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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第二部~雷の精霊シュトローム
84/103

☞トリスモンドの三王子②

なんか更新がギリギリだけど許して下さい。

仕方ないんや…だって、Core Keeperやってたら週末がもう終わり掛けてたんだもん(白眼)


「と、いうわけだ。余は次の節にでも準備が整い次第、このケフィアに向って出立する」

「兄上!お待ちください」

「くどいぞ、エリック。余は一度決めた矛先を簡単に変えるほど軟弱ではない」


 ヴェトロは弟のエリックを軽くあしらうとテーブルの席からガタリと立ち上がる。


「それにしてもだな…。ここに居合わせる他の者も、幼いエリックや老骨のトニばかりに意見を言わせるだけなのか? 余に意見を言うのであれば今の内だぞ? なにせ、次に王都へと帰還する際には余がトリスモンド国王に違いないのだからな。…それとも、未だに万が一にも槍だけの色狂いや幼過ぎる弟を王位に就かせようなだと… ()にも縋るような浅はかな事を申す者は、おらんだろう? フッ…フハハハッ!」


 周囲のアデク派の者達が笑いを隠そうともしなかった。笑いながら部屋を出ていこうとするヴェトロ達にトニ達懐古派の面々が歯噛みする。家老頭であるトニが悔し気にライヲンに視線もやるも、槍とメイリックスを腕に抱いた第二王子ライヲンは窓から外の景色を眺めているのか、こちらに背を向けている始末だった。


「兄上はそれで本当によろしいのですか…」

「……エリック。何が言いたいのだ? もう余が耳を貸すのもこれが最後だと知れ」


 だが、第四王子エリックの声に回廊への扉の前でヴェトロが振り向く。


「まだ幼き頃の僕でも分かるほど…民を想うジョイス兄上を僕達兄弟の中であれほど慕われていたヴェトロ兄上が…! 何故にこうも無辜の民を傷付けるの真似をなさるのですか!」

「…ハア。児戯の如く拙い考えだぞ、エリック。この世は争いばかりなのだ。そんなことでは他国に対抗…」

「兄上は…あえて僕達の為に犠牲になろうとなされているのではないのですか…!」


 わざとらしく頭を抱えたヴェトロのエリックへの返答はその言葉に遮られる。

 一瞬ではあるが眉間に皺寄せする懐古派からも、嘲笑を浮かべていたアデク派からすらも懐疑的な視線がふたりの王子に向けられた。


「敵も多く、自衛の術も少ない僕達を庇う為に…あえて…ヴェトロ兄上はあえて悪名を自ら買って出ておいでなのではないのですか?」

「………何を言うかと思えば邪推も甚だしいぞ、エリック。そこまでして余からアデクの力を削ぎたいのか? 喰えぬ弟よ。…心配せずとも余は主人まで噛もうとする犬など飼う気は無い。少しでも牙を見せれば尾を斬るか…それとも首を斬ろうか…」


 ヴェトロは室内にいるアデク派の貴族らをジットリとした視線を浴びせる。その者達は慌てて視線をそらして隠れようとする。


「それだけか? もう余は自宮に戻るぞ。行くぞ、ピリオ!ヘイス!」

「はっ」

「は、はい!」


 ヴェトロに名を呼ばれた同じく南方人の血を引くであろう褐色の肌を持った近衛騎士と少年文官が随行する。


「ヴェトロ」


 だが回廊に出たヴェトロが自分の名を呼ばれて立ち止まる。この場で彼を呼び捨てにできる人物はただひとりだけ。

 彼の兄である第二王子ライヲンだった。


「朕がこんな事を言う資格など無いであろうが…あまり背負い込むな。ジョイス兄上が悲しむ」


 相変わらず窓から外を眺めているのでその言葉を聞いた者達はライヲンの表情は伺えなかったが、隣のメイリックスが頬を薔薇色に染めていたので、恐らくは引き締まった真剣な表情をしていたのだろう。


「…………」


 だが、ヴェトロは返事もせずに再び回廊を歩き出し、会議室の扉は静かに閉められたのだった。



 ◆◆◆◆



 ヴェトロは王宮内の一棟、自身の宮の部屋にここ数節振りに戻ってきていた。


 その場にはヴェトロの他は近衛騎士であるピリオ。文官のヘイス。そしてアデクの有力者である老人プールーとその側近の男。そしてヴェトロと同じ南方の血筋であろう数名の私兵のみであった。


「…全くあのクソジジイには参りますなあ。…いっそ殿下の御力で粛清されてはいかがです」

「そう怒るな、プールー。トニの奴めはお前に自身の地位を追いやられまいと必死なのだ」


 ギヤマンの盃にワインを注いでひと心地ついたヴェトロが怒りを滲ませるプールーを宥める。ここまでの道中にプールー以外にもアデクの息のかかった側近は随行していたが、他は宮外の前で既に下がらせていた。


