表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
7/103

 :スキルの初期設定を行ってください。


 その時、歴史が動いた(嘘)

 


 ―異世界グレイグスカ。




 そこは諸元の闇の女神たるガイアとその娘たる女神達に創造されし世界。




 その異世界の海に浮かぶ4大陸の内、知識と衰退を司る女神ウーンドの神座から見下ろす大地たる北ルディア。天空から舞い降りた光の粒子がひとりの人間の男の姿を形作っていく。


 男はこの世界とは異なる世界の魂より転生したのだ。その名はストロー…。



「おお~。すっげえなあ~」


 興奮を含んではいるものの、やはりどこかのんびとした声をストローは思わず上げてしまう。


「ん~っ爽やか!空気がンまいなあ!? もン凄い大自然のパノラマってヤツだな。 …。 ………。…しかし、まあ、なんだな。自然しかないとうか…森?の中だよなあ…」


 周囲を見渡すうちにストローの感動が物凄いスピードで冷めていく。


「自分で頼んだとはいえ、まさかのジャングルスタートとは難易度高めだろ…」


 ストローは数百メートル、果て無き森を進んで独り言ちる。


「遭難かコレ? いや、どうなんだろなあ~意外と人里の近く、だとか? (息を吸い込む) おお~いっ! 誰かいませんかぁ~!?」


 ストローの叫び声は鬱蒼と茂る木々の枝や葉に吸い込まれる。そして、森は何事もなかったかのように静寂を取り戻した。


「まさかの人口率ゼロ・パーセントの可能性が濃厚…いやこれ俺が悪いよなあ? 女神様に文句を言うのは違うなあ~俺がもっとこうちゃんとバランスしてる感じで伝えないのが良くなかったんだな!うん」


 ストローは良く言えば、前向きな性格であった。


 ものの数分後にはスキップしながら森林浴を楽しんでいた。


「いやあ~でもやっぱり田舎暮らしとかに憧れてたし、こうやって自然に触れるのはいいよなあ! あ。そうだマップとかそーいう機能ないのかね? ゲームみたいに… ステータス・オォォプゥンッ!」


 森の中に一瞬の裂帛の気合いの後、静寂がまた押し寄せる。


 その後、ストローはポーズを変えたりしながら声を上げ続けていたが…


「ん~?やっぱそんなのねえか。いくらファンタジーつってもなあ~…よし、今度はこう指先を真っ直ぐに…マップ・オォォ(ポヒン♪)」


 小気味よい音と共に、不意にストローの眼前に半透明な板が出現した。しかし、残念ながらストローは突き出した自分の手を止められなかった。

 右手の人差し指からグキッという嫌な音と伝わる感触が罪も無い男を襲う。


「ぐああッ!? 指がぁ!」



 しばし、指をおさえ地面に転がって悶絶していたストローが顔を上げると…やはり空中に先ほど現れた半透明な板、いわゆるウインドウ画面が浮いていた。


「あ~痛え… しかし、なるほど指先を前に伸ばすだけ?でよかったのか…女神様に聞くべき必須事項だったな、忘れてたわ。どれどれ… ん?」


 ストローが画面を覗き込むと、そこには白いフォントで":スキルの初期設定を行ってください。"と表示されていた。


「…スキル。おお、宿屋ね! ってどうすりゃいいんだってばよ?」


 ストローが首を傾げると画面が更新され、":スキルをイメージしながらスキル名を口にしたください。その後、スキルの初期設定が自動的に行われます。"と表示される。


「ふむ。イメージ、ねえ? 宿屋…宿屋…イメージ…精神力…ハート… 心の力を…私に下さい…!」


 ストローは前世の記憶、正確には若干怪しい程度のゲームの記憶…某国民的なRPGの宿屋を思い浮かべる。何故か屋根がなくて丸見えでまさかのプライベート保護率ゼロ!タンスもクローゼットも壺やタルも覗き放題盗り放題!オマケにベッドの数があからさまに少なすぎてプレイヤーが操作するパーティは折り重なって寝なければならない!…そう、そんなファンタジーな宿屋を…!


「スキル…(心の力を8108ポイント使った!※本人談)…やどやッ!」


 ストローが手をかざして腹の底から叫ぶ!


 

 ボンッ。



 目の前に虚空からベッドが1台現れた。シングルとダブルの中間くらいの大きさで、木彫だがかなり凝ったデザインに細かく美しい花や鳥をモチーフとした素晴らしい彫刻があしらわれている。シーツは清らかな山脈の雪のように真っ白で清潔、とっても柔らかそうだ…!


 それは見事なまでに完璧、そう非の打ち所がない、宿屋に置かれる為にあるベッドだ。


 (ポヒン♪)


 呆然とするストローを無視してカタカタと画面が更新される。


 (:スキル・やどやの初期設定開始。………ロード………範囲探索開始。建築物の反応無し。座標X・座標Y・座標Z、空間の制限、反応無し。………ロード………範囲設定完了。範囲・世界全域に設定しました。)


「ベッド…だけ? ハハハ。まあ確かゲームでも地面にゴザみたいなの引いただけで初期の20倍くらいの利用料とるとこもあったしなあ…なるほど、ベッドがあれさえすれば、もうそこは宿屋なんだ…」


 ストローは遂に世界の隠された真理を知り、何故か自身の精神は宇宙へと旅立った。


「ってイヤイヤ…流石に部屋っつーか壁は必要だろう。まあリアルなとこで屋根もいるよな? イヤ待てもうそこがおかしくないか? 普通に考えて建物が必要だろ!? 常考!?」


 (ポヒン♪)


 ストローは先のスキル範囲設定の更新を見過ごしてはいたが、画面が更新されている事にやっと気づいた。


 (:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用不可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV0。ベッド設置数1。現在、建物LV0が設置可能です。次のレベルまで、利用者0/10。)


「お! なんだやっぱり建物も出せるんじゃないか。良かった~異世界に来てテナント探しとか鬼の難易度だろ。しかも、なんか締め出し、とかもできるのか。これで悪質なクレーマー対策も安心だな!じゃあちょっと良さ気な場所まで移動するか…流石にこんな場所で地主にばったり遭遇することもないだろう。…ないよな?」


 目の前のベッドを消すとストローはルンルン気分でまた森の中を散策する。やがて視界が開け小高い丘と苔むした空き地が見えてきた。


「…うん、なかなか良いロケーションだな。宿の周りを囲む大自然!…まあ、森の中だから風景はどこも変わらないか。もうここでいいや、ホイヤッ!」


 ストローが適当な掛け声をかけると低い緩やかな斜面の崖の前にポツンと小屋が現れる。小屋というよりは簡易の屋外取り付けトイレを4つ並べた程度の大きさだった。


「…ショボ。看板とかも無いのな…まあレベルゼロならこんなんか? 早くお客が来てくればいいが…その辺の草むらにいないかな?野生の利用者とか…」


 ストローは諦めて小屋のドアを開いた。


「おお!? 中は割と綺麗じゃあないか!…笑っちまいそうになるほど狭いけど。…お決まりのカウンターに、さっき出したベッドももう置かれてやがる。お、テーブルと椅子もあるじゃあないか!いいじゃん。…つーかもうコレだけでギュウギュウだなあ~ハァ、鶏小屋くらいの広さも無いから仕方ないが。利用者が閉所恐怖症とかじゃあなきゃいいんだが…アレ? あのドア、なんだろ。裏口、か…?」


 ストローはカウンターの奥にあるドアに気付いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