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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 針子のビイ

◤ストロー◢


ウリイとダムダを保護。仲間の奴隷達を拡張した俺の宿に招いてから早数週間。…まさか、従業員くらいになってくれねえかなあ~、なんて考えていた二人が実は精霊だったという俺の支族…つまり、嫁さんになってしまうとは思わなかったが。

 しかし、お陰で俺は毎日楽しく過ごさせて貰っている。今じゃ毎日、誰かは利用客として宿に来てくれるし…まさに、リア充ってヤツかもしれん。


 ……いいや、リア()かもしれん。ケダモノ、の方ね?


 最近、晴れて嫁となったウリイの猛攻がヤバイ。かなり、ヤバイ。多分、精霊の俺じゃなかったら死んでるよ? 平気で俺を丸1日軟禁とかするもん、アイツ。


 俺達の住居というか、俺と支族になったウリイとダムダしか出入りできないPゾーンでは時間の流れが特殊でな? 1時間が外の1分と同じなんだよなあ。基本、俺は宿を閉めない。宿泊客が居るから当然と言えば当然なんだが、例えば休憩で10分外してPゾーンに引き上げたとする。だが実質は10時間なんだよなあ。だから飯を食って風呂入って寝て起きて飯食って風呂入るなんて余裕なんだよ。それを踏まえて言うが、現在の俺達の休憩時間事情は1日通して、1枠30分の俺が4回の計2時間で二人が2回ずつの計1時間だ。普通ならブラックどころかダークネスと言った労働環境だが、1枠の休憩は実質30時間で丸一日以上の休みが与えられているんだよ。凄いだろ?

 まあいいんだよココまではな!1日に休日が2日、俺に至っては4日、いや合計で5日間か? という矛盾してるが休める自由時間がたっぷりとあるはず…はずなのだ!しかし熱い、殴り合いにも似た話し合いの結果、基本は宿にウリイとダムダのどちらかを残して俺ともうひとりでPゾーンへと向かうことに決まってしまった。つまり、大半が夫婦の時間となる。 別にいいのよ? 俺だって男なんだしさあ!二人ともそりゃあ種族は違えど可愛いしな!

 しかし、ウリイ!? テメエは駄目だ!

 ダムダは少し恥ずかしさも取れてきてむしろ具合が良くなってきたが、ウリイはリビングに入った瞬間に俺を襲うようになった。この休憩体制になって5日目だったかなあ……リビングのローテーブルの上に裸にされて押し倒されて俺は初めて女性(ウリイ)にレイ●された。


 …わりと悪くなかったかも。と思えた自分が悔しかった。



「うう…助けて、マリアード…」

「ストロー様!? その御姿はっ…いかがなされたのですっ!?」


 俺は満足して寝息を立てていたウリイの隙をつき、泣きながら宿を飛び出ると村の聖堂に飛び込んで助けを求めた。俺から事情を聞いて、そこに居たマリアードと村の男達が俺を慰めながら宿まで付き添ってくれた。ありがとう…今だけは泣いても良いだろう。


 宿は俺が泣きながら急に飛び出していったと騒ぎになっていた。その中心には女衆が宥めるも、怒り狂ったダムダにガチ説教されていたウリイが涙目で正座させられていた。


 周囲は俺が戻ってきたことに安心したが、ダムダの怒りは一向に晴れず、マリアードが間に入ってウリイを諭す流れになったのだが…。


「いや、旦那も司祭様もさあ。そりゃあウリイちゃんはちょっとヤリ過ぎちまったかもしれないけど、立派に女としての務めを果たそうとしただけなんだしさあ…」

「うんうん。こんなにも男に惚れた可愛い娘っ子にそれは無体な話さね」


 予想外にウリイを擁護する声が居合わせた女衆から上がったのだ。それに逆らえるような勇気のある男は村の人間にも獣人にもいるはずもなかった。だが、マリアードがそれでも俺を守ろうとしようとしてくれたのだが、未婚者であったが故にマリアードの発言権は司祭といえどもやや弱かった。 そして、あのトドメの言葉。


「それに司祭様。これだけ仲良くしてる良いケツした女が二人もいるんだ。赤子を授かるのも時間の問題だろう。そうなりゃあ、いつぞやかはそれに立ち会う司祭様に名付けの相談が来るやもしれないじゃないか?」


 その言葉に裾から出した鈍く光るワンドを握ろうしたマリアードの手が、ピタリと止まる。


「…………(ストローと二人を交互に見る視線)」

「……マリアード?」


 スッと襟を正したマリアードが裾を隠して俺から視線を逸らす。


「…確かに。晴れて女神からも許しを得、精霊と夫婦(めおと)となった御二方の間に起った些細な(・・・)事に、ですな…。しがない司祭でしかない私が口をそう挟むこともないでしょう。申し訳ありませんが…ストロー様。この件に関してはこのマリアード、これ以上お力になれることはないでしょう…ですが、聖堂の扉は常に開いておきます故、もし辛い事があればいつでもお越し下さいませ…」


 裏切ったな!? マリアードっ!!


