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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
5/103

☞とある冒険者の敗走


 本編と閑話がごちゃ混ぜになるかと思われますがご了承ください。

 そういう面倒くさいスタイル、というやつなんです。

◤????◢


「…ハァハァ! クソッ!しくじった…ぜ…」


 俺はもう3日は走り続けている。


 …もう、限界だ!


 クソッタレ共め!奴らはしつこく一定以上の距離を空けずに俺を追跡している。


 この森の代表格のモンスターであるダークゴリラの群れに俺は追われ続けている。奴らは執念深い。必ず獲物を追いかけ続ける。


 俺の名前はボーゲン。王都ウエンディの冒険者だ。自慢じゃあないが、この北ルディアじゃあ十本の指に入るくらいの実力はあると自負してる。だが、ギルドの連中は意固地で面倒だ。素直に俺の実力を認めやしねえ。何が冒険者の真価はチームだ!俺に付いてこれる奴がいないだけの話じゃあねえか!?

 どんな人数で組もうとも無能は俺の脚を引っ張りやがる。だから俺はソロだ。それが他の冒険者共は気に入らないんだぜ。全くよ!俺の実力は単独で最上位の次の位であるトロール級冒険者であることが何より証明しているのにだ。

 気に入らねえぜ。だから俺は煩いギルドの連中を黙らせる為に最上位冒険者であるドラゴン級になる為のクエストを受けたんだ!無論、ひとりでな。


 クエストの内容は中央辺境、ヨーグだとかいうデカイ山の麓の原始林に現れたワイバーンを討伐する事だ。


 誰しもが無謀だと俺を嗤った。孤児院に唯一の俺の肉親である泣きつく妹を預けてこのクエストに挑んだ。そして俺はひと月を賭してワイバーンを討った!


 ざまあ見やがれ!これでアイツらを見返してやれる!王都に屋敷だって買える!


 …妹に不自由させることももうなくなるんだ。だが、俺もタダじゃあ済まなかった。武器も鎧も砕け散って薬も使い果たしちまったんだ。輪をかけてワイバーンの尾の毒を完全に防ぐことが出来なかった。確実に俺の体力を蝕んでいく。正直言うとだ、近くの集落に辿り着けるかも怪しかった。トドメにあのゴリラ共だ!本来なら敵じゃあないが、今の俺は逃げる事しか出来ねえ!オマケにこのゴリラ共を人里に連れていくこともできねえ!…できれば逃げてる最中に他のモンスターにかち合ってゴリラ共をなすりつけるか、散らせればよかったが上手くいかねえ…!


「クソ!クソクソクソったれ!」


 弱音が止まらなくなってきて自分でも笑っちまいそうになる。


 …目も霞んで足がもつれる。ゴリラ共に不意を突かれてワイバーンも証拠程度に牙くらいしか持ってこれなかったぜ。ハハ…こんなもん持って帰れなきゃあ何の価値もねえか。せめて最後にゴリラ共にぶち込んでやるか…。



 ふと目先の開けた小高い崖の前に何かあるのに気づいた。


「…ハァハァ…なんだぁ…?」


 小屋だ。小屋があるぞ?


 …こんなモンスターばかりの魔境にか? がむしゃらに逃げてきたから大きく行き帰りのルートを外れているかもしれないな。…まさか遺跡か? いや、近づくとわかるが建物は新しいぞ。大きさは物置か小さい納屋程度だがあまりにも見た目が綺麗過ぎやしないか? …駄目だ。思考がまとまらん。


 だが、もはや俺にはあの小屋へと突っ込む以外の選択肢は無い!ゴリラ共をやり過ごす事は無理だろうな…しかし、中には何か使えるものがあるかもしれん。まあ、無いだろうがな…。


 俺は勢いそのままに小屋のドアに突っ込んだ。


 俺は小屋の地面に倒れ込んだが、勢い余って頭を壁にぶつけて悶絶する。危うく気を失うところだったぞ。


「ガハっ!? …ハァハァ。 んぁ? 床も…土じゃあなくて…板張り、だと?」


 …おかしいぞ。王都の建物だって内壁側の建物の床なんてのは土がならされた程度の代物だぞ? 凹凸のまるで無い磨かれた板張りの床の建物なんて、それなりの高級店かそれなりに金持ちの屋敷くらいのはずだぞ…?


