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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
72/103

 ストロー・オブ・ザ・マリッジ⑦

このタイトルばっかりだから変えようかなあ?(^_^;)

あと照り焼きチキンサンドは正義(鶏肉派の暴言)

◤ストロー◢


 ここがドワーフの村か…。暖かいオレンジ色の間接照明のようなもので照らし出されたのは俺も見た事が無い形式の建築物群だった。箱型ではなく球形が組み合わさったような見た目なのだ。材質はまさか金!? …とも思ったが鈍い光からしてメッキとかに使われる真鍮だろうか。そこまで金属については詳しくは無いが…それでもほぼ金属製の建物だと思う。それに表面には精密機械のような細工が施されている。俺はコッソリと電磁気を流して調べようとしたが弾かれてしまった。その細工のせいかは分らないが…とても普通の代物ではないな。


「精霊様でもオラ達の家は珍しんだべが?」

「ああ。俺の前居た世界でもこんなものは見た事が無いな」

「うははっ。神々の世界にも似だようなものがあるどノーム様は仰っでらしだが、まあノーム様は天才であられるべ。こん家さだけでなくオラ達の使う道具の大元を創られたのもノーム様だがら」


 どうやら俺の言った事を別の意味で解釈してしまったようだが、まあ、俺の生前に居た世界のことなんて別にいいか。

 それにしても…なるほどな。コレが神々の知識とかいうヤツなのか? そしてコレらを悪用して離反した連中がウーンド様が地上に降ろした炎の精霊に滅ぼされてしまった連中、というわけか。


 俺は何気なく喋って笑うドワーフ達をただ眺めていた。村の中は照明だけではなく、地中からは無数にパイプのようなものが伸びて蒸気のようなものを噴いている。

 …確かに村に近付くにつれ暖かいな。地熱か? そこまで煩くは無いが機械音が所々で聞こえるし、この村は少なくとも地上よりは部分的なものだと思うが数百年以上文明が発達しているようだな。どうにもドワーフ達が田舎者のような振る舞いをする為に妙にチグハグに見えてしまうぞ。


「おおっ!オメエ達っ無事に地上さがら戻ってぎだだが!」

「丸一日近く帰ってこながっだがら心配したべ!」


 村の中からワラワラとドワーフ達が躍り出てきた。ヤバいな、ほとんど大きさも一緒だしあからさまに子供のような者以外はまるで見た目の区別がつかない。


「驚ぐなよお? 精霊様をお連れしたんだがあ!」

「うえぇ!? 精霊様だど!」


 ドワーフ達が一斉に俺の目の前でまた毛の生えたモチ…みたいなポーズで平伏してしまった。


「やめてくれ。俺はアンタ達のとこのノーム様に挨拶と頼み事をしに来ただけなんだ…ちうかコッチの地下もかなり揺れたっていうじゃないか? 悪かっ…」


 ふと集団の先頭に居たドワーフから視線を外すとその隣に蹲っていた存在に気付いた。ドワーフの女性か…?手足と顔以外は全身を毛で覆われているものの、どうやら体形は人間とさして変わらないようである。俺の視線に気付いたのかその子がふと恐る恐るといった感じで顔を上げた。というか服を着ているからそうなんだろう。丈の長いチョッキのようなものを前のボタンで留めている。…驚いた。かなり可愛い容姿をしている。


「へあっ!? ど、どうか精霊様許してくんろ!ワダスの大事な一人娘なんだべ!連れてかないでくんろ!!」

「ゴホン……ストロー(・・・・)様?」


 半目のウリイが下手な咳払いをしつつ肘で俺を小突いた。ヤバイな、ウリイが俺を名前で呼ぶのは非常に機嫌が悪い時のサインなのだ。


「おっと悪い…ドワーフはまだ見慣れていなくてな? 可愛い娘さんじゃあないか。黙って見ていて怖がらせてしまったな?」


 焦ってつい出てしまった俺の言葉にその子が顔を赤らめて俯いてしまった。先程よりも大きな咳払いが俺の真横から聞こえる。


「…さてと、悪いがノーム様に御目通り願えるかな?」



 ◆



 ドワーフの約500人ほどがこの地下空間の村で生活しているという。村の中をゾロゾロとドワーフ達を引き連れて歩くハメになったのだが、どれを見ても物珍しく飽きることは無かった。


