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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
54/103

☞ムラゴラド

分けたくないのでチョットだけ詰め込み過ぎました。

読みづらいけど許して下さい。

◤?????◢


 ん? 大生は、大生は…あれからどうなったぞよ?

 ロトスアンめ…大生に無敵の代償(インビシブル)など使いよって…。

 まあ良いわ。あの魔術の根幹は対象の防御力を絶対的なものまでに上昇させるものぞよ。それと引き換えに1日間は金属の塊と化してしまうが、我が最強の魔術すら防ぐのだから文句もあるまいよ。

 だが、大生を舐めるなよ? 常人などとは比較にすらならぬ程の基礎能力を手に入れた大生の元の防御力は既に無敵に等しいぞよ。であるから、この掛けられた魔術の効果は殆ど無化されておるからして大生が本気を出せばものの数分で魔力の殻をこじ開けて脱出できるのだ!


 …だが、大生も先は少し我を失っていたのもある。ここは少しばかり頭を冷やすぞよ。



 だが、いつの間にか大生は寝入ってしまったようだぞよ。

 夢を…夢を見ておる。

 

 あの…赤髪…。あの気に食わない面…と言っても顔はさして今の大生と変わらぬか。


 その光景はもうかれこれ5百年前のものだった。そう、取り返しのつかない…あの日だ。



 ◆



「はあ~はっはっはっ!! カビ臭いだけの森が獣人(けものびと)共々よう燃えおるわ!」

「……なあ、ムラゴラドよお。そりゃあ今回の戦に勝ったはいいがよお。…良いのかよ? ここは精霊の領域だぞ。…世界樹を燃やしちまってよ」


 燃え上がる灰と雑木の中で馬鹿笑いを上げている男の名はムラゴラド。まだ人々と精霊との距離が今よりも近かった時代の話だ。


 悪神エイリスが引き起こした大破壊。それ以前の世界は人間も獣人も多く、国としての団結力にも欠け、僅かな領土と資源を獲り合って互いに戦ばかりしていたのだ。多くが生まれ、多くが死んだ。そんな時代だった。


 その時勢に人間の中に魔術なる精霊の技術を扱える者達が現れた。後にその多くが魔術師と呼ばれる存在の中にひとりの少年が生を受けた。名は与えられなかったし、彼は親から愛情の一欠けらすら与えられる事もなく、北ルディアの西の山奥へと捨てられた。彼は世に言う忌み子だった。突然変異によって目の覚めるように赤い髪を持って生まれてしまったが故に疎まれ、恐れられ、産みの親は彼を生んだことすら無きものとした。


 ムラゴラドという名は彼を拾ってくれた村の名がゴラドだったからだ。だが、その村も戦で焼かれた存在しない。突然変異からか、他の魔術師とは一線を画す魔力を持っていた彼は復讐と成り上がりの為に戦場を駆け回っていた。


「フン!俺が精霊に臆するとでも? 俺は西で最強の魔術師なのだぞ? 我が炎の前では人も獣人も精霊すらも! 燃やし尽くして俺が"精霊殺し"すら成してくれるわ!」


 ムラゴラドがそう周りの傭兵達に豪語する最中だった。燃え殻が吹き飛び、辺りが一瞬で静寂へと包まれると、そこには冷徹な表情の精霊…ドライアドの姿があった。


「せ、精霊が出たああ!? 異界に連れてかれちまうぞお!逃げろおおぉぉ」


 傭兵達が悲鳴を上げて逃げ出すが、その姿が一瞬にしてかき消されてしまう。痛いほどの沈黙の中、ムラゴラドは全身から滝のような汗を流しながらドライアドと対峙していた。


『……何故、我が森を…我が精霊の宿りし樹を焼いた? この地にかつてあった世界樹も…下らぬ、貴様らの争いで砕かれ、焼かれ。もう数えるほどしか残っていない…』

「…ふ、フン。俺の魔術によって焼かれずとも、あの馬鹿な獣人共が森に火を放っただろうさ。だが、今日の俺の働きでアイツらが他所の森を焼くことは無くなったはずだぜ…? なんなら、寛大な精霊様から褒美を賜りたいくらいだ…!」


