表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
58/103

 ブラックトロール

仕事が休みじゃない祝日など要らんっ!!(大激怒)

◤ストロー◢


「さあ、好きに掛けてくれ」


 俺は俺の宿の玄関を何とか潜ってロビーへと足を踏み入れた3体のブラックトロール達に食堂のテーブルの椅子を勧める。

 …3体じゃあなくて、3()が正しいか。俺の勘が当たってればだがな。


「遠慮しなさんな。今夜はアンタ達の貸し切りだ。それにその椅子は絶対に壊れない…まあ、床に座る方が落ち着くんなら止めやしないが」


 ブラックトロールは真っ黒なタールかゴムのような粘体に身を包まれたような人型の異形だ。ただ、人間と同じ白眼と瞳があることでどうにか顔があるものと判別できる。


「「…………」」

「……あの魔術師の青年と赤髪の少女は?」

「あの二人ならうちの従業員…まあ、俺の嫁さんなんだがな、2階の部屋に連れていって寝かしたよ。もう明日の朝まで起きてきやしないさ」


 体形に合わない椅子を壊すかもと思ったのか、床に座り込んだブラックトロール達のひとりが俺にムラゴラドとロトスアンの様子を聞いてきた、随分と人の良い連中だな。


「さて、ひとまずはあの困った全裸を穴の底から連れてきてくれた礼だ。先ずは食事とでもどうだ?」

「…心遣い痛み入る。しかし、我らは食事を必要としない身だ。いや…食べたくても食べられないと言った方が正しいな…」


 自嘲気味な笑みを零したような気がした。


「そりゃあ残念だな。まあ、明日の朝にでも改めて食ってくれよ?」

「…それは、どういう?」


 3人揃って首を傾げる。…こう見るとなかなかに愛嬌のある見てくれかもしれん。まあ、不気味なのは変わらないけどな…飯が食えないってんなら本題に入っちまうか。


「んじゃあ、早速だが聞きたい。アンタ達は長老…ラズゥの身内だな?」

「…………」


 だんまりかよ。まあ、長老にあんだけ恨まれてればなあ。


「雷鳴の異名を持つ大剣士ディコン。その妻である魔術師モーガン。そしてその息子、魔法戦士ハンペリオン…。長老がいつも酔っぱらうとこの話をするもんだからなあ、嫌でも覚えちまったよ。まあ、疑問に思ったのは長老の名前を知ってたからかな? 恐らく必死に自分の息子を守ろうとしたんだろうから、仕方ないよな。 どうだ? 人払いした訳を察してくれたか? 腹を割って話してくれないか」

「………フゥ。あの子には、ラズゥには決して漏らさないと約束して欲しい」

「あなた…!」

「父上…」


 両隣にいる2人を手で制したのが、大剣士ディコン。長老の親父か。そいで声からして、残りが母親のモーガンと兄貴のハンペリオンか…。


「百年と十数年前になる。再び、我が息子ラズゥに顔を合わせた時。我ら3人は死んだと告げている」

「どうしてまた? そんな姿になっちまったからかい…」


 ディコンは顔を横に振る。てか目を閉じられたらどこが顔か判らなくなっちまうだろ。


「……ラズゥからはどの程度、話を聞いている?」


 俺は覚えてるだけの事を話した。


 …悪神エイリスが2百年前に引き起こした"大破壊"。

 その復興の兆しが見えた頃に現れた邪竜マッドロード。

 常にその身から放たれる毒の瘴気が北ルディア全土をどす黒い毒の雲で覆った。これを放置すればいずれ北ルディアは死地と化す。

 そこへ女神マロニーに召喚された竜殺しの一族がオーディン家だ。

 邪竜との死闘は数十年にも及び、遂にマッドロードを宿の目の前にある大穴へと追い詰めた。

 その時に生き残っていたのは大剣士ディコン。魔術師モーガン。魔法戦士ハンペリオンだった。

 家族の末子であるラズゥを従者と共に地上に残し、邪竜と最後の闘いへと赴いた。

 悪竜は倒され、北ルディアは救われたが、3名は戦死。


 その後、大穴の側にラズゥが築いたのがこのケフィアの村。


「っと掻い摘むとこんなところか?」

「……戦いが終わった後は間違いないのだろうがな。そもそも邪竜と呼ばれたマッドロードは悪しき存在などではなかった」

「へ?」


 俺は口に咥えていた藁を思わず落としそうになった。


「どういう事だ?」

「我ら一族が召喚された目的はマッドロードを倒す事。これは間違いはないのだ。だが、何故に女神達が憤ったのか? それはマッドロードもまた悪神エイリスによって狂わされ利用された為だ。地上に毒を撒き散らし、悪神復活の為の悪意(・・)を集める為にな…!」


 ディコンの拳?からギリギリと音が鳴る。悪意ってなんの事だろう?


