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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
31/103

 暖かい色彩③

ワクチン接種とお盆休み前のハードワークでグッタリです。

副反応って個人差があるみたいですけど…

筆者には効果抜群だ!って感じでした。

お盆休みにもっと更新出来たら良いな(白眼)

◤"暖かい色彩"のリーダーで斧使い、ワイン◢


 俺はワイン。西方の王都ヴァンナのトレント級…まあ、中位だわな。冒険者パーティ"暖かい色彩"の前衛。得物は自慢の二丁斧だ。因みにリーダーだったりするぜ。


 つっても、俺はリーダーなんて柄じゃあねえんだわ。特に指揮能力なんて同じパーティの神官、サンドの足元にも及ばねえしな。そもそも俺は学も無いし、アイツみたいに終始冷静でいられねえし。…今更だが、なんで俺がリーダーなんだ? 俺は棍棒使いのキャロット(チビスケ)に比べれば戦闘力はそこそこだし、そこまで誇り高くなんてねぇ。それに、ローズのような忍耐強さも点でない。よくサンドやローズに目を付けて絡んでくる連中にキレて暴れることも数え切れないし、そのせいで組んで数年やってても未だトロール級に昇格できないのかもしれえねえなぁ。ハァ… それによ、俺のワインって名前珍しくないか? ワインだぞ、ワイン! 全くよぉ。ろくでもない話なんだがな、俺の養父が最初は奴隷として売るために口減らしに売られた俺をワイン代で買ったからなんだと。信じられるか? …最低なクソジジイだったけどよ。それでも俺を奴隷にしないで成人するまで育ててくれたんだよなあ~。ジジイは昔は冒険者だったらしくてさ、俺を口利きして冒険者の訓練場にいれてくれたんだ。その後すぐにくたばっちまったがな。アデクの糞商人共にボロ小屋もジジイの葬式代まで毟り取られちまったがな!アデクの名を使うクソッタレ共め!…今に見てやがれ!うちの神官様とその仲間が力を蓄えて戦を起こしたその暁には、貴様ら存分にを懲らしめてやるぜ。


「「がっはっはっはっは!」」


 そんな俺だが、実に気分が良い。隣でチビも馬鹿笑いを一緒に上げているぜ。


 はぁ~。こんな気分はゴブリン級からトレント級に上がった時に小さな部屋を借りて、皆で馬鹿騒ぎやった時以来だぜ!この北ルディアを三つに仕切るヨーグの山の峠の寒村にこんな立派?な宿屋があったなんてなぁ~。クエストでの北方行きに麓で聞いた話を信用するんじゃあなかったぜ。大いに損をこいたな。だってよ、食ったことも飲んだことも無い美味いもんをたらふく食えるんだぞ!? しかもいくら飲み食いしても銀貨1枚だと!? 信じられねぇよ。隣のチビが遠慮もなくここの宿主をアホアホ言ってるが、俺もアホだと思うぞ? もう俺だけでも金貨十枚分は飲み食いしてると思う。いったい何を考えて商売してんだろうな? しかも、これからめいんでっす?とか言って肉料理まで出してくれるって言うじゃあねえか! ま。一番なのはうちのローズも快く一緒に入れてくらたことだがな。


 お。きたきた! もう奥のドアを開けて時からこの匂いが漂ってたんだ! た、堪らん!


「うひゃあ~!メッチャ良い匂いがするぞ!?」

「この匂いだけでパン十個は食べれる!」


 隣でチビスケが涎を垂らして跳ねてるが、俺も似たようなもんだろうがな。



 ◆◆◆◆

◤"暖かい色彩"の神官、サンド◢


 私の名はサンドと… ああ、なんて愛らしいのでしょうか!? 御覧なさい、あのローズが必死になって干し肉…確かじゃあきい?という細長く切った干し肉を口に運ぶ姿を。なんといじらしいのでしょう。きっと人目も憚らずにもっとたくさんあの可愛い口に頬張りたいはずなのに…!