「おっと、余としたことがあの馬鹿者共のせいで苛ついておったのか…忘れていた。おい、ヘイス」

「はい、殿下!」


 ヴェトロ御付きの文官である少年が慌ててヴェトロの前に膝まづく。


「お前もあの場で聞いていたであろう。余が雇った傭兵共の事だ。…すまぬがどれだけの被害が出ているか城の者に詳しく聞いておいてくれ。此度は時間を掛けても構わぬ」

「…え? わ、わかりました!では失礼を…」


 一瞬不思議な顔をしたヘイスだったが、直ぐに笑顔になって深く礼をした後に急いで宮外へと出ていった。


「……殿下もお気になさらなければよいのに。たかが貧しい百姓どもの戯言なぞに」

「仕方ないのだ。こういうポーズを取らねばならぬのが為政者の辛いところだな…フフフ」


 プールーの側近にヴェトロはそう答え、互いの笑い声があまりにも静かな宮内に響いた。



「…さて、話は変わるがプールー。お前なら既に気付いていようが、今日は最低限の人間しか宮には残しておらん」

「承知しておりますとも、殿下。何なりとこのプールーに御命じ下さいませ。…武器でしょうか? それとも奴隷でしょうか? ……もしくは…暗殺でしょうか?」


 老人はニチャリと邪悪に自身の口角を吊り上げる。


「止せ止せ、プールー。次期宰相…余の右腕となるお前にもはやそんな泥臭い仕事をさせたりせん。……そんなことは頼まずともやってくれているのであろう。ん?」

「いやはや、ヴェトロ陛下(・・)には敵いませんなぁ」


 側近の男までもが釣られてニヤニヤした笑みを浮かべだした。


「どうだ? もう余らの力は盤石で揺るぎない。お前も、もはや一国の王とさして変わらぬではないか。そんなお前に余からもなにか褒美を出してやりたくなってな。まあ、余がここまでの事を成せたのもお前が余の…障害(・・)を長き時間を掛けて取り除いてくれたからだ。…そうであろう?」

「いやはやヴェトロ様もお人が悪い…そこまで言われましては、な」


 プールー達、いやこの時代を長く生き延びたトリスモンドの者ならば誰しもが気付き知っていたのだ。この第三王子ヴェトロが老王マーポーの血をまったく引かぬ者であることを。そしてその血筋はかつての戦で滅ぼされた南方の王族バルカであることを…。


「ヴェトロ様が我らアデクとお関り合いになる3年ほど前からでしょうかな…苦労いたしましたぞ。皇太子殿下は聡明であられましたのでなあ~。あの方が我らアデクに力を貸して頂けるように、私共が長年交渉したのにも関わらず…老いぼれた王と同様に我らの提案に断固として首を縦に振っていただけませんものでしたからねえ…。愚かな奴でしたよ、最期(・・)まで。しかしぃ、我らは毒に魔術に呪いの類まで…時には宮で下働きをしている下女にまでに伝染する病魔を仕込んでみたりと本当に手が掛かりましたぞ? クックックッ…!」

「…………」


 それからも饒舌に他の全く関係の無い身勝手な恨み辛みや、無関係の人間をその為だけに使い潰しただの、プールーという下劣な老人の苦労話とも自慢話とも判断がつかないものが続いた。


 だが、ふとプールーが陶酔から覚めて視線を前に戻せば、一切の感情を失くして静かに自分を睨むヴェトロに気付いたので思わず腰を浮かしてしまった。よく見ればプールーの側近の男の顔も心なしか青くなっていた。


「なるほど、なるほど…ん? 悪かったな、つい貴殿(・・)の話に聞き惚れてしまったものでな」


 そう言ってニッコリと笑顔になったヴェトロがソファーから立ち上がったのでプールーは内心ほっとする。恐らくアデクの力に恐怖したのであろうと、むしろアデクをどこか軽んじるヴェトロに釘を刺せたとすら思っていた。


「では、そこまで余に尽くしてくれた…お前に褒美を渡すとしよう。そこに直れ」

「め、滅相もございません」


 だがしかし、先ほどの始めて見せたヴェトロの表情にやはり恐怖を感じるのか後退るプールー達だったが…いつの間にか退路をピリオと私兵達に塞がれていたので足が止まる。


「何を言う。先も言ったであろう余は…“一度決めた矛先を簡単に変えるほど軟弱ではない”、と。そうだな…なればコレをくれてやろうではないか」

「そ、それは!?」


 ヴェトロが無造作に腰から外したものは見事な宝飾が施された剣だった。その剣を一目見てプールーは眼を輝かせる。現在の恐怖などもはや一瞬で霧散した。


 トリスモンド王国近境では王族の剣を持つ者は王族から最も信頼された家臣として扱われる。もし、プールーがこの剣を手に入れたならば、もはやこの国で彼に表沙汰で逆らえる者などいなくなるだろう。