 ノームの鎮座する高台は村を抜けて出た先にあった。そこには既に数十人の恐らく世話役のドワーフ達が侍っており、俺の姿に気付くと何やら大声で岩の高台に向って叫んでいた。

 俺はそれをボンヤリと見ながらも高台の傍まで辿り着いた。俺の前にひとりのローブ姿のドワーフが近付き頭を深く下げる。


「お初にお目に掛かります。雷の精霊様。私はノーム様の御側役のひとり、マン・モールと申します…」

「コレはご丁寧に…じゃなかった、随分と流暢な言葉遣いだなアンタは?」

「お恥ずかしい限りでございます。長い間、地上との交流が断たれた我々は祖のドワーフ訛りが強く残っている為、我が御側役の一族はこのような言葉遣いを伝え学んでおります故。して、この度はどのような件でこんな地下世界まで精霊様自ら参られたのでございましょうか?」

「察しはついてるかもしれないが、昨日の揺れの件や他のことも併せての詫びと、ノーム様に少しばかり願いたい事があってコチラに伺わせて貰った」

「左様ですか…」


 マン・モールは俺から視線を外し、高台の上を見上げると大きく息を吸い込んだ。


「ノーム様さあ!!地上がら雷ど精霊様ばお越しですがあ!!昨日の詫びど、何がお願えしでえごどがあるんだどお!!いかがいだすますがあっ!!」


 地下空間にマン・モールの大声が木霊する。


 俺は必死に「なんでそこはさっきの丁寧な口調じゃないんだよ!?」とツッコミたい気持ちを抑えた。ウリイは歯を食いしばって自身の長い耳を抑えている。確かにダムダに匹敵するかそれ以上の大声だったしなぁ。


 だが、高台の上からの返答は返ってこない。なんで? しかし、マン・モールのピンク色の鼻先がピコピコと動いている。そして、俺に向って振り向いた。


「失礼しました。申し訳ありませんが…我らがノーム様は偉大な大地の精霊であり、他の精霊様方の祖でもある御方なのですが…やや横着な方でもありまして。ご足労おかけいたしますが、どうかノーム様のおられる高台の上まで足を運んでいただけませんか? あ。階段は高台の後ろですが、やや滑り易いのでご注意下さいね」

「え? 返事してたのか?」

「ええまあ。ノーム様は我ら御側役にしか聞き取れない周波の声を返答代わりに飛ばすものですから」

「コウモリみたいだな…まあ勝手に押しかけてるのはコッチだしな。ウリイ、行くぞ」

「う、うん」


 と言っても、この高台はデカイ。巨大な鍾乳石の柱を真横に折ったような見た目で、多分高さは30メートルは超えている。だが言われてしまった手前仕方ない、足元に気を付けて昇るとしよう。


「ね、ね。旦那様。ここはひとつボクに任せてくれないかな?」

「ええ~…何する気だ?」

「チョットはボクの事を信用してくれないかな!?」


 俺はまあ、話くらいは聞いてやるか。と思って顔を向けたのだが…。


「じゃあいっくよ~?」

「え?」


 何故か俺はウリイにお姫様抱っこされていた。しかも、ウリイはいつの間にか支族化した姿になっており、それを見た周囲のドワーフ達が腰を抜かす。

 そして、俺が抵抗する間も無くウリイは光となって鍾乳石へと突っ込んでいった。



 ◆◆◆◆



「……ふうむ。やっと来おったか」

「え…、ノーム様。階段からはまだ足音のひとつも聞こえてはいませんが?」

「よおく耳を澄ませてみよ?」


 鍾乳石の巨大な高台の上でノームに膝枕をしているドワーフの御側役の姫である真っ白な毛を持った少女、カモミールが怪訝な表情を浮かべたその瞬間だった。


「うわあ!?」

「きゃ!」


 突如として高台の床から飛び出したストローの悲鳴とそれに驚いたカモミールの可愛い小さな悲鳴が重なる。そのカモミールの可愛い仕草を見れたのが嬉しいのかノームは増して上機嫌となったようだ。


