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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 ストロー・オブ・ザ・マリッジ⑬

◤ストロー◢


 ウリイの両親とその家族達との挨拶を無事終えた俺とウリイが笑顔で孔から戻って来ると、ダムダは俺達を見てパアっと顔を輝かせた。


 ベロから降りた俺達にダムダが抱き付いてきた。それと同時に黄金の大蛇が身を捩って、今度は俺達が入っていった隣の孔へと首を突っ込んだ。


「さあ、今度はダムダの嬢ちゃんの番だぜ。ホラ、色男。さっさと連れてきなよ」

「気をつけてね~あ、まあ死者の領域では死なないんだけどね~」

「ダムダ様、いってらしゃいまし。さあ、ウリイ様。今度はアナタ様から色々と精霊様との馴れ初めなどを聞きとうございます。コチラへ…」


 そうやって俺はダムダを押し付けられ、ウリイが俺の手からかっ攫われた。

 …それにしても随分仲良くなったもんだな。

 俺達を待っている間に女神と女拷問k…おっと、ガイアの尼僧とでガールズトークに花でも咲かせていたのだろうか?


「じゃ、行くか?」

「はぁい! それじゃあ行ってきますぅ」


 再び俺がベロの背にによじ登ると、同じく背に登ったダムダが振り返ってウリイ達に手を振っている。当然の様にケル様とキング、ゲンガーも手を振り返していた。ホントに仲良くなってら…。


 俺達はダムダの家族が待つ死者の門へと向かっていった。


 ◇


「「いんやあ~!俺達の娘がお世話になってますぅ」」


 部屋の中にいたのはダムダよりひとまわり大きいミノタウロス族の男女が居た。何故かダムダよりも角が小さいような?

 俺よりもボロボロで継ぎ接ぎだらけの野良着姿ではあったが、その何とも言えない人を安心させる笑顔とのんびりとした口調、そしてダムダからも同じく感じられる朴訥な雰囲気に俺は思わず肩の力が抜けてしまった。


 どう見ても、ダムダの両親であることに間違いはなさそうだなあ。


「ど、どうも。俺はストローと言います」

「「はい。存じておりますともぉ」」


 何とも弛緩した雰囲気だなあ~。それにしてもウリイとはやたら対照的なものを感じる。

 ウリイの時みたいにお涙頂戴になること必至かと思ったが、部屋に入ってから最初の抱擁を交わしたくらいで、ダムダは笑顔だがあまり泣いていなかった。まあ、その辺は程度の差なのか?


「…しかしなぁ、ダムダにぃ赤ん坊(ややこ)が出来っとはなあ。驚いたしぃよぅ。でもなあ…」

「俺ぃも嬉しいんだけんどぉ」

「………うん」


 ウリイの家族と同じく俺とダムダ達との挙式は知っていたが、ダムダに新しい生命が宿ったことは知らなかったようだが…何というか嬉しさ半分、そうじゃない感情半分って感じなんだよなあ。

 ウリイの親父さんなんて暫く踊ってたくらいだったのに。

 それに、ダムダもやや暗い顔をしてるんじゃないか?


「どうかしたのか?」

「あ…旦那様…」


 俯くダムダを母親がそっと抱きしめ、代わりに父親が頭を掻きながら俺の前に立ちはだかる。そして、その大きな背を低く屈ませる。


「ストロー様、もうしわけねぇ。俺達の娘も悪気があって黙ってた訳じゃあないんです。ストロー様はぁ、俺ぃみたいなミノタウロス族にゃあ更にもひとつ別に種族っていうかぁ変異種みたいなモンがいるのはご存知でしょうかぁ?」

「変異種? 知らないな…」

「まあ、滅多に生まれてくるもんじゃあないんです。百に一人とか千に一人とか、場所によっちゃあ、おとぎ話みてえなモンだと思われてっかもしれないんですがぁ。実際、俺ぃ達の里にはひとりも居なかったし、もぉし居たら獣人狩りに皆殺しになどされなかったでしょうねぇ…」


