ストロー・オブ・ザ・マリッジ⑥
更新が滞っており誠に申し訳ありません。(^_^;)
本日はあと1、2話投稿する予定ですのでよろしくお願いします。
◤ストロー◢
「まさか、帰らずに村の空き家に居たとはなあ…」
俺はウリイとダムダ。他の住民達と共にディモドリ達の為に昨日追加で作った家の中にいた。
そこにはただひたすらに平伏する3つの毛玉…イヤ毛の生えたモチか? まあ、そう見えるだけの人物達が居たよ。
「申し訳ね!オラ達みでえな余所者が精霊様さの食いモンば盗み食ってしまったがあ」
「どっか命ばかしはおだずげを…」
「だどもぉ…あの料理と酒ぇ…この世のモンとは思えねほどうまがったなあ…」
三人はブルブルというよりはモサモサしながら謝罪の言葉を述べる。すっかりと縮こまってしまっている。仕方ねえなあ…俺が近付いてしゃがみ込む。やっと少し顔を上げてくれた。
「別に謝ることなんてないさ。アレは外に居たアンタ達の為に用意したもんだからな」
「ホ、ホントだべが!?」
「えがったぁ~オラ達すっかり怒られっと思っでよお…」
「…そもそも外でコソコソしてないで普通に俺の宿に入ってくれば、むしろ歓迎したんだがなあ…」
「……そっだらこと夢にも思わながったよなあ?」
俺は溜め息を吐きながら目の前の毛玉の恐らく肩あたりを優しくポンポンと叩いてやる。するとおずおずと三人はその身を起こした。
…ふむ。見た目は人間大のモグラみたいだな。全身が赤茶色の毛でビッシリと覆われている。顔も悪いが獣人と違って表情どころか性別も判別し辛いなぁ…顔も毛で覆われているし、唯一毛で覆われていないのはピンク色の細長い鼻先だけだがコレがまさにモグラのように見えてならない。手には鋭い鉤爪か。だが体にはハーネスのようなものでバックパックのようなものやどこか機械じみたものまで身に着けている。技術自体はこの世界ではかなり高い水準に見えるな。頭には遮光器みたいなゴーグルを乗せていた。そして、極めつけはその下にあるつぶらな黒い眼が割と可愛くて俺的に可愛い動物みたいで正直グッっとくる。…何故かウリイとダムダから視線を感じるのだが、別に俺はケモナーではないからな? 勿論そこに偏見や差別はない。
「ところで、お前らはノームとやらの使いじゃあないのか?」
「そだ。オラ達はノーム様の眷属ですだ。ドワーフとも呼ばれてるべ」
「どうしてそのノーム様の使いが空き家に?」
腕を組んで様子を見ていたディモドリも尋ねる。
「そだぁ。オラ達はガイアの御許がら離れられねえノーム様に代わって地上の様子ば見にぎだんだぁ」
「…だどもそこの精霊様のお城が余りにも立派だがら、オラ達怖ぐなっちまってぇ。そいで訪ねあぐねてたんだあ」
「城ってなあ…そういや俺もこの世界の城って見た事ないけど。でもありゃあ俺の宿だからな?」
そんなに萎縮するような外見なのかね? しかし一見さんに入り辛い宿とは、少し困ったなあ…宿がデカ過ぎるのだろうか。
今度はその会話を聞いていたウリイが尋ねる。
「それで中に入って来れずに食堂に居たボク達を窓から見てたのかい?」
「覗き見しですまながっだ。だどもオメ様達が食ってる飯や酒があんまりにも美味そうだったがら」
「そいで…精霊様が外にその飯と酒をば置いて居なくねぐなったから我慢できずに、つい…」
その後の話を聞けば料理を堪能し酒の素晴らしさに感動したドワーフ達は、普段口に出来ない上等な酒にすっかり出来上がってしまったらしい。そこで気の大きくなったコイツらは村の中も見て回る事にしたのだが、夜の見張り…まあ、スンジ辺りが用を足しに家に戻って来るのを見てビビッて空き家であるココに逃げ込んだという。余談だが、移動した家と俺が新しく作った家は水道…というか蛇口だけじゃあなくて五右衛門風呂ような代物とトイレもちゃっかり付けさせて貰った。俺的に絶対必要なものだしな。当初は住民達が家に知らない部屋が出来たと大騒ぎしていたが、風呂も喜んでくれたが特にトイレの反響が凄かったな。ここ最近は俺の宿にわざわざトイレを借りに来る奴らが多かったからな。フフフ…もうウォッシュレットが手放せないのだろうな。
