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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第二部~雷の精霊シュトローム
89/103

 極寒の光彩①

ずっとブクマしてた作品の完結が決定したショックの余り…しばらくは執筆活動に勤しみたいと思います(泣)

基本は精霊の宿☞ゴブリン☞自由な日のローテでやってきたいと思います。ちなみに更新頻度は上がるけど文章量は減ると思います。逆に誤字脱字は増えますw

自由な日はゲームしたり寝たりする日にしますが、例の病気でまた勢いだけ書きたいものがあるので新作(笑)を書くやもしれません。

【ストロー】


 話は雪が降り積もった今年の初め…始節を過ぎて雪割節の終わり頃まで遡る。

 俺が宿を開いたこのケフィアでは冬は短い。雪割節は暦で言えば丁度冬と春の境目だ。雪の量が減って地面もポツポツと露出し出しているが息は白く寒い。

 俺達の挙式でケフィアに集まってお祭り騒ぎしていた大多数が始節の中頃には山を下りて帰って行き、俺が来てから久々の静けさがケフィアに訪れていた。


 やはり、冬道は交通の便が悪いのか極端に村外の客足は激減した。今日も宿泊者はいない。まあ、コレがガチのホテル経営だとしたら血涙ものだろうが、ちゃらんぽらんな宿の主である俺がそんなことで動じるわけがない。暇なのを良い事に最近は3階の受付あたりをウロウロして観賞用植物やゴッボの会心の木彫り作品の配置レイアウトを皆で考えて楽しんだりとして過ごしていた。


「突然ですが、ストロー様。明日、このケフィアにとある西方の冒険者達が参ります」

「んあっ!?」


 俺は現在、いわゆる家族サービスというか…嫁サービスと言えば良いのか…。お腹の大きなウリイとダムダに3階のラウンジにあるソファに挟み込まれるようにして座っている。いや、正確には座らせたらえたが正しいだろう。どうにも最近公の場でのリレミッタからのスキンシップが激しいので、ふたりは少し焼き餅をやいてしまっているのかもしれんなあ~。可愛くて仕方ないし、両手に花なんだが…圧が凄い。 多分、精霊の俺じゃなかったら潰れてるよ? 色々と…。というか今もマリアードが声を掛けてこなかったら俺は左右の胸と腹に埋もれて気を失っていたかもしれん。まあ、俺が幸せだからいいんだけど。


 その原因であろうリレミッタは現在休憩時間だ。意外にもアイツはふたりと違ってひとりでも平気でPゾーンで過ごせるので俺もその分、外で自由にできる。その間、リレミッタはリビングでテレビ(俺の記憶から再生された番組や映画とか)を観て大興奮。訓練場で自分の分身相手に戦った後、風呂に入ってから好きなだけ酒を飲んで寝て過ごしたりと十二分にエンジョイしてらっしゃるようだ。 あ~後は勝手に俺の自室で寝てる事が多いんだよなあ~…裸で。


 だが正直、口には出さないが…特に俺にベッタリなウリイと比べるとリレミッタは非常に扱いが楽ではあるな。まあちょっと無限ドリンクサーバーからの酒の暴飲癖があるが…女神ジアによれば、亜人であるウリイとダムダとは違って獣人である彼女には決まった月が昇る日と呼ばれるタイミング(俺からすれば性のバーサーカー・モードだが)でしか子を成し辛いとのことで、懐妊した暁には多忙な女神に代わって月の精霊のルナーが俺に教えてくれる手筈になっている。この世界では妊婦がある程度の飲酒は恐ろしいことに認められている(現代医学なんてないしな。剣と魔法と精霊の世界だし…)ので俺も強くは彼女らに言えないのだが、流石に妊娠したら酒は暫く我慢してもらう約束で俺もリレミッタに身体を差し出している。 …そう、差し出しているんだ。



