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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 ルービーと噴水

チャートもそこそこ決まってきたので、少しは話のテンポを進められると良いなあ(他人事)



「お待ち同様っ!追加のルービーだよ!」

「お待たせしましたぁ…」


 テーブルの上にガンッと透き通ったジョッキが勢い良く叩きつけられる。飲み口には泡の輪を残している。


「こりゃあ凄えぜっ!なあ藁の旦那ぁ!?」

「頭が痛くなるくらいキンキンに冷えてるぞ!?」

「それに見ろよ!この澄み切った金色をよお!」

「ああ、もうコレを飲んじまったら、あんな温いエールなんざ酸っぱい水だなあ? ガハハ!」


 村の男達は皆ジョッキを掲げて興奮の叫びを上げている。


「先に飲んだコチラの酒も甘く、ほんのり果実のような味がして美味かったが…」

「これはもはや次元が違うな…」

「これこそ、女神に献上していたという真のエールとやらではないのか!?」


 獣人達も震えながら手にするジョッキを覗き込んでいる。顔には酒の泡が残っている。


「「…ルービー、最高!!」」


 宿の中の者達の声と心がひとつとなる。


 皆を熱狂させているのは、詰まる所の生ビールである。ストローのスキルレベルがLV2になった時に新たに追加された飲み物である。皆が驚愕し、その素晴らしさを讃える中、当の提供者である宿の主は微妙な顔をしている。


「……まあ、俺の元居た世界じゃあビールとかラガーとか他の名前…柄名で呼ばれてたんだけどな?」

「ストロー様が元居た場所ぅ…俺ぃには難してよく分かんないけどぉ。それって神の国ってことですかぁ?」

「「神の国!?」」

「な!な、なんと!? ではこの澄んだ極上のエールは、まごうこと無き神々の酒であると!?」


 マリアードがジョッキを床に置いて土下座し始めた。何故か周囲の者達にもそれに倣う者が現れ始めてしまった。


「おいおい、そんな大層なもんじゃな…いいや。確かにこの前、長老の身内が土産に持ってきてくれた小樽のエールは…正直、微妙だったしなあ~」

「そうじゃのう! エールで小商いをしとる麓の者達には悪いが、この見事なルービーと比べれば、あのエールなど牛の小便じゃのう! ガハハハッ!!」


 いつの間にか参加していた長老のラズゥはすっかりと赤ら顔になっていた。


「小便とは酷い言われ様だが…仕方ないだろうなあ、コレと比べられてはなあ。悪いがもう一杯頼んでもよいだろうか…」


 いつものように狩った獲物の肉を届けに来たデスルーラも驚愕していた。その隣には長老の世話役のエイの姿もあった。



 ◆◆◆◆



 無事に支族化を果たし、Pゾーンに自由に出入りできるようになったウリイとダムダの二人はストローの嫁兼宿の従業員としての初仕事の手ほどきを受けていた。支族化に伴い、二人には無限フードプロセッサーと無限ドリンクサーバーに表記される文字がなんと読めるようになっていた。ただし、読めるようになっただけで難しい意味や言葉などは理解できないようだったが。


「よし。じゃあ仕切り直して、先ずはこの無限ドリンクサーバーからな。このパネル…文字が出てる板のこの部分をまず触るとだなぁ…」


 (:無限ドリンクサーバー。新レシピ・ルービーがアンロックされました。※材料の提示解析とスキルレベルによってレシピが増加します。現在可能なレシピ………レモンサワー。おコーヒー(砂糖ミルク付き)/鬼のように熱いor冷やし。ストロー特製ミックスジュース。ルービー/ジョッキorピッチャー。)


「…なんでルービーなんだよ? そこは普通にビールでいいだろうよ…」

「ストロー様?」

「ああ、ゴメン。そいで今から宿の連中に出すのはこのビー…ルービーってヤツだから。これを選ぶんだ」


 ジョッキが即座にセットされ、きめ細かい泡をたたえた黄金色の酒が注がれる。思わずストローもグビリと煽りたくなる衝動に駆られる。


「とりあえず今日は人数が多いから、これを人数分プラス、このピッチャーも出す。一緒に出すお代わりだと思って良いだろう。それとグラスは落っことしても割れやしないが、中身をぶちまける訳にもいかないし、足に落としたら痛いだろうしな。無理をせずにこのワゴンを使うんだ」