「いらっしゃい」


 心臓が止まるかと思ったぞ!?


「いやはや記念すべきお客第1号がこんなにボロボロとは、恐れ入る。…この辺はもしかして大分、物騒な場所なのか? 緑が多いから割と気に入っていたんだがなあ」


 急に頭上から声を掛けられ身構ようとも、もはや俺の体力は残っていやがらねえ。何とか頭を上げると俺がぶつかったのは壁じゃあなくてギルドとか店とか酒場にある木製のカウンターだった。まあ小せえから人っ子ひとり入れるくらいの代物だったが、そこにはのんびりとした顔の男が俺の顔を面白いようなものを見る様な目で眺めていた。


 俺は何とか膝で立って体を起こした。


「おいおい、大丈夫か? 酷ぇな」


 男はカウンターの開き戸を上げて俺の近くに寄ってくる。


 男は単なる人間の若い男のようだが? …野良着にベスト、藁を1本口に咥えている。やけに小綺麗でこんな森に居るような男じゃあないぜ。どう見たって冒険者にも猟師すらにも見えないぞ?


 ッ!? というかヤバイ!? 気が抜けてゴリラ共の事が頭からすっぱ抜けてたぜ!


「…お、おい。逃げろ! 俺はモンスターに追われてる。すまねェ…!」


 俺は床に土下座するように倒れちまった。…というかひとに頭下げるのも初めてかもしれん。


「モンスター? ふーん、変な鳴き声とか聞こえてたけど。やっぱりモンスターとか普通にいんのね。なるほど、流石ファンタジー」

「ふ、ふぁん? ってオイ!」


 男はまるで家の外にやってきた大道芸人でも見に行くかのようにドアを開けて外に出る。やっぱり狂人の類なのか!?

 そこにゴリラ共の叫び声がすぐそばまで聞こえてきやがった!ダメだもう間に合わねえ、この男には気の毒な事をしちまったな。せめて…一匹でも多く刺し違えてやる…!


 俺は腰のポーチからワイバーンの牙を取り出すと腹を決めた。


「…団体さんだが、どうやらお客じゃあないようだ」

「「グギャアアアアアア!」」


 もう小屋の眼前に黒い獣の群れが迫ってきていた。目の前の男が一瞬で砕かれる姿が浮かぶ。


「迷惑な奴はお断りだ。…帰ってくれ」


 そう言って男が平気な顔をしてドアを閉めた。馬鹿か!? そんな事でゴリラ共が諦めるわけねえだろが!こんな小屋、奴らの体当たりで粉々だぜ。


「さて、マシな客はアンタだけのようだな。…アンタ、客だよな?」

「客って…お前、何トチ狂ったこと言ってんだ?」


 …静かだった。



 え!? どういう事だ!?


 俺は自分の傷具合も忘れて恐る恐るドアを開いた。



 ドアの外は森だった。そこにゴリラ共はまるで最初から存在していなかったかのように姿を消していやがった。


「ハ…ハハハ。俺は夢でも見てんのか? それとも、もう死んであの世に?」

「おい冷やかしか? でも、悪いことは言わないアンタ泊まってきなよ」


 男の声に慌てて俺はドアを閉めた。


「と、トマル? 泊まるって…ここは一体なんだってんだ?」

「え? 何かも知らずに入ってきたのか? チャレンジャーだなあ…まあ、仕方ないか看板も外に掛かってないしなあ」


 俺は眩暈を起こしながら周囲を見渡してみる。


 小屋の中はちょっと広い牢屋くれえのスペースしかないが、カウンターの他に小さなテーブルと椅子がひとつ、そしてやたらと上等なベッドが置かれていた。


「このベッドを見りゃあわかるだろう? 宿屋だよ。ここは」


 男はニッコリと笑ってベッドを指さした。



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