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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第二部~雷の精霊シュトローム
82/103

 ケフィアの春

春です!

精霊の宿の更新をやっとこさ再開します!どうぞ今後ともよろしくお願い致します!<(_ _)>

※あ。エイプリル・フールじゃないです(怪しい視線)


 ―異世界グレイグスカ。


 そこは諸元の闇の女神たるガイアとその娘たる女神達に創造されし世界。


 その異世界の海に浮かぶ4大陸のひとつ北ルディア。全12柱の7女、知識と衰退を司る女神ウーンドの監視下にある北ルディアを三方に分ける霊峰ヨーグの峰にとある村があった。その名をケフィアという。かつて邪竜マッドロードを討伐せしドラゴンスレイヤーの末子と従者達がその村を拓いたと伝え聞く。


 その閑散としたケフィアに、ある時、フラリとどこか浮世だった男が現れる。その男はストローと名乗るがどうにも怪し気な雰囲気していた。しかし、不思議と村の者は悪意を抱くことなくその男を受け入れ、ストローは人通りなどほぼ皆無であった当時のケフィアに宿を構えた。


 時は少しばかり流れ、村の司祭マリアードらの助力を得て、ストローは村に匿われていたアデク教から迫害の憂い目に遭った獣人、亜人らを助ける。そして奴隷として目に余るほどに惨い仕打ちを受けていたケンタウルス族の少女、ウリイとミノタウロス族のダムダ。そして、ケフィアまでの道中を結果的に護衛・案内してくれたひとりであるスナネコ族の女戦士リレミッタを妻として迎えたのだった。



 ◆◆◆◆



 ケフィア村は新年を迎えると短い冬をとうに超えて雪割節を経て大地節の温かな日差しが射している。花の節も近いのだろう。道端を見れば青々とした草木に可愛らしい花が咲いている。四季で言えば既に世は春の盛りであるといったところであろうか。


「今日もいい天気だなあ~ っとくらあ!」


 どこまでもノンビリとした口調と態度を貫く畑仕事ひとつしていない小綺麗な野良着にベストを羽織った男が自身の宿の裏手である広場の隅で木箱を積んでいた。


「藁の旦那ぁ!そんな力仕事でしたらオレらがやりやすぜ」

「そうだそうだ」

「イヤ、最近何かと皆忙しいしいさあ…宿を手伝ってくれてる女衆にこんな力仕事させるなんて俺が嫌だしな? 力自慢のウリイとダムダにゃ今は無理させられないし。それにお前らだって、裏の畑の世話とか石切りとかの作業で手一杯だろ?」


 そう言ってどこから見ても人間の青年にしか見えない姿のストローがさしてかかない額の汗を拭う。


「イヤイヤ、普段から世話になりっぱなしの旦那が働いてるのをタダ見てるだけなんてできやせんよ。メレンの女将にバレたら本気で尻を叩かれちまう」

「洒落にならんよな」

「あははは!麓からわざわざ運んで貰ったのに悪いなあ~。じゃあ、頼むよ。終わったら一杯食堂で飲んでってくれよ」


 ストローの言葉に獣人の元奴隷達は「ありがてえ」「それが楽しみだけで生きている」だの「一杯だけで済みますかね? ガハハッ」などと言って破顔する。


 ストロー達が宿屋の裏手にある広場に運んでいる木箱の中身は雪麦という新年最初の節である雪割節、その雪解けに合わせて収穫する珍しい作物だった。安価な麦の一種だが、この辺の地域の者達が春のちょっとした催しというか風習のようなもので、この雪麦を挽いた粉でパンやガレットを焼いて食べ、新年の樽開きでエールを嗜むのである。木箱は麓のアンダーマインから買ったもので、その際に司祭マリアードが精霊信仰者(ガイアスター)達に運ばせると進言したのだが、村の者が食べるものを村の者で運ぶのは当然と断った。 …が、その言葉に絶望したマリアードやドリキャスらケフィアに定住したガイアの徒達を不憫に思えたストローが折れる形になったのだ。


