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29 天使たち


 ミゲルとの話のあと、少し風に当たってから、アスカさんの待つ支配人室に向かった。


 ミゲルの話はへこんだ。

 正直な話、なかなか心にきた。

 お前にネメシスを好きになる権利はない、か。

 これがデイドロの言葉なら、ここまでショックではなかったかもしれない。

 しかし、ミゲルには悪意がなかった。

 俺を傷つけようなんてこれっぽちも思ってなかった。

 つまり、本心だったってことだ。

 みんな俺のことをそういう風に見ているわけだ。

 即ち、ブサイクで醜い男には、恋愛などする権限などないのだ、と。


 ただ。

 もう、いい加減慣れてきた。


 パーティーを追放されてから、もう嫌というほど味わった痛みだ。

 相変わらず痛いことは痛いけど。


 ま、人生ってのはこんなもんだ。

 いちいち傷ついてたらキリがない。


「あら、いらっしゃい」


 ノックしてから支配人室に入ると、何やら机の書類をチェックしていたアスカさんが目をあげた。

 それから二人でパチューカを使った出し物のことを打ち合わせた。

 音楽に合わせて、公園の上空を舞わせて欲しいと彼女は言った。

 その時、出来ればパチューカの首から店の広告を描いたタペストリーをぶら下げて欲しいと言われた。

 それについては考えておきますと答えた。

 パチューカは誇り高きドラゴン族だ。

 そんなことをしてもよいのか、彼女と相談しないとなるまい。


 簡単な話し合いが終わると、ちょっとここで待っててと言われた。

 心の中はモヤモヤしていた。

 一人になると、やはりミゲルの言葉が頭の中を巡った。

 パチューカと話しがしたいなと思った。

 俺もまだまだ修行が足りない。

 

「じゃーん!」 


 などとウジウジ考えていると。

 いきなり扉が開いて、ネメシスが現れた。


 見たこともないほど、可愛らしい服を着て。


「お、お邪魔します……」


 続いて。

 おずおずと頭を覗かせてから、ソフィアが入室してきた。

 ネメシスとは違うけど、こちらもとびきり可愛らしいコスチュームだ。

  

 ネメシスのは細身でスタイリッシュなタイトなカッコいい制服。

 赤だ。

 ソフィアの方は至るところにヒラヒラが付いて、腰の後ろに大きなリボンのついた制服。

 青。

 どちらも甲乙付けがたい、素晴らしい服だった。


「どっちが良いと思う?」


 最後にアスカさんが入ってきた。

 残念ながら、彼女はいつもの制服だった。

 

「へへー。どう、リドル。こっちのがよくない?」


 ネメシスはスカートの裾をつまみ、つま先をトンと鳴らした。


「わ、私はこっちが可愛いと思います……けど」


 ソフィアは恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。


 天使だ、と思った。

 二人はまさに、この世に舞い降りてきた女神様かなにかのように可愛らしかった。


 俺のウジウジは、その時点で吹っ飛んだ。


「どっちもいいわよね。モデルが良いからさ。新しい制服、ほんと、迷っちゃって。リドルの意見を聞かせてよ」


 アスカさんは苦笑しながら肩を竦めた。


「えっと」

 俺は少し考えて言った。

「あの、正直に言って良いですか」


 アスカさんは「うん」と頷いた。

 だから俺は本当に正直に言った。


「二人だけじゃよく分からないから、アスカさんにも着てみて欲しいです」



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