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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
28/103

 冒険者パーティ、来たる

スイマ潜影拳。

暑さと湿気と盆休み前のハードワークで筆者のライフはもうゼロよ!やめたげて!

週末にはきっと冒険者パーティが登場できるはずです。

遅れながらブックマークありがとうございます。励みます<(_ _)>


 北ルディア大陸を中央・北方・西方の3つに仕切る大山脈、霊峰ヨーグ。


 その頂にほど近い場所にある寒村、ケフィア。人口が百にも満たないこの村にある日、宿屋を開きたいという酔狂な男がフラリと現れる。名をストローと名乗った。


 この男、道中スナネコの獣人達と出遭い、村まで案内される。そして、伝説のドラゴンスレイヤーの決戦の場となった大穴、"ドラゴンホール"を望む村外れの広場に突如宿屋を出現させ、当然のように村人達を招き入れるのだった。

 

 問題はそこから。村人達が食べた事も無い食べ物を好きなだけ振る舞い、村人達が飲んだことも無い飲み物を好きなだけ飲ませた。宴の次の日には、獣人の失った左腕を生やした。襲い来るワイバーンの群れを当然のように消し去ってみせたたのである。


 しかし、純朴なこの村の住民達はその男に感謝こそすれ、畏れ避ける事はしなかった。これは、居合わせた精霊信仰者(ガイアスター)の司祭達による働きが大きい。その男は人の良さそうな至極普通の男に見える。中には不思議がる者もいたが、このケフィアに恩を仇で返すような真似をする者はいなかった。結果として、宿の主たるストローにとってこのケフィアはとても居心地が良い場所となった。



 そして、ストローは今日も自身の宿屋のカウンターに肘をついて暇を持て余していた。



「………飲み食いには良く村人達が来てくれるけど。肝心の宿泊客(・・・)が来ねえなぁ」

「仕方ありませんよ。ストロー様。一般的な宿でも平気で銀貨3枚以上は取られます。が、この流通が滞りがちな村人には、その銀貨すら惜しいのが実情なのですよ。…まあ、このような素晴らしい場所で上等以上の寝台を使用するのであれば、下手をすれば銀貨どころか金貨でもおかしくはないと思えますが」


 管を撒くストローに奥のミニテーブルに座するケフィアの司祭マリアードが慰めの言葉を掛ける。その両隣には覆面装束の大男ブラザー・ダース、女性のシスター・ベスの姿もある。


 ストローがワイバーンを追い払ってから2週間ほどが経過していた。騒動の後の混乱が収まると、村の住民がお礼がてらストローの下を訪ねて来た。結果として銀貨1枚の食べ放題飲み放題には多数が利用しているが、宿泊客は実質、司祭マリアード、ブラザー・ダース、シスター・ベスの3名だけである。ワイバーン騒動の当日に宿泊をした3名は翌朝の目覚めと共に号泣していたのがストローの記憶に新しい。


「まあ、皆言ってたことだしさぁ…仕方ないとは俺も思うんだけどもね? というかマリアード達は毎日来てるけど…大丈夫なのか? それに毎度場所を借りてるからって銀貨1枚渡さなくてもいいんだぞ? ほとんど何も注文しないで帰るじゃんか」

「いえ、これはお布s…コホン、これも礼儀ゆえです。私達はあくまで後学と修行の為に訪れていますすから。それに聖堂には常に代行者を置いておりますので、心配には及びません」


 マリアードがストローにニッコリと微笑む。


「そう?って修行って何だよ。 しかしなあ、暇してる俺を日がな一日眺めてるのもまた辛いだろう。ホラ、ダースもベスもコレでも飲めよ」

「折角の思し召し、いえ宿主の配慮です。有難く頂戴するのですよ…」

「「………!」」


 ストローは覆面装束の二人にミックスジュースが注がれたグラスを差し出す。それをまだ若干震える両の手で恭しく受け取る。それに満足したストローは頷くと、マリアードの前にもグラスを置く。深々と頭を下げるマリアードにヒラヒラと手で応えながらカウンターへと戻り、また独り言ちる。