 ダムダの父親は一言断ってから地面に腰を下ろした。


「俺ぃ達は身体の大きさの割には臆病だしぃ、喧嘩だってそんなに強くないんですぅ。そりゃ死ぬ気になりゃ人間よか丈夫でしょうがねぇ。だども、稀に角の大きなミノタウロス族から戦闘タイプと言ったらええのか…とんでもなく強い奴が生まれてくるんだぁ。特に他種族との混血で生まれやすいと皆知ってる。それで滅多にケンタウルス族の女は悪党共に手籠めにされたって混血の子を産もうとはしないんだがなぁ…だが、娘は違うみたいだなぁ」


 そう言って寂しそうな目でダムダを見やった。戦闘タイプ? それが件のミノタウロス族の変異種とやらなのか?


「その戦闘タイプってのは何か問題があるのか?」

「俺ぃ達の先祖は元は西方…さらに遡れば、数百年前に海を泳いで西ルディアの大陸から逃げ延びてきた者の子孫だと聞いていますぅ。…その、自分達の国で誕生した"狂王の仔"と呼ばれる戦闘タイプの同族達から襲われて逃げたんだとぅ」

「…………」


 そんな話があるからダムダもさっきから黙ってるのか。


「所詮、伝説の類なんじゃあないのか?」

「俺ぃの(カカ)…この子の祖母(ババ)がまだ赤ん坊(ややこ)同然だった頃の話なんですがぁ。俺ぃ達がまだ平地の村で暮らしていた時代に…村の若い娘っ子がアデクの人攫いに村が襲われて攫われたそうなんですぅ。そして、西方の大きな街で身籠った子供を無理矢理産まされたとかぁ。その数年後にその街は瓦礫の山だけになったと…」

「そんなにヤバイのか…」


 というか同族が海を渡って別の大陸に逃げるくらいだしな。


「…だが、ダムダには俺の子供を産んで貰う。それは決まりだ。生まれてくる子供がどうであれ、その子は俺とダムダの血を引いた子供だ。誰にも傷付けさせんし、傷付けさせる気も無い。…頼りないかもしれんが、一応は精霊である俺が全ての責任を持つからな。わかったな、ダムダ?」

