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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第二部~雷の精霊シュトローム
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 ケフィア、春のパン祭り★中編

やはり平日の更新が難しくなってきました。もう帰ったら寝るのパターンが多くてゲームもできねえよう(泣)今月中に本編百話を切りたかったけど…どうだろ(^_^;)



「…という感じでな。テレンス達は面白可笑しく俺の宿を3日、満喫して帰ってたぞ?」


 ストローはやや自慢気にスイートの内容などを交えてワインとキャロットに先日、テレンスとその従者…否、家族同然であるラベンダー・レタス・マラカイト・アップル・サックスが自身の宿を如何に堪能してのかを聞かせた。

 現在、ケフィアの広場では春のパン祭りの真っ最中だったが、ケフィアの住民以外にもこの場に居合わせた者達が居た為、その者達もまたウイナンのエール片手に足を止めて話に聞き入っていた。


「……いやいや、藁男よお? そりゃあ、テレンスの一面を知って驚きはしたがよ」

「…それよりも。正直、冥獄送りにされた獣人達が気になる」

「え。 そこぉ?」


 自慢気に腕を組んでいたストローの肩がカクンとズレ落ちるが、ワインとキャロットと同様だったのか他の冒険者や観光者達もうんうんと頷いている。


「いやぁ~。あんれは酷かったですよねぇ~流石にぃ~?」

「そうそう! エイなんてこの世の終わりにみたいになっちゃってさあ~? 毎朝毎晩、旦那様に拝み倒すは足にしがみつくはで宥めるボク達が大変だったもん」

「…しかたないだろう? 迷惑掛けたのはアイツらだし。それにちゃんと3日目の朝には帰ってきたじゃないか」


 ストローはヤレヤレと両手を広げて見せると、「なんだ、無事に帰ってきたのか…」などの声が傾聴者の口から洩れやや安堵した雰囲気が流れる。


「でもさあ…よっぽど酷い目に遭っただよ? 顔つきも別人みたいになっちゃってたじゃないか! ボクもイキナリあのトラブルを起こしたデス達がテレンス達の前で帰って直ぐにあんな真似までするのは流石に驚いたさ」

「たしかにぃ」

「ニャア…アタイもあの変わりようには吃驚ニャ。特にデスは肉体と技量、精神的にもとんでもなく強くなってたリャ。ストローの力が混ざる前のアタイとなら五分…いいや勝ってもおかしくないレベルだったリャ。恐らく冥獄でとんでもない責め苦に近い鍛錬を積んだのかもニャア~。……たどしたリャ、戦士としてはちょっとだけ羨ましくもあるけどニャ」

「そうなのか? まあ、気合が入ったのならデス達の為にもなったということだろう? アイツらもアイツらでさっさと山の奥に帰っちゃったしなあ~」



  ◆



 因みにだが、ウリイの言ったあんな真似とは、レタスと口論の末に手を出してしまったトベロス達はデスルーラと共にストロー達の前に満足気な顔をした女神チュンヂーによって期日通りに冥獄から送り届けられた。だが、ストローと共にチュンヂーに礼を言って見送った後はすっかり3人の事など忘れて食事を楽しんでいたテレンス達の元に向うと速攻の土下座。さらに、戦士として歴とした謝罪の言葉を述べた3人は何とテレンスの前で顔の毛をおもむろに剃り出したのだ。獣人、特に男の容姿がより獣に近い獣人にとって顔の毛を剃られるのは最大の恥とされるものだった。純血の獣人の男はほぼ全身を毛皮に覆われているが、一度でも根元から剃れば毛は先ず生え揃うことはないからだ。


 流石にその意味を知っていたテレンスは悲鳴に似た怒り声すら上げてそれを止めようと立ち上がる。

 

 が、居合わせた他の古参の獣人達に止められてしまった。


 その行為は獣人の戦士を根差す者なれば最大の覚悟の表れ。それを止められることこそ最大の屈辱だと知っていたからである。止めた獣人達も涙を流しながらその行為を見届けた。


 見事、トベロス達は顔の毛を剃り上げると、そこにはさして変わらぬ人間と同じ顔があり、その瞳は3日前の半人前の若者とは思えない凄みが宿っていた。


「見事だ。お前達は恥を以てして一人前の戦士となった。なれば…!」


 なんとデスルーラもまた顔に刃を突き立て顔半分の毛を剃ってしまったのだ。


「これが俺達のできる最大の謝罪のつもりだ。俺達は冥獄で過ごす中で、長く続く獣人と人族との争いの真実の一辺を知った。そしてこんな顔の傷でお前が背負っているであろうものと比べれば屁のようなものだろう。…少なくとも、我らスナネコ族が今後お前に手を出す事などないと誓う」