 …コホン。失礼しました。改めまして、私は西方の王都ヴァンナのトレント級冒険者パーティ"暖かい色彩"の神官です。名はサンドと申します。そして、心の底から隣の席のローズを女性として愛する者でもあります。


 そして、私はあの悪名高いアデク教に身をやつす者でもあります。自分の事ではありますが、残念でなりません。せめて、人間・獣人・亜人を差別しない教派。例えばガイアの徒などであれば良かったのですがね…私は自身の信仰を選ぶ自由すらありませんでしたから。…私は孤児です。そして奇跡の力を扱えることが分かり、アデク教へと引き取られたのです。幼い頃は疑問には思えなかったアデクの醜悪さにはウンザリしています。獣人達を奴隷とし、依存してなお虐げる醜い人間達の営みが!私には許せない!許せる訳がない!! 

 私は少しでもアデクから離れたくて冒険神官となりました。しかし、そんな私に優しく接してくれる者は少ないのです。原因は言わずもがな、アデクの名を使って悪行を正当化しようとする悪党がこの世界には数え切れぬほどに蔓延っているからです。それはアデク教の腐敗にも通じています。純粋なアデク教徒など数えるほどしかいないでしょう。ですから正面からアデクに歯向かう事はなくとも恨みを持つ者は多いのです。勿論、人間にも。神殿を離れて冒険者ギルドの門をくぐったばかりの頃は、私は日に何度もアデク教の神官というだけで誹りを受けました。それもまた甘んじてアデクに属した私の罪と受け入れました。

 そんな暗い日が続いていたある日、ギルドの前で私をいつものように押し倒して嗤う冒険者達を殴り飛ばす男が現れたのです。その男はブドウ色の髪をしていて、それは怒り狂っていました。


『こんの馬鹿共がぁ!ンな事をして何になるってんだよ! この西方冒険者の恥さらしがッ!!』

『…弱虫!』


 武器を抜いた冒険者に見事なアッパーカットを決めたオレンジ色の髪を揺らす小柄な少女も私を助けてくれるようでした。背には恐ろしいほど大きな鉄球を背負っていますね…。


『…あの、神官様。大丈夫ですか』


 そして、私は女神。そう、ローズ…彼女に出逢いました。美しい翡翠、いいえエメラルドにも勝る深い緑色の輝きを放つ滑らかな鱗と肌。私は目が覚めるようでした。欠け外の無い仲間、私を助け起こしてくれたワインとキャロットとも出逢えたのです。こうして私は斧使いのワインが率いる"暖かい色彩"のメンバーとなったのです。



「こりゃあ最近開発できたレシピでな。知り合いの獣人が狩ってきてくれたマッドボア?だったかそんな名前の獣肉に、長老が寄越したワインを合わせた料理なんだ」

「…ワイン?」


 しまった!宿主のストロー様の言葉にうちのリーダーが反応してしまった。…彼は珍しいほどに気持ちの良い性格の男なのですが、自身の名前を弄られるのが大嫌いなのです。なんでも、昔酒場で絡んできたゴロツキのような者達から自分の髪を安ワインで染めているのだ、などと馬鹿にされた挙句にワインを頭からかけられた事があるのだとか。


「ん? どうかしたか?」

「あ、いやいや下らない事なんですが。私達のリーダーはワインに少し思い入れがありまして…」

「そうなのか? あ~でもワインはあくまで臭い消しと風味付けの意味合いが強いかもだな。そも長老がくれたワインは不味かったしなぁ。この料理は獣肉をワインで煮込んで香辛料で味を調えたものなんだ(らしい)」


 まさか、この肉料理がそんな業の深い…いいえ、手の込んだものだとは! …本当に銀貨1枚などで済まして良いのでしょうか? あまり高価なものを不等な等価で得るのは道理から外れてしまうのですが。しかし、前を伺えば先程まで顔を顰めていたワインは我を忘れたかの様に料理を貪っていますね。キャロット…まあ彼女は言うまでもないでしょう。実に正直な女性ですからね。私も恐る恐る口をつけましたが、とてもこの世のものとは思えぬ味わいでした。不覚にも彼らよりも料理の皿を積み上げたローズの恥じらう顔を見てしまい表情を保てなくなってしまいましたが。ああ、とても幸福な気持ちで私の胸は一杯です。



