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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
29/103

 暖かい色彩①

最近、体力回復に丸1日半必要になってきました。

というか恐怖のワクチン接種が来週に迫ってきましたよ。

副反応ちょっと怖いなあ~(-_-;)

◤ストロー◢


「いやあ~冒険者パーティがついに俺の宿屋に来るのか~。う~ん、まさにファンタジー。というかマリアード。冒険者に色々と冒険譚を聞いたりするのってやっぱり迷惑かなぁ?」

「ストロー様。ふぁんたじい、とはどういう意味でしょうか? …そうですね。私もそこまでの見識があるわけではないのですが、冒険者は自身らの活躍や成し遂げた偉業を後世に語り継ぎたいような者が一定数はいるようですしね。まあ、大概は常に生死の世界に身を置く者からその日の暮らしもままならない者までと質はピンキリのようですが。余程の気難しい者でなければ大丈夫ではないでしょうか?」


 マリアードが奥のミニテーブルに腰を掛けながら優しくそう言って微笑む。まあ、人間十色ってヤツだな。冒険者とか関係なく、気の良い人間もいりゃあひねくれた連中だって必ずいるわけだしな。



(カランカランカラン♪カラン…♪)


 そこへ使いにやったチクアが宿屋へと息を切らして入ってきた。何故かいつも通り村の他のガキも一緒だった。チクア達は満面の笑みを浮かべている。


「あんちゃん!やっぱり冒険者だったぜ!それにこの宿屋の話をしたら此処で泊まりたいって言ってたよ。それに皆優しそうで、前に麓で見掛けたオッカナイ顔した緑のツンツン髪の男の冒険者とは違ったぜ。なー?」

「「うんうん!」」

「…緑色の髪? (まさかボーゲンの奴のことか? そういえばアイツは無事に妹の所に帰れたんだろうか………イカンイカン。脱線した) んじゃあ、そいつらこの宿に来るってことで間違いないな?」


 俺はチクア達にもう一度確認した。チクア達はどこかの土産ものの玩具のように首を縦に振った。


「そーか!でかした!チクア…ってお前らは、まあいいや。約束だ。菓子を奢ってやる、食ってきな」

「やったぜ、あんちゃん!」

「やったお菓子!」

「わーい!」


 俺の言葉にチクア達が飛び跳ねる。さてと、その客が来る前にコイツらを大人しくさせねーとな。俺がジュースとブラウニーモドキを取りに行こうとすると…


「では、私も今日はお暇するとしましょう。…冒険者の方達もその方が寛げるというものでしょうしね。どうぞ、このテーブルを子供達に使わせてあげて下さい…」

「いいのか? じゃあ、ブラザー・ダースとシスター・ベスによろしくな!」


 俺が片手を軽く上げると、マリアードは深々と礼をして宿の出口へと向かっていく。すると、すれ違う子供達にこんな事を言った。


「…チクア、それにナウマにマンモ。大人達からも言い聞かせられているとは思いますが、ここでは行儀よくなさい。決して…ストロー様を怒らせてなりませんよ? ……分かりましたね?」


 片膝を付いてチクア達の肩を抱いて注意するマリアード。なるほど流石は司祭様、村の為に子供達に礼儀を諭すか。…ん? 子供らの顔が若干青い気がするが気のせいだよな? あの優し気なマリアードが子供相手に大人気ないことをするはずがないしな。うん。

 

 俺はチクア達を奥のミニテーブルに座らせる。そして約束通り、ミックスジュースとブラウニーモドキ(生クリームたっぷり乗せ)を目の前に置いてやると、先ほどまでのお通夜のような空気は吹き飛び夢中でブラウニーを貪り始めた。さてと…



(カランカランカラン♪カラン…♪)



 宿屋のドアが開いた。宿の中に革鎧などに身を包み、得物を腰や背に吊っているまさに冒険者然とした風貌の若い男女が入ってきた。


「いらっしゃい」


 ドアの鐘の音に気を取られていたのか俺の声に一瞬だけ身構える冒険者達。

 …ふむ、パーティは4人か。暗いブドウ色の短髪の両の腰に片手斧を下げた青年戦士。背も190近くありそうだ、前衛だな多分。俺の宿が珍しいのか床や周囲をジロジロ伺っている。