 最早、自分の命は無いものと赤髪の魔術師は、目の前の精霊に開き直って見せる。


『……よくも、我にそのような口を聞けたものだな破壊者よ。…貴様に褒美だと? 笑わせる。 …だが良い、酔狂にも聞いてやろう。 貴様は我に何を望むというのだ?』


 意外な返答にムラゴラドは一瞬呆けたが、


「な、ならば俺は不死の肉体を望む!! この世は戦ばかりだ、いつ自分が死んでもおかしくない!だが、だが俺はもっと強くなりたいのだ!身体をより鍛え、より強大な魔術を修め、俺を捨てた糞共を嗤って一蹴できるほどの者となって、世にこのムラゴラドの名を刻みたいッ!」


 ムラゴラドは叫ぶ。


『愚かな願いだ…。やはり、人間など、獣人など…所詮は。 ……いや、気が変わった。良いだろう。くれてやる。貴様が望むモノを、な…』

「なっ! ほ、本当か!?」


 気色を浮かべたムラゴラドに対してドライアドはより冷徹な表情に嘲りが薄っすらと混じる。


 ドライアドが目を閉じて一瞬光ったかと思うと、額から伸びた枝の1本に小さな木の実のようなものが実り、フワリとドライアドの手に落ちる。まるで赤い宝珠のような美しさだった。


『…"生命の宿り木"という。生きた獣の中に植え付けると、その者が命を奪った遍くものから生体エネルギーを吸い取り宿主と共に成長し、宿主を不死へと変える。 そう…決して死ねぬ、不死の身にとな。…貴様、本当にこれを望むか?』

「不死身になって、ずっと強くなり続けれれるだと!? そんなもの願ったり叶ったりだ! は、早くソイツを俺にくれ!!」


 ドライアドは初めて亀裂のような笑みを浮かべると、手にした宿り木の実をムラゴラドの胸にズブリと押し込んだ。その瞬間周囲の灰の下から見えざる光の奔流が渦を巻き、ムラゴラドに流れ込んだ。


『……貴様らが燃やした我が、世界樹や木々の…数百、数千年間の生命の時間が貴様に流れこんだ。…これで、貴様は晴れて卑しい人間の身でありながら不死となった。望めば、貴様が壊し、殺すほどにその力は増していくだろうよ』


 ムラゴラドは精霊の恐ろしさなど忘れ、地面に這いつくばって礼を何度も述べた。


『…礼など要らぬ。フフ…これからの長い人生(・・・・)、存分に楽しむが良いぞ?』


 そう言葉を残してドライアドはムラゴラドの前から姿を消し去り、二度と現れることは無かった…。



 それからムラゴラドは戦場で名を上げ続けた。なにせ不死の身なのだ。何も恐れるものなど無い。傷を負ってもすぐさま癒えるばかりか、自身の力もまた向上している為か素手で相手の剣や斧を掴み取っても傷を負わぬ様になっていった。


 …無限の如き力に溺れるムラゴラドに静かに絶望がにじり寄ってきていた。



 ◆



 大生も若かったのだ…当時は傍から見れば、かなり痛い奴だったのではないかと思えるぞよ。


 まあでも、それから十数年経っても歳はとらないし、調子に乗ってしまうのも頷けるが…そんな時だったか。最初の妻…ナーシエに出逢ったのは。


 赤髪の悪鬼とまで呼ばれて恐れらていた大生の顔を急に殴ってきた女だったぞよ。「アンタの魔術の余波で自分の村の家々が崩れた」と、酒場で馬鹿騒ぎしていた大生達に臆することなく突っかかってきよってな? 「これで屋敷でも建てろ」と言って放った金と宝石の詰まった袋を…「人殺しの金なんか要らん!」と言って大生の顔に投げ返してきおったぞよ。信じられぬほどに気の強い女だったわ…。そこが気に入ってしまったんだぞよ。



 ◆



 ナーシエとの間に子供はできなかったが、戦ばかりにかまけていた俺は…ナーシエのお陰で生まれて初めて人間としての幸せを知ることが出来た…。


「ねえ…ムラゴラド?」

「どうした?」


 既に寝台から動けなくなっていた彼女の手を握る。


「…私が死んだら、早く新しいお嫁さんを貰ってね?」

「なっ、何を言うんだナーシエ。…俺はもう女神像の前であんな恥ずかしい誓いの言葉を言わされるのはゴメンだ。…それに俺の愛する妻は、お前だけで良い…」


 彼女は笑顔で顔を横に振る。握り締めた彼女の手には深い皺がいくつも刻まれている。…しかし、俺の手はあの時のままだ。


「勿体無いわよ。あなたはずっと若いままなんだもの。私もあなたみたいに若いままならいつまでも一緒にいたかったけど…先に逝かなきゃ…駄目みたい…死者の門でずっとあなたを…待っているわ」