「でもなぁ!俺ぃは怒ってるんだあ!! ウリイ!ウリイはぁ旦那様が可哀相とは思わないのかぁ!?」


 ダムダが俺を離してくれなくて困る。特にそれ以上身体を揺すられると俺の首が胸のでロックされてるので折れてしまうかもしれないんだが?


 その後、互いにガチ泣きしてしまった二人を俺が泣き止まさせるハメになった。だが、ウリイは罰として3日間俺と一緒に休憩に行くのは禁止となった。代わりにダムダの休憩を1時間増やしてその分を俺の代わりにウリイとダムダを一緒に休憩させることになった。 俺は3日間、真に自由な1時間、実質2日半を満喫したのだった。まあ、それでも2日目には可哀相だとウリイを連れてやったがな。


「ウリイはねぇ、俺ぃの前では年上ってのもあって頑張るんだぁ。でも本当は寂しがり屋なんだと思うんだぁ。…俺ぃが目立つかどうかは今も良く分からないんだけどぉ、ベタベタ触られる事が多かった俺ぃと違ってさぁ、ウリイはいつも人間達から変だとか、気持ち悪いだとか酷い事言われててからぁ…きっとそんな素振りも無く自分の身体を触ってくれたスト…だ、旦那様ぁが好きになったんだと思うんだよぉ。だらぁ…ウリイはぁちょっと暴走しがちだけど許してあげてよぉ」


 そんな事を俺よりもずっと濃い付き合いのあるダムダの口からさあ、そこまで言われてしまっては俺も許す他あるまいよ。



 まあ、そんな些細な(・・・)事があった訳だが。え? マリアードを根に持ってる? 別に…。ただ、アイツ最近やたらと、


「ストロー様は何か特に思い入れのある神や、偉人などはおられますか?」


 などと、分厚い紙束(多分、人の名前がビッシリ書いてあるっぽい)を両手に話しかけてくるようになったので、その都度「とくになし」と答えている。その度に手に持っている紙の束が厚くなっているような気がして少し怖いのだが…。


 そう言えば、客層の変化があった。近隣の住民達ではなく、冒険者などが宿を訪れるようになったのだ。今日もそう言えば依頼の帰りに寄ったという女の二人組が居たな。


「そこのオネーサン!このルービーってやつお代わり!あのデカイ水差しで頼むわっ!」

「本当にこのエールは美味しいわねえ。やっぱりアデク贔屓の貴族共が上物を独り占めしてるって噂、マジなのかしら」


 今のところ、獣人や亜人に偏見の無い人間ばかりで助かるぜ。因みにウリイとダムダは現実の時間で2週間ないくらいで支族化する前の姿を維持できるようになった。ただ、俺と一緒になった時は解除するのだ。…正直、支族化されると身体能力が大幅に強化されるようで俺が抵抗できなくなるから止めて欲しいんだがなあ。


 二人組はなんと浅黒い肌のビキニアーマーの剣士と射手と見受けられる。歳はまあ20代ということにしとこう、あまり詮索するのは危険だな。


「お待ち同様ぁ。追加のルービーで、ですぅ」

「ありが…ううっ…!」

「ちょっとニーラ…泣かないでよ」


 突然給仕にテーブルへ寄ったダムダを見て女剣士がさめざめと泣き始めた。随分と酒が回ってるようだな。大丈夫か?


「ああ、ゴメンなさいね…私はレイバ。中央で冒険者をやってるモンよ。で、コイツが相棒のニーラ。まあ、元は南方の出なんだけどね?」

「だ、大丈夫ですかぁ? どこか痛いんじゃあ…」


 心配そうな表情をするダムダに射手のレイバが微笑んでから首を振る。


「ううん。違うのよ…実は少し前まで私達には他にパーティの仲間がいたのよ。私達より少し年下の男のオオカミ獣人と、そしてあなたと同じミノタウロス族の、ね」

「…奴隷の、ですか?」


 そこへ追加の料理を持ってきたウリイも口を挟んだ。


「…そうよ。冒険奴隷ってヤツだったわ。けど、私は…泣いてるコイツは私以上に仲間として大切に思ってたわよ。でも、ある依頼で急遽行かなければならない場所が奴隷禁制の厳しい所だったのよ。ぶっちゃけるとエルフの土地と境近くだったのもあるんだけど。…それで離れてる間に預けていた二人をアデクの連中に取り上げられてしまったの。守ってあげられなかったわ…」

「違う!!ハッツ達はアイツらに殺されたんだあ!!」


 泣きながらそのニーラとやらが思いっきりテーブルを叩く。オイオイ…俺の宿屋じゃなかったらテーブル叩き割れてるぞ?