 おっと。そんな事はまあ割とどうでもよかったな。いつの間にか正面に座っていたマリアードが俺の返事を待っている。


「マリアード。その冒険者がどうかしたのか?」

「中央の冒険者はよくケフィアに来るようにはなったけど…」

「そう言えば~俺ぃとダムダが旦那様に助けて貰った少し前に、来てた冒険者パーティの話を前にしてくれましたよねぇ? たしか…“暖かい色彩”でしたっけ」

「ああ。それな。そいつらが西方冒険者だって言ってたんだよ。…確かに言われてみれば他にはまだ西方冒険者は来てないなあ~なんでだろ?」

「そ、それはぁ~…」

「……旦那様には悪いけど、西方の人間なんかがこの場所に来ない方が良いよ! 旦那様が前に話してくれたその冒険者パーティは良い人達だったみたいだけど…。西方は中央よりもアデクの力が強くて、ボク達みたいな亜人や獣人を奴隷としか考えてなかったり、平気で酷い事をする連中が多いから」

「俺ぃ達も元は西方の王都の冒険奴隷だったがらぁ…」

「……まあ、ワイン達もそんなこと言ってたしなあ~」


 俺の瞼の裏に斧使いの紫髪の男に小柄な怪力少女。どこか憂いを帯びた冒険神官にその彼を慕う鱗を持った亜人の女。そんな冒険者達の姿が浮かぶ。


「…何やら思案中のご様子ですが、よろしいですか?」

「あ。すまんすまん、それで? その冒険者…いや、冒険者達ってことはパーティか?」

「はい。正確には西方王都ヴァンナのトロール級冒険者パーティ“極寒の光彩”。リーダーは魔術師のホアイト・テレンス。その他のメンバーの人数は不確定ですが…間違いなくほぼ全員が亜人及び獣人の冒険奴隷です」

「うわっ…」


 マリアードの答えにウリイが嫌悪感を隠すことなく表情に出して反応する。


「ふうん…冒険奴隷ねえ」

「旦那様…絶対ヤバイよ!間違いなくアデクの連中だよ。そのパーティを壁か囮か…奴隷でかためる奴なんてろくでもない奴しかいないよ!」

「マリアード…そうなのか?」

「……確かに。“極寒の光彩”のホアイト・テレンスという男はアデクは有名なテレンス家の現当主。そしてアデクの最大戦力と呼ばれる強大な魔術師達…通称“六色魔導士”のひとりです。特に彼の者はその中でも親子三代で白魔導士の座に就いており、単身でも冒険者等級なら最上位のドラゴン級を超えるでしょう。実際、我らガイアの精鋭である兄弟姉妹が束になっても先ず勝機はありません…」

「おいおい、マリアードでも相手するのは難しいとか言わないよな?」

「ストロー様が私に戦えと御命じになるなら是非もありませんが…しかし、本気を出したテレンスとでは相打ちになる可能性の方が高いでしょう」


 マリアードは涼しい顔でしれっとそんなことを答える。


「そんなに強いのかよ…マリアードと同じくらい強いとか脅威的だろう。…でもさ? そんな奴が護衛…奴隷なんて居るのか? ああ、世話役とか…それとも奴隷を侍らすのが趣味とか」

「我らが知っている限りでは、それとは異なる理由で側に置いているのでしょう。奴隷達は両細君方よりも若い者達ばかりだそうです。…彼の者の主なる目的はまだ見定めてはおりませんが、恐らく目的はストロー様のこの宿でございましょう。ですから、最終的な判断はストロー様にお任せしたいと思っております。 ……ただ、先ほども申しましたが、テレンスは単身で城を落とせるほどの強大な血統魔法が使えます。どうか努々見誤らぬようご配慮を願います。では、御前失礼させて頂きます」