 その翌朝、50年以上を共に生きたナーシエは眠った。もう起きて俺の名を呼んではくれない。


 俺は泣いた。あれ以上に涙を流す事はこの先ないだろう。そう思った。


 ナーシエを失った俺はまた戦場に舞い戻った。数十年後に大きな戦が始まると、俺は今度は大魔術師などと呼ばれるようになった。どう呼んでくれても構わんが、後にヴァンナと呼ばれる王族が俺を囲い込んだ。そして、俺に子を遺せと女を無理矢理に押し付けてきやがった。


 …奇妙な縁だ。そのどこか臆病な視線を俺に向ける少女は、俺を捨てやがった魔術師の一族の出だったからだ。名はドックレイ。俺を忌み子として追放した処遇を聞かされていたのか、最初はやたらと俺に気を遣いやがって気持ちが悪かった。だが、初めての(ねや)で話を聞けば、彼女もまた生まれ持った魔術師の適性の低さから、俺のように鼻つまみ者にされていたと泣いていた。

 …俺は「今後、二度と干渉するな」と一族の糞共に脅しを掛けて釘を刺すと、正式にドックレイを妻にした。女神像の前で2度目の誓いを立て、亡きナーシエに彼女を幸せにすると誓った。


 華奢のドックレイだったが、彼女は俺との間に6人も子を儲けてくれた。子供らは魔術の適性はあまり高くはなかったが、これで戦場に駆り出される事もないので幸いだった。


 俺は全ての稼ぎを家族の為に使った。心から自ら名付けした子供達を愛でた。


 …幸せだった。だが、彼女や子供達が時間と共に生きるのに対し、俺だけが変わらないことに虚しさを覚えた。そして、そんな月日はあっという間に流れた。


 最初の息子に子供が出来た。孫を抱かせて貰い、息子は俺に名を付けて欲しいと頼んだ。


「お前の初の子だろう? 少しは自分で考えろ」


 息子は次の日の夜に死んだ。


 反王族派の連中が、その王族が抱え込んだ俺が不死身で殺せぬからと、俺の家族が狙われたのだという。息子は最後まで自分の妻と子を庇い、そして自分の子の名も知れずに死んだ。


 俺は怒りに震えた。反王族派の連中をひとり残らず皆殺しにしてやった。悪あがきとばかりに他家の魔術師共を戦に巻き込んだが、構いやしなかった。俺に敵う者などいない。


 戦場から家に戻ると、まだ幼い息子と娘が病に罹り既に虫の息であった。流行りの病であったが、治す術が無い。


「何故俺は人殺しの魔術しか使えぬ!!百年以上生きた大魔術師などとぬかされる俺は子の病すら治せぬではないか!?」


 子供の死に、ただ無力な自分が憎くて拳を壁よ床よと叩きつけるが、砕けるのは壁と床ばかりで俺の拳からは血の一滴も流れやしない。



 さらに月日が残酷に流れ去っていく。俺の目の前の寝台で一番下の子が産んだ末の子が年老いて息を引き取ったのを見て、俺は…ふと、思った。「死にたい」と。



 俺の髪は赤髪から銀髪へと変わりはしたが、鏡を見れば同じ顔…もはや吐き気すらする。


 俺は部下に命じて西一番の銘剣で自信を貫かせようとしたが、剣はへし折れた。

 自身が編み出した最強威力の魔術をこの身に浴びても、周囲の敵を消し飛ばしたが俺は火傷すら負わなかった。

 海に身を投じてみても、溺れることなくいつの間に浜に打ち戻された。

 岩や土に埋もれても死ねずに結局、這い出た。

 この身に宿った他者の命が俺を死なせることがなかった。


 気付けば、俺は自分でも死ねなくなっていた。


 俺は戦場をまた歩きしながら北ルディア全土を巡った。ドライアドを、精霊に会う為だ。そして「もう死なせてくれ。妻と子に会わせてくれ」と願うのだ。


 だが、無情にも時間は流れていく。


 そして、あの大破壊が訪れた。やっと死ねるかと思えたが、結局俺は死ねなかった。そして王都が崩れ去り、俺の下に最後まで残ってくれた家族達が俺の代わりに死んだのだ。


 俺に残されたのはただただ、絶望だった。



 ◆



 …嫌な夢ぞよ。早く覚めてくれぬものか。


 ここ百年は大生も現ヴァンナの先々代の王から与えられた屋敷にて引き篭もっておった。

 大生の名を使いたいのか、それとも財産狙いなのか。大生の血筋と名乗る者が連日のように現れおって辟易しとるぞよ。いっそのこと我が偽りの太陽で灼いてくれようかの?