「不思議だなぁ~ってなあ? ガイアの奥でもないのにこの建物の中があっだがくてよお」
「居心地が良ぐってついウトウトど…」
「そして気付けば朝だったと」
ディモドリが納得したような呆れたような表情で俺の顔を見やる。俺は腰に挿してあった藁を一本引き抜いて口に咥えた。
「じゃ、早速だが行こうかね」
「ど、どこにですかぁ?」
俺の後ろからドワーフ達を覗いていたダムダが尋ねる。というかその胸の凶器が俺の頭を上からゆっくりと潰そうとしているのでそれ以上は寄っ掛からないでくれよ。
「ドワーフ達にノームのとこまで案内して貰うんだ。ついでに少しばかり土産も持ってな」
「えっ。精霊様が直々にオラ達と一緒にノーム様のとごろへ来てくだざるんだべが!」
「そらあたずがるぅ~!」
「他の精霊様とは比べモンにならんほど寛大な御方だべ!」
周囲の住民達が俺の言葉にどよめくが、俺が今回の主な目的だったと説明すると理解しきれずとも納得してもらえたのか騒ぎも収まってくる。
「ボクも!ボクも旦那様と一緒にノーム様の所へ行く旅のお供をするよ!」
「旅ってウリイ…ドワーフ達がその日にやって来たんだぞ? 俺はむしろ日帰りするつもりだしな。それにまだ宿には宿泊客が居るから…連れていくとしても、そうだな。ダムダだ」
「ええ!? どうしてボクが駄目でダムダなら良いのさ!酷いよっ!ご主人様!?」
「落ち着kおわっ!? ひ、人前ではやめろって言っただろっ!それにダムダはまだ俺に代わってフロント仕事は少し難しいだろっ。まっままだ、ダムダは男の客が苦手なんだぞっぞぞっ? だだからこれれれっ以上俺を揺らすなっななななななっ!」
俺が宿に残れと言ったのを皮切りにウリイが俺を掴んで揺さぶり始めやがった。
「やだやだやだやだぁ!! ボクはご主人様と一緒がいいぃ~の~!!」
ウリイは俺を離さずに涙目でブンブンと顔を振る。完全に駄々っ子だな。…別に子供が出来たからという訳でなく、ウリイは年齢の割に少し幼いというか情緒が少し安定してないようなきらいがあるから困ったもんだ。少しはダムダを見習えよな。
「ウリイの馬鹿っ!」
「いだっ!?」
ゴスゥン。だろうか? まるで石の巨像が殴りつけたかのような重い打撃音を残すダムダのゲンコツがウリイの頭に見舞われたことでやっとこさ俺は解放された。
「いい加減にしてよウリイ!旦那様の中身が昨日のシェイクみたいになっちゃったらどうするのぉ!!」
「…ダムダ助かった。けど、あんましグロイ事は言わないでくれよ? アンノウンシェイクの印象が悪くなるだろう」
アンノウンシェイクとは昨日のスキルのレベルが上がった事によって無限ドリンクサーバーに追加された新レシピだ。ストロー…て俺じゃなくてあのプラスチックの吸う方のヤツな? が付いた密閉された容器に入った状態でサーバーから出てくる。転生前に俺の世界でよく見たあのファーストフード店でとかの定番の飲み物に近い見た目なのだが…何故か振ると見た目と味がまるで別物に変化する全く持って謎の多い代物だ。それを嬉々として口にする皆を見てよく平気で飲めるものだと思ったくらいだ。
「ヒックヒック…でも…だってぇ…」
「ウリイ、今回は危険は無いとは思うが始めて行く場所だからさわかってくれよ? あと単純にお前が何かやらかしそうで少し不安もあるしな(キッパリ)」
「若旦那…そい言わずに連れていってやったらどうだい? たとえノーム様が相手でも若旦那がいりゃあ敵無しだろうさ。アタシ達も今日は朝からダムダを手伝うから大船に乗った気で行っておいでよ!なあ、そうだろリン。クリーも」