 そいで次が背が150ないくらいの小柄な色白なツインテ美少女だ。だが細身というよりは無駄な肉を付けてないアスリートみたいだ。前のブドウ色と違ってホットパンツに胸当てだけという軽装。だが、何より目を引くのは自身の背に担ぐ巨大な棍棒だった。棍棒と言うより直径1メートルはある鉄球のようなもので巨大な●ュッパ●ャップスにも見えるな。余程の怪力キャラなのは間違いないな。

 その隣にいるのは淡いオレンジ色の法衣とスカルキャップ?を身に纏った若い男の神官のようだった。利発そうだが雰囲気がどことなくマリアードに似てる気がする。俺の姿を見るとやや目を細めた気がする。

 最後に宿屋に入って来てドアを閉めた人物を見る。人間、じゃあないよな?恐らく身体つきからして女性だと思われるが…リザードマンってやつか? あ、リザードウーマンか?なんか古典的なネタになってしまったが。人間が2か3でトカゲが1みたいな比率だと思う。髪は普通に生えてるが、一部は鳥の羽根のようになっているように見える。始祖鳥…確か鳥の先祖は爬虫類だったんだっけか? 彼女は俺と目が合うと急に伏せてしまった。そこへブドウ髪の男と神官らしき男がやや庇い気味に歩み出てきた。


「…俺は西方のトレント級冒険者パーティ"暖かい色彩"のリーダー、ワインだ。コイツは冒険神官のサンドだ」

「…サンドと申します」


 ワインと名乗る男の言葉に合わせて隣の冒険神官?のサンドとやらが恭しく頭を下げて見せる。


「後ろのチビがキャロット、前衛だ。…それと、ローズだ。立派な俺達のパーティの一員なんだ…!」


 うん? そうなんだろうが、どうしたんだ何か様子がおかしいみたいだが。俺が不思議な顔をしているとワインの隣にいたサンドが一歩前に出てきた。


「お、おい…」

「ワイン、先ほどの司祭様の言葉…信じましょう。失礼、改めて彼女の名前はローズ。とても美しい名前でしょう? 私達"暖かい色彩"の欠け外の無い大切な仲間です。ですが、彼女は見た目通りのスケイルフォークですし、首の刻印が示す通りに冒険奴隷(・・)ですが、彼女も一晩この宿に私達と共に過ごすことをお許し頂きたい…!」

「そう。大事な仲間」


 ワインを押しのけてキャロットとやらも俺の前に出て来た。ワインが止めようとするが、彼女の背負う鉄球に強引に顔をミシリと押しのけられていた。


「…良いのです!ワイン様、サンド様も…私は外で構いませんから」


 ローズと呼ばれる彼女が悲し気な表情から笑みを作って見せる。というかこの世界じゃあリザードマンじゃあなくスケイルフォークって呼ぶのか。もしかしたらトカゲ人間じゃあなくて、鱗と尾があって見た目がトカゲに近いだけの人間という線も考えられるな。


「ローズ…でも」

「良いんです、キャロットさん」


 キャロットが器用?にツインテをヘニョらせる。そこへキャロットに軽くゲンコツしながらワインが俺の前に来て鼻息荒く口を開く。


「なあ、頼むよ! 大抵の宿屋じゃあアデクの連中が騒ぎやがるからローズは風や雨の日でも外に締め出されるんだ。それに田舎でもローズを怖がって追い出す始末だ!竜小屋にすら入れてくれないところばっかりなんだ。一体、ローズが何をしたってんだ!?」


 ワインが怒鳴り散らし、隣のサンドも沈痛な表情を浮かべている。いつのまにか奥のチクア達も食うのを止めてコチラの様子を伺ってるし。



 …イヤイヤ、君達は入ってきて早々に何を言い出してるんだ。俺の宿屋を何だと思ってやがる。そんな地方ルールなんて知らね~し! つーかこの宿屋のルールは俺だ!俺が宿の主なの!そこんとこ解ってんのかあ?