 特に最近は、我がもの顔で王都をうろつくようになったアデクの連中が大生には王都外に出て行ってほしくはないのだろうの。なにせ大破壊の起こった2百年以上前から生きている大生は時代の生き証人そのものぞよ。無論、あのアデク教が単なる法螺吹き共である事を大生が知っているからの。奴らが騙る七勇者は都合の良い捏造…本当は八勇者。アデクという勇者はおるにはおったが、アデク教とは何ら関わり合いのない者だと大生は知っているぞよ。恐らくアデク教も悪心のお煽りを受けた獣人に恨みを持つ人間どもが名を騙って興したものだろうよ。


 …だがそんな事はどうでも良かった。この朽ちぬ身にはな。

 ここ百年…何か変わった事と言えば、ああ…そうぞよ。大生が弟子をとったことだの。

 弟子、と言っても攻撃はからきしで補助ばかりに才が傾いているのがちと問題があるぞよ。


 あの赤髪…まるで大生の童の頃を見てるようじゃった。あれから悠に5百年は経っとるというのに、人間は変わらない。愚かなものぞよ。

 あの面影に不思議とドックレイが重なった、そんな気がしてあの安酒場の角で拾い上げずにはおれなかった…なんとも女々しいことだぞよ。罪滅ぼし…をしたかったのかもしれんの。



 ナーシエ…ドックレイ…。子供達……一体、いつになれば大生は…俺は、お前達の待つ死者の門へと征けるのだ?


『焦らないで、ムラゴラド』

「ッ!? ナーシエ!」


 大生が振り向くとどこまでも続く青く光る水面が続き、奥から光が溢れる空間があった。


 そこに居たのは穏やかに笑うナーシエとドックレイ。後ろにはドックレイとの間に設けた子供達が並んでいる。


「ドックレイ!? お前達っ!? な、何故だ! 俺はやっと死者の世界に辿り着けたのか!? 女神よ、お願いだっ! どうか夢なら覚めないでくれぇ!! また俺から妻と子を奪わないでくれ!」


 大生は大泣きしながら這いつくばり、少しでも妻子達へ近づこうと足掻くが全く距離が縮まらない。


『あなた…私達はずっと死者の門の前であなたを待っていますから。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ? それにホラ…』


 ドックレイが大生の胸を手先で指すと、大生の胸から赤い玉がズルリと抜け落ちて水面に沈んでいった。


「まさか!呪いが!? い、嫌だ!行かないでおくれ!!ナーシエ!ドックレイ!?」



 光が溢れ、優しく微笑んだ妻と子供達の姿がその中へと消えていく…。



 ◆◆◆◆



「………こんな夢を見たのは始めてぞよ。はああ~。コレも精霊の嫌がらせかの?」


 大きな溜息をはきながらベッドからムラゴラドがムクリと起き上がった。


「2階の部屋、か?」


 部屋のドレッサー横の窓から大穴が見える。にわかに差し込む朝日が目に眩しい。広場を見下ろせば、数人の村人達が床を掃いているのが見える。


「フン。ガイアの徒でもないのに、早くからご苦労なことだの…」


 ドレッサーの楕円形の鏡には変わらぬ自分の疲れ切った顔が映っている。反対側のベッドから寝息が聞こえる。


「ロトスアンか。昨日はすまなかったの…痛゛っ!?」


 ロトスアンに近づこうとしたムラゴラドがドレッサーの脚に足の指先をぶつけたのだ。恐らく寝ているムラゴラドの足から気を遣ったロトスアンがブーツを脱がしてあげたのだろう。