 数時間後、すっかり酒が回ってしまったワインとキャロットがストロー様に絡み始めてしまいました。流石に私は諫めたのですが、存外と付き合いの良い彼は私達と同じテーブルに座って酒を飲みながらワイン達が話す冒険譚に一喜一憂してくれています。…本当に、何も知らない農村の気の良い青年にしか見えません。が、あのマリアード司祭の忠告を受けずとも彼は只ならぬ存在であると私も気付いたでしょう。彼は余りにも異常過ぎる…俗世から隔絶された存在、そうまるでかの精霊(・・)の逸話のようです。


 そんな眼で彼を見ていたことを見透かされたかのように、彼は突如アデク教について尋ねてきたのです。仲間達は一様に渋い顔をしていますし、彼の言葉に私を庇うように席を立ち上がってしまいました。もはや彼に私の全てを包み隠さずに話した方が良いでしょう…!


「私は、アンチアデクの人間です」


 私は意を決して、隠し持っていた反アデク勢力であるアンチアデクの印を取り出して彼に見せたのです。




「ふぅん」


 彼は何事もなかったかのように口に干し肉を運んでいます。


「「え! それだけ!?」」


 ワインとキャロットは彼の言葉を聞いて力が抜けてしまったのか椅子に腰を下ろしました。


「人間?獣人?あと亜人だっけか。何が違うってんだ? 一緒に同じものを飲んで食って笑って泣いてるじゃあないか。 俺もなんかアデクの悪い連中の事は気に食わないし、同じ考えの人間だっているはずだよなと思っただけだよ。同じ教派?であってもだ、間違った事を正そうとする。そんな連中がいることは何もおかしくなんてないだろ」


 ストロー様の言葉を聞いた時、私は何か胸にストンと落ちた気分でした。…そうか、彼が…精霊様がそうおっしゃるのならば。私の、私の仲間達の意思は間違ってなどいないのか…!


 私の迷いは、晴れました。その時が訪れたならば、もう躊躇う事など無いでしょう。


 私は印を両手で強く握りしめていました。テーブルに落ちる雫が自分の涙だとも気付かぬほどに。そんな私の肩を優しく抱いてくれたのが愛する彼女である事だけが、この上もなく幸せでした…。



 ◆◆◆◆

◤"暖かい色彩"の冒険奴隷、ローズ◢


「…どうか、泣かないで下さい。サンド様」


 そう言う私の頬にも涙がつたっていました。フフ…おかしいですね。奴隷商の人達からトカゲは涙なんか流さないと何度も鞭で打たれても、涙なんて出やしなっかたのに。


 私の名はローズです。本来、生まれながらの奴隷であった私に名前なんてないんですが…


『はあ!? 名前がないだと!? 冗談もいい加減にしろよ? ああぁ~っ!マジでキレそうだ。 あの糞アデクの奴隷商共め!! 次に顔見たら必ず殴ってやるぜ!』

『トカゲなんて名前じゃない』


 私は戦闘能力がある方だったようで、冒険奴隷となりました。使い物にならなければ捨てられて、怪我をすれば見殺しにされる奴隷種です。顔見知りももう殆ど生き残っていません。…それに私のようなスケイルフォークような亜人は気味悪がられていますから、屋根の下に居れることの方が珍しいんです。

 そんな私がワイン様とキャロット様、ああキャロットさんでしたね。そのお二人に出会ったのは冒険者パーティの人達に何度か捨てられた後でした。ワイン様は怒りっぽい。キャロット様は普段静かな方なんですが…まあ、お二人ともとても優しい方達でした。

 

 私をまず治療院に連れていって怪我を治して下さいました。何十枚と銀貨を出されてまで…。


 私が裸同然なのがおかしいと新品の装備まで買って下さいました…奴隷などに武器まで与えて下さいました。信じられません。


 私の為に怒って、そして泣いて下さいました。ワイン様は私を気持ち悪いと言った同格以上の冒険者相手を殴り飛ばしてしまわれました…罰金まで支払ってしまわれたのに、私には"気にするな、我慢するな"それだけしか言いませんでした。そして、キャロットさんは私に名前を付けて下さいました。そう、ローズと。嬉しかった…!


