ストロー・オブ・ザ・マリッジ⑧
ヤバイです。kingdomの新DLCが面白くて徹夜が続きそうw(綺麗な死に顔)
「よっこいせ…っと。お~本当に一瞬で地上の傍まで来れたみたいだな」
「え!? 一体何が起こったのかボクにはわかんないや…」
ストローとウリイはヨーグの山の地下世界、ノームの居るドワーフの村から何事も無く地上へと戻って来ていた。
「ストロー様、お早いお帰りで何よりでございます」
「「おわっ!?」」
ストロー達は急に足元から声を掛けられたので驚いたが、さらにその周囲を見て飛び上がった。
声の主はマリアード…何故か普段の司祭然とした衣服ではなくガイアの徒特有の黒装束姿であった。別段、ストロー達はマリアードの衣替えで驚いたわけではない。
マリアード、正確に言えばストローの周囲に平伏する同じ様相の者達が居たから驚いたのだ。
その数は軽く百を超えているではないか。現在のケフィアの住民に匹敵する人数だった。その中には覆面を被った者達も含まれていたが大半はマリアードと同じく黒いローブのような衣装を纏う者達だった。
「…えらい数だな。ところでマリアード、もう体は大丈夫なのか? それとこんなところで皆して何してたんだよ」
「昨日は重ねて不甲斐ない姿を見せてしまい、大変申し訳ありませんでした。…私がストロー様を訪ねて宿を伺ったところ、細君であるダムダ様からストロー様が精霊ノームの下へと赴いたと聞きましたものですから。恥ずかしながら、ドワーフ達の村へと繋がるという岩穴を我らの術にて隠させて頂きました。また、お帰りは本日中ということもお聞きしたので…ここで僭越ながら無事の祈りを捧げて待たせて頂いた所存です」
腕をクロスさせるガイアの徒特有の礼拝をとってマリアードは膝を突いたまま深く頭を下げると周囲もそれに倣う。
「ああ、そういや頼んでたな…って別に隠してないじゃんか」
「…アレ? 御主人様っ!ボク達が入ってった穴が塞がっちゃってるよ!どうしよう!?」
ストローの言葉に周囲からは「おお…!」という感嘆の声が上がる。マリアードは笑みを浮かべて頷き、マリアードに隣り合う者もまた同じく納得といった表情を浮かべている。
「ウリイ、だからご主人様は…ってお前には入り口が見えないのか?」
「え? う、うん。でも困ったよね、明後日にはダムダも連れていかなきゃならないのに…」
ストローは怪訝な顔を浮かべてマリアードを見やると、やっと彼は静かに立ち上がって口を開いた。
「流石はストロー様でございます。我ら大地を信仰せし者が得意とする隠蔽の秘術をあっさりと見破ってしまわれるとは…かつては精霊の眼ですら欺いたと言わしめたほどの術でしたが」
「あ。俺には見えるだけで、ちゃんと隠してくれるんだな?」
「恐れ入ります。施した術によって、視覚・嗅覚・触覚などの五感だけではなく霊感ですら惑わせ常人を拒むものですが、念の為に常に見張りを付けさせて頂きますので、どうぞご安心を…」
マリアードはそう言ってストロー達に向って優しく微笑んだ。
「そこまでして貰うのは悪いなあ…ところで」
「これは失礼しました。ストロー様が私如きをお呼びであったにも関わらず、間に合わせる事ができなかったのには理由がありまして。多忙であるストロー様に置かれては大変心苦しく思うのですが…どうか、御目通り願いたい者がございます」
マリアードはストローに頭を下げると半歩後ろに身を引いた。そこへマリアードの側に居た数人がストロー前に無駄のない動きで歩み出ると、腕をクロスさせてから膝を突いた。
「お初にお目にかかります。我らが偉大なりし雷の精霊、シュトロームよ。貴方の真名は我らが大地の巫女を通じて既に聞き及んでおります」
「どうもこんにちわ? 俺の事はストローで良いからな。ところでマリアードの知り合いなのかな」
「はい。老いた身の名はドリキャス。精霊様の御前で恐縮の至り、我らが大地たる闇の地母神ガイアに縋りし大地のガイアの徒が一抹。その中で大司祭などという位置に就く者であります。此度はストロー様に謁見が叶い、我ら一同恐悦至極にございます」
長い白髪を両分けの数本の三つ編みにして垂らし、黒くひび割れた古木のような皺の顔に深い笑みを浮かべた高齢の老人が深く頭を下げる。
「ああ…そんなに俺にペコペコしないでくれ。そうありがたがられるのは苦手なんだ。それにマリアード達には普段から世話になりっぱなしでな。頭を下げるのはむしろコチラの方なんだ」
「おお、なんと寛大な…!感謝の言葉もございませぬ…」