 当日、運び込まれた雪麦の量は想定した量の10倍以上の量になっていた。売る側のはずのケフィアの長老ラズゥの孫である麓のエール工房の主ウイナンですら「…アレ? いつの間にこんなデタラメな量を仕入れてたんだっけ?」と頭を抱えていたのだが、笑みを浮かべるマリアードに「何も問題はありえません(・・・・)」と代金を手渡され小躍りしていた。



「…アタイにもあたるのかニャア?」


 恐らくは彼女のお気に入りである宿の屋上からまるで重さを感じさせない動きでストンとストローの背中に覆いかぶさってきた影があった。


「うおっちゃ!? リレー!危ないから止めろって言ってるだろう? チクアや子供達が真似したがる」

「ニャハハハ。ンフッフフ~」


 ゴロゴロと喉を鳴らしながらストローの頬に顔を摺り寄せるのは彼の妻のひとり、戦場では“飛天のリレミッタ”とすら呼ばれる猛者だ。


「仕方のない奴め」


 ストローは溜め息を吐きながらも彼女の柔らかい髪を愛おし気に撫でてやる。すると、より声を甘くしたリレミッタがストローの唇に堪らず吸い付こうと…


「リレー!昼間っからなにやってるんだい?」

「むうぅゥ~」


 ストローとリレミッタが振り向くとそこにはテラス席に腰を掛けて少し頬を膨らませるケンタウルス族とミノタウロス族の少女の姿があった。


「何って…ダーリンと何気ないスキンシップをしていただけニャ」

「ぐぬぬ…ボク達がチョット身動きし辛くなったからって好き勝手して~」

「そうですよぅ。そういう事はキチンと奥の部屋でって俺ぃ達で決めたでしょ~?」

「んンニャ。それは仕方無い場合だリャ。…それに、今のアンタ達に強く甘えられないダーリンを慰めてあげられるのはアタイだけニャ~?」


 そう言ってリレミッタ自慢気にストローの顔に自分の顔を押し付けて見せる。


 悔しがるふたりのお腹は目に付くほどポッコリと大きく膨らんでいる。


 そう、彼女らもまたストローの妻であるウリイとダムダであり、既にストローとの子供を身籠っていた。


「…不思議だよなあ。俺らが過ごす奥の空間とコッチとじゃ時間の流れがだいぶ違うから、本当ならとっくに子供が生まれてきても不思議じゃないはずなんだが、お腹の子供はコッチの時間に合わせて成長してるみたいだしなあ」

「まあ、そこは仕方ないリャ? アタイには未だに良く解らないけのニャ。でも、その分だけこうやってダーリンを独り占めできるニャア~!」

「ああっ!ズルイよ!? さっきからリレーばっかり人前でイチャイチャしてさあ」

「お、俺ぃも旦那様に撫でて欲しいです!」

「オイオイ、もうお腹も大きくなってきたし無茶すんなよ?」



 妻3人に囲まれて幸せそうにしている男の姿を見ていた周囲の者は終始砂糖を吐きそうになるのを耐えていた。



 ◆◆◆◆



 一方、その頃。


 聖暦203年。


 建国から2百年を超えた北ルディア中央を統べるトリスモンド王国。その王都ウエンディにある王宮にて大地節の某日。次期国王とされていたトリスモンドの皇太子ジョイスが昨年不慮の病死を遂げ、老王マーポーと後を継ぐであろう王子達、第二王子ライヲン。第三王子ヴェトロ。そして王族の末子たる第四王子エリックによる会合が行われることとなった。



 そして、これを皮切りに精霊ストローとケフィアの名は世界中に知られる歴史的な諸々の事変へと動き出すことになるのだが、…未だこの世界にそれを知る術を持つ者はいなかった。



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