 無限ドリンクサーバーのレシピ名が何故かルービーと登録されてしまった為か今後はこの名前が浸透してしまうことになる。



 ◆◆◆◆



 酒が進めば料理に手をつける速さも自然と上がるものだ。ストローは女衆に捕まっているダムダを食堂に残してウリイと追加の料理を取りに行こうとしてはたと思い出した。


「ああッ!!」

「旦那様どうかしたのかい?」

「忘れてたわ…厨房の仕事もあるけど、もっと大事なことがあるんだったわ。ちょっと悪いがダムダを返してくれ!」


 ストローは二人の手を掴むとその足で厨房、リビング、そして風呂場へと来ていた。


「ちょっとちょっと? あ。旦那様はエッチだなぁ~…もう我慢が出来なくなっちゃったのかい? せめて皆が帰った後にすればいいのに…せっかちだなぁ~?」

「あぅ… す、するのかぁ?」


 何故か脱ぎ出そうとするウリイとモジモジするダムダをストローが手で制す。まだ慣れないのか照れているようだが。


「馬鹿!そうじゃあない。お前達にはまだ覚えて貰う事があるんだ! そう、このトイレだ!」

「「……といれ?」」


 いきなり食事中の場面からこのような話をするのはストローも避けたいところであったが、食べればその分、そう出ていくのだ。これもまた真理である。

 そして少し前にも触れたが、この世界での衛生面はかなり劣悪だった。このケフィアは土地が高く風の具合からいってもそこまで問題はなかったのだが、水道などの設備が殆ど無い場所では排水などという概念そのものすらないのだから。


「あーと、ちょっとコレを見てくれ。なにか分かるか?」

「壺ぅ…じゃあないよねぇ? 蓋がついた水瓶かなぁ~?」

「あ。もしかして不浄処かい?」

「ふじょ? あ、そうそれだ。コレからお前達も使う事になるし、宿にもあるから利用客にも利用して貰うからその辺もお前達が実際に教えてやるのも仕事に入れて貰うぞ。…特に女相手はお前達の方が良いからな。そうだ…ダムダは問題ないとして、ウリイちょっと座れよ」

「ちょっ!君はボクに目の前で用を足せって言うのかい!? 奴隷の時でもそんな事言われたことないよ!?」

「振りだよ振り…今後、宿にお前みたいにケンタウルス族か似たような種族が来てもいいように、問題がないか検証したいだけなんだよ! お前っ!ワザと俺の前でスカートをたくし上げるのは止めろよ!? ダムダも脱ぐな!」


 この宿屋にあるトイレの便器は完全に椅子型の洋式トイレで背もたれ、というか洗浄タンクはない。便器に据え付けれたノブを捻ることで、恐らく厨房のシンクと同じ原理で働いているものと思われた。


「どうだ?」

「うん…ダイジョブ…」


 流石に振りとはいえ人前では恥ずかしいのかウリイの顔が赤い。この世界の住民の基本は野〇ソか、壺で用を足すのが主流なのか、特に彼女達の抵抗はなかったようだ。


「アレ? コレはなんだい…」


 無邪気なウリイはノブの近くの突起を指で押し込んでしまった。


(ピュ――――――…チョロチョロチョロチョロ…)


「わひゃあ!?」

「どわあっ!」


 それはいわゆる洗浄機能だったのだが、その未知の衝撃にウリイは飛び上がって背を向けていたストローへとダイブした。


「うわぁ~凄いよぅウリィも見てよぅ? この壺、ちっちゃな噴水が付いてるんだよぅ!」

「ええ~ん酷いよ~! これじゃあお漏らししちゃったもたいじゃあないかああああ!」


 ビショビショに濡れてしまったスカート代わりの布を手にウリイがストローに抱き着いてまるで幼女のようにビービーと泣いていた。よほど驚いたのだろう。


「……説明しなかった俺も悪かった。女達に頼んで代わりの布か何かを貰ってくるから少しだけ待ってろよ? はあ。こりゃあ他の連中に説明する時も骨が折れそうだなぁ。悪いけどダムダ、ちょっとウリイの世話してやってくれ、ここのタオル好きに使っていいから」

「わかりましたぁ!ほらぁウリイももう泣かないでよぅ」

「…う゛ん゛」



 その後、丁度用を足したくなる人間が増えてきた頃合いでストロー達による宿のトイレの説明会が行われたのだった。やはり人間・獣人・亜人、誰もが驚愕したのは蓋つきの大理石のように美しい便器でもなく。尻拭き用の…本来大変貴重であるはずの使い放題のそれはそれは肌触りが良く、さらに柔らかい紙でもなく。やはり、あの洗浄機能であり、恐る恐るスイッチを押すことで飛び出る水の柱であった。


 その夜、いや次の日になっても宿のトイレには人の列が出来ていた。個室からは興奮とやや悦に入った叫び声が絶えず聞こえたという。


 そして、宿のトイレもまた、その驚くべき様式から"噴水"として定着することになってしまうのだった。 



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