「うぅ、うん…ス、ストロー さ ま…!!」


 母親に抱き絞められていたダムダが大粒の涙を流した。


「……精霊様がぁそこまで仰るのであればぁ、俺ぃ達からはもう何も言うことなどありませぬ。

…どうか、娘を。 ダムダを俺ぃ達に代わってお守りくだせえ…!」


 そう重々しく言ってダムダの父親が床に量の拳と額を押し付けた。


「勿論だ」


 ◇


「ところぉでぇ。(チチ)(カカ)。一緒に殺されちゃった祖父(ジジ)祖母(ババ)はぁ?」

「おん? そったらこと言ってもよぉ、当の前に祖父(ジジ)達なら門の先さ行かれたぞぉ」

「んあ」


 ダムダの両親はそう言って頷く。どうやらダムダの両親以外は当に生まれ変わっていったようだな。まだ地上に生まれ変わったのかは知らんが。


「そっかぁ~」

「俺ぃ達もオメの顔を見れて安心したば。こん後すぐに門さ潜るよぅ」

「んあ」


 え!? もう行っちまうのかよ。


「そっかぁ~」


 え!? お前もなんかドライだなぁ~。そう思うのは俺だけか? 挙式や孫に興味があるようにあまり感じられん…。


「もう俺ぃ達やぁ死んじまったからぁ。いつまでもウジウジしたらんねぇし。なあ、オメ?」

「んあ。死んだらお終いなんだぁ~。だから次の人生を楽しまなきゃ損だしねぇ~? 多分、あん日に殺されてしまった里の皆はもう残ってないんじゃないのぅ」


 は~…なんというかダムダの家族というか、ミノタウロス族は達観してるなあ。普通はもっとあるだろ、地上に未練が。


「じゃあ、俺ぃが見送るよ」

「そっか? 悪ぃな。 あ、ちゃんと部屋出たら扉閉めてくれな? 掃除はもうしといたから」

「そんじゃあ~。ストロー様ぁ、改めて俺ぃ達のダムダをよろしくお願いしますぅ」


 なんてやり取りを終えて、ふたりは最後に俺達に向って頭を下げるとさっさと門の光の先へと並んで行ってしまった。そして、その光が徐々に消え失せて行く…。


『ハハハ!俺ぃ達の娘は本当にぃ偉い人に貰われたなぁ』

『ホントだねぇ~。でもコレで思い残すことなんてないわぁ。オマイ様、また今度何処かで会ったら仲良くしてなぁ』

『オメ!そりゃあ勿論だあ!しっかし、次ぃはなんに生まれ変わるんだろっか? 楽しみだなぁ~!ワハハハハ………』


 門の奥からそんな二人の声が微かに聞こえて気がする。…全く、どこまでも前向きなんだな。俺も見習いたいぜ。程度によるがな。


 ◇


 俺とダムダ黙って並びながら帰りの道を進んでいた。


「なんつーか…凄い家族だったな」

「恥ずかしい家族ですみませんでしたぁ…でも、俺ぃの願いを本当に叶えてくれてぇ、本当にありがとうございましたぁ」


 ウリイは俺の片手をギュっと握る。

 …震えてる。 …無理しやがって。


「……旦那様。俺ぃ、黙っててすみませんでした。きっと、旦那様なら笑って許してくれるって信じてたんですけどぉ。俺ぃも奴隷だった頃、よくアデクの人達から聞かされたんです。…お前の種族は単なるウスノロだが、稀に化け物を産む。だから、お前以外は皆殺しにされたんだって。そんな化け物を産むかもしれない女であるお前を生かしてやってる事を感謝しろ。って」

「………」

「里の年寄り達がいっつも言ってましたぁ。俺ぃ達は怒りに呪われた種族なんだ、って。だから、争いを捨てて、武器を捨てて、怒りを捨てて、憎しみも捨てて生きてるんだって…だから…」


 それ以上はダムダは言わなかった。いや、言えなかったのかもしれんな。


「…安心しろ、俺はもうお前を手放す気なんて無いから。勿論、子供もな。だから、宿に帰ろう」

「はい…」


 俺達はボンヤリと光る孔の出口へと向かった。


 ◇


「世話になった!またいつか遊びにくるよ」

「いやいやぁ~。ここはそんなにホイホイ来ていい場所じゃ…あ。まあ、精霊の君なら別にいいのかな? でも僕もそうそうこうやって起きてないからあ、ちゃんとチュンヂーちゃんに連絡してアポイントメントを取ってねえ?」


 俺達は最初のドーム状の空間の中央に立っていた。

 そういや、キングの顔はもう出てないな。 寝たのか?


「キングが気になるのお? あ~ダメだよ女神相手に浮気なんかしちゃあ~。…冗談だよお。 あと、キングがゴメンねえ? そこまで悪気があったわけじゃないんだよお。チョットだけ寂しがり屋さんなだけなんだよお。だからあ、許してあげてね?」

「では。ストロー様、並びにウリイ奥様にダムダ奥様。御達者で…地上での益々のご活躍をお祈り申し上げております」


 ケル様がぽやんとした笑みを浮かべ、近くにいたゲンガーも頭を下げた。


「活躍? ああ、宿のか? まあいいや。ところで帰りはどうするんだ?」

「ああ~大丈夫。僕達の処から直通で地上に返せるから大丈夫だよお? じゃあ、僕の掌の上に乗ってくれるかなあ」

「え。そうか…じゃあ失礼して…」


 俺達は恐る恐るその大きな掌に乗る。デカイ手だなあ~…俺の宿のベッドが4台、いや5台分くらいの面積だな。


 むんずっ。


 そんな事を考えていたら案の定握られてしまった。親指と人差し指の間から俺とウリイとダムダが手巻き寿司の具のように少しだけ飛び出す。


「な!? 何をするだあ!」

「あ…ゴメーン。僕の女神としての能力のひとつがね。触れた者を一時的に魂と同質の存在に変えられる、って代物なのね? ん~と、ああ、君の普段暮らしている村はちょうど僕の真上なんだねえ。……ちょっとズレてるかなあ」


