極寒の光彩③
アイロス編はドッコイショしました。
アイロス編は連載開始から1年近く経ってるのに2話目が(ネタバレ的に)まだ更新できないので、第二部が終わる頃までに外伝として別作品で掲載予定です。すいません<(_ _)>
◤テレンスの護衛奴隷、レタス◢
俺はレタス。テレンス様の奴隷のひとりだ。
…ただ、テレンス様は俺達の事を自分の子供だと言ってくれる。実際、俺達は…テレンス様を親以上の存在だと思っている。皆、赤ん坊の頃からテレンス様の屋敷で暮らしてきたからな。
テレンス様はとても優しい。でも他のアデク共から比べたら変わり者だろう。なにせ奴隷や家畜くらいにしか思われていない俺みたいな獣人やマラカイト達みたいな亜人に良くしてくれている。その目くらましとしてテレンス様はアデクでも最上の幹部みたいな地位にいるのに、冒険者の真似事をして俺達…獣人のシャム族の俺。亜人のトロルのマラカイト。…多分、亜人のサックス。そして亜人でコウモリ族のアップルはまだ護衛をやるには幼過ぎるが、感知能力は俺達の中で一番優れている。そして、もうひとり、ラベンダー。彼女は俺達よりも少し年上で姉のような存在だ。…だが、俺は知っている。彼女だけはテレンス様と同じ血を引く存在だと。
テレンス家…現当主はテレンス様、つまりホアイト・テレンスだが、テレンス家はアデク教が興った当時からアデクの影の首領に仕えてきた魔術師の家系だ。その中でも今のテレンス様は歴代最強とも言われている。“極寒”の異名で呼ばれ畏れられる御方なのだ。
だが、俺達は言葉に出さないがその呼び名を心から忌み嫌っていた。
テレンス様の一族は代々、アデクが行ってきた獣人狩りの旗頭に立ってきた。逆らう獣人と亜人族。それに味方した数少ない良心的な人間達を強大な冷気の魔術で一方的に虐殺した。
だが、一方で抵抗しなかった者や生き残りの獣人や亜人をそれ以上傷付ける事をせず、一部を自分の所有する土地で奴隷という建前で囲った。特にそれが顕著になったのは先々代当主のインディゴ・テレンス様の頃からだった。俺達が暮らすテレンス様の屋敷で共に暮らす最古参の獣人で俺達の教育係でもあったクモザル族のブルー爺もインディゴ様に戦場から拾われて息子同然に育てられたと聞いている。
そして、ラベンダーはインディゴ様と当時秘密裏にアデクから庇っていた亜人の女との間に生まれた私生児の孫娘。つまり、テレンス様とは従姪の関係になる。どういう経緯があったのかは知らないが…インディゴ様が死去した後は王都から離れた僻地ではあるが彼女は家族と共に平和に暮らしていたらしのだが、現在はテレンス様の下に居る。
俺達もまあ似たようなものだと聞いている。サックスとアップルは希少種ということでアチコチのアデクの権力者の間でやり取りされ、特にアップルは酷い虐待を受けていた。それをテレンス様が他のアデクを黙らせて引き取ることになり、俺とマラカイトは……戦場でテレンス様に拾われたんだ。恐らく、俺の本当の親もテレンス様の手に掛かって死んだのだろう。それはガキの頃から何となく分かってたし。極めつけに…。
『レタスもマラカイトも……もう知っているとは思うけど。アンタ達の親を殺したのはアタシよ。他の屋敷に住んでいる他の子も同じようなものね。だから、端からアンタ達の首の奴隷紋には“アタシを攻撃できない”という戒めなんて彫り込んでないの。アタシの知り合いに細工するよう頼んだのよ? フフフ…。だから、いつでもその気になったらアタシを殺して仇を討ちなさい。アンタ達に上げた武器はアタシの護衛だとかで使う為に渡したんじゃないの。………アタシを殺す為のものなのよ。それは覚えておきなさいね…』
俺達はあのテレンス様の言葉を一生、忘れないだろう。
俺達はまだ幼い子供が話の内容を理解できずにキョトンとしているのにも気付かずテレンス様に抱き付いて泣いたのをまだ昨日の事のように憶えている。その頭を優しく、黒い涙を流しながら撫でてくれた事も。
誰が…テレンス様を裏切れようものか。この世界にテレンス様以上に慈悲深い御方などいない。テレンス様は毎日、俺達皆を抱えながら剃刀で埋め尽くされた道を歩んでいるのだろう。それでも俺達に笑顔を絶やさない。アデクから俺達を守る為に虐殺者の仮面を釘で顔に打ち付られてなお、俺達と共に生きてくれているだから。
『ラベンダー!レタス!マラカイト!サックスは直ぐに出立できるよう準備なさい! あ~それとアップルちゃんもね!オヤツや御着替えは途中のアデクの連中が居ない町で買ってあげるから』
『テレンス様、遠征ですか?』
『ンふ♪ 安心なさい? 今回は旅行よ。首領から大地節の1巡目(10日)まで長期休暇を貰ったから…家族旅行としゃれこみましょう!』
アデクの大屋敷から帰宅されたテレンス様がそんな事を言った時は驚いたが、嬉しそうなテレンス様の顔を見て反論できる奴はいなかったよ。
◆◆◆◆
◤テレンスの護衛奴隷、マラカイト◢
オデはマラカイトです。テレンス様の護衛をやっているです。種族は亜人のトロルです。
それと……体の丈夫さには自信はある。けど、あんまり頭は良くない…です。
でも、そんなオデをテレンス様は息子と呼んでくれるです!