「で、殿下…本当によろしいのですか!?」

「無論だ。これは国王陛下から皇太子兄上。そして余にと渡された由緒ある剣であったが…もはやこの国を手に入れたも同然の余にこんなものは要らん。お前が好きに役立てよ」

「っは…ははあぁ~!有難き幸せぇ~!」


 公の場ではないがわざとらしい身振りでプールーがヴェトロから差し出された剣を恭しく受け取った。


 はずなのだが、剣は微動だにしない。

 困惑したプールーが引っ張るもビクともしない。いや、差し出した本人のヴェトロが剣から手を離す気配がないのだ。


「で、殿下…?」

「お前…この剣を偽物だと疑ったな」

「っ!? い、いえ…そんな恐れ多いことを」


 だがそう言われてプールーは思わずハッとする。確かにそう簡単に…しかも公然の場でない場所で本当に王家所縁の品を自分に下賜するのであろうか? と。

 それにだ。本来ならば盗難を防ぐ為に常時は代わりの模造品を身に着けるものだ。特に儀礼でもなく、遠征が多いヴェトロなら尚更のことだ。


「………どれ、本物かどうか見せてやろう」

「はぁ?」


 ズラリ。プールーが掴む鞘から刀身が滑り出でた。


 青く光るその刀身はトリスモンド…ひいては王族の血筋トリスの象徴だ、かつて聖戦士アンダインが纏っていた全身甲冑のブルーメタルを再現したものだとも伝え聞く。


「お、おぉ…!」


 その振り上げられた刀身の余りの美しさにプールーとその側近は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。



 ストン。



 何かが抵抗なく振り下ろされたかのような高音が僅かに沈黙の場に響く。


 「はて?」と思ったプールーはある事に気付いた。自分の前に居たはずのヴェトロが横に数歩、まるでこれから飛び散るかもしれない泥か何か汚いものを避けるようにして、立ち位置を移動していたことに…と、これが欲に溺れた愚か者が最後に考えていたことであった。



 既に絶命した老人から鮮血が噴き出し、袈裟斬りにされ胸から上下に分かれた死体が磨かれた白亜の石床に転がる。



「フン。貴様のような者でも血は赤いのか…。誰が貴様なぞに…この誇りある剣を渡すものか!痴れ者がっ!! 精々、冥獄でこの王の剣に罪を裁かれたことをアデクの亡者共にでも自慢するのだな…」


 その光景に半狂乱になった側近は既にピリオに取り押さえられていた。


「皇太子兄上を謀殺した者のひとりを誅し、ひとりを捕らえた!必ずや他の下手人も吐かせよ!…掠れ声もでぬほど徹底的になっ!よいかっ!!」


 常に嘲笑的な笑みを浮かべていたはずのヴェトロが見せるその憤怒の表情に私兵達は震えあがり、猿ぐつわを嚙まされた哀れな男を城の地下へと引きずっていくのだった。


「殿下…」

「ああ…剣が穢れてしまった。初めて吸わせる血がこんな悪党とは哀れだな…。ジョイス兄上に顔向けできぬではないか…。 ピリオ…済まないが、この剣を余の代わりに清めてはくれぬか…」

「御意」



 恭しく剣を受け取るピリオに見送られながら、ギヤマンの盃に注がれたワインを一気にヴェトロは煽って自室へと去っていった。


 その直ぐ後に壁に何かを叩きつけて割れる音と男の低い泣き声が聞こえたが、その場に居合わせた者は何も声に出さずに静かに目を閉じていた…。



 ◆◆◆◆



 その騒動の数日後、ウエンディの王都は湧くに沸いていた。


 何故ならばトリスモンド皇太子の死因はアデクの神官すら癒せぬ病ではなく、意図的にアデクに与した者達による計画的な犯行であった事が宣言されたからである。

 そして、その関与者である者達がことごとく第三王子ヴェトロ・バルカ・トリスによって処刑され、切り離された首が城外に並べられることになったからだ。


 一般の民がそれを拝める機会はなかったが、此度の騒動で少なくとも20人以上が処刑されたと記録に残っている。アデクの下級神官、商人、子飼いの犯罪者、そして一部には処刑前日まで王宮務めをしていたアデク派の貴族の首まであり、同じくアデク派貴族の数名が王宮から姿を消していた。



 その首の中にはかつて次期宰相とまで噂された老人とその側近達。あの日、ライヲンに向って暴言を吐いた者の首もあったという。



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