ」


 俺はパチューカを撫でた。

 パチューカは眼を細め、きゅーんと鳴いた。


 その声で勇気が出た。

 やる気が奮い立った。


 そうだ。

 どこかの誰かにどんなに嫌われようが、俺にはこいつがいる。

 パチューカは俺を認めている。


 それだけで、救われたような気持ちになるのだった。 



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