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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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☞暗い穴の底と不死身の男

呪いは消えたが、他の能力値までは変わってなかった件。


なんかこのタイトルで誰か小説書いてくれないスかね?(泥酔)



 僅かな陽の光も届かぬような暗黒の世界。そこは、ヨーグの山頂の山々に囲まれ隠された"ドラゴンホール"の底である。かつて、悪神エイリスによって引き起こされた"大破壊"後、復興の兆しを垣間見せた北ルディア全土を恐怖に陥れたマッドロードの名を持つ悪しきドラゴンがいた。しかし、女神達が遣わした超人・ドラゴンスレイヤー達に追い詰められて最後に逃げ込んだ伏魔殿であった場所なのだ。


 いつもならば、そこに存在する者達が話をすることも極めて少ない。だが、ここ半年の間は地上の話で持ち切りであった。


 酔狂にもこの大穴と接する村の広場に宿屋ができたという話だ。


 この大穴の底にまで地上の声はよく響く。今迄は年に数度、ケフィアの村の長老であるラズゥが悪酔いしながら穴のほとりで亡き家族を思い、朝まで泣いているくらいだった。その度に、地底の住民達は悲痛な思いを馳せていたのだ。

 しかしだ、宿が出来てからというもの、穴の底にまで聞こえる声はとても楽し気な村人達の喧騒や歌声だった。娯楽の無いこの世界では男が嗜むのは英雄や伝説の歌も多いが、品は無いが牧歌的な歌が多い。どれも音痴ばかりの歌声だったが、地底の者達に地上の光景を思い出させるのには十分であった。


「ここ最近、地上の村は賑やかなようだ」

「まったくですね…父上。ですが、憂いのある民の声を聞くよりもずっと良いでしょう」

「クスクス…。本当にねえ。ねえあなた、少し前になんてあの子が笑いながらあの歌を村人達と一緒に歌っていたのよ? きっと酔っぱらっていたんでしょうね」

「…歌、どんな歌ですか?」


 暗闇に蠢く者達の中に車座になって座る4()の影があった。他者からはブラックトロールと呼ばれ、邪竜マッドロードの眷属とされる異形だ。



「…おい。モーガン、止せ」

「良いじゃないの。地底の皆にも教えてあげましょうよ? あの子が従者達と一緒に作ったドラゴンスレイヤーの歌をね。フフフ…」

「母上……あの歌には父上や私の名も出るのですから、少なからず恥ずかしいのですが?」

「リオン様の名が…? ああっ。もしかして、この前少しだけ聞こえたような…? んんっ、光の剣が闇を裂く~♪ 大剣士ディコンをと父として~♪ 偉大な魔術師を母に持つ~♪ 魔法戦士がハンペ~リオ~ン♪ …という感じの歌では? たしか2番の歌だったと思います」

「ああっ…」


 体表を黒いタールのようなもので覆われた()が思わず頭を抱えてしまう。その隣の彼女(・・)がクスクスと笑い声を漏らしている。


 それを正面から眺めていた者は苦笑いを消し去り、苦心していた。


(…ハンペリオン。我が息子よ、不憫なものだ、。…この娘もだが。心通わせた男女が傍におっても…飢える事も無いが、人らしいことが出来ぬ、この呪われた身ではな…。地上の弟には孫も、その孫すらいるというのに…このまま闇の中に朽ちていくしかないのか? せめて、この二人だけでも…女神よ…!)


 そんな中、にわかに周囲が騒がしくなり、何人かが立ち上がって上を指差す。


「大変だ!? ひとが落ちて来たぞ!!」

「どうして!! まさか身投げか…!?」


 そしてその落ちてくる男の実に幸福そうな断末魔が穴中に響き渡る中、男は何度も穴の壁に激突しながらやがて嫌な音を立てて底へと落ちた。


「哀れな…。村の者でなければ良いのだが。…兎に角、埋葬せねばなるまい。リオン、ついて来い。…モーガンは彼女と一緒に居ろ」


 彼女達が頷くを確認すると、二人は他のブラックトロールが囲い込んだ輪へと近づく。


「これは惨い…!」

「村の外から来た者ではないか? あんな声は初めて聞いたと思うし…」


 他のブラックトロール達も騒然としていた。


 男の身体はグシャグシャになっていた。しかし、ふと違和感を覚えた。地上から落ちて来た高さを考えれば肉片となって飛び散るはずだが…男の亡骸の傷は酷いが五体満足だったし、信じられない事に地面が砕けている。服を一枚も着ていないし、全裸と思われるのだが…本当に人間の肉体なのだろうか? それとも…。その時、ブラックトロール達から小さな悲鳴が上がった。


「ち、父上!?」

「まさか、あの地上の高さから落ちて来て…まだ、生きてるいのか!?」


 なんと男の身体はピクリピクリと動いているではないか。出血もよく見れば流れ出るほどですらない程度に済んでいた。途轍もない肉体の強度だ…。


「私達と同じで不死身なのか…。何者なんでしょうか?」

「…何者かはわからない。だが、生きている以上はこの闇の中にこの者を置いてはおけまい……帰さねばなるまい」



 そこに集う者達は一斉に上を仰ぎ見た。



「…地上へ」



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