「ヒャホッホッホッホ!相変わらず愛い奴じゃ。よお来た!雷の」

「ウリイ…あんまり無茶すんなよなあ。ってああどうも初めまして、ノーム様」

「むず痒いのう。確かに儂はもうかれこれ数百万年…いや千じゃったかの? まあええ、長いこと精霊としてやっておるから、その大先輩である儂を尊敬しても仕方ないのじゃけど? しかし、お主は儂とは所縁のない存在じゃし、儂を敬称で呼ぶ必要なぞないわい」

「んじゃ、ノームと呼ばせて貰うよ。俺もストローでいい。あ。本当はシュトロームって名前らしいぞ?」

「よいよい。ではストローよ、早速じゃがお主達の背負っているものを儂に寄越して貰おうかの」


 ストローは思わずズッコケそうになった。それは支族化から戻ったウリイも同様だった。

 だが、そんな事とは関係ないかのようにカモミールの膝からピョンと飛び退いたノームが跳ね飛びながら催促を続けて促している。


「先ず、それか? 俺が勝手に地上…ちうかケフィア村の周囲一帯だが、それでも勝手にアンタの支配領域を上書きしちまったんだぞ? 怒らないのか?」

「はあ? 何を言っとるんじゃあお主は? この山の下から出れん儂が山の上の事なぞどうでも良いに決まっておろうが。それとも、ストロー。お主が大地の精霊も兼任せんか? 能力的にはほぼ問題もないしの」

「「ええっ!?」」

「ノーム様っ!?」


 まさかの大地の精霊の座の譲渡提案であった。


「……やだのぉ、カモミール冗談に決まっとるではないか!(ま、割とマジなんじゃがの。だがストローに儂の役目をこじつけても儂が自由になれる保証も無いけどの)冗談じゃぞ? 冗談!」

「心臓が飛び出るかと思いました…」

「だ、旦那様…?」

「うん。俺がイメージしてたのよりもかなりぶっ飛んだ相手みたいだな。先に土産を渡すとしようか? 特に怒ってはいないみたいだしな」



 ◆



「ガハハハッ!何じゃあこの美味い飯と酒は!? 神の酒(ソーマ)よりもむしろ美味いくらいだわい。のう、カモミールよ?」

「は、はい!とても、信じられないほど美味です!?」

「そりゃあ良かった」


 その場で土産物の飲み食いが始まり、ノームはすっかりとストローの土産物に夢中になっていた。それもそのはず、コレらの土産物はメイド・イン・ストロー。つまり宿の厨房から生み出された料理と酒なのだから。

 しかし、何故に建物外に持ち出すと消えてしまう食べ物を持ち出せたのか。それはズバリ、スキルのレベルの上昇だ。先ず、料理と酒はストローの支配領域であるケフィア村内でなら好きなところに持ち出せるようになったのだ。だが、ここは地下深くの世界。ストローの支配領域外だ。そこで新たな厨房の設備に加わった有限フードプロセッサーと有限ドリンクサーバーだ。


 (:有限フードプロセッサー。新レシピ・ステーキ、サンドイッチがアンロックされました。※追加した食材によって各レシピがストックされます。現在可能なレシピ………ステーキ/肉(empty)or魚(empty)orその他(empty)。サンドイッチ(1箱6個入り)/肉(empty)or魚(empty)orその他(empty)。)


 (:有限ドリンクサーバー。新レシピ・黒ワイン、白ワイン、ウイスキーがアンロックされました。※地上時間で1日毎に各レシピの在庫が回復します。現在可能なレシピ………黒ワイン(12/12)。白ワイン(12/12)。ウイスキー(3/3)。)