「…さっきから聞いてれば、何をふざけた事を言ってるんだ?」


 俺の言葉をあからさまに拒否の言葉と受け取ったのか、ワインとキャロットの顔が歪んだ。見る見るうちに怒気が溢れ出している。それを見たローズは悲しそうな顔でドアノブに手を伸ばす。


「あのなあ。俺の宿屋に来たらそれがどんなヤツだろうと客なんだ!人間だとか奴隷だとか、そんな下らない事は俺の宿屋には関係ないんだ。お一人様、前払いで銀貨3枚。それさえ出せばどんな奴でも泊めてやるぜ? さあ、座った座った!運が良いことにアンタ達のテーブルもベッドも空いてるぜ」


 俺はそいつらに満面の笑みを見せてやる。一番信じられないといった表情をしたのは当の本人のローズだった。


「そ、そんな…私は奴隷で」

「奴隷? それが何か問題でも?」


 俺はぶっきらぼうにそう言い放つと彼女の為にテーブルの椅子を引いた。


「………でも、奴隷を、私を宿に泊めたなんて、サンド様以外のアデク教に知れたら…」

「…愛しいローズ。良いですか?ここは西方でも北方でも中央でもありません。ここに貴方を虐げるような者は誰ひとりいませんよ」

「そうだそうだぞ!いいから早く座れよお前ら!リーダー命令だ」


 サンドは笑顔で諭し、ワインは先の怒りが嘘かの様に上機嫌でドカリと椅子に腰かけた。

 …サンド様以外のアデク教? という事はこの好青年にしか見えない彼は、そのアデク教とやらなのか。


「ホラ、座ろうよローズ」

「……はい」


 消え入りそうな彼女の言葉を最後にキャロットがローズの手を引き、冒険者パーティ"暖かい色彩"はヨーグの寒村ケフィアのとある宿屋のテーブルで、初めて同じ席につくことができた。ストローの宿を彼らの心から幸せそうな笑い声が満たしていく。



 ◆◆◆◆



 その日、北方領近くのクエストを無事達成した冒険者パーティ"暖かい色彩"がホームグラウンドである西方に帰還する為、北ルディアを区切るヨーグの山道を歩んでいた。そしてその丁度交差点となる山頂の村ケフィアに近づいていた。行きでは何も無い村だと麓の村から聞いていたので素通りしていたが、クエストでメンバーの疲労がかなり蓄積していた。正直、山道での数度目となる野営は遠慮したいところだった。


「なあ、サンド」

「なんでしょうか、リーダー?」


 重くなった足を引きずる面々の目の先に村のアーチ門が近づいてくる。


「さっきのガキの話どう思うよ?」

「…宿屋ですか。まあさして期待はしていませんよ、あの子供達には悪いのですが麓の村ならまだしもこの峰に孤立した村では…流石に」

「だよなあ…」

「それに、私達の仲間には彼女(・・)がいますから…」


 そう呟いた神官のサンドが後続の彼女達に向って手を振る。その彼女が少しはにかんで手を振り返した。しかし、横を見るとリーダーである斧使いのワインがイライラした表情をしているではないか。


「クソ!思い出しただけでも腹が立ってきやがった!あのクソ村の連中もそうだし!あの宿屋もだ!埃だらけのタコ部屋にあんなに宿代を吹っかけてきやがって。しかも、ローズをトカゲ呼ばわりまでしやがったしよお!あんな奴らアデクの悪人共と変わらねえだろ!なあ!」

「またその話ですか…あまり大声を出さないで下さいよ。後ろのローズ達にも聞こえてしまうでしょう? それも幾度も味わったことではありませんか。全く世の中救いがないことです。私がアデク教の神官と言っても結局ローズを泊めてくれるようなところはないですしね。…はあ、私も我慢してこんなものを身に着けているというのに」


 サンドが自身の胸に下げている聖印を実につまらなそうに持ち上げる。それは漢字の"土"によく似ている形をしている。下の長い横棒はひれ伏し悔い改める獣人達を指し、十字の部分はそんな獣人達を救済する偉大な人間を表しているという。アデク教のホーリーシンボルでアデクの聖職者は自身の鎧やマントなどにもこの聖印をあしらう。