「あの二人も毎日来てるだけあってだいぶ慣れてくれて良かった。 …最初は日に何度か気絶してたもんなあ、俺が近づくだけで。 …う~ん、目下の問題は集客もあるが…」


 ストローはカウンター後ろに隠れるようにして半透明なウインドウ画面を出す。


(:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV1。ベッド設置数4。現在、建物LV1が設置済みです。次のレベルまで、利用者20/20。)


「利用者って単純に飲み食いした者もカウントされる訳だな。これならレストランをした方がましかもしれんなあ。っても村人達もホイホイ銀貨を出せる訳ではないようだしなあ…」


 この異世界グレイグスカに流通する銀貨1枚の価値は日本円に換算すると約2500円前後と考えて頂きたい。その上の金貨なら百倍の価値の約25万円相当。銀貨の下は銅貨だがこれが一般的な俗通貨であり、価値は銀貨の百分の1である。銅貨1枚25円といったものが基本流通の通貨である。つまり、あまりしみったれたことは言いたくはないのだが、一般市民が外食に2千円以上出せるか出せないかという話だった。ましてこのケフィアが都市などであれば話は別だが、残酷な事にここは山の上のいち寒村でしかないのだ。


「村人に負担を強いる真似はできない…でもやっぱり。どうせレベルを上げるなら村外から来た客を泊める時かその後にしたいんだよなあ~」


 変に拘る男。それがストローという男だった。


(……マリアード様。精霊様は何を思い、あのように悲し気に独り言ちているのでしょう?)

(…わかりません。しかし、精霊様は村の外の人間をこの宿に招きたいのでしょう。…様子を見て麓のガイアの徒を呼んだ方が良いやもしれませんね)


 マリアード達が特殊な発声術を用いてまるで腹話術のようにヒソヒソ話で相談をしていたその時だった。


(カランカランカラン♪カラン…♪)


 宿屋のドアが開いたのだ。


「いらっしゃ…ってなんだ、チクアじゃねえか」

「あんちゃん!大変だよ!? 北の御山の方の道から外の人達がやって来たんだ!もうすぐ村までくるはずだよ…しかも多分冒険者のパーティかなんかだよ」


 興奮した村の少年、長老ラズゥの孫の孫のチクアの声にストローが飛び跳ねる。


「な、なにィ!? 冒険者だとォ!でかしたぞチクア! ホラこれをやる。宿の宣伝もして連れてこれたらあの甘い菓子もやるぞ!」

「やったぜ! わかった連れてくるよ!」


 ストローはチクアの肩を抱くと自分が飲もうと注いでいたミックスジュースをチクアに手渡す。それを見ていたマリアードが目つきを別人のように鋭いものにすると片手で特殊な印を結ぶ。すると、両端の覆面装束の二人が音もなく椅子から立ち上がった。


(カランカランカラン♪カラン…♪)


 ミックスジュースを飲み干したチクアが元気よく外へと飛び出していった。


「いやあ~今日はいっちょ気合いを入れてやるか! 村の外からの初めての客が来てくれるかもだからなあ~…アレ? マリアード。ダースとベスはどこ行った?」


 ストローが嬉しそうな満面の笑みで宿内を振り返るとそこにはマリアードの姿しか見受けられなかった。マリアードは相変わらず笑みを絶やすことがないといった表情であった。


「ブラザー・ダースとシスター・ベスならば、外に様子を見に行きましたよ? 冒険者パーティとやらが気になったのかもしれません。なにぶん、二人はまだ若いものですから…ハハハハッ。全く、仕方がないですな」



 その日、ケフィアを訪れた冒険者達との出会いが更なる出会いを呼び、やがて北ルディアで"精霊の宿"を知らぬ者がいなくなる。だが、その時はまだ誰も知るべくもなかった。


 

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