「大丈夫だニャ!今日はずっとダム姉のオッパイ遊んでるから平気だニャ」
「だ、ダメだよリン…そんな事したら。あの、ストロー様…微力ですが私も手伝わせて貰いますからその…」
メレンとリン、そしてクリーがダムダの側に寄り肩を叩く。俺はメレン達の言葉に顔を少しだけ顰めたがやがて大きな溜息を吐いた。
「仕方の無い奴だ。俺が宿を外す時の為にお前達を迎え入れったつーのに…それになあ、俺の子供を産んでくれるお前達を置いて俺がどっかに消えちまうはずがないだろが。あの時、ちゃんと約束しただろう? まったく…馬鹿みてえに可愛い奴だなあ。…ダムダ、済まないな。今日1日頼めるか?」
俺は泣きっ面のウリイの頭をグシグシと撫でてやると涙を拭い頬を優しく撫でてやった。それからダムダの方を見つめた。
「…はい、わかりましたぁ旦那様。ウリイも旦那様や他の人に迷惑掛けたらダメだからねぇ?」
「う、うん!わかったよ…ありがとう、ダムダ。ボクがダムダの分まで旦那様をお守りするよ!」
俺は二人のやり取りに苦笑いを浮かべる。そんなに俺ってば保護対象に見えるのか? だが、そんな俺達を見てか野郎共が居心地の悪そうな表情をして顔を逸らしている。それを女達がやや冷ややかな視線を浴びせている。ああそうか、この世界じゃあこのケフィアの村が稀有な方で妊娠した女ですらほったらかしする男の方が多いんだったな。
「さて、じゃあちょっとばかし支度するから宿に寄るぜ? ドワーフ達も案内よろしくな」
◆
「ここか…」
俺達はブルガの森への山道を数百メートルばかり行ったところにある岩場の隙間を覗いていた。確かに人間が通り抜けられるほどの大きさがある穴がある。コレがノームとドワーフ達の住まう地下世界に繋がる道なのだろう。
「こんなところに…!」
「昨日の揺れでか?」
一緒についてきた面々も驚いた様子で穴を見ていた。一方ドワーフは地面に這いつくばる様にしてまた毛の生えたモチのような姿になっている。どうやら陽の光が苦手だと言うのだ。手足や首すらも引っ込めて毛玉の表面にゴーグルだけがピコピコと愛らしく動いている。
「そぉだ。がなり昔にぃオラ達の御先祖様が塞いぢまっだ地上へと行き来する穴道だべ」
「なんでも、ノーム様さ裏切りおっだ馬鹿者共が戻っでこれねえようにしたんだどが…もうかれごれ千年以上は前の話だそうだあ」
「それって…」
俺は女神、多分マロニー様とウーンド様から聞いた話を思い出したが黙っていることにした。
…多分、炎の精霊に関する話だったか?
「まあいいや。それじゃあ行ってくるよ。そうだ、マリアードが復活してきたらここをどうやって隠すかとか相談して決めといてくれないかな?」
「ああ、滅多な事じゃブルガの方の山道を行き来する人はいませんけど。事情の知らない者が迷い込んでも困りますもんねえ」
のんびりとした口調でブルガ方面の門番であるゴッボが俺の言葉に頷く。他の住民達も同様に頷きあって「そうだよな」と相槌を打っている。
「よし。じゃあドワーフ達も道案内改めてよろしくな」
「勿論だあ。ドワーフは受けた恩ば必ず返すだ!」
「「んだべ!」」
毛玉達がスルスルと穴へと入っていく。俺は土産物を入れた背嚢を背負い直すと入口の岩に手を掛ける。
「おいウリイ、行くぞ」
「うん!」
俺が振り返る前に喜色満面の笑みを浮かべたウリイが後ろから俺に抱き着いてきやがった。
「ぐええっ!? 頼むから首に抱き付くなっつーの!」
◆
地上から穴へ入り進んで2時間くらいは経っただろうか。勿論、道中は暗い。真っ暗だ。俺はモチ形態を解除したドワーフ達から予備のゴーグルを借りて身に着けていた。暗視装置みたいな機能があるようで驚いた。コレ…かなり高度な機械だぞ?
