☞暗い穴の底で
ここ数日間、夏バテで仕事以外では半分死んでました。
皆様も脱水症状にお気を付け下さいね?
ちなみに、筆者は短時間で数リットルの飲み物を煽った為に中毒症状を起こした疑いがあります。
『あんちゃんスゲエエエ!? 魔術師なのかあ~!オイラ、初めて魔術見たぜ!?』
『『スゲエエエ!?』』
僅かな陽の光も届かぬような暗黒の世界。そこは、ヨーグの山頂の山々に囲まれ隠された"ドラゴンホール"の底である。かつて、悪神エイリスによって引き起こされた"大破壊"後、復興の兆しを垣間見せた北ルディア全土を恐怖に陥れたマッドロードの名を持つ悪しきドラゴンがいた。しかし、女神達が遣わした超人・ドラゴンスレイヤー達に追い詰められて最後に逃げ込んだ伏魔殿であった場所なのだ。
その闇の底に、地上から叫び声が反響して伝わってきた。
「…………。……? 地上から、村の子供達の声が聞こえる」
黒い岩肌にこれまた黒い異形の者が耳らしき顔の端を押し当てる。地面に伝わる音を聞いているのだろう。
「……良かった。村の子供が誤って穴に落ちたわけではないようだ」
まるで全身を真っ黒いタールと岩か何かで覆われたボコボコの身体。白いふたつの眼と口の歯があることでそれが顔だと何となく判る程度。それが似つかわしくないようにホッっとした笑みを浮かべる。
「……あなた、今の声は…?」
「モーガン…大丈夫だ。誰も誤って落ちてきたりはしない。…しかし、普段は我が子以外がこの穴の側に近寄ることなどないはずだが? …まあ、元気の良過ぎるあの子供達のことだ。恐らくは遊び場としてでも使っているのだろう」
周囲には似たような異形の者達が地上からの声の主を案じてかモゾモゾとした動きで集まってきていた。
「……子供達といえば。もうあのコには孫の孫まで生まれたのでしたね…。ああ、一度でもいいからその顔が見てみたい…」
「…………言うな、モーガン。それは叶わぬ願いであることは知っているだろう? 私達はあの悪竜と刺し違えてこの穴の底で果てたと、そう伝えたのだ。…この呪われた身の上では地上での暮らしは無理がある。何よりも、我が子を悲しませることになる…!」
その言葉に周囲は沈痛な表情を浮かべてしまう。
しかし、暫くする間もなくまた…
『なあんじゃあああああ!? 誰だッ!? 儂の許可も無くこの神聖な場所に勝手にこんなものを建ておったのは! ここは我がオーディン家の鎮魂の場所なのだぞ!ゆ、ゆるさんぞおおお!』
『ちょ、長老様!?落ち着いて下さいッ!?』
今度は地上から老人の雄叫びと若い娘の悲鳴が聞こえてきた。今日は本当に騒がしいのだが、彼らは特に無視できない存在の声に驚愕する。
「こ、この声は!ラズゥ!?」
「…やはり地上でなにかあったか。…しかし、この崖を這い上がるまで数日は掛かってしまう。間に合わない…!」
黒い異形のひとりが歯ぎしりしながら地上への光の点を見やる。
「……どうか、無事でいてくれ。我が息子よ…!」