 これらが厨房に追加されたのだ。驚くべきことにコレらは村の外に持っていけることが既にストローによってその日の内に確認されている。

 有限フードプロセッサーは食材を入れることでemptyの部分に素材名と作成可能な数がストックされる。また、無限フードプロセッサーとは違いその素材が最大限までポテンシャルを引き出された料理として出される。

 有限ドリンクサーバーは名前の通りに有限。一日に出せる瓶の本数が決まっている。この世界ではワインは赤と白ではなく黒と白であるとされる。それが1日に1ダース。ウイスキーは瓶自体も小さく3本と数が少なくて貴重だ。昨夜は泣き着くウイナンに仕方なく残りの2本をストローは譲ってあげた。ちなみにそんな高価で貴重な酒をタダ同然で譲って貰ったことを知ったウイナンの妻である女傑ブンコの手によって「なんという恥晒しだ!」と惨い折檻を受けていた。


 今回、ストローが持参したのは黒ワインが3本に白も同じく3本。ウイスキーはまた飲みたいと住民達に懇願された為に1本だけだ。それと料理はサンドイッチにした。昨夜のささやかな礼だと朝一番に狩った鳥をディモドリ達のひとりが持ってきてくれたからだ。それを有限フードプロセッサーに投入すると…。ステーキ/肉(仇鳥2)とサンドイッチ/肉(仇鳥5)となった。そこでストローはより数が多く作れるサンドイッチを選択したのだ。それに箱入りなので持ち運びにはピッタリだった。出来上がった仇鳥サンドが照り焼きチキンサンドのような出来合いになっていた。4箱をノームに渡し、1箱は一緒にストローとウリイとで頂いている。濃い地鶏のような強い味と甘辛いタレとマスタード。それに薄切りにしてある胡瓜のような野菜も挟まれていて自他共に好評であった。ストローは物欲しそうなウリイに残りを全部やった。喜んでそれを食べるウリイをストローはワインの注がれた杯を片手に笑みを浮かべて眺めている。

 余談ではあるが仇鳥は非常に仲間意識の強い鳥系モンスターである。そこまで強くはないが、仲間を害した相手を決して忘れることなく必ず復讐するという習性を持っている厄介なモンスターだった。しかし、運良く夜明け前にはぐれていたものが居たと狩人の男は笑っていた。


 ふと、自分達に視線を感じたストローが視線の主が白い毛を持つ珍しいドワーフの少女カモミールであることに気付いた。


「…どうかしたか?」

「い、いいえ。この色の無いワインなど私は初めて口にしたのですが…優しい味で美味しいですね」

「ああ、この世界じゃあ黒ワイン?が主流らしいな。俺はむしろ白いのは上品過ぎてな。まあ水で割らないと飲めないような麓の不味いワインはゴメンだがな。…というか聞きたい事は別にあったんじゃあないか?」

「……その、隣の女性は支族化なさっておいででしたし。精霊様の細君なのでしょうか?」

「ん。そうだよ? ウリイは俺の可愛い嫁さ。それに俺の子供を腹にもう預かってくれてるしな」

「そうなのですか!?」


 カモミールの熱い視線を受けたウリイは口一杯にサンドイッチを頬張っており、視線に気付いたウリイは恥じらいからか顔を朱に染める。


「なあに、彼奴はまだ妻がおるようじゃぞ? ふむ。匂いからして…16、いや15の女盛りじゃの? 胸のデッカイ、ミノタウロス族の娘とみた!どうじゃ、当たってるじゃろ?」

