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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
35/103

 ウリイとダムダ①

もう終わるお盆休みに絶望する筆者。

で、でも…

やっとメイン・ヒロイン(仮)の二人を本編に出せてよかった…

ガクッ(綺麗な死に顔)


「んっ…」


 独特な艶のある、平たく言えばブルネットに近い黒髪と長い毛耳を持った亜人の女が宿屋のベッドの上で眼を覚ます。その眼前には涙を一杯に溜めたピンクブロンドの短髪の女の顔があった。その両の額からは水牛にも似た大きな牛の角が生えている。


「……ダムダ?」

「ウリイ!? わあああぁ~ん!ウリィィィィィ~!! うあぁあ~んあんあん!!」


 ダムダと名を呼ばれた女がウリイにガバリと覆い被さる。


「ちょ、ちょっとダムダ! 気持ちは嬉しいけど、それだとボクが潰れちゃうじゃないか…」

「ヒック ヒック… ごめんね、ごめんね…。俺もウリイも死んじゃったみたい…」


 ウリイは床に座り込んで泣き喚くダムダの言葉に自身の身体を見やる。ベッドのシーツをめくると裸であったが、ここ数年は裸のままの生活だったので今更だろう。その数年間で酷使されてきた自分の身体はまるで傷もなく艶すらあり、健康だったあの頃以上だった。半月前に潰してしまった自分の左の後脚も綺麗になっている。


「そっか…結局、死んじゃったか。まああんな状態じゃあ精霊様か女神様くらいじゃあなきゃどうにもできないよね…」


 そう独り言ちて、彼女はベッドから4本の足で立ち上がった。未だ泣きじゃくる相棒の頭を撫でてやる。そのダムダの頭の角も、冒険奴隷から払い下げされた時に両方ともアデクの奴隷使いにへし折られていたが、それが嘘かのように生えそろっていた。もう片方の手で自身の身体を今一度触って確かめる。…まるで生の実感が感じられず、夢の世界にいるようだった。目が覚めている内は常に付きまとわれていた肉体の痛みや、毒や病の気が完全に消え失せていたからだ。しかし、空腹感のようなものがジワジワと込み上げてくることが不思議であり、不快で眉をしかめた。


「死んだらもう何も食べなくていいはずだけど…嫌だなぁ。まあ飢え死にしたアンデットとかこんな気分なのかも。 …それにしてもここどこだろ? 死者の門っぽくないよね。どっかの宿屋みたいだけど…」


 ウリイがダムダを立たせながら周囲をキョロキョロと伺う。部屋はそこまで広くはないが見たことも無いような上等な寝台が4台も置かれている。まあ、ウリイ達は物心ついてから故郷以外の人間の街の宿屋などに入った試しがないので、もの珍しいばかりで特に疑問も抱かなかった。


 そこへカウンターの奥から布巾を被せたワゴンを押しながらストローが出て来た。


「おっ!目が覚めたか。我ながらベストタイミングだったな」


 ストローの声と姿に二人は天井に届きかねないほどに飛び上がった。


「だ、誰!? に、人間の男ッ!?」


 ダムダはウリイを庇うように前に出ると腰を突き出して両手を床についた。まるで力士のような構えで臨戦態勢を取る。これが無手の肉弾戦である彼女の戦闘スタイルである。流石にその反応は予想していなかったのかストローが「えっ」と、口に咥えていた藁をポロリと落としてしまう。その視線は彼女の頭の上に突き出た大きな尻と床に押し付けられそうになっている双丘の肌色爆弾に釘付けになっていた。まあ、男であるストローがその絶景に動きを止めたしまうのも無理はない。それだけ回復する前の彼女達の痩身振りは酷いものだったからだ。今は女性特有の肉付きの良い肢体を露わにしているし、隠そうともしない。特にダムダのボディラインは暴力そのものであり。仮にちゃんと衣服を纏っていたとしても男の視線をコントロールすることは余裕であると事を加筆しておく。


「…あ!!」


 しかし、ウリイだけが気付き思い出した。ストローの声と彼の横顔を。ダムダを後ろから押し退けてストローの前に爆走しながら彼女はスライディング土下座と言って相応しい体勢でひれ伏した。

 哀れなダムダは突き飛ばされた勢いで男にはより残酷な姿をストローに露わにする。正面から「ああっ!」というストローの無心の悲鳴が聞こえた。


「うう…酷いよウリイ…何するのぉ…」

「ダ、ダムダ! ボク達は死んでなんかない!! この人に助けて貰ったんだよッ!」


 ウリイの怒声染みた叫びにダムダも飛び起きる。「えっ う、うん!」と答えるとウリイと同じくストローの前に土下座する。彼女の背中越しに何かはみ出したので遂にストローは耐え切れなくなった。