ラベンダー姉もレタスもサックスもアップルもブルーの爺様もテレンス様の屋敷に住んでいる皆がオデを家族と呼んでくれるんですっ!
ただ、屋敷の外の人間はオデに優しくないです。オデの岩の肌を見て気持ち悪いって言うです。
でも、平気です。
『アラぁ~? なによアンタ達。アタシのマラカイトになにか文句でもあるのかしらあ~? ……ねえ? 今日は、やけに冷えるわよねえ? そう思わないかしらあ…』
テレンス様がオデ達を守ってくれるからです! ……でも、本当なら護衛であるオデがテレンス様を守らなきゃ…これじゃあ駄目です。
オデのトロルって種族は数が少ないです。理由はオデ達の血が不死の霊薬の材料になるって噂を鵜呑みにした悪い魔術師や錬金術師に血を売るためにアデクの連中に捕まって殺されたからです。オデの部族の他は皆して寒い北方に逃げたって聞いてます。
…オデは寒いのは苦手です。オデの隣のレタスですら寒いって言ってるくらいです。ここまでの移動中、ずっと外に居たサックスは本当に凄いです。
オデ達はテレンス様の計らいで山の村ケフィアまで来てます。…高いところは余計寒いんだってブルー爺様に習った気がするんです。でも、不思議と温かい気がするんです? 不思議です。
オデ達はマリアードっていうオッカナイ司祭に連れられて山を登ってケフィアの宿の前まで来ました。
「では、我々はお先に。ストロー様に貴方達の到着をお知らせしましょう」
「…………。 これが宿? 砦の間違いじゃいないのかしら。下手したら隣国が勝手に立てた前線基地だと中央辺りが勘ぐってもおかしくないわよ? ラベンダー。ちょっとアタシのお尻抓ってくれないかしら?」
「……はい(ギュウ)」
「………痛いわね。どうやら魔力の流れも正常だし…幻惑の類じゃないみたいね。 というかこんな山の上にこんなゴツイの建てるとか…仮に精霊だとしても早計過ぎるじゃないかしら?」
「「…………」」
「凄ぉい!? 高~いィ!」
はしゃぐアップル以外はオデ達は暫く呆然とその宿を見上げていたです。
「はあ、仕方ないわね。取り敢えずアタシも宿主に会ってくるわ…ラベンダー行くわよ」
「え。テレンス様…でも私は奴隷ですし…」
「馬鹿言ってんじゃないわよ? 何の為にこんな辺境の山の上まで来たと思ってるの。此処は西方でも中央でもないわ。 ……あのブドウ髪の坊や達が言ってた通りなら大丈夫よ。レタス達は外で少し待ってて頂戴」
「テ、テレンス様」
そう言ってテレンス様とラベンダー姉は立派な宝石みたいな硝子張りの回転する扉を潜って中に入ってしまったです。 オデ達が顔を見合わせていると…。
「やあ。旅の人かい?」
「えっ!? お、オデ達です…?」
「そうだよ。他に誰がいるんだい? ああ、私はディモドリ。…正確には去年から地上っ、いやいやこの村に住まわせてもらっている者なんだ。…何だか君の見た目がどうにも他人に思えなくてなあ。 凄いだろ? 初めてこのケフィアに来る人は皆そうやって魂が抜けてしまったような顔をするもんさ。…中はもっと凄いよ? ハハハ」
オデ達は戸惑ってしまったです。こんな気安く話しかけられたことなんてなかったからです。
…というか他人のようには思えないってなんです? この人は普通の良い人間にしか見えないんです。 まさか、魔術で人間にしたトロルです? …って、まさか昔テレンス様に読んで貰った絵本みたいな事があるわけないです。
「ん? アップルは何処に行った!?」
「あ、あデ!?」
この村に着いた途端元気になったアップルがいつの間にかオデ達の周りにいなくなってしまったです!?