「本日我らが大挙して押しかけた事をどうかお許し下さい」
「細君両名ともに精霊様の子を授かったと聞き及び、我らは不躾にもささやかな祝いの品を持って参上した次第」
「偉大なりし雷の精霊様。どうか我らが祈りと捧げ物をお受け取り下さい」
「「どうぞお受け取り下さい」」
ドリキャスの周囲の者がまるで輪唱するかのように言葉を紡ぎながら前に出て、それぞれが手にストローへの贈り物を掲げた。貴金属の収められた装飾の箱。金色の毛皮に素晴らしい反物。珍しい果実や食べ物のようなものが所狭しとストロー眼前に出される。ウリイは完全に見入ってしまい「うわぁ~…」などと呻き声を上げながら手を伸ばそうとする。しかし、それはストローによって遮られた。
「とんでもないプレゼント攻撃…ちょっと待ってくれ!俺は捧げ物だのなんだのは要らんぞ?」
「細君方へのご懐妊の祝いの贈り物でもございます」
「それでもちょっと多すぎだろ!? 兎に角、ありがたいが今は一先ずしまってくれないか? マリアード、また悪いが預かってくれ。無下にする気はないから」
「左様ですか…」
マリアードが笑みを消して手を振ると、品々を掲げていた者達が一瞬でそれらをしまい込んで後ろへと下がった。「あう…」っと残念そうなウリイの声が聞こえた。
「なるほど。俺達の…ウリイとダムダの懐妊祝いってことで来てくれたわけか。あ。そうだそうだよ!忘れるところだった。マリアード、お前にやるもんがあるんだ。早く宿に戻ろう」
キョトンとした顔をしたマリアードだったがストローの指した方向にある宿に視線を向けたのだった。
◆
ストローとその一行はブルガ方面の門を潜り抜けると、そのまま宿のフロントのある3階には入らず、横の階段を降りて1階ダイニングに通じる宿の裏である広場へと移動した。
ストローの宿を見て多数が祈りを始めてしまったが、ストローは溜め息を吐いて流した。
「結構な数だが問題なく食堂には入れるだろう、先ずは飯でもどうだ?」
「お心遣い大変に痛み入ります。ですが、それには及びませぬ。我らはストロー様のおられるこの地に足を踏み入れる事が叶っただけで十分でございます。他の宿で寛ぐ者達も我らが大勢で居座れば落ちつけぬでしょう」
ドリキャスがストローに頭を下げた。マリアードも同感と言った表情である。
「そうか? 気にすることはないと思うんだが。まあ、宿の出入りは夜中の1階以外は自由だ。興味があればいつでも気兼ねなく入ってきてくれ」
ストローの言葉にその場の黒装束達が頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「…ストロー様。ところで私如きに下賜されるものとは…いったい?」
「ああ、ちょっと待ってくれよ?」
ストローは宿に向って手をかざすと半透明な画面を出現させる。
(:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン及び訓練場・子供部屋。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV3。1階はダイニング・バー・テラス(外部での飲食可能)。2階の部屋数ダブル20。3階はロビー部屋数シングル12・ゲストルーム2。4階はスイート3・現在、建物LV3が設置済みです。フリースペース(小)2棟が設置可能。※特殊条件下により支配領域拡張が可能になりました。次のレベルまで、宿泊利用者0008/2000。)
「……まあ、昨日の今日だしな。宿泊は8人か、無理もない」
「ス、ストロー様?」
「あ。悪い、この前に新しく聖堂を近くに建てないか?って話があっただろ?」
「ええ、確かに申しました。ですが…前は狭かった村もストロー様の御力によって拓かれましたから問題はないかと?」
「そうだな。じゃあ、別に他のことで好きに使って貰ってもかまわないからさ。俺の宿に接する建物をひとつお前にやるよ」
「な、なんですと!?」
マリアードの眼が大きく見開かれる。
「ん~ただなあ。どうにも俺の宿に隣接してなきゃならんようだ。立地的に4階の上か…階段があるからこの広場の奥になっちまうけど、どっちが良い?」
「ストロー様の在所の上に!? とんでもございませんっ!そんな無礼な真似などできるはずもございませんっ!!」
「お、おう。なら奥だな? ほいっ!」
ストローがスキルを画面から操作して弄ると宿1階の奥に突如2階建て近くの高さはある長方形の建物が現れた。
それを目撃したテラス席に運悪く居た客が盛大にコーヒーを噴き出してしまったようだ。