「爺さん、匂いだけでそこまで解るのかよ!?」

「伊達に長い間女好きを続けておらんからの!それに此度、儂の許を訪れしはその娘らの願いを叶える為であるのだろう?」

「全部お見通しだな」

「フン。男なぞ、ここまで必死に動き回る時は女子(おなご)の為にと決まっておるものなのじゃ」


 ストローはノームの正面に座り直すと自身のこれまでの経緯を話して聞かせた。


「…全く持って、あの貧乳女神め。いくら女神であろうと魂の持ち主の許可も取らずに精霊に転化させるなどとは。お主も酷い目に遭ったものよ」

「いやまあ、俺の願いと一致しないわけでもないからなあ。それとマロニー様にぶっ飛ばされてたぜ?」

「ヒャホッホ!まあ大姉様は優しいからのう。アレだけ別嬪なのに手が早いのだけが玉に瑕じゃがのう。それで、ストローよ。お主はもう儂以外の精霊とは接触したのか?」

「ああ月の精霊(ルナー)だけだな。あと間接的だが樹の精霊(ドライアド)かな?」


 ストローはムラゴラド関連の出来事を掻い摘んで話した。


「月のか…アイツも不憫な存在故、お主が気に掛けてくれるなら嬉しい限りじゃわい。しかし、ドライアドかぁ…奴は厄介な存在じゃぞ? なにせもう数百年以上は人間と獣人を恨み続けておるからのう。まるでお主とは対極の思想を持つ存在よの」

「どうにかして仲良くなれないもんかな?」

「やめとけやめとけい。奴はほっとくのが一番じゃ。属性神じゃあ単体で一番の弱虫じゃから直ぐに逃げおるしの。説得は難しいじゃろ。それよか気を付けるんなら風と炎じゃな」

「炎ってのは確かあのバベルを滅ぼしたっていう奴なんだろ。それと風のか?」

「バベルのう…まあ言ってみれば儂の身から出た錆みたいなもんじゃし、炎のサラマンドラには少し感慨深いものもあるんじゃがな。先ずは風のシルフじゃ。アイツ自体は他のと違って口煩くなくて気の良い割と素直な奴なんじゃが、正確に少しだけ難があっての。暇潰しにフラっとお前に勝負を仕掛けてくる可能性があるから、絶対にのるでないぞ? 奴は属性上、お主とは火と油じゃ。被害が大きくなってしまうからの」

「なにそれ怖い」

「後はサラマンドラじゃが、お主もルナーから精霊の暗黙のルールは聞いておろう? それさえ無下にせねば事を構えることなぞまずないが、本気(・・)を出してないお主では絶対に敵わぬ相手じゃ」

「…………」


 ノームの忠告に無言でストローは答えた。


「…話を逸らすようだが、他にも俺みたいに支族を持ってる奴っているんだろ? たしかウンディーネ?だっけか」

「ぶわっはっは!自分の支族にした男にずっと逃げ続けられている水のとお主の嫁を一緒にするのは余りにも不憫じゃわい。ウンディーネの奴も意固地でのう…諦めの悪い奴なんじゃが、流石にソレで弄るとマジギレして津波を起こすからの。もし出会ったら気をつけるんじゃぞ?」

「お、おおそうなのか。ところで、ノームの爺さんには支族とかはいないのか?」

「儂は…っ」


 何故か陽気な笑い声を上げて飛び跳ねていた老人の動きがピタリと止まる。ハッとした表情になったカモミールがノームを咄嗟に両腕に抱えて隠した。


「精霊様、申し訳ありませんがそれ以上は…!」

「なんか悪い事を聞いちまったようだな」


 ストローは頭を掻いて、思わず腰から抜いた藁を一本口に咥える。


「……もう良い。今の儂にはカモミール、お主が側にいるからの」

「ノーム様…」

「ストローよ。此度は馳走になった。またまみえる時には儂の自慢の酒を見舞ってやろう。それでお主の願いとやらを早よ言うが良いわ」


 仏頂面になったノームがカモミールの胸元からひょっこりと顔を出した。

 ストローは立ち上がると、それを見て同時に立ち上がったウリイの肩を抱き寄せる。


「俺の嫁のウリイともうひとりダムダってのがいるんだが、今年の終わりに式を挙げるんだ。で、その前にコイツ達を死んだ親に会わせてやりたいんだ」


 カモミールは首を傾げるが、それに反比例するようにしてノームの眼が大きく見開かられる。



「女神ウーンド様からの助言でな。ノームの爺さん。アンタの力で俺とこのウリイ、そしてもうひとりのダムダを親が居る死者の門へと通して欲しいんだ」




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