「ちょおっと!? スタぁっプ!もはや暴力だ!アウトだ!! お前ら!先ずは何か着てくれよ!裸、裸っ!お前ら丸出しだからッ!! イヤホント、止めろってば! こーいう時に限って、こんな拙い現場を誰かに見られ」


(カランカランカラン♪カラン…♪)


「…ご早朝に失礼致します。ストロー様、マリアードでございます。二人の様子はいかがでしょ……」


 亜人とは言え裸の女性二人を土下座させているストローの姿を見て司祭マリアードも動きを停めた。


「………申し訳ありませんでした、ストロー様。また明日にでも出直して参ります…」

「ちょっと待て。恐らくだがマリアード、アンタは誤解している」


 一切の笑みを消したマリアードを何とか説得し、女性である外で待機していたシスター・ベスにも手伝って貰ってウリイとダムダに衣服を着させた。ウリイは上半身は女性そのものだが、足が4本あるので女達のワンピースでは納まり切らないので腰には大きな布を巻いた。ダムダはシスター・ベスが動揺するほどのバディであったのでワンピースを着せようとするも途中ではち切れてしまった。仕方ないので村で一番の大男のシャツを借りて着せるも双丘のせいでヘソの上までしか隠せず、ウリイと同様に腰には布を巻いた。


「ボク達には服なんて…」

「オ、俺も…なんかむしろ恥ずかしいような…」


 やっと胸を撫でおろしたストローを見てからマリアードが笑顔で彼女達に話しかける。


「…失礼。私はガイアの徒でこの村の司祭、マリアードと申します。このケフィアに種族や奴隷といったつまらない理由で他者を害する人間はいませんから心配はいりません。…ただし」


 マリアードはチラリと視線でストローを指す。


「あなた達の命を救って下さったのはあの御方。この宿の主であるストロー様です。…彼の望みはできるだけ叶え、願いを乞われるならば喜んで手をお貸しする。…少なくともこの宿に居る限り、あなた達はそうすべきです。 …わかりますね?」


 最後は笑みを消し去り、やや厳しいと思えるほどの表情を浮かべる。二人は只ならぬものを感じてただ無言で首を縦に振る。


「それは重畳。恐れることなどありません。彼は必ず(・・)やあなた達を救って下さることでしょう。今後の事は彼と話し合って下さい。勿論、私達にも手伝えることがあるのならば喜んでお手伝いさせて頂きますよ。私もあなた達から色々と聞きたく思いますが、まあ日を改めてるとしましょう。あなた達のお仲間も無事ですよ。早ければ今日か明日にでも引き合わせましょう…ではストロー様。今日は二人の無事も確認しましたし、失礼させて頂きます。シスター・ベスも苦労を掛けてしまいましたね。さあ、聖堂へと戻りますよ」


(カランカランカラン♪カラン…♪)


「はあ。やっとこさマトモに話せるよ。…ところでベスの奴、やたら元気なくトボトボ帰っていったが大丈夫かなぁ? 調子が悪けりゃあ遠慮なく泊まってけば良いのにな。さて…」


 ストローが口を開いたタイミングでウリイとダムダの腹部から可愛いとは言えないレベルの腹の虫が悲鳴を上げた。お腹を押さえた二人が顔を真っ赤にさせている。


「おっと!忘れてたぜ。先ずは腹ごしらえといくか。さあ、そこのテーブルの椅子に座ってくれ。…あ。失念してたわ。ウリイはこの椅子に座れるか?」

「…え!? あ、ええと大丈夫だと思うよ…じゃなかった大丈夫だと思います。…その背もたれが邪魔なので、こう横に向ければ…」

「そうか悪いな。今日中にお前用の椅子を作るか頼むかするからさ。ちょっと我慢してくれよな?」


 ストローの屈託のない笑みと言葉に「え? え!?」と眼を瞬かせる彼女達を問答無用で席に着かせるとストローはワゴンの布巾を取り去る。部屋中に料理の匂いが広がり、それを間近に見せつけられたウリイとダムダの口にまるで猟犬のように涎が溢れかえる。


「ちょっと冷めちまったが、好きなだけお代わりはあるから遠慮せず腹一杯食ってくれよ。 …あ。ちなみに二人はベジタリアンだったりする? 肉料理は平気か?」


 二人の前にまるで王族か貴族の晩餐のような御馳走がところ狭しと並べられる。



「ねえ、ウリイ…」

「…………」


 先程から涎の滝をつくるダムダが隣のウリイにまるで夢を見ているかのように尋ねる。ウリイは無言で並べられていく料理を見つめている。


「やっぱり、俺達死んじゃってさ。極楽の死者の世界にいるんじゃあないかな…」

「…………ボクもそう思えてきたかも」



 二人が視線をずらせば、嬉しそうに料理を配膳し続ける男の姿が目に映った。


「ん? どうした。冷めないうちに喰いなよ?」



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