νダムダ、と例のアレ
タイトルにあるブイは(以下省略
◤ストロー◢
マリアードの質問攻めがひと段落してやっと落ち着いたぜ。窓を見ればだいぶ暗くなってきた。仕事が終わったのか村の人間もさらに宿屋を訪れて獣人達に混じっている。こうしてケフィアの皆みたいに種族に関係なく一緒に仲良く暮らせればいいんだがなあ…。まあ、それは良いとして。最近の狂信者のテンションはヤバイからなあ。まあ、仕事?熱心なんだろう。精霊信仰者ってくらいだから、精霊大好きファンクラブみたいなもんなんだろうな。あ、そういや聞いてみよっと。
「なあ、マリアード」
「はい。なんでございましょうか? ストロー様」
獣人達に聞き取り調査を行っていたマリアードに俺は話しかけた。なんとなくその獣人がさっき見かけた茶色い毛皮の獣人の若い男だったような気がする。助かった、みたいな顔をしてるが気のせいだよな?
「精霊ってさあ、俺の他にもいるんだろう? そのノーム様とかさ」
「ええ喜んでそのお話、聞いて頂きましょう!」
俺の質問がマリアードの琴線に触れたのか、目に見えて機嫌が良くなった。
「先ず、最初の精霊にしてこのヨーグの山々を統べる大地の精霊ノーム様が居られます。なんでもここより地下深く、眷属であるドワーフ達と共におられると伝え聞きます…」
「ふむふむ。確かブラウニー…チーピィ達もそんなことを言ってたなあ」
「そして大海とその水族を司る水の精霊ウンディーネ様。奇説ではありますが、遥か昔にストロー様と同じく人間の男を支族にされたとか」
「おお! 俺よりも先駆者がいたのか」
「ええ、まあ…」
何だかマリアードの歯切れが悪いな?
「その…奇説であることを踏まえた上でお聞きして頂きたいのですが。支族となり、伴侶となったその男はあろうことかウンディーネ様の下より逃げ出したそうです。今でも水の精霊は世界中の海を探して回り、その男もまたどこかの海で逃げ続けている、と…」
「そりゃあ凄い話だな…」
「ボクは旦那様とずぅぅっと一緒だからね!そんな恩知らずとは一緒にしないでくれよ!」
女衆と一緒に追加のブラウニーを堪能していたウリイが怒って口を挟む。
「はいはいわかったよ。で、他の精霊は? あ~と俺が聞いた感じだとあと、風と月とミオとか言ってたかな? それと炎か」
「それと樹の精霊ドライアドですね。あまねく自然を司る存在ですが、数百年前から我ら人類との関りを一切絶っておられる方で謎が多い方なのです。まあ、それも仕方ないかと…」
「仕方ないってのは?」
「はい。元はこの北ルディアでは数本の世界樹と呼ばれる御神木、つまり樹の精霊の御所があったのですが…永き争いの中ですべて焼かれ、枯れと失われたしまいまして。最後の一本があった場所が中央ルディアの王都ウエンディの王宮が現在建っている場所なのですよ」
そりゃあ、百パーセント人間を。そこに獣人・亜人が含まれるかは分らんが良くは思わないだろうなあ~。つまり俺の宿屋みたいな自分空間を全部ぶっ壊されたってことだろう? 俺ならキレるね、確実に。
「他には風の精霊シルフ。かの精霊は世界中を巡る大気そのもの。常に同じ場所には留まらない存在ですし、月の精霊ルナーは…」
マリアードが大きな窓を指さす。その先には夜空に浮く月がある。ああ、なるほど月か。
「月の精霊は夜の管理者とされています。そして澪の精霊スケリッジと炎の精霊サラマンドラに関しては所在が明らかになっています」
「ほお、じゃあ場合によっては会いにも行けると?」
「澪の精霊に関してはなんとも言い難く…。北方の厚き氷の大地の底に鎮座し、偉大なる戦士の魂を招集するとされていますが、…逆に興味が無いものには一切干渉しないとか。炎の精霊は南方にある最も大きな火山シヴァの火口に常に身を置いていると聞き及んでおります。地母神ガイアに最も近き存在であるノーム様の次に我らガイアの徒、または周辺国の信仰を集めておられる御方でもあります。 …勿論、私めは御前のストロー様に絶対の信仰を捧げておりますが」
