ストロー・オブ・ザ・マリッジ②
話の更新が進まなくて申し訳ない。(^_^;)
ストローの言い訳(笑)は次話からです。
地震。それは異世界グレイグスカにとっては天変地異にも等しい現象である。
そもそもこの世界には大陸プレートのぶつかり合いやズレにより生じた振動は起きえない。
何故ならばこの世界は平らだからだ。
否、惑星ではないのだ。巨大な球体の下半分を大地、つまりガイアの領域が占め、その表層が海と地上。そしてそれ以外が大気で構成された言わば世界そのものが惑星サイズの生命球のようなものである。そして人々が言ういわば星のように空に輝くものは"神座"。神々の在所であり、世界の外である宇宙という空間は存在しないのだ。
そこでだが、この世界ではここ数千年の間ではこの地震とも呼べる現象が起きたのはたったの2度だけである。先ずは千年ほど前に炎の精霊サラマンドラがかつて北ルディア南方で興った人智を超えた機械文明国家バベルを滅ぼす為に起こした破壊の力によって。そして、最も最近なのが悪神エイリスによって約2百年以上前に起こった"大破壊"によるものだ。この被害が地震によるだけでない事を加味しても、かの悪神エイリスによる災害ではこの世界の半分近くの生命を失わせたと記録にある。つまり、口伝とはいえ、この地震の恐怖は確実に現在の地上を生きるあまねく者達に伝わっているのである。
「「うわあああああぁああ~~~!!?!」」
「ガイアの怒りだあ!?」
「世界の終わりだあぁ~!!」
ストローが何気なく行使した力によって、現在ヨーグの峰にあるケフィアの村の住民達は阿鼻叫喚の地獄絵図と化してした。
「オイオイ…ちょっと地面が揺れたくらいでさあ。お前らも焦り過ぎだろう?」
「な、なに言ってるんだよ!? ガイアが揺れてるのに落ち着いてらんないよっ!!」
「ううっ~お山がひっくり返ってしまったんですかぁ~!?」
ストローに両側から覆い被さってきたウリイとダムダもこの慌て振りである。ダムダは既にガチ泣きしていたが。
揺れは数十秒の間続いたが、地面の光が弱くなると共に徐々に収まった。
「……終わったか。ほらほら皆、起きた起きたぁ!もう大丈夫だぞ~」
ストローが手をパンパンと叩いて地面に蹲っていた面々に声を掛け、自分の腰にしがみついたままの二人の頭を優しくポンポンと叩いた。
「ウリイとダムダも見て見ろよ。宿がまたチョットだけ大きくなったみたいだぞ?」
「「……へ?」」
ストローが腰が抜けてしまった二人を助け起こすタイミングで周囲からもはや当然のような叫び声が上がる。
「「なっ なんじゃこりゃああああぁあああぁぁぁ!?」」
広場…いやそこはもうかつての広場とは呼べない場所であった。日干しレンガや不揃いの敷石などではない、均一かつ色も美しいモザイクアートが一帯を覆っていた。変化に気付いた住民達は驚いて床から飛び上がってしまう。さらには大穴との頼りないばかりの木の柵は撤去され、代わりに頑強な金属製と思われるバリケードが完全設備されていた。
「こ、コレって…地面に敷き詰められているのは磨いた石なのか? 宝石なんじゃあねえだろうなあ…」
「おい…アレ、見て見ろよ…」
「え? 旦那の宿がどうかし…………なあにあれぇ」
皆が呆けて見上げていたのは2階から4階建てになった宿屋だった。否、もうそれはストローの前世でいうホテルだった。見た目は既に木造ではない暖かい色合いの石造となったていた。ところどころで「うっ」という呻き声が聞こえるが無理もない。皆、こんなに高い建築物などを見上げた経験がないのだ。遠い塔や山を眺めるとのは違い、この場の者達にはまるで目前に突如として巨人が立ち上がったかのようなものなのである。理由はこの世界にそこまで高層建築物が存在しえないことだろう。かの千年前のバベル崩壊からの名残りなのか、この世界には高い建物を建てること自体を禁じようようとする動きが今なお残っている。中央の要である王都ウエンディの王宮ですら3階相当の高さしかないのだから。
「へえ。一気に4階建てとは太っ腹だなあ~!コレなら客を今までの倍は受け入れられそうだぞっと」
ストローはスキルの現状を確認する。
(:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン及び訓練場・子供部屋。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV3。1階はダイニング・バー・テラス(外部での飲食可能)。2階の部屋数ダブル20。3階はロビー部屋数シングル12・ゲストルーム2。4階はスイート3・現在、建物LV3が設置済みです。フリースペース(小)2棟が設置可能。※特殊条件下により支配領域拡張が可能になりました。次のレベルまで、宿泊利用者0000/2000。)