「…私も詳しくは知らぬのだが、かの悪神エイリスはどんな理由があるのかは知らんが、この世界の上級神でありながらこの世界そのものを破壊するつもりだったそうだ。エイリスは悪意を司る神でな。悪感情を抱いた者の心から力を得る化け物なのだという。かつての八勇者によって封印された現在に至ってもなお、ガイアの手から逃れようと機を伺っていると私は一族の者から伝え聞いたのだ」

「八勇者、ねぇ…やっぱり七勇者てのはアデクのデマかなんかなのか? じゃあ、マッドロードは好きで暴れ回った訳ではなかったと?」


 ディコン達はゆっくりと頷いた。


「そもそも生き残った私達をこの地に導いたのは精霊ドライアドだ。マッドロードは元は精霊の秘境にて穏やかに暮らしていたドラゴン・フェアリーという竜種の妖精族だったそうだ。"悪神の悪足掻きによって姿を歪められてしまった我が眷属を解放して欲しい"そう嘆願されてな…」

「ドライアド!? ふうん。そんな事があったのか…」

「そして、何故私達がこの姿かと言うとだな。ブラックトロールはマッドロードの血の呪い…いや祝福なのかもしれないな。私達以外で穴の底に暮らすブラックトロール達は実質眷属でも使い魔でもない。マッドロードを頼って穴の底までついてきた者達…元は皆、人間だ。それも見捨てられた民達だ。悪神エイリスに理性を破壊されながらもマッドロードは自身の毒から逃れられない者達を自らの血を使ってブラックトロールに変えたのだ。私達も最後の戦いで毒に蝕まれ地上へとは戻れなくなり、死を待つばかりの身となった。しかし、死の間際に理性を取り戻したマッドロードが私達をブラックトロールへとしてくれたので生き延びたのだ。この身体は周囲の微々たる魔力だけで生きていけるのでな…だがこの姿になってしまった以上、ラズゥとは暮らせないのだ。この身体は陽の光に弱い。昼に地上に這い出ればいずれ死ぬだろう。だが、それでも良いのかもしれんな…」


 3人とも俯いてしまった。オマケにその愛する息子に仇みたいに思われてりゃあ…そりゃあ切ないよなあ。


「……よっしゃ!! ウリイ! ダムダ! お客様を3名、当店自慢のベッドまでご案内だ!」

「まかせてよ!」

「はぁ~い」


 いつのまにか2階から降りてきていたウリイとダムダに俺は命令を出した。


「ちょっと待ってくれ!? 私達は朝になる前には穴に戻るぞ!」

「まあまあまあまあ…今後の事は朝起きてから決めなよ? ちょいと早めに起こしてあげるからさあ」


 俺はディコンを担ぎ上げる。うおっ重てえ! …でもまあ、あの二人に乗っかかってこられるよりは…余計な事は考えないようにしよう、うん。


 ウリイとダムダも鼻歌交じりに残りの2人を軽く担ぎ上げた。


「「うわあ!?」

「な、なんという膂力!! お主らホントに人間と獣人か!?」

「あ~チョットだけ惜しいかな?」


 ジタバタ暴れられてもなんのその、食堂からロビーを通り抜けて1階のベッドまで案内する。手荷物が無くて助かるぜ。


「あらよっと」

「ヨイショ!」

「おやすみなさぁ~い」


 ポンポンとブラックトロール3名様をベットの上までご案内してやった。


「なんの真似、だ…Zzz…」

「「グーぴーグーぴー…」」


 一仕事終えた俺は手拭いで額を拭く。しかし、それを見ていた二人に両方からハンカチ攻撃を受けてしまう。痛え!ゴシり過ぎだろ!? 顔取れるわ!!

 俺がもう止めてくれと言う前に珍しく二人の手が止まる。


「…え!? この人達って人間だったんだ!」

「うわぁ~。あの魔術師さんみたいにぃ、呪いが解けたんですねぇ。…ってこの顔ぉ…どこかで見たようなぁ~?」

「チョット見てよダムダ! コッチのひとかなりイケメンだよ!?」

「わっ!ホントだぁ」


 煩いよ。起きるだろ?



 まあ、コレで今回も一件落着ってヤツだな!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