 マリアードはそう言うとペコリと俺達に頭を下げて玄関から外へと去って行ってしまった。


「旦那様ぁ…」

「どうするんだい?」

「落ち着けよ二人とも…お前達に無理はさせられんが、今はリレーが居る。何かトラブルが起きても対処できるさ? それに、マリアードが言ってたろ。 やっこさんの目的は俺達の宿だ、ってな。 なら、いいじゃないか? ここ最近宿泊客がいなくて暇だったしな。存分にもてなしてやろうじゃあないの!」


 俺はソファから飛び上がると、この件をリレミッタにも伝えるべくウリイとダムダの手を引いてカウンターの奥のドアへと向かう。


「メレン。まあ、今日は宿泊客なんていないだろうけど、ちょっとだけカウンター頼めるか?」

「もちろん構わないとも!今は下の食堂にも誰もいないしねえ…それにしても旦那ぁ~。まだ陽が高いってのに嫁さん引っ張りこんで…好きだねえ~? 胎が大きい女にあんまり無理をさせるもんじゃないよぉ!」

「…………」


 丁度ロビーを掃除中だったメレンに引き継ぎを頼んだんだが、なにを勘違いしたのかニヤニヤするメレンと顔を真っ赤にしているクリー。


「そんなんじゃないよ!?」

「…ボクは全然構わないよ? ここ最近安定してるし」

「お、俺ぃは…できるだけ優しぃく…お願いしますぅ…」


 

 なんてこったい、メレンが余計な事を言うからウリイ達がソワソワしだした。俺は軽く冷や汗をかきそうになりながらもリレミッタの居るPゾーンへと続くドアのノブを握った。



 ◆◆◆◆



 まだ雪が残る街道を大型の長毛種が曳く豪奢な竜車が走る。


 この長い長い街道は西方の王都ヴァンナからいくつかの町を通り、紡績の工房町であるブラウンソックスを終点としている。だが、竜車に揺られる者達の目的地は更にその先である。


「わあ!見て下さいよテレンス様!あのずっと横に広がって続いているのがヨーグの山なんですかぁ!」

「フフフ…そうよ。アップルったらずっとこの調子ねぇ~? まあ、無理もないわね…この子はヴァンナから出ることすら今回が初めてなんですものね…」


 竜車に嵌められた色付き硝子(ギヤマン)の窓から外を見てはしゃぐコウモリ族の少女。それを見て同じく微笑む人間族のように見えるまだ若い娘。それを何とももどかしい顔で見るネコ系のシャム族の少年と全身を岩のような肌で覆われた青年。御者台には逆に目鼻立ちが判らないほどの厚い毛皮に包まれたらしきものがいる。


「テレンス様。やはり俺もサックスのいる御者台に移ります…」

「ぼ、僕もです。レタスと一緒に…」

「なに言ってるの! もういい加減にしなさいよレタスもマラカイトも。もう6日も同じ事言って…アンタ達はサックスみたいに完全な冷気への耐性がないでしょう? 本当なら御者のひとりでも連れて来れれば、サックスも寂しい思いをせずに済んだんだけど…アデクの御者なんかにアタシ達の旅行に水を差されたくなかったから…御免なさいね、サックス」


『ドウカ オキニナサラズニ てれんすサマ』


 まるで管楽器のような言語に似た音が竜車の中に居る者達の頭に響く。御者台のサックスはブラスビアドという珍しい北方の亜人種だった。彼らは言葉を話せないが、頭に音を送り意思疎通する、まるでテレパシーのような能力を持っていた。


 そして、竜車の中にもうひとり。異様なメイクを施した筋肉質で長身の男が御者台の小窓から手を出してサックスの毛皮を優しく撫でる。その毛皮の塊のような人型から嬉しそうな心地よい音が頭に響く。


「目的地まであと少しよ。今日はブラウンソックスで一泊して、明日には着けるはずよ。…噂の精霊(・・)の宿とやらにね」



 はしゃぐコウモリ族の少女を逞しい両腕に抱き上げながら、テレンスとトロール級冒険者パーティ“極寒の光彩”の面々が両翼の窓から望む遠いヨーグの峰を見つめていた。



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