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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
34/103

 救われた二人

各話の人物視線を、

◤キャラクター名◢で統一します。

気紛れでまた変わるかもしれません。

あとたまに読み返すと誤字脱字が凄い!ヤバイ!


「あ、あんちゃんが帰ってきた!?」


 宿屋前の広場で瀕死の奴隷を両肩に抱えたストローを発見した村の少年チクアが叫ぶ。周囲で待機していた村人達も気付いてストローの下へと駆けよってくる。


「だ、旦那!? 一体、いつの間にアーチ門の方へ行ったんだ?」

「おうとも。何かバチバチッっと光ったかと思ったらよお、もう旦那の姿が無かったから…そりゃあ焦ったぜ。アレが魔術ってやつなんかなあ」


 そう尋ねてきた村の男は最初に出会ったケフィアの門番の男だった。だが、そんな男達は後ろから来た女衆に横へ吹っ飛ばされる。


「まったく男どもはそればっかり!馬鹿だねッ!!」

「こりゃあ酷いなんて言葉じゃあ済まされないよ!ああ、なんて可哀相なんだい…!」


 ストローに担がれた二人の姿に女衆は悲鳴を上げて涙ぐむ。村の男達は瞳に怒りを灯して歯を食いしばった。


「アデクの奴隷使いめ! いくら奴隷だからって、こんな真似していいわけがねえじゃねえか!」

「まったくだぜ。同じ人間とは思えん!!」

「ちうか藁の旦那。早く司祭様のとこへ連れてった方が良いんじゃあないですかい? …ここまで酷いと、もう手遅れかもしんねえが」

「あ!アタシ達、家からなんか必要なモンを取ってくるよ。 薬とかそんな高級品は無いけどさ、若旦那、何でも言っておくれ!」


 心から二人を心配してくれる村人達にやっと笑顔を見せるストロー。もうその瞳はいつもの優しい色へと戻っている。


「…そうかい。この二人は俺の宿屋で面倒を見るから心配しなさんな。ああ、でもそうだな。悪いが…この二人は裸でな。その、着れる服か、大きな布でも良い。何かあったら後で持ってきてくれたら助かるよ」

「あいよ!まかせな」


 女衆が慌てて村の方へと駆けていく。


「チクア。悪いが手が塞がってんだ。宿屋のドアを開けてくんねえかな?」

「う、うん!」

「旦那、俺達も手伝うぜ」

「そうだそうだ」

「しかし、旦那も存外力持ちだなぁ。亜人を二人も平気で担げるなんてまるでオラの(カカア)みてえだな!」


 手伝いを買って出る男達を率いてストローは宿屋に戻った。すると宿屋に入ったタイミングでストローの担いでいた片方が意識を取り戻した。


「うっ…! うぅ…た、助けて? くれ…る、の…」

「気付いたのか。まだ口が聞けるとは大したもんだな」


 ストローに気付いたのは黒髪に長い毛耳、そして4本の足を持つ亜人の女だった。


「お、お願い…ダ ムダ、を…た、助け て…」

「ダ? ダムダって名前なのか。お前さんの連れは」


 何とか目を開いた亜人の女が村人達に抱き渡されたもう一人の亜人の女に視線を向ける。もはや動かなくなりつつある片手を必死に伸ばそうとする。


「助けてやるともさ。だが、つまらない事を聞いちまうがな。…俺は宿屋だ。だから、タダ(・・)じゃない。ひとり銀貨3枚だ。払えるかい?」

「あ、あんちゃん!?」

「旦那ぁ…そりゃあいくらなんでも酷じゃあないですかい…?」


 ストローの言葉に周囲のチクア達が反応するが、ストローの真剣な表情を見て直ぐに押し黙った。


「…お金は、持っ てない よ…」

「そうか。なら代わりに何を俺に払って寄越すんだ?」


 ストローの言葉に彼女は一瞬目を大きく見開くと静かにはにかんだ。


「ダ、ムダ…ボ、ボクの大切な 仲間な んだ… 彼女を 救って… くれ、るなら… 代わりに、ボクをあげるよ。 命も…血も、肉も…皮も骨も魂すらも。 君に、あげ… る…よ…」

「…わかった。お前の望みを叶えてやる。 …そうだ、お前の名前は?」


 彼女は瞳を閉じ、腕をダラリと下げると微かにストローの耳元で囁くように口を開くと完全に気を失ってしまった。


 ストローは彼女達を村人達に手伝って貰いながらベッドへと寝かせる。その後、女衆が差し入れを持ってきたり、長老達が様子を伺いに来たりと人の出入りがあったが、みるみる顔色を良くしていく二人の顔を見て安堵して宿を後にした。気づけばもう陽が落ちていた。