 すっげえ嫌な予感…。


「じゃ、いっくよお~♪」

「えっ!何すんの!?」

「だいじょうぶ…ダイジョウブ…ちゃんと地上に出るまではあらゆる物質を通過するからねえ~?」


 そういってケル様が俺達への握りを強めると。弓を引くように腕を天井目掛けて後方へと構えた。


「ばいばあ~い♪」

「「ぎゃああああああああ!?」」


 俺達は地上へと向かって解き放たれた。文字通りの意味で。


 物凄いスピードで地中をすり抜けていくという体験に言葉を失う。

 途中、「わひゃあ!? 何じゃ!」「きゃあ!?」などという老人と若い娘の悲鳴が聞こえた気もするが、まあ今の俺達に大した問題じゃあないな。


 そしてほんの数秒にも満たない時間で暗闇を突っ切ると急に浮遊感と共に夜空に浮かぶ大きな月が見えた。

 どうやら地上へと放り出されたようだ。少し離れた場所にいるウリイの顔に月が透けていたが、それもほんの一瞬で元に戻った…っと思った矢先に今度は急に地面に向って引っ張られる。

 ち、違う!? 実体を取り戻したから地面に向って落下してんだ、コレ!? あのポヤポヤ女神め!力加減を少しは考えろよ!


「ウリイ!ダムダ!」

「「お、落ちるぅぅぅぅ!?」」


 ダメだ。二人とも支族化できてない…てかそれどころじゃあなさそうだな。


「ぬりゃああああ!!」


 俺はドワーフの村までレーンを滑走した時の要領で電磁気を網の様に放つ。そして、ウリイとダムダを絡めとって俺のとこまで引き寄せる。 ふぅ…ってもう地面が目の前だわッ!?


「「きゃあああ!!」」

「コンニャロっ!」


 俺は今度はより強い磁気を纏う。バチバチと俺達を覆う光が強く輝く。

 

 …するとどうだ。地面に触れそうな丁度数十センチ離れて俺達はフワフワと浮遊している。


「……はあ。咄嗟に俺と地面を磁石みたいにして反発させて勢いを殺せて助かったぞ…」


 流石に俺も冷や汗をかいたぞ。…今度、ミノミス先輩に会ったらクレームいれとこ。


 クルンと体の上下を入れ替える。磁力を分散させ、ゆっくりと地面に降り立った。


「…流石のボクも死んじゃうかと思ったよ」

「俺ぃも…」

「今日はホント、えらい目に遭ったなあ…ってここは村の聖堂の前じゃないか。女神様のピッチング・コントロール、エグイなあ」


 俺が落ち着きを取り戻して周囲を伺えば、そこは薄っすら雪が降り積もったケフィア村の中央だった。


「あ!? やっぱりあのバチバチ。藁の旦那じゃあねえか!?」


 そこへ宿の裏側へと続く階段の方から誰かが全力で走ってきた。

 …んん? アレって…。


「おお!? デスじゃないか。久し振り!獣人達の集落から戻って来たんだな!」


 なるほど、マリアードが送ってくれた文を見て駆け付けてくれたのか。そういや、コイツにはこの村に来る時から世話になっちまってるなあ。 レミラーオの奴は来てくれたのかなあ…。久し振りに顔が見たいぜ。


「旦那っ!そんな悠長にしてる場合じゃあねえよ!? ば、バレた!旦那が祝言を挙げんのがバレちまったんだよお! アイツ(・・・)に! は、早く逃げるんだよお!?」


 え。雪まみれになったデスが何やら喚いているがよく聞こえなかったぞ?


「え? なんて?」


「ゼエゼエ…! だ、だから、リレm」


 バタンッ。周囲の悲鳴と共にデスの奴が急に何かに後ろから飛び乗られて地面とキスさせられる。


「デス!? って…お前はぁ!?」



 デスの背には闇夜の影にその大きな瞳をランランと怪しく光らせる者の姿があった。



 長いあの尻尾があの時のようにユラユラと揺れていた。



皆さん(筆者も含める)…ヒロインなら、まだ誰か忘れておいでではないですか?

次話では約60話振りにアイツが登場します!

ホントに待たせてすまんかった! だから筆者だけは許して!?

???「ニャア…?

ぎゃああああああ!!(トマトソース★ぶしゃああああ~)

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