「へ? へえ~そうなんだ」
俺はマリアードの熱視線をスルーする。そうか、でも俺みたいに人間…正確には、俺はケンタウルス族とミノタウロス族の亜人だが。支族として迎え入れた事例があるなら心強いな。まあ、女神のジア様はむしろ薦めて俺にあの二人に手を出すように仕向けたきらいがあるしなぁ。
…そろそろアレを出すか。アッチでは多分もう10日くらいは経ってそうだが…ダムダはもう少し時間が掛かるのかもしれないしな。
「ウリイ、少し手伝ってくれないか? おっ。コレがお前の初仕事かもな」
「ボクの仕事!? やる!やりますっ!!」
テーブルの席についていたはずのウリイがまた光線のように何もかもすり抜けて俺に抱き着いてきた。衝撃が凄い。
「ふうむ。凄いなあ…アレが精霊様の支族となった者の力なのだろうか?」
「俺達の中にケンタウルス族とミノタウロス族の者が居なかったのは幸いかもしれんなぁ…」
「だな。きっと俺達の騒ぎの比じゃあないだろう。なんたって自分の種族から精霊の支族が生まれたら、詩になるどころか石に彫られるほどの伝説になることは明らかだしな!」
獣人達は飲み食いの手を止めて見入っている。そこへさっきの茶色い毛皮…じゃなかったわ。さっき名前を聞いたらイスケトと言う名前らしい。因みにビーバーの獣人らしい。
「あのう、精霊様…俺達はもうこんなにも素晴らしい食べ物や飲み物を頂いているのに、まだ何か出していただけるんッスか?これ以上はもう流石に…」
マリアードが彼の背後で眼を閉じてウンウンと頷いている。脅されてるんじゃあないだろうな?
「今日の〆…いやメインだな!恐らく追加の料理も欲しくなるはずだぜ。それにな、最初にもいったが何の遠慮もいらんからな。今日は飲んで食って楽しむ! それだけ忘れてくれなきゃあそれで良いんだからな」
俺の返しに獣人達が顔を両手で覆い始めた。あ、泣いてる訳じゃあなくて最敬礼らしいぞ。アレ? でもイットあたりのオッサン達は泣いてるっぽいぞ。まあ、さっさとアレを出して黙らしてやるとするか。
「よし、ついて来い!ウリイ」
「うん…」
何故かウットリとした表情を浮かべるウリイ。ちょっと怖いぞ? 頼むから厨房で暴れてくれるなよ…。
食堂のドアを潜り抜けて厨房へ。いやあホント便利だわ直通! コレなかったら厨房から移動するまでドアが2枚。さらに出てもカウンターの奥だ。勝手が悪過ぎる!このドアの有用性は実に高いぞ。
「よっしゃ!ウリイ、気合い入れて覚えろよ。これが多分お前のメインの仕事になるかもしれんからな」
「うん!ボク頑張るよ」
俺は先ず無限フードプロセッサーの前に立って使い方を教えようとした時だった。
ガチャ。
リビングへと通じるドアが開いた。
「「ダムダ!?」」
「わっ!? ウリイ!!ストロー様ぁ!!」
ウリイとダムダは抱き合って涙を流す。俺は間に挟み込まれないように距離を取りつつもダムダを観察する。…やはり、ウリイと同様に外見の変化が顕著だなあ。
何とか落ち着かせた二人を引っぺがすとダムダを俺の正面に立たせる。ふむ。先ず上からだが、髪はピンクからエメラルドグリーンに近いブロンドになっている。ショートヘアも少し癖っ気のあるフワフワしたマントみたいな長髪になってるし、角は大理石というか鍾乳石?みたいな質感でブレード状になっていた。コレ…頭から突進されたら死んじゃうんじゃあないか? 体はむしろ少し縮まった? イヤなんといかより筋肉質になってるなあ~…お腹にシックスパックが浮かんでいるぞ。その変化がより彼女の胸にあるブツを際立てている…恐ろしい! それとツル植物のような文様が手足と腰回りに現れている。何の意味があるんだ?