「あの馬鹿…テレンス様からここで待ってるように言われたのに!」
「もしかしてその子は…こう、手と腕がワイバーンみたくなった感じの子かい? さっきアッチのドラゴンホール…裏の広場の方への階段へ駆けて行ってしまったようだけど…」
「本当か! 悪いサックスはここで待っててくれ。アップルに何かあったらテレンス様に顔向けできん。行くぞマラカイト!」
「おう!」
階段を駆け下りるオデ達にサックスが楽器のような音声で応え返してくれるです。
「うわっ!驚いたなぁ~…君も亜人?だったのか!長毛皮のテントロールかと思ってたよ…。 いやあ~世界は広いなぁ~!穴の中で3百年近く暮らしてたけど、君みたいな種族の噂は聞いたことがないよ」
『?~!?』
ん? 宿屋の前からサックスから変な音が漏れ出したような? きっと気のせいです!
オデとレタスが宿屋横の階段を降り切ると、そこにアップルがはしゃいでフェンスから穴を除き込んでいたです。やれやれ、です。
「アップル…!駄目だろ勝手に知らない場所に行ったりしたら。テレンス様が心配なさるぞ!」
「ゴメンナサイ……でも…だって、凄いんだもん!ホラ、レタス兄もマラカイト兄も見てよっ!」
「何をそんなに興奮し……凄えな、コリャ」
「おおっ~…」
釣られて覗き込んでしまったオデの口からも声が思わず漏れる光景です。
「オデ、前にテレンス様から見して貰った南方の冒険記にこんな風に山のテッペンに穴が開いている絵を見せてもらったんです。でも、これは違うと思うです。炎の精霊の山みたいに火を噴いてできた孔じゃないです…」
「じゃあこの穴は誰かがこの山に開けたってことか? …ホントだったらそりゃあ、たまげるな」
「ホラホラ! 反対っ!反対も見て」
普段は大人しいアップルに引っ張られてオデ達が振り向くと件の宿屋があるんです。が、問題は…。その立派過ぎる宿屋が2階建てだとオデ達は思ってたんです。
「嘘だろ…4階建てだったのか? これじゃあ馬鹿デカイ塔じゃないか!?」
「ああ~あ゛っ。あデデ…!」
「クスっ…マラカイト兄…」
オデはこんな高い建物を始めて見たのです。そのせいで、首を少し痛くしてしまったのです。
「ふははっ! 仕方ねえよ。マラカイトは身体が硬いから」
オデ達は初めてテレンス様の屋敷の外でこんなに自由に喋って笑ったです。
「おい!……なんで此処に奴隷、しかもその恰好。アデクの護衛奴隷がなんでいやがる!?」
アップルに気を取られて気付くのが遅れたです。この場には他にも先客がいたようです。
若い獣人達です。しかも、武器を持った獣人……まさか東方に潜伏してると噂される反乱軍です?
その中のひとりの槍を持った多分黒毛のネコ獣人の男がレタスを指刺したです。
「……ちょっと待て。お前、シャム族じゃあないのか?」
「シャム族って、あの最後までアデクと戦った俺達の同胞じゃないか!」
「…………。お前、シャム族のお前だ。何の目的があってここまでやって来た?」
獣人達が騒ぎ出し始めたです。どうする? 此処は一旦、アップルを抱えて逃げるです? 広場から直接宿の中へと逃げ込めそうです…しかし、テレンス様がまだ宿の主から許可を取ってないのに勝手にオデ達が入るわけには、いかないです…!
「フン。アンタ達がどこの獣人だが知ったことじゃないが……俺達はテレンス様の護衛としてこの村までやって来た」
感情的なレタスの割には我慢してるです。レタスはぶっきら棒にそう答えたです。
「…テレンス? まさかアデクの魔術師の!あの獣人狩りの人でなし!虐殺者“極寒”テレンスの事かっ!?」
「………っ!」
あ。ヤバイです。 あの眉間の皺の寄り具合は…キレる一歩手前のレタスです。