 そして、最後に司祭マリアードがひとり宿屋に入ってくると奥のミニテーブルの椅子に腰を掛けて彼女達の寝顔を眺めていた宿主の前に膝まづく。


「…ストロー様。この度は二人の命を助けて頂き、感謝の言葉がございません」

「………他の奴隷達は大丈夫なのか?」


 いつもであれば、マリアードに対してそんな仰々しい真似は止してくれと言うに違いないストローもまるで彼の方を見る事もしなかった。


「はい。だいぶ険しい山道を歩かされたようです。かなり消耗はしていますが、幸運な事に私達の奇跡の力で癒せる傷のものばかりです。ただ、我らガイアの徒の力だけでは足らぬ事もあります。彼らは明日以降に様子を見て、ストロー様の下へと連れてきたく思います…」

「そうか…まあ、ウリイもダムダも明日の朝には目覚める。飯を食わせた後は俺も話も聞きたいしな。都合がつくなら他の連中を明日連れてきても問題ないぞ?」

「ウリイ、ダムダ…それが彼女達の名前ですか?」

「ああ、多分な」

 

 ストローが上の空のように藁を口に咥えた。


「…私としたことが忘れておりました。彼女達の宿代をお支払いしておりませんでしたね。今すぐにでもお渡しを…」

「…いらないよ。もう代わり(・・・)は彼女から貰ってるんでな。ソッチの黒髪のウリイは俺が貰うことにした。だから、マリアードには回復したもう一人のダムダって娘の面倒を加えてみて貰うかもしれないな。…その時は頼むよ」


 ストローの言葉に表情を凍り付かせたマリアードだったが、ウリイの顔を見て「左様でしたか…承りました」と言って深い礼をしてからストローから離れる。


「…今日は色々とあって疲れちまってな。悪いが、二人の事は俺に任せて明日まで宿屋には来ないように言ってくれないか?」

「わかりました。…それと、ストロー様。村人達が今日の出来事で動揺し、少なからず不安に思っているようです。宿の外に集まっているようなのですが、少しの間だけ広場をお借りできますでしょうか?」


 ストローはカウンター奥のドアに手を掛ける。


「そうか。まあ無理もないか…悪いなマリアード。俺じゃあ上手く説明できないと思うぞ。頼めるか?」

「はい。有難く拝命致します」


 膝をついて腕をクロスさせるマリアードを残してストローは奥へと消えた。



 ◆◆◆◆



 既に日が暮れ、灯りが焚かれた広場にケフィアの村人達、そして身動きできる奴隷達の数名が集まっていた。そこにマリアードが宿屋から出て来て静かにドアを閉めると、宿屋に向って恭しく一礼する。


「し、司祭様…若旦那は何と?」

「ストロー様はあの二人を救って下さると宣言なされました。私も様子を伺いましたが、もう問題は無いでしょう」


 マリアードの言葉に村人達は安堵と喜びの顔を浮かべ、端で聞いていた奴隷達は嗚咽しながらその場に崩れ落ちてしまった。


 だが、マリアードの側に長老ラズゥが神妙な顔をして歩み寄る。


「司祭よ。今日、あの愚かなアデクの悪党の前で見せた姿こそが…ストロー。あの青年の本当の姿なのであろう?」

「…ええ、流石に私も胆が潰れるような思いでしたよ。他の精霊と異なり、ストロー様はとても人間に、いいえ私達に歩み寄った御方なのは確かでしょう。人間の姿を一瞬ですが維持できなくなるほどに、虐げられた彼女達に怒りを現わして下さったのですからね」


 マリアードが今日起きた出来事をひとつひとつ周囲に話し、説いていく。その言葉にある者は驚愕し、ある者は手を合わせて涙を流した。


「彼が訪れた頃に一度話してはいますが、今後はあの心優しき精霊。偉大なるストロー様の御心を乱さぬよう、より一層のこと私達の前に現れた奇跡たる"精霊の宿"について考えていかねばなりません…!」



 こうしてマリアードの説法と村人達の話し合いは夜空の星が消えるまで続いたのである。



 ◆◆◆◆



 一方、その頃。当のストローはPゾーンのリビングに呑気に寝転んでいた。


「さて、どうしたもんかね。銀貨1枚の価値ってのが未だにわからんのよね? あの黒髪のコ…お金が無いから体で払うってのは…まあ、働いて返すっつーことだよなぁ。う~んう~む…どうしよ。まあいっか!この世界の労働基準がわからないけど3日間、宿を手伝って貰うくらいでいいな。バイトだバイト。つーか今後の従業員のモデルケースとして大いに参考になるはずだ」


 勿論、言った当人のウリイも聞いたマリアードもそんな軽い意味で言った言葉ではなかったが、どこまでも呑気な男であるストローは何も深く考えていなかった。


「あ。そういやこの前、ローズが言ってたのってあの二人じゃあないのか! 名前聞いとけば良かったなあ~。確かケンタウロス、ミノタウルス? いやケンタロウにミノジロウだっけかそんな種族だったよな。馬?牛? どうでも良いがベジタリアンとかだったら食事も考えなきゃだな」


 ストローは腰を上げるとスタスタと厨房へと歩いて行くのだった。



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