「ダムダ、君も随分と変わったねえ…かなり強そうだよ?」
「うう。俺ぃ…目が覚めたら誰も居なくてぇ。とりあえず水浴びさせて貰おうかとお風呂に行ったらさぁ? あのピカピカする板に自分の変わった姿が映ってて!! 俺ぃ驚いちゃってさぁ…少し部屋をウロウロしてたら喉が渇いてきちゃってぇ…てっかウリイも凄いよぅ!? その髪色とか脚に毛が…なにその尻尾ぉ!?」
「ふふん。カッコイイだろう?」
「まあ、それで厨房に出て来たわけか。しかしタイミングが良いな、説明の手間が省ける。あ、ちなみにダムダは元の姿に戻れたりするか?」
またウリイに胸を揉まれてイジメられているダムダを助ける。
「ん、ちょっとの間だけならぁ」
「え!? ホントかい!」
ウリイが驚愕し、やっとダムダの先端から手を離す。ホント俺には眼の毒だし、絶対に人前でやらないように後で注意しとこう。
「んぅ…!」
「「おおう!」」
ダムダが全身に力を入れると元の姿へと戻った。ただし髪型は変わらなかったが。
「どれだけ維持できる?」
「んん~わかんないよぅ。多分ちょっとの間だけだと思う…。もうちょっと慣れたら多分常に維持できるようになるかもしれないかなぁ」
ダムダの全身が光って変化後の姿に戻った。
「そうか。…おい、ウリイ。やっぱりお前だけ早く出過ぎたんじゃあないのかぁ?」
「し、仕方ないでしょ!だって目が覚めちゃったんだもん。…それに、早く君に会いたかったんだもん…!」
何ともその可愛い仕草は反則だな!絶対に人前でやらないように後で注意しとこう。
「…………」
「ん?」
ダムダが俺の前で涙目でプルプルしていた。まるで子供のように顔をクシャクシャにして耐えている。ああ、しょうがねえなあ…というか俺が悪いなコレは。
俺は両手を広げて見せると、ダムダが襲いかかってきた。潰れる…!絶対に人前でやらないように後で注意しとこう。震える体から余程不安だったことが伺えた。
「グスッ…良かったね。ダムダ…」
視界が塞がれた俺の耳にウリイの鼻声が聞こえた。
「ゲホゲホッ…あ~死ぬかと思った。まあいいや、ダムダには悪いがここでウリイと一緒に仕事を覚えて貰うぞ?」
「はぁい!!」
死に掛けの俺とは別にダムダはニコニコ顔だった。…ええんやで、君が笑顔でいてくれるなら。ただ、絶対に俺以外にはやるなよ? これは嫉妬ではない、ただ相手を死なせたくない一心からの俺の正直な気持ちだ。
(数分後)
「凄いや!? じゃあ、あんな美味しい料理が食べ放題ってことかい!?」
「あわわわわ…!?」
「まあ、ぶっちゃけそうだ。多分制限は無いと思う。ただし、食べ物や飲み物単体は宿屋から外に持ち出すと消失する。持ち帰りはできない。それとだな、基本休憩中は冷蔵庫の中身とこの無限フードプロセッサー、それと隣の無限ドリンクサーバーを好きに使って構わないからな。片付けもそこのシンクに突っ込むと勝手に消えるぞ? …多分何でも。 あ!貴重品は持ち込むなよ? 落っことして消しても知らんからな」
俺の言葉にポケーっと二人は呆けたままだが、大丈夫か? まあ、この世界にこういうハイテクマスィーンの類はないと思うから無理もないか。ファンタジーの癖してな。
「おいおい、早速だが宿の皆に新たに追加されたドリンクを出すぞ!多分バンバン出てくから操作をキチンと覚えてくれよお?」
「「ふ、ふぁい!?」」
良し、いい返事だな。フフフ…スキルレベルが2になってやっとコイツを出せるようになったぜ。俺だって地球にいた時からコレは好きなんだ。きっと皆喜ぶぞぉ~!