「………冥獄で何を見たの?」


 テレンスのうわ言のような問い掛けに答える事無くデスルーラ達はテレンスの前から去って行った。



  ◆



「そのせいでエイは寝込んじゃってるし…デスだって恐らく暫くはケフィアに顔を出さないんじゃない?」

「むう……」


 具体的な内容は聞いていないが話を聞いていた者達はストローの所業に顔を青くする。


「いや、俺だって驚いたさ。だから、デス達に泊まってけって言ったけど。アイツ、妙にツンツンしちゃってさあ。直ぐに村から出てっちゃうんだもん」

「戦士のプライドだニャア~。ダーリンと違って他の男は色々とめんどくさいモノを背負ってるもんなんだリャ」

「…おい、リレー。それじゃあ、俺が何の考えも無しにテキトーに生きてるみたいじゃねえか?」

「違うのかリャ? ニャフフフ」


 リレミッタが悪戯っ子のような笑みを浮かべてストローの頬を突いたり撫でるので、やられた本人がくすぐったそうにその手を払いのける。だが、ここぞとばかりに悪乗りしたウリイとダムダも参加し出してストローは幸せそうにわやくちゃにさてれしまう。


 周囲の者達はそれを微笑ましそうに眺め、ワインを含めたまだ若い独身者の男達はまるで砂糖を吐き出そうな顔をしてその光景から目を背けるか、または無理矢理にウイナンのエールを喉に流し込んで誤魔化す。そのエールの苦いこと…。


「フフフ…」

「なんだよキャロ? お前まで。気持ち悪ぃなあ~」

「めんどくさいって言葉…うちのリーダーも大概だと思って」

「俺が面倒くさい男だってのかよ!」

「だって、うちのパーティの名前ってそのテレンスの“極寒の光彩”に反発して“暖かい色彩”なんて良く解らない名前にしたんじゃないの?」

「んなっ!?」


 ワインは思わぬ急所をキャロットに突かれて顔を真っ赤にする。すると、今度はそれにストロー達も含めた周囲が噴き出してしまい、ケフィアの小さな祭りはさらに賑やかに笑顔が溢れていく。



 ◆◆◆◆



 同日。西方の王都ヴァンナの最奥部にあるアデクの最大の拠点(メッカ)。その屋敷にアデクの首領の姿と精鋭たるアデクの最大戦力、“六色魔道”の姿があった。


「今日は我ら“六色魔道”の定期会合だと言うのに! ちゃんと集合したのはミーと赤の小娘だけじゃないザンスか!? どういう事ザンス! 奴隷管理で多忙な黒は除外したとしても、他の白と紫と黄金はどこで油売ってるザマス! (テレンス)の変態カマ野郎なんて目と鼻の先に住んでる癖にぃ~!キイィィィィ!!」

「もういい加減にしてよね。 …それに、同じ変態ならアンタの方がよっぽど性質が悪いだろうに」

「煩わしいぞハートリック? 少しは赤魔導士(グラナダ)を見習って落ち着け…」


 ヒステリックに叫ぶ灰色の肌にまるで卵のようにツルンとした鼻も耳も平坦な顔に似合わない神経質に歪んだ表情を張りつけた深緑の外套を纏った男こそテレンスと同じく肩を並べる“六色魔道”が一色。緑魔導士のハートリックだった。


 そしてそんな男を侮蔑に満ちた視線を隠すことなくぶつける長く垂らした赤髪の少女の名はグラナダ。同じく“六色魔道”の一色。赤魔導士の座に関する若き天才魔術師であった。


「ですがボス!奴らにはアデクの最高幹部としての自覚が無さ過ぎザマス!特にテレンス!最もアデクから恩恵を受けている魔術師一族だと言うのに…獣人共を好きに放し飼いにしているわやりたい放題で…ボスはアイツに甘過ぎるザンス!」


 嫉妬からなのか単にテレンスを“六色魔道”の座から蹴り落したいからなのか、ハートリックはテレンスがこの場に居ないのをこれ幸いと首領の前で騒ぎ立てて見せる。


「そりゃあボスだって甘くもなるでしょ? 黒以外でアデクに一番に貢献してるのは言わずもがなテレンスの家じゃない。偉大な私の目の前で情けなく吠えてるだけの…弱いものイジメしか出来ない負け魔術師と違って、戦場での働きは一番だしね…」

「キィィィッ!? なんて生意気な小娘ザンス!ボスの屋敷での護衛(ボディーガード)に任命されてやがるからって調子に乗りやがってえ!!」


 ハートリックのヒスに流石に苛ついてきたのか徐々に両者の間でジリジリと魔力のぶつかり合いで空間が俄かに歪んでいく…!その場に居合わせた他のアデクの兵士の顔色が蒼白になっていく。