「私はこの先、ずっと野営でも良いのですがね」

「ハア…西方に帰ったらどこか家でも借りるか。共同でよぉ。勿論、アデクの仲介は無しでな」

「難しいかもしれませんが、良い考えではありますね。前向きに検討しましょう」


  そんなやり取りをしてる内に村へと到着したワイン達はチクア達に案内されて例の広場へと向かった。


「お、おい…本当に宿屋があるぞ? というか下手な街の宿屋よりも立派だと思うんだが…」

「…とても面妖ですね」


 ワインとサンドがストローの宿屋の前で唸っている間に案内した子供達が冒険者達を置いて宿屋のドアを開けて中へと入って行ってしまった。

 そのタイミングで無言を貫いていたキャロットが口を開く。


「もういい加減に出てきて」

「…ああ、そうだな。俺達はトレント級冒険者だがそれなりに場数は踏んでるんだぜ? 村に入るだいぶ前からずっと姿を隠して監視してやがるだろ!オラ、出てこい!!」


 その叫びに合わせてワイン達の背後に瞬間移動したかのような動きで覆面装束の者が二人姿を現した。ローズは咄嗟に近接戦には弱いサンドを庇うように移動すると小盾とショートスピアを構える。ワインも腰から二丁斧を、キャロットも背から巨大な鉄球を取り出して構える。


 だが、覆面装束は一言も発さずに沈黙を貫き、微動だにしない。


「なんだよお前ら、目的はなんだ!」

「手を出してはいけません!彼らは恐らく精霊信仰者(ガイアスター)の暗部、通称、神殿戦士と呼ばれる精鋭達でしょう。…万が一にも私達に勝機はありません」


 飛び掛かろうとするワインをサンドが制止する。


「お待ちなさい。冒険者の方達ですね?」


 ワイン達が振り向くと宿屋のドアの前にサンドよりも幾段上等な法衣に身を包んだ男が立っている。しかし、異様な雰囲気…いや闘気のような凄まじいプレッシャーがワイン達の身動きを一瞬で封じてしまう。


「私の名はマリアード。このケフィア、ひいては世界の安寧の為に尽くしたく思う者です。…時にこの宿を利用しようと訪れたようですが、ここは少々、特別(・・)な場所なのです。我々ガイアの徒にとっても、ルディア全土に生きる者にとっても、ね。ですから、ここの宿主の不快や怒りを買う事はどうしても避けたい…宿主は世の情緒に疎い故に興味もおありです。 が、特にそこの貴方はアデクの神官ですね? そして貴方の後ろにいる首に刻まれた特徴的な紋様、彼女は奴隷ということ……ふむ」


 何とか震える声でワインが問う。


「お、俺達をどうしようってんだ…!そ、それに俺の仲間がなんだってんだよ!」

「場合によっては、貴方達はこのケフィアを訪れることはなかった(・・・・)ことにして頂く必要性もありました。しかし、どうやら私達の杞憂であったようですね。謝罪致します。どうやら貴方達は()に呼ばれて来たのやもしれませんね…」


 そうマリアードが言うと見えざる圧力が嘘のように霧散していく。そしてワインとキャロットの間をすり抜けると、サンドとローズの正面に立っていた。


「その貴方の胸に下げた聖印は間違いなくアデクのもの。貴方は個人的にアデクをどう思い、…彼女をどう思われていますか?」


 優し気な表情でマリアードがサンドに問う。サンドはローズに武器を降ろさせると佇まいを整えて首から聖印を外した。


「こんなもの。…これが私の答えです」


 サンドは聖印を石畳の上に滑り落すと、それを足で踏みつけて砕いた。すると聖印は砂の様に溶けて消えてしまった。その様子を見て他の面々が慌てる。


「ば、馬鹿!どこで誰が見てるかわからないんだぞ?」


 しかし、それを見届けたマリアードは嬉しそうに鷹揚に頷くと背を向けた。


「なるほど。貴方の真意、確かに見届けましたよ。この宿屋に下界の法など干渉しようはずがありません。きっと貴方達を受け入れてくれるでしょう…勿論、彼女もね。それでは私達は聖堂へと戻りましょう。ブラザー・ダース、シスター・ベス」

 

 広場を去って行くマリアード達の後ろ姿をワイン達は呆けた表情でただ眺めていた。


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