「へえ。だいぶグレードアップしたみたいだな? よっしゃ早速入って確認…」
「「ぎょええええぇぇぇ~!?」」
今度は広場の上、つまりは村の方からの悲鳴が上がる。
宿とその周囲の変貌ぶりに放心していた住民達が我へと返り、急いで宿の横をすり抜けて村へとの路を駆け上がろうとした者達の脚が止まる。かつては大穴の傍まで無理くりに谷を掘って作ったような歪で曲がりくねった狭い階段しかなかったはずなのに、そこにあったのはまったく未知の石材のようなもので補整された村まで真っ直ぐに伸びる広い階段だった。しかも手摺りまであり、端はスロープ状にまでなっている。覗き見れば村の聖堂が見えそうである。
「ど、どうなってやがるんだこりゃあ…」
「兎に角よお、村の様子を見てから考えようぜ!」
その日、ケフィアの麓にあるアンダーマインへのアーチ門の門番である男スンジは前方を走る村の住民達が階段を昇り切ったところで次々と膝を折って呆ける様を見て嫌な汗が止まらなかった。
「………村が、なぁい…?」
目を回しそうになったスンジにすっかりと様変わりした場所から声が掛かる。
「アンタぁ~!?」
「おっ、ギュー無事だったか!? 何があった!」
スンジの妻であるギューが抱き付く…というよりも傍から見るとタックルに近い形でスンジにぶつかってきた。普段の慣れなのか、さほど気にせずに質問で返すスンジであった。
ケフィアはヨーグの峰をかなり無理して拓いた村である。段差も激しく道も渦を描いたように複雑だったはずだが、今や見渡す限りの平地であった。しかも恐らくかなりの距離となる周囲をグルリと立派な塀で囲まれているではないか。
「はっ、家は!? 俺達の家が無いぞ! どこだ!?」
「アンタ、家ならあそこだよ…」
そう言ってギューが指をさす方向、この村の中央に位置するマリアードが詰める聖堂から少し離れた位置にひと回り大きい長老の家を先頭に布張りの家屋が綺麗にひと並びになっていた。
ストローの起こした地揺れに驚いて家の中に逃げ込んで震えていたが、揺れが収まり恐る恐る外へと出てみればこの村の変わり様…驚いて先の悲鳴を上げてしまったのだと女衆は話した。
「おお~…コッチはこんな感じになってんだ。イヤしかし物が無いから殺風景だなあ~…あ、コレから新しい家も建つんだし問題無いか」
そこへ階段を上がってのほほんと登場したこの現象の張本人であるストロー。そして信じられないような風景を見るような表情のウリイとダムダ。そして、未だに住民達よりも酷い状態のマリアードは完全に腰が抜けたのか…ガクガクと震えながらハイハイで後ろに続いていたようだ。
「ス、ストロー様…一体何を、このケフィアで何を為されたのでありましょうか?」
「ん? ああ、区画整理ってヤツかな? ウーンド様からの提案でな。ちょっとこの土地の支配権をノームからジャックして…って通じないか。ああ、無断で支配権を俺に上書きさせて貰ったのね。まあ、多分ノームがどんな奴か知らんが怒ると思うけど…それが目的でもあるからさってッ…マリアード、大丈夫か?」
ストローは足元でマリアードが完全に潰れてしまった為、同様にハイハイで必死にマリアードの下に駆け付けた覆面装束達に介抱を願い出た。
「にしても…お前らなんでずっとそんなことやってんの? もう揺れないよ」
「お、お許しを…我らは大地へと流れ込む膨大なスピリットによって地面へと押し流され、何とかこの体勢で辛うじて移動できるのがやっとでして」
「精霊様、どうか平に御容赦を…!」
「なんだかよく分らんが、俺のせいで何かゴメンな? マリアードの調子が戻ったら俺の宿に連れて来てくれるか? チョットした贈り物があるんだ」
「お、贈り物…? 精霊様から直々の贈り物でございますか!?」
「ははっ!この命に代えましても!」
マリアードはかなりの時間を掛けて聖堂へと撤収されていった。
「さて、どうするかね」
ストローは改めて周囲を見やる。
ここで拙い図面で誠に申し訳ないが、このケフィアがストローの気紛れでどのように様変わりしたのか見て頂きたい。
………コレは酷い。だがものの数分で描き殴ったとしても言葉に余るが、残酷にも本文は構わずに続くことをご了承願いたい。
まず図面の黄色い四角のような物体がストローの宿である。そしてその周囲とケフィア村の家々の大まかな位置を描いたものである。このように村の行き来には岩肌と段差が激しいので道が狭く入り組んでいるものと考えて頂きたい。中央にあるのが石造りの聖堂、そしてひとまわり大きな赤い点が長老の家である。
…さて、これがどうなったのかというと?
コレだ。もはやそこに前の面影はない。山の一角が切り取られてしまった真っ平らな台地がそこにあるだけだった。