「止めろ」


 ドンと腹に響くような声が奥の壇上。その二重のヴェールで遮られた陰から発せられる。しかし、どこか中性的な声色で若者なのか老人なのか判別できない不思議な声だった。


 その者こそがアデクでもほんの一部しか正体を知らないアデクの影の首領だった。


「……はあ、私の居る屋敷で喧嘩沙汰を起こす気か。 (アデク)の権力を得て少し調子に乗っているか? ……余り、私の手を焼かせてくれるな。…この場で始末(クビに)するぞ? お前達の替え(・・)なら他にも当てがある。 防衛力に長けるグラナダは惜しいがな。……ハートリック。お前は所詮、テレンスに返り討ちになったミグズの代役に過ぎんのだぞ? 奴に比べればお前など本来“六色魔道”を冠するには余りにも格下なのを忘れるな!」

「「…………」」


 その冷徹な言葉と共に壇上の裾からヌルリと複数の影が立ち上がる。アデクの奴隷の中でも最強の刺客、暗部達だ。流石に強力無比な魔術を繰り出せる魔術師と言えども一部の伝説的な人物(ムラゴラド)を除いて不死身の怪物ではない。死角から首を刎ねられればそれで終わりだ。


「それにだな…私の側に居る都合の良い駒などお前らだけで十分なのだ。そもそも戦闘力で言えば黒はアデクにとって最重要だが論外。常に私以上に秘匿され守られるべき存在だろう。して、紫と黄金は完全に外様からの傭兵枠でしかない。現在は情報収集に当たらせている…が、金次第で奴らは敵にも味方にもなる。かと言って金銭面でこの北ルディアではアデクに勝る者などおらんだろう。それ故に奴らの能力は強力無比。…ハートリック。お前は私の命令でアイツ達の監視役していたな? ならば、その一端を知るお前が奴らにお前や部下が束になって掛かっても勝てないことは…理解しているな?」

「…………」


 “六色魔道”の赤魔導士の座についてまだ日が浅いグラナダがハートリックに訝し気な視線を送るも、ハートリックは完全に沈黙してしまった。これはボスの言葉を肯定したことに他ならない。


「ハートリック。それにグラナダ…私はお前達を蔑ろにしている訳ではないのだ。確かに先代の緑であったミグズは戦闘魔術師としては優秀であったが…奴もその部下もひたすら殺戮するしか能の無い者達だった。だが、現在は大破壊前の人獣戦争をしてる訳ではない。獣人を狩るのは我らアデクのビジネスなのだ。なればこそ、獣人達を無駄に殺さず無力化できるハートリックの魔術の方が余程役に立つ。だから、私は奴の部下で唯一の生き残りであったお前を緑魔導士の座に就けてやったのだ。 まあ、ミグズはミグズで…殺しにしか興味がない屑であったが、テレンスをよりアデクに鎖で縛り着けるという意味では役に立ってくれたがな…」


 首領はシルエット越しに軽く息を吐くと今度はグラナダに視線を移すような仕草をとった。


「赤もまた白であるテレンス家に対抗心を燃やす者が多かった。挙句の果てにグラナダ…お前の前の赤魔導士の座に居た者は愚かにもあの“魔術師潰し(メイジ・マッシャー)”に挑んで敗れ去った。私の手駒である事すら忘れた馬鹿だった。その馬鹿の祖父もあの悪名高い“魔術師潰し(メイジ・マッシャー)”のひとりであるガイアの尼僧ゲンガーに倒されている。忌々しい…その弟にも我らアデクは長きに渡って煮え湯を飲まされ続けて…一時期は中央はすっかり疲弊状態になってしまった。奴らにさえ邪魔さえされなければとっくに中央はアデクの手の中にあっただろう。…そこでだ、魔術師のキャリアを一切無視してお前の魔術に期待して赤魔導士の座に就けたのだ。歴代の恥晒し共のように私の期待を裏切ってくれるなよ?」

「……はい」


 グラナダもまた理由あってアデクに身をやつしていたが、その首領からの圧力に頷くことしか出来なかった。


「そう暗い顔をするな。私はお前達にはそれなりに期待はしているんだ。それにだ…黄金には南と東の広範囲に渡る調査を任せているが、アイツは気紛れだ…次の召集に現れるかも定かではない。だが、紫には早速仕事に向って貰っている。出費は少し痛かったがな…ははは」

「仕事…と言いますと。情報収集か、殺しザマスか? もしかしてテレンス絡みの…」

「ふん。なかなか頭が切れるなハートリック? 今回はそれも踏まえてテレンスを強制的に呼び出す真似はしなかったのだ。奴は表向きは行動範囲の広い冒険者だ。…なに、私もそうそう遠出が叶わぬ身故に少し興味が出てな?」


 ヴェールに隠されたシルエットの肩が微かに揺れる。



「戻ってきたテレンスとその連れの奴隷達が随分(・・)と楽しそうだったのでな…私も知りたいのだよ。その旅行先の事がな?」




因みに、今回から登場するハートリックはDB超の〇ゴマさんにイメージだったりするw

中身は超小物化した〇リーザ様だったりする。(笑)

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