表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
22/103

 帰らなかったヨッパライ

連休まで平日の仕事が鬼忙しそうでチビりそうな筆者です。

恐らく19・20は更新できないと思います。

皆さん、連休まであと少し。頑張ろうぜ!(血涙)

◤ストロー◢


「…のう、すとろうよ? わかっ…たかの。我が、オー…でん家の…偉大さ…が…グウグウ」

「グガガ…」

「ああここが常世か!俺はずっとここに居るぞ!…もう動けねえよ…ンゴゴ」


 ケフィアの村の連中との初交流は、まあ成功かな?

 しかし、まあ酷い有様だ。好きなだけレモンサワーを飲み倒した村の男達がその辺で倒れている。


「まったく!男どもは情けないったらないね。ホラ、立ちな!帰るよ!」

「すみませんねえ…ストローさん。あれだけ美味しいものを戴いたのに…ちょっとアンタ!門番のアンタがそんなベロベロになってどうすんのよッ? 仕方ないわね…どうせ何も来やしないから息子にでも代わって貰いましょ」


 酔っ払い共は奥さん方に宿屋から引きずり出されるが、テーブルにはまだ突っ伏してる男がふたりいた。隻腕の獣人のデスルーラとこのケフィアの長老、ラズゥ爺さんだ。その孫…の孫のチクア達は大人達の喧騒に巻き込まれぬよう早々に帰ってもらったから、後は世話役のエイという娘しか残っていない。宿の外から酔っぱらった男達の歌声と怒る女達の声が聞こえる。


「すみません、宿主さん。ホラ、長老様も帰りましょうよお」

「フガフガ…グウ」


 駄目だ爺さん起きやしない。そこへすっかりと酔眼となったデスが俺の前に立つ。


「俺も長老もマトモにもう動けねえ。悪いが旦那、泊めてくれないか? 俺は床でいい。あの高そうな寝台に俺の毛が着いたら拙いからな。いくらだ?」

「まあそんなフラフラならなあ。後、俺は獣人だろうがゾンビだろうが客に差別しない。お前だってあのベッドを使って当然だ。俺の客なんだからな! 一泊銀貨3枚だぞ?」


 俺の言葉にデスの奴は目を丸くするとフッと破顔する。


「……そうか友よ。その気持ちだけで十分だ。…ホラ、銀貨6枚だ」

「待ってください!ルーラさん。長老の分なら私が払います!街を行き来できないあなたにはその銀貨は貴重なはずです!」


 エイがデスの前に飛び出そうとしたが、デスはそれをそっと銀貨を俺に渡した片手で遮る。ハッとした顔をしたエイが顔を赤らめる。おやおや?


「毎度あり。まあ記帳は明日でもいいや。ホラ、早速当宿の自慢のベッドを堪能してくれよ!」

「だから…俺はうあっ!?なにしや…ふあああぁぁあぁぁ~! ZZZ…ZZZ…」

「え!ルーラさん!?」


 金払ってんのに客を床で寝かせる宿屋がどこにいるんだよ。まだ文句を垂れるカッコつけのデスの足を俺の足で払ってやった。ベッドの上に転がった途端にグッナイさ。我ながらこのベッドの魔力は恐ろしいぜ。


「大丈夫、大丈夫。コイツ変に意固地だからきっと疲れてたんだぜ。さ、長老をベッドまで運ぶのを手伝ってくれるか?」

「は…はぃ」


 俺はエイに手伝って貰って長老をベッドまで運ぶ。


「フガフガ…父上…母上……リオン兄上…グウグウ…」


 ベッドに横たえた長老の頬を涙がつたっていた。


「なあエイ。長老が言ってたドラゴンスレイヤーの話、どう思う?」

「……私と妹がこのケフィアでお世話になってからまだ十年ほどなんですが。この村はあの大穴を見張る為に長老様と長老様に仕えていた従者達で築き上げた場所なんだそうです。…その、長老様を残して大穴へと降りていった御家族の帰りを待つ為とも聞きました…でも、もう百年以上前の事だそうですから」


 エイが布切れで長老の顔を優しく拭いている。どうやら世話役ってだけで、チクアみたいに身内って訳でもないようだな。


「百年以上って、長老はいま何歳なんだ?」

「確か、このケフィアが王国に正式に村として認められてから悠に120年以上は経っていると聞きましたから、恐らくそれ以上の年齢だと…思います。お年の割にはあまりにも健康過ぎますので、長老様の言う通りドラゴンスレイヤーの血筋なのではと…」


 てーことは、この爺さん。推定1世紀半くらい生きてんのか?すげえなあ、オイ。



 かつて、このグレイグスカでは悪い神様?なのか知らんがエイリスってヤツが"大破壊"ってのを引き起こして世界の半分の生き物が死んでしまうほどの被害を出したらしい。その惨事を生き延びた人々がやっと復興の兆しを見出した頃、それはどこからともなく現れた。

 邪悪なる竜種の王、その名をマッドロード。常にその肉体からは毒の瘴気を放ち、北ルディア全土をどす黒い毒の雲で覆った。放置すれば大した時間も掛からずに北ルディアは死地と化すことになるだろう。女神は基本、地上には手出しはしない。しかし、このマッドロードなる存在は女神達には恥の象徴たる悪神の影響であると判断した女神マロニーは大いに激怒し、この北ルディアに竜殺しの一族を召喚したのだそうだ。

 それが長老の一族、ドラゴンスレイヤーのオーディン家だ。この一族と悪竜の闘いは数十年にも及び、その戦いでオーディン家の多くが命を落としたが、遂にマッドロードをこのケフィアのあるヨーグ山の大穴へと追い詰めた。生き残ったドラゴンスレイヤーは雷鳴の異名を持つ大剣士ディコン。その妻である魔術師モーガン。そしてその息子、魔法戦士ハンペリオン。最後にその弟である長老、ラズゥであった。長老の家族は、幼い末子を共に戦い抜いた従者達に託すとあの大穴、後の"ドラゴンホール"へと最後の闘いへと赴いたのである。見事、悪竜は打倒されて毒の雲は消散して北ルディアは人知れずに救われた。しかし、勇敢なドラゴンスレイヤー達が地上へ帰る事はなかった…。


 その後、長老は家族の帰還を信じ、この地にこの村の前身を築き待ち続けた。そして、長老が成人を迎えたその日。なんと大穴の闇から異形の怪物が這い上がってきたというのだ。しかし、彼らは長老たちを襲う事も無く、ドラゴンスレイヤーの最期を長老に伝えると大穴へと引き返していったそうだ。嘆き悲しむ長老を従者達は説得したが、長老は頑なにこの地から去る事を拒み現在に至る。っといったところかなあ。…随分と物悲しい村の成り立ちのようだ。まあ、そんな悲劇を知る者も長老以外には生きていないのだろうがなあ。眼下の老人は幸せそうな寝顔でイビキをかいていた。


「ま。今夜はグッスリと寝てくれよ」


 俺はそう言って長老の顔から視線を外すと、いつの間にかデスの寝顔を凝視していたエイを送っていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