 そして、サンド様。彼は奇しくも人間以外は奴隷以下としか見ていないアデク教の神官様でした。しかし、サンド様は違いました。パーティに加入した当初のサンド様は私と顔を合わせる度に、何かある毎に頭を下げて何度も謝ってこられました。それをなくすのに1年近くも掛かってしまいましたが。


 サンド様は他のアデクの人間と違って私にとてもお優しい。ですが、その姿を見る私の胸は苦しく締め付けられるのです。彼はアデクの人間でありながら、アデクを憎み、そしてその贖罪に全てを投げ打とうしています。…恐らく、アデクから奴隷達、獣人亜人達を守る為に刺し違えるおつもりなのでしょう。自身の命まで使って…。


 私はそんな果ての無い悲しみに憑りつかれた彼を見ていられないのです。既にキャロットさんには話しているのですが、私は卑しい奴隷の身ではありますがサンド様をお慕いしているのです。もし、彼がアデクとの戦に挑んだ時には私は彼の楯となると。



 ◆◆◆◆

◤"暖かい色彩"の鉄球戦士、キャロット◢


「お、おい!キャロットまで!」


 私のところの馬鹿正直(リーダー)が騒いでるけど、サンドがあそこまでしてローズまで泣いてるんだから、私だって黙ってられない。


 私は椅子から立ち上がるとズンズンと藁男の前にまで大股で歩み寄ると、自身の結わえていた髪を解いた。


「…ウサギの耳か?」

「そう。私は人間の父とノウサギの獣人の母との半獣人(ハーフ)


 私はこうして耳と尾を隠して人間の冒険者として生きてきた。ワインの馬鹿と出会うまでは。


 私の父はアデクの商人の下働きで、母は店の娼婦奴隷だった。母に惚れた父はある夜、鞭で打たれる母の姿を見て激昂した。そして、相手の商人達とその護衛達をたったひとりで倒して母を連れ去り、遠い場所へと駆け落ちしたのだ。二人は今でも西方の隠れ里で貧しいけど仲良く暮らしてる。そういえば母は私の腕っぷしの強さは父譲りだと言ってた。


「このバカチビが! お前まで何やってんだ!?」

「サンドやローズばっかり。フェアじゃない。…もうここで隠しごとはしない。リーダーは?」


 私の言葉にワインはたじろぐが、顔を真っ赤にして叫び声を上げる。


「お、俺はコイツらみたいに何か特別なものなんて背負ってなんかねえ! だが、俺はこの"暖かい色彩"のリーダーだ! このチビスケほど強くもねえし!うちの神官みたいに頭も良くねえしローズみたいに堪え性もねえがな! どうだ藁男、文句があるか!」


 息を荒げながらそんな恥ずかしいことを言えるワインはとても良い男だ。…あの日、偶然にもお互いに別のクエストで遠征し、水浴びしていた私と鉢合わせた時も。…きっとそういう運命だったのだ。


『フン。どうりでそんなナリでその怪力なわけだぜ。 …は? お前が獣人だったのを冒険者ギルドにバラすだと!? バカチビが。俺がそんなアデクのアホ共みたいな真似をするわけがないだろが!! …それよりもいつまで裸で俺の前に突っ立ってんだよ…早く服、着てくれよ…』


 あの頃から何も変わらない、我らがリーダー。ワインは強さとか賢さとか忍耐力をどうとか言ったけど、そんな事よりも重要な事などいくらでもあるのに。



 そんな事を思い出してると目の前の藁男が馬鹿笑いしながら手を叩いて天井を仰いだ。


「ハハハハ!! いやぁ~参った参った!最の高ってヤツじゃあないか」


 そうして正面を向いた藁男の雰囲気が一変する。サンド達も泣くのを止めて藁男の顔を見る。その顔は先程のニヤニヤ顔が消え去り、凄みさえ感じるくらい。…何か空気が蠢いている? なにか心がざわついて服の隙間がモゾモゾするようだ。


「いいぞ、実に気に入った! なるほど、なるほど…アンタ達は、まさに俺の理想だ」



 藁男がニヤリと笑みを浮かべるが、私達は未だに身動きできずにいた。


 何故かサンドだけが青い顔をしていた。 何で?


あと2話でヒロインが登場するんだ、きっと。


え。リレミッタ? …ハハッ!(甲高い声で)

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