「うぎぎ…不覚…。 ん? 痛い…? ここ数百年の間そんな感覚は…!」


 ムラゴラドは何を思ったのはスクっとその場に立ち上がると、自分の拳で顔面を数発殴った。


 ポタリ。床に赤い雫が垂れる。間違いなく、それはムラゴラド自身の血だった。


「ふはっ、フハハ…はぁ~はっはっはっ!! 俺は不死から解放されたあ!? やった!やったぞぞおおォォ!!」


 ムラゴラドはそのまま乱暴にドアを開け放つと部屋の外にある廊下へと走り出してしまった。


「…ん。ううん…師匠?」


 寝ぼけ眼のロトスアンは呆然とそれを眺めていた。



 ◆◆◆◆

◤ダムダ◢


「あぁ~本当にぃ、昨日は驚いたなぁ」


 昨日は急にあのムラゴラドって人が旦那様に掴み掛かってきたから吃驚だよぉ。ウリイは完全にあの人を仕留める気で体当たりしてたもんなぁ。

 …正直言ってあの人が不死身で良かったなぁ~。普通なら体バラバラになっちゃってたよぅ? あの威力なら俺ぃでも危ないもん。


 この時間帯はまだ皆寝てるし、ご飯目的のお客さんも昼からだからぁ~本当にやる事ないから暇なんだよねぇ。さっき奥で三人でご飯食べてお風呂まで入ってきたからチョットだけ眠たいんだよなぁ…イケナイ、イケナイ!旦那様とウリイが休憩の時は俺ぃがシッカリしなくちゃ!

 取り敢えず、カウンターの上でも綺麗に拭いとこ…


「うおおぉぉ~!! 精霊は何処だぁぁ~!!」

「うわぁ! もう起きたぁ!?」


 あの問題のある人、もう起きちゃったのぅ?

 困ったなぁ~よりにもよって旦那様がいない時に…。どうしよう?助けを呼ぼうかなぁ。


「ゼーハー!…精霊は、この宿の主は居らぬのか!?」

「は、はぃ…今はお休み中でしてぇ」


 何で朝からこんなに元気なんだろぅ? 旦那様、怖いよぅ…。


「今一度、礼を申したかったが致し方ない!今は時が惜しいのだ!お主は…昨日の言霊を操る娘だったな! 大生はもうこの世を去らねばならん!どうかお主から重々礼を述べていたと主人に伝えてくれい!」

「こ、この世から去る?」


 何を言ってるんだぁ、この人? あと、なんで泣いてるんだろう…ウリイ、助けてぇ。


「これは礼だ!」


 男の人はカウンターにドシャっと大きな袋を叩きつけたけどぉ? コレ、中身…金貨と宝石ぃ!?


「遠慮するな!もはや金子は無用なのでな!! このマジックバックには金貨数千枚と同じくらいの量の宝石が入っておるぞ。 あ。そうだそうだ!もうこの際だ、すべてくれてやろう。大生が身に着けている品々はどれも魔除けや魔道具としては一級品だ!売り払えば屋敷のひとつやふたつ建つだろう。なんならこの宿の拡張工事代にでも充てるが良いわ!!ガハハハッ!」


 今度はイキナリ服を脱ぎだしてカウンターに並べて説明しだしたよぅ!? …何で鼻血を流して興奮してるんだろぉ?


「…そういえば、大生の不浄隠しにも護符が縫い付けてあったか?」

「キャアアアアア!?」


 我慢の限界を迎えた俺ぃは泣きながら奥へと逃げました。


「フハハハッ!! もはや悔いは無い!さらばだ!我が魂を救いし偉大なる精霊よ!!」



 ◆



 広場に当番で朝の掃除に訪れていた村人達は驚愕した。

 突然、宿の中から全裸の男が飛び出して来たからだ。


 しかも涙を流し、狂ったように笑っている。村人達は悪い夢を見ているかのような光景に絶句した。


「いま逝くぞっ!ナーシア!ドックレイ!そして我が子供達よ!!」

「「ああっ!?」」


 村人が悲鳴を上げる。銀の長髪を靡かせた男はそのまま全力疾走で走ると、広場の柵を突き破って大穴へと飛び込んだのだ。


「我が魂と心は愛する者の下に!! 我が誇りと崇拝は偉大なる精霊、ストローの下にぃぃ!! わあ~はっはっはっ…はっ…は……は……」



 家族の名を叫び、精霊に感謝の言葉を捧げながら大魔術師ムラゴラドは深淵の闇が広がる大穴へと身を投じた。



 村の男が思わず手に持つ箒を離してしまった後も、男の笑い声が峰に響き渡っていった。




これにて一件落着!(笑)


ちゃんと続きますので安心して下さい。

これじゃあ余りにも悲し過ぎるので。(※今更だけどこの作品はギャグ成分が高いです)

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