逆にドワーフ達は完全に闇を見通せるようでつぶらな黒目を露わにしている。俺の後ろに居るウリイも夜目が効くようでゴーグルは要らなかった。さらに、道中は割と狭かったりアップダウンが激しかったので俺はウリイを心配したが余計な心配に終わった。ウリイの4本もある脚は多脚戦車のようにかなり自由に動かせるのでどんな勾配でもへっちゃらだった。まあ俺は多脚戦車なんて転生前にロボットアニメくらいで見掛けただけで実物など知らんがな。
長い穴道をやっと抜けたかと思ったら今度は巨大な広い空間に出た。むしろ明る過ぎて驚いた俺は慌ててゴーグルを外した。上も下も膨大な量の青いトゲ状の結晶でビッシリと覆われている。
「すげえな…クリスタル、水晶かなんかの鉱床か?」
「んだな。鉱床と言うべが…畑っつた方が正しいがなあ? オラ達は普段、この光石とキノコくらいしか食べれねえがら」
「「石を食う!?」」
「んだよ? まあたまにマヌケなワームが顔出してごっつおになっだりすっけどなあ」
「だば精霊様んとこの食いモンには叶わねえべ!」
「そだなあ!うわははっ」
石ころを普段から食っているのか? という俺達のツッコミに全く動じないドワーフ達が笑い声すら上げている。ドワーフ、ねえ? 俺のイメージとしてはヒゲモジャの小柄でやたら鍛冶力が強い種族のイメージが勝手ながらにあったのだが、まるで別物だったな。
「あどはここを渡れば直ぐにオラ達の村とノーム様がっ……」
「…どっだ?」
急にひとりのドワーフの身動きが止まり、他のドワーフが首を傾げる。
「うっかりしてただ!? 精霊様達はオラ達みでえにレーンを移動する道具ば持っておられねえんだぞ!」
「ああ!ホンドだあ!どうする?オラ達に捕まって貰うだが?」
「馬鹿オメエ!途中で落っことしてまっだらどうずんだぁ!?」
そういや穴道の先には少し地面がせり出しているくらいでこれ以上の足場がない。よくよく周囲をを見れば細長い金属の鉄骨のようなものが所々に奔っている。なるほどコレをフックか滑車のような道具でもって移動に使用しているのかもな。
「お二人にはちょっど待っでもらっでよお? オラ達で採石用のカゴば取ってくるべが」
「オメエあんなモンに精霊様を乗せて行くづもりがあ? グラグラして危ねえし、流石に怒られっぞ?」
俺はそっと近くにあるレーンに触れて感触を確かめた。…コレならいけるか?
「イヤ、大丈夫だと思うぞ? ちょっと試してみるか…ウリイ俺に掴ってくれ。あ、首は絞めるなよ?」
「う、うん…」
俺は掴ってきたウリイの腰に手を回して抱きしめると、体の表面に薄い膜を張るようなイメージを浮かべる。すると俺とウリイの身体が青白い光に覆われる。そして俺は頭上にあったレーンに向ってその光の幕を引っ張るようにして飛ばす。フワリと浮いた俺達はそのレーンにぶら下がった。
「ひゃあ!? ご、御主人様なにしたの!」
ウリイが可愛い悲鳴を上げた。
「おお!流石は精霊様だべえ」
「んだばオラ達についてぎで下せえ」
ドワーフ達が腰辺りにある装置を弄るとガシュンという音と共に射出されたワイヤーフックのようなものがレーンへと吸い付いた。それと同時に腰のその装置が機械音を上げながら唸り出し、ドワーフ達をレーンへと釣り上げた。そして装置の小さなレバーを手の鉤爪で器用に操作するともの凄いスピードでレーンを滑走していく。 俺も負けじとそれを追った。
「ひゃあああ!? 怖いよご主人様ぁ~!」
「ちょ!? やめろウリイ!前が見えなくなるだろ!」
ジェットコースターよろしくな速度に悲鳴を上げたウリイが目をギュっとつむって俺にしがみつく。こんな時になんだが…ダムダが規格外なだけでウリイもかなりのものを持っているのだ。おかげで俺の顔半分が彼女の胸に埋まってしまっている危険な状態であった。
ほんの1分にも満たない時間だったのであろうが、別の意味でもスリリングな滑走を終えて俺達はこうして大地の精霊の待つドワーフ達の村へと到着したのであった。
あと首が痛い。破壊力の高いダムダを連れてこなくて正解だったかもしれんな…。