「「おおっ!? まさに精霊の奇跡…!」」
周囲の者が一斉にストローを拝み始めてしまった。
ストローは苦笑いしながらも腰から抜いた藁を咥えて歩き出した。それを慌ててマリアードが追いかける。ストローは建物の開き戸を開け放って中を確かめる。
「コレがフリースペース(小)か…っても何もないな。明り取りの窓すらないが中は体育館くらいの広さはありそうだな」
「ストロー様、タイイククァンとは?」
「へ? ああ、コッチの話だ。気にしないでくれ。という訳でここを日頃世話になっている感謝も込めてマリアード達にやろう」
「このような素晴らしい場所を下賜して頂いて…本当によろしいのでしょうか?」
「オフコース! …いや、勿論だよマリアード」
ストローはワナワナと震えるマリアードにサムズアップして見せた。
◆◆◆◆
◤ストロー◢
ノームの爺さんとの話合いは正直言って上手くいったと思う。
ただ、流石に死者の門に行くまでの準備があるから明後日にまた来いと言われた。
正直、もうちょっとこじれたりするかとも思ったが、想像以上にノームは良い精霊…というか精霊っぽくなかった。あくまでルナーと比較してだがとても人間臭かった。女好きだし、飯も美味そうにムシャムシャ食ってたしなあ。今後とも良い付き合いができればと願うばかりだ。
それに、ノームが気を利かせて村と地上へのワープポイントみたいのも創ってくれたので大いに助かった。歩きだと片道2時間以上掛かっちまうからなあ~。
これで気兼ねなく明後日ダムダも連れてノームの所に行ける。ただ、ダムダにはノームがスケベジジイが入ってることはそれとなく伝えてこう。あの爺さんなら平気で他人の嫁にセクハラとかしそうだしな。
ただ問題は地上に戻ってからだな。
俺達が昼くらいに岩穴から地上へと戻ったら外に既にマリアード達が待ち伏せしてやがるんだもんよ。驚くだろ普通?
そして思い出しついでにマリアードに俺のスキルで建てたフリースペース(小)1棟をあげたんだけど…偉いことになってしまった。
その建物に入ったマリアードが連れて来た、ドリキャスの爺さん達が初めて俺の宿を訪れた時のマリアード達みたいに泣き叫び始めてしまったんだよ。もう床に五体投地までし始めたから正直怖かったんだが。マリアードもそれ見て涙ぐみながら頷いてるだけだし…。
しかも、何とか起き上がってきたドリキャス達がさあ。
『どうかこの場を我らガイアの徒の神殿とすることをお許しください!我らの悲願を叶えて下されっ!!』
そう涙ながらに訴えるドリキャス達に縋りつかれる始末。ちなみにマリアードもその訴えに参加していた。
「オッケー」しか言えない自分が悔しいが、それでもマリアード達が喜んでくれたので良しとしよう。ちなみに俺達の挙式はこの建物がある広場で行われる事が決定した。
俺がマリアードに「本当に良いのか?」と尋ねるも即座に是の返答が返ってきた。
既に新たな神殿となったこの建物の中には幾人ものガイアの徒達によって荷物が運び込まれており、中はどこかの教会・集会場のような神秘的な雰囲気になっている。ただ、そこで問題が起きた。
「恐れながら、新たな神殿には我らが随時祈りを捧げるべく置かねばならない像がありません。どうか、ここは偉大なる精霊様、ストロー様の像を彫ることをお許し願えませんでしょうか」
まさかのモデル依頼だった。
正直言って俺は恥ずかしかった。銅像とかを作られた過去の偉人達はどのような気分だったのだろうか? 俺は何とか断れる手はないかと思案していたのだが、ふと閃いて野良着のポケットをまさぐった。
「ドリキャス老。ガイアの徒ってことは信仰する対象はガイアでもいいんだよな?」
「は、はあ。左様ですが、愚かにも我らが最も信仰を捧げるべき地母神の姿を知らぬのです。ですから大地に連なり姿を顕現なされた精霊の偶像を持って信仰を捧げているのですが…」
「まさか、ストロー様のお手持ちの品を?」
マリアードとドリキャス達の注目が俺のポケットに集まる。そうだそうだ、丁度良いものがあったのを思い出したんだ。今度ノームの爺さんに頼んでチーピィ達ブラウニーに礼を言って貰わなきゃなあ。
「あった。コレだよ、コレ。知り合いのブラウニーに譲って貰ったんだ。コレを貸してやるよ!」
ストローの手にするモノに一斉に視線が集まる。
マリアードやドリキャスすらも一瞬、「なにこれ?」と言った表情を浮かべて凝視するもその数秒後、広場から山中に響くほどの絶叫が響き渡ることになった。
正直、反省はしている。