「ド卑怯なアイツらはなあ!前からハッツ達を冒険者の昇格で貰える恩赦で、二人を奴隷から解放してやりたいって公言してた私らが気に食わなかったんだよ!! 私らがいない間に世話役のジジイ達を吹っ飛ばして怪我させた上に無理矢理ギルドから攫って、装備も無い二人をブルガの森近くの開墾送りになんてしやがってよおぉぉ~!うう…可哀相にっ!!」


 泣き声を上げてダムダの手を掴む。


「俺ぇと同じミノタウロス族だったんですかぁ…大切にしてくれてぇありがとうなぁ」

「おうともよ!私らの弟も同然だったんだ!! 可愛い弟を殺しやがったアイツらによお、いつの日にか一矢報いる為にっ!私らはまだ歯ぁ食いしばってあの王都で冒険者してるんだからな!! くそぅ、今日は飲むぞぉ!! そこのケンタウルス族のオネーサン!追加の酒と料理お願い!」

「フフ…わかったよ。ダムダも手伝ってよね?」


 泣きながらニーラは酒を煽り、食事を口いっぱいに詰め込み始めた。


「……今日は特に荒れてるけど。許してやってね? きっと思い出しちゃったのよ。あなたの優しい眼が…ハッツとそっくりだったから」


 そう、レイバは悲しそうな表情でダムダに微笑んだ。


「今日は騒がしいのぉ~」


 別のテーブルで昼間から長老のラズゥがルービーを美味そうに飲んでいる。元気だなあ、爺さん。もう百をとうに超えてるんだろう?


「…ストローよ。まあ、人間にもアデクのような者ばかりじゃあないんじゃ。下界にもあの女冒険者達のような人間も少なからずおるのでな…」


 まあ、村の外からの人間でワイン達と最初に出会ったのは俺としても幸運だったのかもしれないな。


 …ん? 隣のエイの奴、いつにも無くションボリしてんなあ。また、寝ぼ…ああ違うな。暫くデスに会えないから落ち込んでんだな。二人と一緒に保護した奴隷達は皆、俺の宿に泊まって首の奴隷紋を消している。その関係で一時、デス達の集落に匿って貰う事になった。僻地とは言え、この村に奴隷でない獣人達が集まっているとかそんな噂が立つのを防ぐ為だとの考えらしい。将来的には奴隷達の中に入たネコ系獣人はデスの下に付くのだそうだ。その為、デスは皆を連れて現在山の奥に行ってしまっている。


 俺がブラウニーでも出してやろうかと思って動き出した時だった。


(カランカランカラン♪カラン…♪)


 玄関のベルが鳴り、戸が開かれる。


「相変わらず…元気なさそうな顔してるのね?」


 何とそこにはエイと瓜二つの少女が立っていた。…イヤ、エイと比べると若干目つきが悪いな。


「おお、そう言えばマリアード司祭が言うておっ(ガタンッ)」


 村長が何か言おうとしていたようだが、隣に座っていた人物が急に立ち上がった勢いでジョッキの中身が零れてしまったショックからか遮られてしまったようだ。


「アラ? 意外と元気なのかしら? 久し振りね、エイ…。今日はあの片腕だった毛玉男はいないのかしら?」

「ビイ!? ビィィィィィィぃィぃィィィっ!!」


 完全に長老を突き飛ばしてエイが扉の前の少女に抱き着いた。てか、長老可哀相だな…。


「ビイ!帰ってきたの!? 一緒に村で暮らそうよ!!」

「そんなわけないでしょ。仕事よ、仕事…ホラ、どきなさいよ?」


 エイの顔をぞんざいに手で押し退けると、ビイと呼ばれた少女が俺の方に向って歩いてくる。その後ろ…ああ、それでも背中にくっ付いてるエイの事じゃあないぞ? 若い二人の男女も続いて宿に入って来た。その手と背嚢からは様々な色の反物や刺繍、裁縫道具のようなものが見える。


「エイ!もういい加減にしなさいよ!? あっと、長老様お久しぶりです。いつもこの馬鹿な姉が世話になっております…ちゃんとやれておりますか?」

「お、おおう。ビイよ…久しいの、息災であったか? まあ、お主の姉は相変わらずじゃなあ。…それより、儂の事などは良い。それ、早くお主の仕事相手の下へと行くが良いわ…ってエイもええ加減にせんかっ!自分の妹の仕事を邪魔をするではないぞ!!」


 長老によってやっとエイを引き剥がされた少女が溜め息を吐いてから俺の下へ来ると、恭しく跪く。アレ? 何か既視感があるような…気のせいかな? ところで姉とか妹とか、この子はエイとは姉妹なのか。


「…お初にお目に掛かります、ストロー様。私は針子のビイと申します。司祭マリアード様からのご依頼で、畏れながら、本日は細君方の御召し物を仕立てに参りました」



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